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第21話
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藤代と大橋を見送った後、もう2人の頼政の門下生たちも見つからなかったと元の家の前に戻ってきた。
「お疲れ様です」
「いませんねえ。一体どこに…」
頼政の門下生はちょくちょく家に来るので、既に顔見知りだった。
毎年のクリスマスパーティにも来ているし。
頼政の弟子?と言う事もあって一緒に探してくれているのだろうが…それは本当ににありがたいのだけど、やはりこの人たちも家族のもとへ返してあげなければいけないと思う。
馨は藤代と大橋のことを告げて、2人にも家族のもとへ帰ったほうがいいと告げた。
本人たちも、地震のことで舞い上がっていたらしく目先のことにしか頭が回らなかったが、確かに親も心配だが向こうも心配しているだろうと気がついたと話てくれた。
任せるのは申し訳ないが…と言ってくれて、2人もその場で実家へと帰っていった。
しかし寂しく思う一方で、その1人から、頼政の安否の情報を聞くことができていた。
地震の直前に頼政が、使うものがあると言って家に戻ったと言うのだ。
話によれば、地震発生の辺りに家に着くかどうかの時間に大学を出ていたとのことで、もしかしたら雪とトキは頼政と一緒かもしれないと言う望みが立った。
これは可能性でしかないが、少し安心材料である。
できればそうであってほしいと願うしかできないが、一緒だと思い込んで少し気持ちを楽にするしか方法はなかった。
去ってゆく2人に手を振って、馨は
「さてと」
と、家の方へ振り向いて、松の木を基準に大体の元の家の間取りを考えた。
まず自分の部屋を探り、布団や服などを探そうと考える。
明るいうちにしないと、9月の1日とはいえ夜は少し涼しくなってきているだろうから。
瓦礫に足を踏み入れると、燃えないようにだろう水がかけられていて湿っていた。布団は平気かと少々不安になったが、大体の見当で元の自分の部屋の辺りまで向かい、瓦礫をどかしてみた。
どかした瓦礫の少し先に、折り畳まれた布団が見えて馨はほっとした。
自室を見つけたのでその部分の瓦礫を退かし、中へ入り込んでみる。
立つと体半分は表に出てしまうが、しゃがめば風くらいなら凌げそうだ。
「これはいいな」
と呟き、瓦礫を取り去り布団が一枚敷けるほどの広さを中に作り上げた。
そして雪の部屋にあったはずの行灯を探しに行き、短くはあったが何本かの蝋燭を手にすると、それを布団の傘となっている瓦礫に並べた。
当然夜は真っ暗になるだろうから、多少の明かりは欲しい。
食べ物があるとも思えなかったが、台所と思われる場所に移動して瓦礫をよけると、ちょうど食事をしていた大きなテーブルが足が折れて天板がそのまま下に落ちたようになっていた。
そしてそこにお盆が2枚逆に重なっているものがあり、なんだと思って開けてみたらなんと10数個のおむすびが並んでいた。
「トキさんのおむすびだ…」
馨は感極まってしまい、涙が出そうだったがやっとの思いで堪えそれをそうっと持ち上げる。
お盆が重なっていた上に瓦礫が載っていたので水に濡れることもなく、おむすびは美味しそうに輝いて見えた。
暑さも内輪とは言え、まだ残暑も残る時期だから慎重に…と一個を取り出し割ってみると中身は梅干し。
これなら大丈夫かなと、耐えきれず割った半分を口にして思わずーうめえーとつぶやいた。
トキに会ったのも今朝で、まだ何時間しか経っていないのに何故だか酷く懐かしい。思えば地震は昼前だったから、カバンにも弁当は入っているはずだ。
お腹が空いているのも忘れてたな、ともう半分を口に入れ、もぐもぐしながら布団のところにお盆ごと持ち出した。
あとは…と頼政が隠し持っていた“ちょこれえと”が…確かここのあたり…に…
ダイニングはこの辺かなと歩いて行き、棚があったあたりをめくりちょっとゴソゴソと探すと、2枚ほどの“ちょこれえと”が出てきた。
これで少しは熱量的には大丈夫かな…あとは水だが、それは無理かもしれないなあ…と立ち上がり近所の周辺を見回した。
井戸水が出ている家は近辺には確かなかったはずだ。
水が問題だなぁなどと思い台所に確かブリキの水入れか水筒があったはず…と瓦礫をひっくり返すが、それは見つからなかった。そこで見つけたのは燐寸で先ほど手に入れた蝋燭に、ちょうどよく蝋燭だけ見つけて満足していた自分を反省した。マッチは必需品だ。
立ち上がるとご近所さんが荷物を取りに来たのか、顔見知りが何人か隣や前の家に人が来ている。
馨はどこかで水を配給していないかとお隣さんに尋ねたら、避難所ならどこでも水配っているけど、食べ物がないんだと言われた。
馨はおむすびを勧め、何個かを手渡すと、隣人のご夫人は水筒一つを渡してくれる。
「え、こんなに頂いては…」
と返そうとするが、
「水も大事だけどおむすびは嬉しかったですよ、ありがとう。またここに戻れたら、よろしくね」
と、親戚を頼って長野へ行くと言って去って行った。
みんないなくなるなぁ…と再び感傷的になってしまう。
今の人は、出かけるときに会えばいつでも笑顔で行ってらっしゃいと言ってくれ、雪にも優しいご婦人だった。
道中気をつけてほしいと願い、その後ろ姿を見てまた会えたらいいなと胸が熱くなる。
馨は水を一口いただいて、はぁぁ…と一息ついた。
まだ暑いのにずっと歩いていたし喉はカラカラだったから、神の水に感じる。
腕時計を見たら2時だった。1番暑い時間だが日が照っていないだけ助かっている。
こうして残骸の、少し小高くなった場所からすでに住み慣れていた場所を見回すと、まるで違う世界のように平坦だった。
細かくは思い出せないが、大体の家の作りが頭にあって、記憶の中の街並みを思い起こす。
地震は怖いなぁ…そう呟き布団が置いてあるところへ戻り、丸めた掛け布団に寄りかかると、空を見上げた。
雲は流れるように早く動いていて、不穏な空気を運んでくるようで馨は目を瞑る。
寝転んでいると、余震なのか時折体感できるほどの揺れが襲ってきてその度にハッとするが、いささか疲れて眠りそうだった。
うとうとしながらいると、誰かに身体を揺らされているのに気づく。
「馨くん、馨くん不用心だよ寝てるのは」
と言われ飛び起きた目の前には笹倉がいた。
「あ、笹倉さん来てくれたんですね」
「書類がなんとか片付いて、壊れなかった部屋を別棟にひとつ借りられたんでね、そこに全部ツッコマしてきた。で、雪さんやトキさんは見つかったのかい?」
隣に座って聞いてくれる笹倉に、おむすびを勧めて少し身体を起こす。
二人して瓦礫の窪みに入り込み、布団を座布団がわりに話し込む。
馨は避難所での出来事を笹倉に話し、雪とトキさんがどこにいるのかわからなくなってしまったと伝えた。そしてどうも、頼政も合流できている様子な話も聞いていて定かではないが、その可能性もある、とも伝えた。
「頼政が一緒にいたらいいけどな。しかし、雪さんのあの容貌は知らない人にはやはり怖いものなんだろうが、それにしても酷いよね。隔離してもいいからそこにおいてほしかったよな」
おむすびを頬張りながら、笹倉も少し憤ったようだ。
「で、馨くんは今夜どうするんだ?」
「とりあえず布団もあったので、一晩はここでみなさんを待ってみます。もしかしたら来るかもしれないし。明日までに来なかったら、メモ書きでもしてとりあえず学校にでもいってようかなと思ってますけど…どこにいったらいいかは追々考えます…」
馨には帰るべき実家はないから。
「よかったらだけど、私の家にくるかい?頼政の家ほどデカくはないけど、さっき行ってみたら、なんとか地震にも持ち堪えたようでね。それを言いに来たんだよ」
「え、でもそんなご迷惑は…」
「頼政の預かり子は私の預かり子でもあるよ。3人を探す足がかりに使ってよ。事務所からそう遠くないところだから、ここにも通えるしそれに仕事も手伝ってもらえるしさ。いいと思うんだよね」
学校に寝泊まりしたところで、建物が歪んでいたら追い出されてしまうしな…と考え、
「じゃあ、3人が見つかるまでお世話になっていいですか」
「いいとも、3人次第ではみんなでおいで」
相変わらずの笑みは、馨を穏やかにしてくれる。
「じゃあ明日迎えにくるよ。何かあったら…まあどっちにしろここで待っててくれ。見つかったらここに連れてきておいて」
またそう笑って、笹倉は瓦礫を降りて手を振って歩いていった。
それを見送って、馨は再び布団に寄りかかった。
何故か何もする気にもならない。
さっきの避難所のおばさんの言葉や、見つからない雪や頼政やトキの事が気がかりでいるがどうしたらいいか手詰まりで動きようがないことも、気持ちの澱みに拍車をかける。
今日は…もう動かないでいいや…そう呟いて雲を眺め、時折流れてくる黒い煙に眉を寄せながら時間が過ぎてゆくのを待っていた。
「お疲れ様です」
「いませんねえ。一体どこに…」
頼政の門下生はちょくちょく家に来るので、既に顔見知りだった。
毎年のクリスマスパーティにも来ているし。
頼政の弟子?と言う事もあって一緒に探してくれているのだろうが…それは本当ににありがたいのだけど、やはりこの人たちも家族のもとへ返してあげなければいけないと思う。
馨は藤代と大橋のことを告げて、2人にも家族のもとへ帰ったほうがいいと告げた。
本人たちも、地震のことで舞い上がっていたらしく目先のことにしか頭が回らなかったが、確かに親も心配だが向こうも心配しているだろうと気がついたと話てくれた。
任せるのは申し訳ないが…と言ってくれて、2人もその場で実家へと帰っていった。
しかし寂しく思う一方で、その1人から、頼政の安否の情報を聞くことができていた。
地震の直前に頼政が、使うものがあると言って家に戻ったと言うのだ。
話によれば、地震発生の辺りに家に着くかどうかの時間に大学を出ていたとのことで、もしかしたら雪とトキは頼政と一緒かもしれないと言う望みが立った。
これは可能性でしかないが、少し安心材料である。
できればそうであってほしいと願うしかできないが、一緒だと思い込んで少し気持ちを楽にするしか方法はなかった。
去ってゆく2人に手を振って、馨は
「さてと」
と、家の方へ振り向いて、松の木を基準に大体の元の家の間取りを考えた。
まず自分の部屋を探り、布団や服などを探そうと考える。
明るいうちにしないと、9月の1日とはいえ夜は少し涼しくなってきているだろうから。
瓦礫に足を踏み入れると、燃えないようにだろう水がかけられていて湿っていた。布団は平気かと少々不安になったが、大体の見当で元の自分の部屋の辺りまで向かい、瓦礫をどかしてみた。
どかした瓦礫の少し先に、折り畳まれた布団が見えて馨はほっとした。
自室を見つけたのでその部分の瓦礫を退かし、中へ入り込んでみる。
立つと体半分は表に出てしまうが、しゃがめば風くらいなら凌げそうだ。
「これはいいな」
と呟き、瓦礫を取り去り布団が一枚敷けるほどの広さを中に作り上げた。
そして雪の部屋にあったはずの行灯を探しに行き、短くはあったが何本かの蝋燭を手にすると、それを布団の傘となっている瓦礫に並べた。
当然夜は真っ暗になるだろうから、多少の明かりは欲しい。
食べ物があるとも思えなかったが、台所と思われる場所に移動して瓦礫をよけると、ちょうど食事をしていた大きなテーブルが足が折れて天板がそのまま下に落ちたようになっていた。
そしてそこにお盆が2枚逆に重なっているものがあり、なんだと思って開けてみたらなんと10数個のおむすびが並んでいた。
「トキさんのおむすびだ…」
馨は感極まってしまい、涙が出そうだったがやっとの思いで堪えそれをそうっと持ち上げる。
お盆が重なっていた上に瓦礫が載っていたので水に濡れることもなく、おむすびは美味しそうに輝いて見えた。
暑さも内輪とは言え、まだ残暑も残る時期だから慎重に…と一個を取り出し割ってみると中身は梅干し。
これなら大丈夫かなと、耐えきれず割った半分を口にして思わずーうめえーとつぶやいた。
トキに会ったのも今朝で、まだ何時間しか経っていないのに何故だか酷く懐かしい。思えば地震は昼前だったから、カバンにも弁当は入っているはずだ。
お腹が空いているのも忘れてたな、ともう半分を口に入れ、もぐもぐしながら布団のところにお盆ごと持ち出した。
あとは…と頼政が隠し持っていた“ちょこれえと”が…確かここのあたり…に…
ダイニングはこの辺かなと歩いて行き、棚があったあたりをめくりちょっとゴソゴソと探すと、2枚ほどの“ちょこれえと”が出てきた。
これで少しは熱量的には大丈夫かな…あとは水だが、それは無理かもしれないなあ…と立ち上がり近所の周辺を見回した。
井戸水が出ている家は近辺には確かなかったはずだ。
水が問題だなぁなどと思い台所に確かブリキの水入れか水筒があったはず…と瓦礫をひっくり返すが、それは見つからなかった。そこで見つけたのは燐寸で先ほど手に入れた蝋燭に、ちょうどよく蝋燭だけ見つけて満足していた自分を反省した。マッチは必需品だ。
立ち上がるとご近所さんが荷物を取りに来たのか、顔見知りが何人か隣や前の家に人が来ている。
馨はどこかで水を配給していないかとお隣さんに尋ねたら、避難所ならどこでも水配っているけど、食べ物がないんだと言われた。
馨はおむすびを勧め、何個かを手渡すと、隣人のご夫人は水筒一つを渡してくれる。
「え、こんなに頂いては…」
と返そうとするが、
「水も大事だけどおむすびは嬉しかったですよ、ありがとう。またここに戻れたら、よろしくね」
と、親戚を頼って長野へ行くと言って去って行った。
みんないなくなるなぁ…と再び感傷的になってしまう。
今の人は、出かけるときに会えばいつでも笑顔で行ってらっしゃいと言ってくれ、雪にも優しいご婦人だった。
道中気をつけてほしいと願い、その後ろ姿を見てまた会えたらいいなと胸が熱くなる。
馨は水を一口いただいて、はぁぁ…と一息ついた。
まだ暑いのにずっと歩いていたし喉はカラカラだったから、神の水に感じる。
腕時計を見たら2時だった。1番暑い時間だが日が照っていないだけ助かっている。
こうして残骸の、少し小高くなった場所からすでに住み慣れていた場所を見回すと、まるで違う世界のように平坦だった。
細かくは思い出せないが、大体の家の作りが頭にあって、記憶の中の街並みを思い起こす。
地震は怖いなぁ…そう呟き布団が置いてあるところへ戻り、丸めた掛け布団に寄りかかると、空を見上げた。
雲は流れるように早く動いていて、不穏な空気を運んでくるようで馨は目を瞑る。
寝転んでいると、余震なのか時折体感できるほどの揺れが襲ってきてその度にハッとするが、いささか疲れて眠りそうだった。
うとうとしながらいると、誰かに身体を揺らされているのに気づく。
「馨くん、馨くん不用心だよ寝てるのは」
と言われ飛び起きた目の前には笹倉がいた。
「あ、笹倉さん来てくれたんですね」
「書類がなんとか片付いて、壊れなかった部屋を別棟にひとつ借りられたんでね、そこに全部ツッコマしてきた。で、雪さんやトキさんは見つかったのかい?」
隣に座って聞いてくれる笹倉に、おむすびを勧めて少し身体を起こす。
二人して瓦礫の窪みに入り込み、布団を座布団がわりに話し込む。
馨は避難所での出来事を笹倉に話し、雪とトキさんがどこにいるのかわからなくなってしまったと伝えた。そしてどうも、頼政も合流できている様子な話も聞いていて定かではないが、その可能性もある、とも伝えた。
「頼政が一緒にいたらいいけどな。しかし、雪さんのあの容貌は知らない人にはやはり怖いものなんだろうが、それにしても酷いよね。隔離してもいいからそこにおいてほしかったよな」
おむすびを頬張りながら、笹倉も少し憤ったようだ。
「で、馨くんは今夜どうするんだ?」
「とりあえず布団もあったので、一晩はここでみなさんを待ってみます。もしかしたら来るかもしれないし。明日までに来なかったら、メモ書きでもしてとりあえず学校にでもいってようかなと思ってますけど…どこにいったらいいかは追々考えます…」
馨には帰るべき実家はないから。
「よかったらだけど、私の家にくるかい?頼政の家ほどデカくはないけど、さっき行ってみたら、なんとか地震にも持ち堪えたようでね。それを言いに来たんだよ」
「え、でもそんなご迷惑は…」
「頼政の預かり子は私の預かり子でもあるよ。3人を探す足がかりに使ってよ。事務所からそう遠くないところだから、ここにも通えるしそれに仕事も手伝ってもらえるしさ。いいと思うんだよね」
学校に寝泊まりしたところで、建物が歪んでいたら追い出されてしまうしな…と考え、
「じゃあ、3人が見つかるまでお世話になっていいですか」
「いいとも、3人次第ではみんなでおいで」
相変わらずの笑みは、馨を穏やかにしてくれる。
「じゃあ明日迎えにくるよ。何かあったら…まあどっちにしろここで待っててくれ。見つかったらここに連れてきておいて」
またそう笑って、笹倉は瓦礫を降りて手を振って歩いていった。
それを見送って、馨は再び布団に寄りかかった。
何故か何もする気にもならない。
さっきの避難所のおばさんの言葉や、見つからない雪や頼政やトキの事が気がかりでいるがどうしたらいいか手詰まりで動きようがないことも、気持ちの澱みに拍車をかける。
今日は…もう動かないでいいや…そう呟いて雲を眺め、時折流れてくる黒い煙に眉を寄せながら時間が過ぎてゆくのを待っていた。
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