好きの気持ち (自称ロードスターシリーズ)

とうこ

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話し合いをしようじゃないか

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 思っている間に銀次の車が戻ってきた。
「サボってんなよー」
 車を止めて、道の反対側にいるてつや に銀次がそういうと、銀次の向こう側で玲香が頭を下げてくる。
「いらっしゃい玲香ちゃん。今日は遠いところ悪かったね、ありがとう」
 降りてきた玲香に近寄り挨拶をする。
「いえいえ全然です。こちらにも一度ご挨拶に来ないとと思ってましたから」
 車のトランクを開けてもらって、玲香は大きな保温バッグを持ち上げようとする。
「ああ、いいよ、俺持つ。重そうだけど、これ持ってきたの?」
 てつやが持ち上げてみると、結構な重量がある。
「それ、今日の昼飯だってさ。ホテルの和食の親方が作ってくれたらしい」
 もう一つの荷物を持ってやって、銀次が教えてくれた。
「マジで?なんか悪いねー来てもらったり飯用意してもらったり」
「できることは限られてるので、こんなことしかできないんですよね」
 にっこりと、こちらも可愛い笑みを見せてくれる。
 3人で駄菓子屋から中へ入ってゆくと、てつやは
「玲香ちゃんが飯持ってきてくれた。ホテルの料理人さんの手作りだぞ。あと30分頑張ろうぜ」
 そういって、陽の当たらない奥へ保温バッグを置いた。
 中へ入ると、玲香はばあちゃんのところへゆき、挨拶をしていた。
「銀次さんとお付き合いをさせていただいてます、園田玲香と申します。一度お会いしてみたかったです。今日は何なりとお申しつけください」
 こちらもペコリと頭を下げると、ばあちゃんは
「今日はむさ苦しい男どもに囲まれると思っていたが、綺麗どころが2人もいて目の保養になるな」
 と笑って、玲香によろしくねと腕をポンポンしてくれた。
 綺麗どころはいずれにせよ、女は自分だけと思っていた玲香は2人と聞いてちょっと部屋を見回してみる。部屋の隅で、カラーボックスからばあちゃん選りすぐりの本を箱に詰めている、きれいな茶髪の会ったことのない人物がいた。
「銀次さん、あの方は?」
 隣の銀次に聞いてみると、銀次は微妙な顔をして
「ん~~~~っとな…まっさんの…なんて言ったらいいのか…」
 珍しく言い淀んでいる銀次を不思議そうに見て、再び柾哉に目を向けようとした時、柾哉がこちらに歩いてくるのが見えた。そして玲香と同じくらいな目線で
「初めまして。佐倉柾哉と申します。えと、まさなおさんのお店の客です。ちょっと親しくさせてもらっているので、今日はお手伝いに来ました。よろしくお願いします」
 と、ぺこりと頭を下げてくると、玲香もぺこりと頭を下げる。玲香のボブが揺れた。
 もう玲香の頭の中では、探索が始まってんだろうなぁ…、と周りの全員は思っていた。
 そんな光景を横目で見ながら作業を再開したてつやの元へ、京介が寄ってきて、
「なんか判ったのか?」
 と聞いてきた。
「うん。柾哉俺が居た店に居たって」
「え、マジで?そんなことあるんだな…じゃあ…」
「うん、ボーイ君だった…どうすべかな…」
 てつやも思案のしどころだ。ま、職業差別は今更ないし、彼らが身綺麗を是としていたのも判ってはいる。しかし百戦錬磨感はなぁ…
「そこは気にしなくていいんじゃね?」
 とは京介。
「まあ、俺もそうは思うけど、まっさん相手だとなあ…」
「仮によ、コトに及ぶとなった時にどっちも初めてはやっぱキツいと思うんだよ、俺は」
 まあ、確かにね…でも…
「年下からリードされるの平気かなまっさんあいつ
「リードをしてる風に見せないのも腕なんじゃねえの?」
「俺は売ってなかったからわかんねえけどさ、そこんとこは」
 これはまっさんには伝えないでおく事実だな、とは2人の意見は一致する。
「細かい箱は以上だそうだ。ここに積まれた箱を車に入れたら飯にするか?」
 まっさんが軍手を嵌めながらそう言うと、全員がそれに賛成して詰め込み作業が始まるが、そんなまっさんのリーダーシップ姿を、柾哉は嬉しそうに見つめていた。
「じゃあ私らは、お昼の用意でもするかね。玲香さん手伝ってくれるかい?」
「はい、勿論です」
 言われて2人で台所に向かっていった。
 詰め込み作業は5人もの男手のおかげで、ものの10分で片がついてしまった。
「じゃあ、午後イチで向こうへ荷物持っていくってことで」
 頭に巻いたタオルを取りながら、てつやが戻ってきた。
「そうだな、もうどの車も満載だしな。向こう行ったら行ったで開封の儀もあるし。それはばあちゃんと玲香ちゃんに任せるとするか」
 新市街にあるてつや所有のマンションは、7階建てだがばあちゃんの仮住まいは3階だ。荷物積んでエレベーターでと言うのは結構手間だ。まあやるしかないけれど。
「あ、俺店で粉運ぶ台車2台もってきたから、多少は楽だと思うぜ。まあそれにしても大変には変わりないけどな」
 普段パン屋の厨房でしか動き回らない銀次が覚悟を決める。
「まあ、今年あるかわかんねえけどロードの訓練だと思ってやろうぜ」
 まっさんが笑って言うが
「あまり上半身関係なくね?」
 と銀次が切り返す。
「じゃあ銀次は階段で」
 てつやがまぜっ返しているまに、テーブルには玲香が持ってきた大きい保存容器が4つと、ばあちゃんも用意しててくれたのか、煮物とかちょっとした揚げ物とかが並んでいた。
 保存容器の中は、まるでおせち料理のように綺麗な食べ物が並び、一つの容器には俵形のおにぎりに細く海苔が巻かれているのが結構な量入っている。
「うっわすげーご馳走じゃん」
 銀次がそれを眺めながら洗面所へ手を洗いにゆき、外から来た男子たちは、台所だったり洗面所だったりで手を洗い席についた。
 ばあちゃんちにあるテーブルを二つ繋げた上でも一杯一杯の料理。
「玲香さんに感謝だよ。ありがとうね」
「いえいえ、作ったの私ではないので。話してたら作ってくださった和食の親方に感謝ですね」
 照れて笑って、銀次の隣へ座る。
 まっさんも柾哉の腕を取って自分の隣に座らせると、テーブルに置いてあったコーラを注いでやった。
「遠慮してると無くなるからな、いっぱい食えよ」
「はい、頑張る。お腹空いてるし」
 その会話に微笑ましく笑う勢と、複雑な勢。色んな空気をはらんで昼食は始まった。
「そう言えば、今日文治さんがいないですね」
 玲香がお茶を注ぎながら聞いてきた。
「ああ、文ちゃんは今日バイトでね。あいつ最近ホール出れるようになったらしくて、楽しくなったみたいだ」
「いや~力仕事だからバイト入れたんじゃねえのか?」
 銀次が言う言葉は説得力があった。
「かもな。あれだろ、『重いからねー』ってやつ」
 てつやが笑って文治の真似をすると、結構似てんなと場が湧いて昼食は進んでいった。
 食後片付けをみんなでやって、再開を13時半に設定した一同は、この部屋でみんなで食べる食事は考えてみたら最後だったななどと感傷に浸り出す。
「どうせまたここに戻ってくるんだし。てつやが私の部屋は全部和室にしてくれたから、雰囲気は変わらんよ」
 ばあちゃんがお茶を啜りながら、感傷を一蹴。
 確かにそうだ。年配のばあちゃんは流石に色々乗り越えて来ただけあって、こんな感傷が意味を持たないこともわかっているようだ。
 若いものはこうやって、勉強していくのである。
「ところでばあちゃん、残ってる駄菓子どうすんの?」
 『一旦閉店セール』ということで、色々詰め込んだ袋一袋500円で売り出してほぼ完売した駄菓子だが、大きめダンボール一箱程度は残ってしまっていた。
「今日みんなで分ければいいかと思ってな」
 あれを?と全員がダンボールを眺めてしまう。
「何が残ってるんだろう…」
 柾哉が興味を示し、見ていいですか?と許可を得てダンボールを覗きにいった。
 ガサガサとダンボールを漁って、
「あ、これ懐かしい!」
 とカラフルな小さくて四角い堅いゼリーのようなものが入ったものを取り出す。
 それを見ていた玲香も、
「私もそれ好きでしたー」
 とダンボールに寄って行き、もう一つ同じのを出して、
「これ、一度に3個とか食べると味が変わるの知ってました?」
「知ってる知ってる!たまに不味かったりするんだよね」
「そうそう」
 駄菓子を見ながらワイワイ始めた2人を、大人組がほんわかと見つめる。
「そういや、玲香ちゃんと柾哉は歳一緒?」
 微笑ましく見ていた銀次が、なんとなく駄菓子の嗜好が同じな事に年齢を思い起こしたらしい。
「私2001年生まれです。柾哉さんは?」
「俺は、2002年だけど、1月生まれだから、一緒だね!」
 同級生同士だとわかり、ますます駄菓子に興味が上がった2人はガサガサとダンボールを揺らし始めた。
 最初に出した硬いゼリーみたいなものを、ばあちゃんの許可を得て噛みながら、青リンゴ味がどうの、いちごはあまりイチゴの味しないねなどと楽しそう。
「若えなあ」
 台所の換気扇下から京介も戻ってきて、2人のきゃっきゃワイワイを眺める。
「文治いなくてよかったな。もっと賑やかだったわ」
 まっさんが笑って、ちょっと寝転んだ。
「まっさん寝るなよ?」
 柱に寄りかかっているてつやがそう釘を刺すが、てつや自身眠そうに寄りかかっている。
「お前が寝るなよ」
 とお茶を脇に置いてくれて、ばあちゃんが笑う。
 実はてつやは、柾哉に話しかけるタイミングを探っていた。まさか玲香ちゃんとこんなに盛り上がるとは思っても居ずに、ちょっと困ってもいる。
 楽しそうなのを邪魔するのもなぁ…と思うが、時間もそうそうない。
 そんな時に、玲香が
「銀次さんもこれ食べてみて?青リンゴの美味しいの」
 と、かったいゼリーを銀次の元へと運んでくれた。そのままそこでアーンだの始めたので、まあ今かなと
「俺ちょっと部屋うえ見てくるわ」
 と立ち上がり、通りすがりに柾哉の長Tの肩をクイクイと引っ張って一緒にこいと促した。
 柾哉が立ち上がってついて行くのを見て、まっさんがーおい、なに…ーと声をかけようとするのを京介が止める。
「ちょっとてつやに任せてやって。大丈夫悪いことねえから」
「いやでも、あいつら初対面でなんでてつや…」
「虐めねえから」
 笑ってそう言って、ーまあ駄菓子でも食えよーと、玲香ちゃんから硬いゼリーを一個もらいまっさんに手渡した。
 腑に落ちないまっさんだったが、こんな事態に頼れるのはてつやと京介だけだとわかってるから、ちょっと待つ事にした。
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