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人事を尽くして…天命「も」待つ!

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 1時間ほどでホテルに着いてしまい、何やかんやで地元を出たのが9時半。いまは10時半だ。チェックインどころか前のお客さんも引けていない時間。ホテルは国立競技場のほぼ真後ろと言ったいい所で、明日の朝も楽な立地だ。
 昼頃からなら確保していた駐車場だけ止めていいということだったので、それまでその辺のコインパーキングに止めて、軽く朝食兼昼ごはんでもと繰り出した。
 スマホで見つけたのはマクドナルド。
 まあ、5人もの大所帯はその感じでいいだろうと少し歩いたがそこに落ち着いた。
「やっぱ少し早かったな」
 まっさんが座りながらいう。
 じゃん負けで買い出しに行った銀次と京介以外、2階の席二つをぶんどって座り込んだ。
 出発地ということで、他に何組かそれらしき人を見かけもする。ここでもいよいよ感は高まってきた。
「まあいいんじゃねえの?どうせゴール発表になったら、現地一回行くんだろ?すぐ出られていいじゃん」
 そうなのだ。この5人は、ゴールが発表になったら毎回一度現地へ向かって車を走らせるのだ。
 ゴールは遠いところもあれば、近いところもある。しかし、車で片道3時間以上のところは今までになく、大体の時間の予想はつくので往復4時間前後。早く出て帰れば、18時頃には戻って来られる。
「へ~いおまたせしましたぁ~」
2人が両手にトレイを持って戻ってきた。
 文ちゃんが一個一個受け取ってテーブルに置き、飲み物とハンバーガーを正確に各々の前に置く。
「文ちゃんすごいな、全部覚えてんの?」
「うん、なんでか得意なんだー」
 文ちゃんの思わぬ才能を見つけた。
「なんかワクワクするよな、いつもこの瞬間」
 銀次がロコモコバーガーを開きながら、毎年のこの時間を思い出している。
 発表前のこの時間は、どこに向かうのかわからない船に乗ってる気分だと、妄想癖の銀ちゃんの言い分。でもそれはなかなか的を射ていて、こればかりは全員その気分に浸れる。
「熊谷さんにも言ったけど、俺は北の方に行きたいんだよな。あまり行ったことないし」
 てつやは相変わらず東北方面希望らしい。
「俺は北陸方面にいってみたいけどなぁ」 
 銀次は北陸方面。みんな涼しいところに願望が強くないですか?
「いや~北陸はちょっと遠いな。インラインで行けるとこじゃなさげじゃないか?」
「関越で新潟が限界かな。軽井沢も碓氷峠はインラインじゃ厳しそうだしなぁ。ところで新潟って北陸か?東北か?」
 永遠の謎の新潟の地方性。
「案外暑い方へ向かって走らされるかもな」
 京介が冷静に言ってくるが、それは結構勘弁してほしいところだ。
「関本さん言ってたけど、静岡は関東より暑いらしいぞ」
「うわ、勘弁だわそれ」
 まっさんも嫌な顔をする。
「車はいいけどな、俺ら干上がる。…て、飲み物とか軽食ってっていうかクーラーボックスって…」
 不意に思い立ち、てつやが顔を見回すが
「ちゃんと用意してあるよ。保冷剤も一応凍らせてきてる。今日ホテル着いたらすぐに冷凍庫借りるつもりだし」
 さすがまっさん、準備に怠りない。
「最近の暑さだと、保冷剤持って走るの必須だもんなぁ」
 いくつあったって足りやしないのだ。車に発電機積んで冷凍庫を積んだほうが早いくらい。
 そんな会話が進む中で、文ちゃんちょっとナーバス。
「どした?文治」
 銀ちゃんが気にかけて、チョコシェイクを啜っている文ちゃんの顔をのぞきこむ。
「段々緊張してきた…ドキドキする…」
 車のチョンボで少しやられたみたいだ。
「最初はみんなそうだよ。でも京介と文治は俺らの命を繋ぐ役割なんだ、だから」
 そう言っている銀次の頭を、京介がナプキンで叩く。
「プレッシャー与えてどうすんだよ。最初は誰にだってあるんだから緊張するくらいがいいんだ。車のチョイスで引っかかってるなら、俺らが言わなかったのも悪かったんだし」
 文ちゃんにポテトを一本渡して、ー俺もいるんだから気負うなーと頭をポンポンしてあげた。
「でも、今日の現地視察はセレナに乗る文治の運転だから」
 京介さんいい人…とポテトをもぐもぐしながら、やっと笑えそうだったのに、鬼の一声
 まあ…でも仕方ないよね…

 のらくらとマクドナルドで時間を潰し、12時まで5分となった。
「うーわドキドキする~」
 iPadをテーブルに開いて、ロードの運営サイトを映し出している。
 すでに冷たくなったコーヒーや、味のなくなったアイスコーヒーを啜りながらじっと待つ。
 まちがえて1分早く出すかもしれないしな、とてつやは言うが、多分予約投稿だからと京介に笑われた。
 画面を見続ける必要はないのだが、ほかにすることもなく見続けてしまう、あと1分…
「でた!河口湖だ!河口湖東湖畔辺り」 
 辺りという言い方はいつもだ。特定されるのを避けるためこういう発表の仕方で、大抵その場へ行けばわかるように案内される。
「中央道だな。いや~暑い方面だったな」 
 まっさんは即座にiPadでマップを開き、国立競技場から中央道への経路を調べる。
「まずは、首都高4号新宿線だな。競技場の東に駐車場がある。そこに止めてそこから出て…」
 他の全員もスマホのマップで経路を追う。
「文治、見えてる?競技場の西の道路『外苑西道路』に俺ら出ないとだな。そこから真っ直ぐ」
「うん、見えてる」 
 京介の言葉に文ちゃんも頷いた。
「その道で俺らを拾ってもらうことになるな。待機はどこになるか…」
 てつやがiPadを見ながらアイスコーヒーを啜る。ーまずっー緩くて薄くて最悪。
「それが一番手っ取り早いな…待機はできるかどうかは今から現地見ていこうぜ。できなかったら走り乗れ」
 まあ、それがいつものことだしね。
「そこ乗っちまえばまっすぐ中央道だ。取り敢えず行くか。ホテルに一台置いてかないとだから、セレナはホテルの前で待っててくれ」
 まっさんのリーダーシップがますます冴え始める時間だ。
「さあて、前哨戦スタートだな」
 大きく伸びをして、てつやは指の骨を鳴らした。

「分岐が多いな…まあ表示もあるし、本線走っている分には問題なさそうだけど」 首都高4号新宿線を数分走っての京介の感想。
 助手席の京介は、ナビとスマホを見比べて経路を頭にも入れているようだ。
「文治、表示をよく見ていろよ。今自分が走行中の場所、風向きも事故情報も制限速度も一つも見逃すな。事故情報は、先行しているまっさんのほうが早いかもだけど、表示の方が距離数によっては早い。目にしたらすぐに全員に知らせろ。迂回方法を考えないとだからな」
 文ちゃんは真剣な顔でうなづいて、今からその癖をつけようと表示板や速度規制表示などを意識することを心がけた。
 中列でそんな文ちゃんを見ていたてつやは、そんな顔もできるんだなと驚き半分嬉しさ半分でニヤニヤしてしまう。
「てつや、なんとか高架橋っていう箇所が3、4箇所あるらしい。登りの時にグローブ使えば、後続引き離せるんじゃないか?」
「ああ、そういう時に使うのはいいかもだな。登り坂は結構削られるし」
 精神をということ。大抵は車につかまって行くのが王道だが、高速だと窓を開けて走っている車も少ないので、タイミングによっては自力で登ることになる時もある。
 てつやが強い理由は、人よりも強い脚力にあった。
 中学時代、途中で辞めてはしまったが中距離のエースと言われていたほどだ。
 駒爺の作ったグローブで、最高85、普通に走って70kmという数値を出したが、てつやは自力で65kmは出せてしまう。
 だから70で文句たらたらでいたのである。
 それと怖いもの知らずなのも一因で、てつやはスピードに対する恐怖感が少ない性質も持っている。
「俺、あのグローブ使うのが若干チートすぎて申し訳なくなってきてるんだよなぁ」
 前日になっててつやはそんなことを言い始める。
「前日にそんな怖いこと言い出すなよ」
 銀次が勘弁してと言った顔でてつやを見てくる。
「たしかに、チート級な武器だけどあれが知れ渡ってる今となっちゃあ、対抗すべく手を打ってきている奴らもいると思うんだよな。取り敢えず装備はしていけよ」
 銀次が、半ば説得のように言い聞かせる。
 確かに同じものは作れないにせよ、対抗して例えばだけどジェットエンジンで推進してくるやつがいるかもしれない。あくまで例えばで。
 まあ、ジェットエンジンなんかで来られたら、そのグローブとてかないはしないのだが。
「この辺りからトンネル多いな」
 京介が後の走るメンバーへ伝える。
「どうする、通ってみてからだけど走れるようならまだしも、掴まった方がいいなら、車は合わせるぞ」  
「Googleマップだと3連続とかもある。取り敢えず今は車で様子を見てみようぜ」
 こんな感じで、細かい打ち合わせをしつつ現地まで赴き河口湖東側湖畔へ行ってみた。
 ゴールがどこになるのかは見当もつかないが、景色もよくいいところなのは解った。富士山も見えるし、取り敢えず5人で画像を撮り、明日また撮る予定だ。
 時間にして2時間ほどでついた。インラインならまあ車につかまって似たような時間だろうが、まあ3時間は見ているといいかもしれない。
 程よい距離でいい感じだ。
「明日はここに一番で入るぞ!」
 てつやがいつもやるルーティーン。そしていつも叶えてきている。
「明日もがんばろうな!」
 円陣を組んで「おーっ!」とやらかし、周りの人をびっくりさせていた。

 ホテルへ戻った時はまだ5時で、チェックインして夕飯を食べに出て帰っても7時。
「時間に余裕もててよかったな。十分打ち合わせができるわ」
 発表があってから割とすぐにホテルは取ったから、お陰で国立競技場にほぼ隣接のホテルが取れはしたが、やはり部屋は自由が効かなかった。
 実際てつやがあのまま知らずにエントリーをスルーしていた時にはホテルもキャンセルして、ロードも参加しないつもりではいたのだが、結果こう言うふうになり、一応5人で申し込んでいたホテルの部屋は3対2ということになった。
「走る奴と車でちょうどいいじゃんな」
 カードキーをペヨンペヨンと変な音を立てて歪めながら京介がいう。
「じゃんけんでもいいけど?」
 まっさんは言うが、
「車同士の話もあるしな。走る同士でも話あるんじゃねえの?」
 嫌に推してくるじゃん?とは誰もが思ったが、車で初参加の文ちゃんにしてみれば、車で走る際の話を聞くのはいいのかもしれないなと、部屋割りは京介に賛同した。
 大浴場もあるみたいだし、部屋は別れたってどうせ固まって話しているに決まってるけれど。
 大浴場で、ゆらゆらしようとてつやの元へ来た文ちゃんだったが、ジムとは違い結構人がいたので
「これじゃできないねえ、文ちゃん。残念」
 大浴場はもう見慣れた顔が多くて、時々挨拶の声やてつやにも声がかかり、賑やかで和んだ空間になっていた。
 たまたまなんだろうが、熊谷もいて
「いよいよだな」
 と、お湯の中で話しかけてきてくれた。
「いよいよっすね~。あ、文治も明日初の車サポで入るんすよ」
 焼肉の時は、気の利いた動きをしていた文ちゃん。
「お、いよいよ文治もか。がんばってサポートしろよ」
「はい!」
 緊張の中に少し余裕も見えてきて、文ちゃん少し成長しているのかも。
「しかし、この間のミーティングのまっさん。いい演説してたぜ」
 あの場にもちろん居合わせた熊谷は、あの後嫌なヤジ消えただろ、と聞いてきた。
「そうなんすよね。あの日帰ってから多分もう何も言われないって言われたんすけど、矢庭には信じられなくて。でも確かにあの日以来、ちょっかいなくなりましたよね。今日もみんな友好的だし」
「ま、考えてもみりゃあ、主催がなにしたところで『優勝の確約』なんてものは出来はしないよな。みんなが真剣なんだし」
「そうなんすよね。少し考えればわかるのに。ま、言いたいだけなんでしょうけどね言うやつって」
 文ちゃんは下向きゆらゆらを密かに行っていて、プリッとでたお尻を熊谷に叩かれる。
「熊谷さん痛い~」
「あ、悪い。桃かと思って」
 そう言ってガハハと笑い、じゃ、明日お互い頑張ろうな といって、多分自分の相方であろう人の所へ寄っていった。
「熊谷さんは桃を見ると叩く…」
 文ちゃんの頭に謎の構造が構築された瞬間だった。

 後は一旦3人部屋で明日の細かいところを話し合った。
「11時スタートだから、10時までには遅くても行っておこうな」
 まっさんがiPadにメモをしながら、話を続ける
「明日な、競技場の方で芸能人のなんかイベントがあるらしいんだ。人が混んでると思うから、移動時気をつけような」
 開始は、何か所かで陸上競技のスタート時になるピストル音(スターター)が鳴るまで、競技場の敷地を出ていなければどこにいてもいいので、その音を合図に外へ出ていくということだ。
 競技場に駐車場がなく、隣の東京体育館の駐車場に停めるか、それともホテルから直に出るかで迷うところだ。
 外苑西道路には、てつや達も出やすい。
「取り敢えずホテル側で11時までいていいと言うのなら、ホテル待機が無難かもしれないな」
 相変わらずiPadへ書き込みながら、冷静な指示をする。
「あの辺り停めてられなくて先に行かれちまったら、俺らは自力で料金所超えらんねえからな」
 冗談じゃないよなーと銀次。
「最初文治は俺引っ張って、先に行くことになるから、先に出てきてくれな。銀次とてつやは京介につかまって出発。まずは首都高4号へ乗ることだ」
 まっさんが文治に指示を出すと、京介も
「最初は多少混むかもしれないが、乗っちまえばこっちのもんだから、先行だからって慌てるな。落ち着こうな文治」
 と、優しい言葉。
「はいっ」
「最近文ちゃん『はい』しか言ってない気がするよ」
 てつやが笑うのに
「それしか言いようがないよ~~。俺は教わる身なんだから。混ぜっ返さないで!」
「それもそっか」
 とますます笑って、文ちゃんのポカポカ攻撃を受け止める。
「さっきも銀次が言ってたけど、首都高の料金所、覚えてるな。ETCだから引っ付いてれば大丈夫だろうけど、ETC外の料金所の親父とかが、レースに理解がないとゴチャゴチャ面倒なことになるから、料金所の人の目からはできるだけ避けていけな」
「おー、たまにいるよなそう言う親父。わかった。京介のサニトラの荷台に平べったく乗っかっておこうぜてつや」
「間違いないなそれなら」
 平べったくの言葉にふきだしながら、そうしようと盛り上がる2人。 
「後は料金所とかは暫くないからな。好きに走って行こう。俺は先行してるから、トラブルあったら連絡くれ」
「了解」
 細かい話もどんどん詰められてゆき、明日の開催まで10数時間。
 待ちに待ったお祭りが開催される。
「あしたも暑そうだからな、よく寝とけよ」
 まっさんの言葉に全員が
「うぃ~」
と返事して、解散


いよいよだ。
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