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第16話 〜合否〜
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合格発表の日。
てつやは前日の夜に、
「明日合格したら店に来るけどしなかったら『探さないでください』」
と冗談を言って帰ってきていたが、朝起きたらそんな自分で言った冗談も冗談と受け取れないほど緊張していた。
後期日程の勉強はするなと言われてはいたけどそんなわけにもいかず、ちゃんとやってはいたが、3月1日から仕事を始めていたから十分とは言えず、後期試験の自信は確実になかった。
だから決めてほしい気持ちが強くなり、それだからこそ緊張する。
「あー…あー神様仏様」
布団の中で祈って、起きて祈って、着替えて祈る。
今の時間は午前6時。
3人で学校へ赴くことは、誰か1人だけ受かってたり落ちてたりが怖くて、それもなんかなぁ…と相談はしていたが、昨夜話し合い、誰が受かっても落ちても一緒に見に行こう!と決めた。
合格者の掲示は7時頃だと聞いている。もうすぐ2人が来て、見に行くことになっている。
が、てつやは居ても立っても居られなくて、アパートの下で2人を待った。
管理人のばあちゃんが出てきて、
「今日だな、見に行くんか?」
と聞いてきた。ばあちゃんだから朝が早い、というのは違って、この婆ちゃんはいつも9時頃のそのそと起きる人だ。やはり気にしてくれてんだな、とありがたく思う。
「うん、今まっさんと京介待ってるとこ」
部屋で待てない理由もばあちゃんは察してくれて、なんだかんだ2人が来るまで一緒にいてくれた。
「気をつけて行ってこい」
2人が来て出かける時、ばあちゃんが言ってくれて3人は手を振って出かける。
「ああ~~きんちょーするー」
「な、第一志望だもんな。一緒にいきてえし…ドキドキがすげえな」
「緊張で寒さが倍増してるわ。さっみー」
三者三様で、学校への道を辿る。3人が受けたM大は、歩いて行ける距離に在って、近くて通いやすいも受験する条件にもなってはいた。
「これってネットでも発表してるんだろ?」
まっさんがそれでよくね?」
と今更ながらに言ってきたが
「一緒に確認しようぜ~~。俺1人でネット見るのもおっかねえよ」
てつやがまっさんの手を握ってー今更そんなこと言うな~~ーとすがりついた。
店の仲間はネットで見ると言ってたが、結果がわかっても自分からするまで連絡するなと言ってある。
学校へついて、門を入った右手に掲示板が設置してあった。
前には人だかりができていて、よく見たらもう合格者が発表されているようだ。
「ひっ!もう貼ってあるぞ!どどどどうしよう」
てつやはここ一校だけなので緊張も人一倍。
「じゃあまず、てつやから見てこうか」
「なんでだよ!」
「結果はどうあれ、お前のその緊張を先にほぐしてやろうと思って」
京介が冷静にそう言って、てつやの背中を押して経済学部 と書かれた掲示板の前へと向かってゆく。
「受験番号なに?」
「いいいいいいEの3105…」
見たくないけど見なきゃいけなくて、てつやはじっと数字が並んでいる板を睨んだ。
「3001…もっと先か…30…な時点でもっと先。ええとぉ」
なんだかんだ言って、まっさんも京介も緊張していて、3000番代と3100番代が既に理解ができていない。
「3100…お、ここ…ってすぐじゃね?ああ」
てつやは顔を覆った手の指の隙間から見ている。
「3101…2がなくて…3もなし…4…5……あった!」
「え…」
てつやは手を外して掲示板を見た。
「あったぞてつや!おめでとう!」
京介が首を絞め、まっさんが飛びついてくる。
「あ…た…やったーっ!」
2人をぶら下げて、てつやはジャンプした。いや、すごい…
「よかったなーー!てつや!おめでとう」
髪をくしゃくしゃにされても全然平気だった。よかった~~~
「じゃあ次はどっちだ。早く行こう!」
やっぱり緊張は先に解いて正解だった。が、やはり2人とて緊張はしている。
「工業機械学科は…」
掲示板を横に歩いて、表示を探すと先に見えてきたのが工業機械学科『機械科合格者』だった。
「まっさんだな。番号は?」
「Mの2139…」
珍しくまっさんがガチガチだった。まっさんもここの工業学科の機械科がどうしても来たいところで、落ちるのはあり得ないとさえ思っている。
京介がじっと見つめ、
「212…もっと先…213…5…6、7なし…8…9…はぁ…あったよまっさん!あった!」
「あ…ほんとだ…あったわ…ああ~~~~~よかった~~~~~」
「おめでとうまっさん!」
今度はてつやが飛びついて、京介もまたロイ・マスタングそのものの髪をくしゃくしゃに混ぜていた。
これで2人は決まった。
「京介、いこう」
「んっ…」
受験票を握って、少し右へ移動、すぐ隣に『工業生産科合格者』があった
「京介番号は」
「MーIの1853…」
3人はじっくりと数字を追う。
「1801…もっと先だ…184…ここら辺かな1849…50…1.2…3…あった…京介!あったあった!」
「はぁぁぁあ~~~~~~」
京介は大きなため息と共に空を仰いだ。
「受かったぞ!やったな!おれら3人全員だ!」
小さな円陣を組んで、そのまま人混みを抜けるという結構迷惑なことをしでかしたが、この場においては結構みんな優しい目で見てくれる。
「銀次に報告だ!」
人混みを出て、教務室へ入学案内を貰いにいきながら、銀次へと電話をする。
まっさんがかけたから、スピーカーにした向こうから聞こえたのは
『まっさんか!どうだった!』
と言う銀次の声。3人はセーノで声を合わせ
「「「全員合格したぞ!」」」
と叫んだ。電話の向こうの銀次も
『マジかーーー!みんなおめでとう!!よかったなーおめでとう』
「なんでお前が泣くんだよ」
こっちではそれで大笑いしているが、銀次の気持ちもわかる。
「ありがとうな銀次。あとでてつやんとこ来いな。喜びを分かち合おうではないか」
『行くわ!絶対行くから、お前らも気をつけて帰れよ』
「「「ういっす!」」」
元気に返事して、3人は肩を叩き合い歩き出した。
家に戻ってからは、銀次が持ってきた銀次の家のパン屋『ふらわあ』のパン詰め合わせ、まっさん母梢さんの特製スペアリブとおでん。京介母眞知子さんのビーフシチューとパエリアが続々と届き、てつやの部屋はビュッフェのようになってしまっている。
大人たちは少し話してみんな帰り、4人はこれからのことや、忘れてはいけないロードのことなども話し合い、てつやの仕事時間まで尽きることなく話は続いた。
店に行って事務所へ入ると、いきなり稜が抱きついてきた。
「てつや!おめでとう!よかったねー!」
ぎゅうううっと抱きしめられて、てつやも稜の背に手を回す。
「ありがとう~~!俺やったよ!」
うんうん、とうなづいて、稜はようやくてつやから離れた。
後にいた丈瑠も
「お疲れ。よかったな、おめでとう。他の2人は?」
「全員合格だったよ」
「おー、それはよかったな。おめでとう言っといてな」
「おう!」
受験も終わり、本当の意味で晴々した気分で仕事に臨める。やはり相当のストレスはあったらしい。
「今までこの店になかったことなんで、なんか俺も嬉しくなってきた」
柏木も目に見える上機嫌で、デスクについている。
「もー、素直におめでとうって言ってやればいんじゃねえの?」
丈瑠がやれやれと言った風に言うのに、それもそうか?と考え直し
「これで仕事に集中できるな」
とてつやに言い、全員にため息をつかせた。
てつやはそれに笑って、ーもちろんですーと返しておいた。
歩いて通えると思っていた大学は、てつやの学部だけ新市街の住宅地の山の上にキャンパスを設置しており、結局免許をとった原チャリで通うことになってしまった。
そうなるとバイト先の方が自宅に戻るより近いので、学校から直にバイトに入り、時々遊んでそのまま学校などという生活が成り立ってしまう。
しかしてつやも毎日遊び歩いている訳ではなかった。ノートパソコンを買い柏木から本格的に資産運用方を習い始めていたのである。
ある日誠一郎から柏木経由で百万円の合格祝いを出され、絶対に受け取れないと固辞したのだが、出したものは引っ込めないとの一点張りで、途方に暮れた時があった。
そんな大金は受け取れないよなあと悩んでいたが、柏木がー無駄に使わなきゃいいんじゃないかーとアドバイスをくれ、そのお金をありがたく受け取り資産運用の資金として始めた経緯もある。
学校で教わることもかなり勉強になり、今までになく頭を使う生活も始まっていた。
~~~~現代~~~~
「ねえてっちゃんさ、昔ほんの一時期、ちょっとの間、一年あったかどうかの時期にさめっちゃ綺麗だった時あったよね」
ものすごく、『ちょっとの間』を強調するじゃんよ、文ちゃん…
「そんな時あったか?勘違いじゃないの?文ちゃんの」
「あったね!絶対に!だって俺その時てっちゃんに近づけなかったもん!おぼえてる!」
てつやにも本当は覚えはあった。
大学に入って一年ほど。高校より締め付けがなくなり、18歳にもなった年で色々解禁された頃だったからある意味羽を伸ばしていたかもしれない。
当たり前だが店以外の友達も増え、男女問わず遊びまくっていた時期。楽しかったなとは思うけど、今ではいい思い出くらいにしか思えない。
でもあの時期があって、色々思うこともできて今があると思うと感慨深い時期だ。
「近づけなかったってなによ。一緒に遊んでくれてたじゃん?」
「遊び始めたらね、平気なの。でもね、ん~なんて言ったらいいの?壮絶?壮絶に綺麗だったねー」
「ええ~~?」
てつやは後に転がって、なんだそれと笑う。
「だってさ、今のてっちゃん普段ばっちいじゃんかー。無精髭生やして、髪ももっさもさでさ!折角髪の色昔のにしたのにかまわないし!俺ね、壮絶なてっちゃんもう一回見たいよ」
「最近そうでもないでしょー。文ちゃんかーちゃんに言われてからけっこー気にかけてんのよ?」
壮絶ねえ…。天井を見てそう言われたことがあったと思い出した。あれは…
~~~~~戻る~~~~
てつやは前日の夜に、
「明日合格したら店に来るけどしなかったら『探さないでください』」
と冗談を言って帰ってきていたが、朝起きたらそんな自分で言った冗談も冗談と受け取れないほど緊張していた。
後期日程の勉強はするなと言われてはいたけどそんなわけにもいかず、ちゃんとやってはいたが、3月1日から仕事を始めていたから十分とは言えず、後期試験の自信は確実になかった。
だから決めてほしい気持ちが強くなり、それだからこそ緊張する。
「あー…あー神様仏様」
布団の中で祈って、起きて祈って、着替えて祈る。
今の時間は午前6時。
3人で学校へ赴くことは、誰か1人だけ受かってたり落ちてたりが怖くて、それもなんかなぁ…と相談はしていたが、昨夜話し合い、誰が受かっても落ちても一緒に見に行こう!と決めた。
合格者の掲示は7時頃だと聞いている。もうすぐ2人が来て、見に行くことになっている。
が、てつやは居ても立っても居られなくて、アパートの下で2人を待った。
管理人のばあちゃんが出てきて、
「今日だな、見に行くんか?」
と聞いてきた。ばあちゃんだから朝が早い、というのは違って、この婆ちゃんはいつも9時頃のそのそと起きる人だ。やはり気にしてくれてんだな、とありがたく思う。
「うん、今まっさんと京介待ってるとこ」
部屋で待てない理由もばあちゃんは察してくれて、なんだかんだ2人が来るまで一緒にいてくれた。
「気をつけて行ってこい」
2人が来て出かける時、ばあちゃんが言ってくれて3人は手を振って出かける。
「ああ~~きんちょーするー」
「な、第一志望だもんな。一緒にいきてえし…ドキドキがすげえな」
「緊張で寒さが倍増してるわ。さっみー」
三者三様で、学校への道を辿る。3人が受けたM大は、歩いて行ける距離に在って、近くて通いやすいも受験する条件にもなってはいた。
「これってネットでも発表してるんだろ?」
まっさんがそれでよくね?」
と今更ながらに言ってきたが
「一緒に確認しようぜ~~。俺1人でネット見るのもおっかねえよ」
てつやがまっさんの手を握ってー今更そんなこと言うな~~ーとすがりついた。
店の仲間はネットで見ると言ってたが、結果がわかっても自分からするまで連絡するなと言ってある。
学校へついて、門を入った右手に掲示板が設置してあった。
前には人だかりができていて、よく見たらもう合格者が発表されているようだ。
「ひっ!もう貼ってあるぞ!どどどどうしよう」
てつやはここ一校だけなので緊張も人一倍。
「じゃあまず、てつやから見てこうか」
「なんでだよ!」
「結果はどうあれ、お前のその緊張を先にほぐしてやろうと思って」
京介が冷静にそう言って、てつやの背中を押して経済学部 と書かれた掲示板の前へと向かってゆく。
「受験番号なに?」
「いいいいいいEの3105…」
見たくないけど見なきゃいけなくて、てつやはじっと数字が並んでいる板を睨んだ。
「3001…もっと先か…30…な時点でもっと先。ええとぉ」
なんだかんだ言って、まっさんも京介も緊張していて、3000番代と3100番代が既に理解ができていない。
「3100…お、ここ…ってすぐじゃね?ああ」
てつやは顔を覆った手の指の隙間から見ている。
「3101…2がなくて…3もなし…4…5……あった!」
「え…」
てつやは手を外して掲示板を見た。
「あったぞてつや!おめでとう!」
京介が首を絞め、まっさんが飛びついてくる。
「あ…た…やったーっ!」
2人をぶら下げて、てつやはジャンプした。いや、すごい…
「よかったなーー!てつや!おめでとう」
髪をくしゃくしゃにされても全然平気だった。よかった~~~
「じゃあ次はどっちだ。早く行こう!」
やっぱり緊張は先に解いて正解だった。が、やはり2人とて緊張はしている。
「工業機械学科は…」
掲示板を横に歩いて、表示を探すと先に見えてきたのが工業機械学科『機械科合格者』だった。
「まっさんだな。番号は?」
「Mの2139…」
珍しくまっさんがガチガチだった。まっさんもここの工業学科の機械科がどうしても来たいところで、落ちるのはあり得ないとさえ思っている。
京介がじっと見つめ、
「212…もっと先…213…5…6、7なし…8…9…はぁ…あったよまっさん!あった!」
「あ…ほんとだ…あったわ…ああ~~~~~よかった~~~~~」
「おめでとうまっさん!」
今度はてつやが飛びついて、京介もまたロイ・マスタングそのものの髪をくしゃくしゃに混ぜていた。
これで2人は決まった。
「京介、いこう」
「んっ…」
受験票を握って、少し右へ移動、すぐ隣に『工業生産科合格者』があった
「京介番号は」
「MーIの1853…」
3人はじっくりと数字を追う。
「1801…もっと先だ…184…ここら辺かな1849…50…1.2…3…あった…京介!あったあった!」
「はぁぁぁあ~~~~~~」
京介は大きなため息と共に空を仰いだ。
「受かったぞ!やったな!おれら3人全員だ!」
小さな円陣を組んで、そのまま人混みを抜けるという結構迷惑なことをしでかしたが、この場においては結構みんな優しい目で見てくれる。
「銀次に報告だ!」
人混みを出て、教務室へ入学案内を貰いにいきながら、銀次へと電話をする。
まっさんがかけたから、スピーカーにした向こうから聞こえたのは
『まっさんか!どうだった!』
と言う銀次の声。3人はセーノで声を合わせ
「「「全員合格したぞ!」」」
と叫んだ。電話の向こうの銀次も
『マジかーーー!みんなおめでとう!!よかったなーおめでとう』
「なんでお前が泣くんだよ」
こっちではそれで大笑いしているが、銀次の気持ちもわかる。
「ありがとうな銀次。あとでてつやんとこ来いな。喜びを分かち合おうではないか」
『行くわ!絶対行くから、お前らも気をつけて帰れよ』
「「「ういっす!」」」
元気に返事して、3人は肩を叩き合い歩き出した。
家に戻ってからは、銀次が持ってきた銀次の家のパン屋『ふらわあ』のパン詰め合わせ、まっさん母梢さんの特製スペアリブとおでん。京介母眞知子さんのビーフシチューとパエリアが続々と届き、てつやの部屋はビュッフェのようになってしまっている。
大人たちは少し話してみんな帰り、4人はこれからのことや、忘れてはいけないロードのことなども話し合い、てつやの仕事時間まで尽きることなく話は続いた。
店に行って事務所へ入ると、いきなり稜が抱きついてきた。
「てつや!おめでとう!よかったねー!」
ぎゅうううっと抱きしめられて、てつやも稜の背に手を回す。
「ありがとう~~!俺やったよ!」
うんうん、とうなづいて、稜はようやくてつやから離れた。
後にいた丈瑠も
「お疲れ。よかったな、おめでとう。他の2人は?」
「全員合格だったよ」
「おー、それはよかったな。おめでとう言っといてな」
「おう!」
受験も終わり、本当の意味で晴々した気分で仕事に臨める。やはり相当のストレスはあったらしい。
「今までこの店になかったことなんで、なんか俺も嬉しくなってきた」
柏木も目に見える上機嫌で、デスクについている。
「もー、素直におめでとうって言ってやればいんじゃねえの?」
丈瑠がやれやれと言った風に言うのに、それもそうか?と考え直し
「これで仕事に集中できるな」
とてつやに言い、全員にため息をつかせた。
てつやはそれに笑って、ーもちろんですーと返しておいた。
歩いて通えると思っていた大学は、てつやの学部だけ新市街の住宅地の山の上にキャンパスを設置しており、結局免許をとった原チャリで通うことになってしまった。
そうなるとバイト先の方が自宅に戻るより近いので、学校から直にバイトに入り、時々遊んでそのまま学校などという生活が成り立ってしまう。
しかしてつやも毎日遊び歩いている訳ではなかった。ノートパソコンを買い柏木から本格的に資産運用方を習い始めていたのである。
ある日誠一郎から柏木経由で百万円の合格祝いを出され、絶対に受け取れないと固辞したのだが、出したものは引っ込めないとの一点張りで、途方に暮れた時があった。
そんな大金は受け取れないよなあと悩んでいたが、柏木がー無駄に使わなきゃいいんじゃないかーとアドバイスをくれ、そのお金をありがたく受け取り資産運用の資金として始めた経緯もある。
学校で教わることもかなり勉強になり、今までになく頭を使う生活も始まっていた。
~~~~現代~~~~
「ねえてっちゃんさ、昔ほんの一時期、ちょっとの間、一年あったかどうかの時期にさめっちゃ綺麗だった時あったよね」
ものすごく、『ちょっとの間』を強調するじゃんよ、文ちゃん…
「そんな時あったか?勘違いじゃないの?文ちゃんの」
「あったね!絶対に!だって俺その時てっちゃんに近づけなかったもん!おぼえてる!」
てつやにも本当は覚えはあった。
大学に入って一年ほど。高校より締め付けがなくなり、18歳にもなった年で色々解禁された頃だったからある意味羽を伸ばしていたかもしれない。
当たり前だが店以外の友達も増え、男女問わず遊びまくっていた時期。楽しかったなとは思うけど、今ではいい思い出くらいにしか思えない。
でもあの時期があって、色々思うこともできて今があると思うと感慨深い時期だ。
「近づけなかったってなによ。一緒に遊んでくれてたじゃん?」
「遊び始めたらね、平気なの。でもね、ん~なんて言ったらいいの?壮絶?壮絶に綺麗だったねー」
「ええ~~?」
てつやは後に転がって、なんだそれと笑う。
「だってさ、今のてっちゃん普段ばっちいじゃんかー。無精髭生やして、髪ももっさもさでさ!折角髪の色昔のにしたのにかまわないし!俺ね、壮絶なてっちゃんもう一回見たいよ」
「最近そうでもないでしょー。文ちゃんかーちゃんに言われてからけっこー気にかけてんのよ?」
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