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おまけの颯爽〜お片付け〜
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佐伯たちを送り出した後、戸叶と佐藤はエレベーターの掃除をせねばならなかった。
「児島と涌谷も来たな、とマンション入り口で確認し大体のことはわかっているので、4人は各自荷物を持ちマンションへ入った。
「こういう時、高級住宅街って助かりますよね。この時間誰も歩いてない」
小走りにエレベーター前に行って、ブルーシートを広げている小島が言う。
「まあ油断はするな、今日は人間があるからな」
戸叶は、今日の昼間にマンションの各郵便受けに真夜中のエレベーター工事のチラシを配っていた。
なので住民は、夜出てもエレベーターが使えないならと出ないようにしてるだろうし、多少の騒音も大丈夫だ。
エレベーターのドアを開け、4人は充満する血の匂いに「うはっ」と同じ声をあげる。
「また見事な仕事だな」
戸叶と佐藤はドアの外から庫内を眺めしばし見惚れる。
座り込むことも倒れ込むことも許されず、手を壁にナイフで留められてぶら下がっている金子を見て涌谷が
「これは痛いっすね。流石な仕事っす」
と、磔に向かって手を合わせる。
「生きてるぞ、まだ」
佐藤が笑って、まずは左手を外してやった。そして戸叶は左手が外れたのを確認して右手を外した。
いっぺんに外すと体が床にのめって、血溜まりに浸かってしまうと運びにくくなる。彼らもそれなりのプロということだ。
2人は股間まで血でびっしょりな金子の肩と足を持って、エレベーター前のブルーシートに横たえ、万が一のために両足を長い結束バンドで留める。丸出しの切れかかった股間には、いつも雑巾に使っている大きめなウエスをかけてやる優しさもあった。
「じゃあ、まずケルヒャーだな。布張りじゃなくて助かったわ」
佐藤が背負って持ってきたケルヒャーを、発電機に繋ぎ
「騒音は多少大丈夫だな」
と、戸叶に再確認。
「大丈夫。しかもそのケルヒャーは新型で音が少し静かタイプになってる」
ーおお優秀ーと児島は言うが、73db(デシベル)が68dbになった程度。
佐藤は思い切りケルヒャーを内部に噴射し、まずは壁を流す。
「いつも思うけど、これ気持ちいいよな」
面白いように綺麗になってゆく作業を楽しそうにしている佐藤を、残りの3人はほかの準備をしながら聞くとはなしに聞いて、流し終わった後に使う吸収スポンジを出す作業に取り掛かる。
「…ミッフィーちゃん?」
キッチン用品の吸水シートは結構優秀で、ケルヒャー等の水を使った仕事の時はこれで水分を吹き上げると仕事が早いのだ。水だけの話ではないけれど。
その吸水シートを涌谷が出した時、絵柄がミッフィーだった。
「いやーAmazonでまとめて買っとこうと思ったらさ、いつもの色だけのやつ少なくて他のいいやつったらそれしかなかったんだよな」
仕方ねえよなーと戸叶もミッフィー作業。
キッチンの洗い物を置く吸水シート。厚さ1cmほどのスポンジ状のやつ。
「現場和むわ~」
と、ミッフィーの吸水シートを袋から何枚も何枚も取り出す涌谷に
「ミッフィーじゃねえのもあるじゃねえかよ。どんだけ好きなん」
小島がほかの色だけのやつを涌谷に投げる。
「いや、この現場はミッフィーに統一する」
どんなこだわりだよ、と戸叶は笑ってはいはいとミッフィーのシートを取り出した。
「綺麗になったぞ」
さすが高圧洗浄機。庫内は見事なまでに元の壁になった。
「じゃあ拭きあげだな」
佐藤と入れ違いに3人がミッフィーを抱えて庫内に入る。
「お前ら変」
佐藤がケルヒャーを片付けながら、ミッフィー隊を笑った。
「かわいいだろ?」
戸叶が一枚振ってアピール。
「次もそれにしてくれ、俺もやりたい」
その返答は待ってなかったと言いながら、戸叶はシートを床に撒いた。
「住民の皆さんが滑ったりしないように完璧に拭きあげろよ。水滴ひとつ残すな」
一枚一枚を並べて置いて、とりあえず敷き詰めしばし待つ。
その間に壁を拭きあげ、壁に空いたナイフ様の傷の補修を児島が始めた。できるだけ色を合わせたパテを埋め込むと、パテを少し乾かしてやすりで削りその上に慎重にマニキュアのトップコートを塗る。ジーっと見ない限りはわからない程度にはなる。
「児島腕あげたな」
ぱっと見わからないほどに仕上がった壁を見て、戸叶が感心した。
「じゃそろそろミッフィー剥がすか」
すでに吸水シートの呼び名がミッフィーになっている。
先ほどより重くなったシートを黒いゴミ袋に押し込んで、そうして乾いた薄い吸水シートで拭きあげて終了。
仕上げは、佐藤の趣味でお香を焚いて匂いを消す。
ファブリーズやらだとどこまでの効果か分かりにくいが、煙はどんな隙間でも入り込むから臭い消しにはいいらしい。(佐藤談) 今日は白檀の香り。
「これこれ、この匂い。カネコさん成仏できそうっすね」
涌谷がいうと、
「まだ生きてるってばよ」
と本日2回目の会話をした。
お香が一本終わるまで、佐藤と戸叶はマンション入り口の階段に座って一服。下っ端は金子を寝かせたブルーシートを、ところどころにミッフィーを配置した後金子ごと丸めて梱包用ベルトで巻きあげた。
「これどうすんすか?」
足で金子をつついて、児島が外の2人に聞く。
「ああ、小柳せんせのとこに放り込めばいいって佐伯さんが言ってたから、そうさせてもらおう」
小柳というのは、表向きは整形外科を営んでいる正規の整形外科医だが、裏稼業の者たちの、公にできない傷等を裏で見てくれる有難い医者先生だ。当たり前だが保険が効かないので高額請求は免れないけれど。
「こんなん病院いれて平気っすかね」
相変わらず足でつつき回したり、軽く蹴ったりして、児島は胸糞悪そうに扱っている。
「伝言しとけば平気じゃね?騒いだらこの傷作ったやつ呼ぶぞって言ってくださいって」
そう自分で言って戸叶は吹き出し、佐藤もー違いねえーと笑う。
「じゃあ撤収かな」
と言いかけた時戸叶は思い出した。
「新浜さんの部屋、まだやってねえや…」
4人は一斉にため息をついて、ちゃっちゃと終わらせようか…と誰ともなく呟いて、お香の回収がてらエレベーターに乗り込んだ。
「児島と涌谷も来たな、とマンション入り口で確認し大体のことはわかっているので、4人は各自荷物を持ちマンションへ入った。
「こういう時、高級住宅街って助かりますよね。この時間誰も歩いてない」
小走りにエレベーター前に行って、ブルーシートを広げている小島が言う。
「まあ油断はするな、今日は人間があるからな」
戸叶は、今日の昼間にマンションの各郵便受けに真夜中のエレベーター工事のチラシを配っていた。
なので住民は、夜出てもエレベーターが使えないならと出ないようにしてるだろうし、多少の騒音も大丈夫だ。
エレベーターのドアを開け、4人は充満する血の匂いに「うはっ」と同じ声をあげる。
「また見事な仕事だな」
戸叶と佐藤はドアの外から庫内を眺めしばし見惚れる。
座り込むことも倒れ込むことも許されず、手を壁にナイフで留められてぶら下がっている金子を見て涌谷が
「これは痛いっすね。流石な仕事っす」
と、磔に向かって手を合わせる。
「生きてるぞ、まだ」
佐藤が笑って、まずは左手を外してやった。そして戸叶は左手が外れたのを確認して右手を外した。
いっぺんに外すと体が床にのめって、血溜まりに浸かってしまうと運びにくくなる。彼らもそれなりのプロということだ。
2人は股間まで血でびっしょりな金子の肩と足を持って、エレベーター前のブルーシートに横たえ、万が一のために両足を長い結束バンドで留める。丸出しの切れかかった股間には、いつも雑巾に使っている大きめなウエスをかけてやる優しさもあった。
「じゃあ、まずケルヒャーだな。布張りじゃなくて助かったわ」
佐藤が背負って持ってきたケルヒャーを、発電機に繋ぎ
「騒音は多少大丈夫だな」
と、戸叶に再確認。
「大丈夫。しかもそのケルヒャーは新型で音が少し静かタイプになってる」
ーおお優秀ーと児島は言うが、73db(デシベル)が68dbになった程度。
佐藤は思い切りケルヒャーを内部に噴射し、まずは壁を流す。
「いつも思うけど、これ気持ちいいよな」
面白いように綺麗になってゆく作業を楽しそうにしている佐藤を、残りの3人はほかの準備をしながら聞くとはなしに聞いて、流し終わった後に使う吸収スポンジを出す作業に取り掛かる。
「…ミッフィーちゃん?」
キッチン用品の吸水シートは結構優秀で、ケルヒャー等の水を使った仕事の時はこれで水分を吹き上げると仕事が早いのだ。水だけの話ではないけれど。
その吸水シートを涌谷が出した時、絵柄がミッフィーだった。
「いやーAmazonでまとめて買っとこうと思ったらさ、いつもの色だけのやつ少なくて他のいいやつったらそれしかなかったんだよな」
仕方ねえよなーと戸叶もミッフィー作業。
キッチンの洗い物を置く吸水シート。厚さ1cmほどのスポンジ状のやつ。
「現場和むわ~」
と、ミッフィーの吸水シートを袋から何枚も何枚も取り出す涌谷に
「ミッフィーじゃねえのもあるじゃねえかよ。どんだけ好きなん」
小島がほかの色だけのやつを涌谷に投げる。
「いや、この現場はミッフィーに統一する」
どんなこだわりだよ、と戸叶は笑ってはいはいとミッフィーのシートを取り出した。
「綺麗になったぞ」
さすが高圧洗浄機。庫内は見事なまでに元の壁になった。
「じゃあ拭きあげだな」
佐藤と入れ違いに3人がミッフィーを抱えて庫内に入る。
「お前ら変」
佐藤がケルヒャーを片付けながら、ミッフィー隊を笑った。
「かわいいだろ?」
戸叶が一枚振ってアピール。
「次もそれにしてくれ、俺もやりたい」
その返答は待ってなかったと言いながら、戸叶はシートを床に撒いた。
「住民の皆さんが滑ったりしないように完璧に拭きあげろよ。水滴ひとつ残すな」
一枚一枚を並べて置いて、とりあえず敷き詰めしばし待つ。
その間に壁を拭きあげ、壁に空いたナイフ様の傷の補修を児島が始めた。できるだけ色を合わせたパテを埋め込むと、パテを少し乾かしてやすりで削りその上に慎重にマニキュアのトップコートを塗る。ジーっと見ない限りはわからない程度にはなる。
「児島腕あげたな」
ぱっと見わからないほどに仕上がった壁を見て、戸叶が感心した。
「じゃそろそろミッフィー剥がすか」
すでに吸水シートの呼び名がミッフィーになっている。
先ほどより重くなったシートを黒いゴミ袋に押し込んで、そうして乾いた薄い吸水シートで拭きあげて終了。
仕上げは、佐藤の趣味でお香を焚いて匂いを消す。
ファブリーズやらだとどこまでの効果か分かりにくいが、煙はどんな隙間でも入り込むから臭い消しにはいいらしい。(佐藤談) 今日は白檀の香り。
「これこれ、この匂い。カネコさん成仏できそうっすね」
涌谷がいうと、
「まだ生きてるってばよ」
と本日2回目の会話をした。
お香が一本終わるまで、佐藤と戸叶はマンション入り口の階段に座って一服。下っ端は金子を寝かせたブルーシートを、ところどころにミッフィーを配置した後金子ごと丸めて梱包用ベルトで巻きあげた。
「これどうすんすか?」
足で金子をつついて、児島が外の2人に聞く。
「ああ、小柳せんせのとこに放り込めばいいって佐伯さんが言ってたから、そうさせてもらおう」
小柳というのは、表向きは整形外科を営んでいる正規の整形外科医だが、裏稼業の者たちの、公にできない傷等を裏で見てくれる有難い医者先生だ。当たり前だが保険が効かないので高額請求は免れないけれど。
「こんなん病院いれて平気っすかね」
相変わらず足でつつき回したり、軽く蹴ったりして、児島は胸糞悪そうに扱っている。
「伝言しとけば平気じゃね?騒いだらこの傷作ったやつ呼ぶぞって言ってくださいって」
そう自分で言って戸叶は吹き出し、佐藤もー違いねえーと笑う。
「じゃあ撤収かな」
と言いかけた時戸叶は思い出した。
「新浜さんの部屋、まだやってねえや…」
4人は一斉にため息をついて、ちゃっちゃと終わらせようか…と誰ともなく呟いて、お香の回収がてらエレベーターに乗り込んだ。
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