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第9話
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一方車の中では、春樹は浮かれたまま
「キメセクゥキメセクゥ」
と歌うように連呼してハンドルを握っている。
時臣に抱かれたかった。あの鋼のような胸板にキスをして、抱きしめられて呼吸ができないほど締め付けてほしい。
そう思うだけでボッキする
「あ…勃っちゃった。オナニーでも気持ちいいんだよねええ。でもこの子としたいしぃ」
バックミラーで後部座席を見たが、悠馬は横たわっていて顔が見えない
「この子時臣くんの面影あってちょー好み♪この子なら抱かれてもいいと思っちゃったもの。我慢しよ」
独り言多いのはラリってるからなのか。
『GT-Rに追いつくかな…だいぶ暴走してそうだしな…』
スピードだけは出る車で暴走されたら、どこまで行けるか未知である。
しかしこの道はいずれ線路にぶち当たり、丁字路になっているはずだ。そこで少しはスピードもおちるだろう。そこが狙い目だが…まず追いつかないことには。
時臣はギアをあげ、グリップを捻った。
警察に出てこられてもまたややこしい。このまま飛田に引き渡したいが、飛田は間に合うか。
「見えた」
かなりなスピードは出ているが暴走まではいかないGT-Rが、200mほど先に見えた。
時臣はギアを下げ、グリップを引いてスピードを上げる。
もう少しで傍に並べそうだという時に、そろそろ丁字路が見えてきて、スピードが落ちてからでいいか…と少し後に移動した時だった。
春樹はその丁字路に、大してスピードを落とさないまま右折しようとしていたようだが、その前に黒のレクサスが春樹の前に通せんぼのように止まる。
「うわああああああああっ」
時臣にまで聞こえるような悲鳴が響き、GT-Rは右に曲がり掛けてレクサスの左後方部へ衝突し、半回転をして線路沿線に綺麗に整備してあるレンガの花壇に当たり、あわや横にめくれそうに片輪2輪が上がったがどうにか持ち堪えて道路へ降りた。
ぶつかられたレクサスには誰も乗っておらず、その状況を傍に避けて見ていたのは飛田とその部下2名である。
部下の2名は、GT-Rに駆け寄り運転席から春樹を引っ張り出すと、部下Aはエアバックをかき分けて運転席へ入り、もう1人は春樹を引きずってもう一台待機していた車に連れて行く。
地味なファミリーカーで、その後部座席に春樹を押し込めると、部下Bは壊れたレクサスの前へ、いかにも持ち主のように運転席にはいりこんだ。
バイクを傍にとめた時臣は、走ってGT-Rへ向かい
「飛田!何してる!俺の甥っ子乗ってんだぞ!」
と、大声でいいながら助手席のドアを開け、もどかしそうにシートを倒して前へと移動させた。
悠馬はシートの下に落ちていて、今の衝撃で目を覚ましていたらしく頭を抱え受け身のようなものを取って蹲っていた。
「おじさん…」
18歳でもここまで怖い目に遭ったら、涙のひとつも溢れる。
「無事だったかあ…」
時臣はシートに手をついて、心から安堵の声をもらした。
「春樹のやつは…どうせならこの事故で逝ってくれれば手間が省けると思ったんだがなあ。どうやら息はあるらしいわ」
飛田がそう言いながら時臣の後ろに立って、救急車を要請していた。
もちろん春樹のためではなく、悠馬のためだ。
「あ~、手間がかかるな。めんどくせえ…」
タバコを咥え火をつけないのは、事故現場でガソリンが漏れてるせいだろう。
「時臣よ、シナリオ教えとくぜ」
悠馬をシートに寝かせて、声をかけてみたがしっかり答えるのでそれにも安堵して、ようやく飛田の方を見た。
「シナリオ?」
「甥っ子くんもよく聞いといてな」
「はい…」
「この事故は出会い頭の事故で、GT-Rの運転手は今そこに乗ってる『斎藤くん』だ。斎藤くんと甥っ子くんはお友達で、一緒に乗っていたが、不運なことに事故にあった。で、このおじさんは甥っ子が知らない子と車に乗って出かけたと思い込んで、過保護にも追いかけてきた。そう言うことだ。事故を受けたレクサスは、あそこに立ってるおじさんの車で、まあ、俺も悪かったと斉藤と示談に持ち込むつもりだ。車の持ち主なんざは関係ねえ。どうにでもなるからな。で、おれはあのファミリーカーで今すぐ『東雲』に向かうわ」
「なんだその陳腐なシナリオは」
胸糞悪そうに時臣は吐き捨てるが、それでもそれが最善のシナリオだった。春樹は飛田が連れて行かなければだし、春樹と一緒にいた悠馬も薬の関係上痛くもない腹をさぐられかねないから…。
「『斎藤くん』は最近うちに入った若い子で、歳も同じくらいだろ、いくらでも誤魔化しは聞く。甥っ子くんの名前はサトシくんだからよろしくな」
「ありがとうな…飛田…お前に借りは作りたくはなかったんだが…」
「借りはこっちだぁな。よく知らせてくれた。春樹の末路知ってて俺に連絡するのは度胸いるだろうからな」
時臣は黙って、悠馬を車から下ろすのに手を貸していた。
それから飛田は救急車が来る前に、と現場を去ってゆき、それから数分して救急から連絡が入ったのか、救急車と警察の事故車両が一緒にやってきて、処理にあたり始める。
悠馬は救急車に乗せられ、ようやく追いついた唯希がバイクを警察の許可のもと線路脇に置かせてもらって悠馬に同乗し、時臣はバイクで救急車の後を追うことになった。
時臣は、救急車を追いながら考えを巡らせる。
悠馬は多分大丈夫だろう。しかしこれから飛田は東雲に向かい、春樹の処分を春樹の兄貴に伝えるはずだ。その時に、自分が東雲に的にされる確率も出てくるのだ。
飛田がいいように言ってくれたらいいが、それを聞くまでは動けない。
しかもこんな目に合わせた悠馬を実家に帰してもやりたいが、もしも東雲が悠馬にも手をかけてくるとしたら、実家の面々にも危害が及ぶ。
今は飛田の出かたに任せるしかないが、悠馬含め実家の方まで心配になってきているのが事実だった。
世田谷中央病院に運ばれた悠馬は頭部と腹部のMRIを撮り、時臣と唯希が医師に呼ばれた。
「外傷もありませんし、頭部にも腹部にも異常は見受けられませんね…。まあ、事故なので一応一晩だけ入院して様子をみて、何事もなければ明日にでも帰って大丈夫でしょう」
MRIの画像を見せられてもさっぱりだが、まあ医者が平気と言うなら大丈夫だろう。典孝でもいたら良かったのだろうが、きっと平気だ。
大部屋に運ばれた悠馬だったが、1時間ほどしたら看護士さんが悠馬をベッドごと個室へ運んで行くことになった。
「え…個室?」
「はい、飛田さんと言う方から個室を使わせてあげて欲しいと連絡がありましたので、移動になります」
「飛田さん男前ねえ~~」
唯希が悠馬に付き添って、部屋を出て行く。
「あいつ、今そんな場合じゃねえだろうに…細えとこに気のつく男だな」
時臣は苦笑して、唯希に続いて部屋を出て行った。
「キメセクゥキメセクゥ」
と歌うように連呼してハンドルを握っている。
時臣に抱かれたかった。あの鋼のような胸板にキスをして、抱きしめられて呼吸ができないほど締め付けてほしい。
そう思うだけでボッキする
「あ…勃っちゃった。オナニーでも気持ちいいんだよねええ。でもこの子としたいしぃ」
バックミラーで後部座席を見たが、悠馬は横たわっていて顔が見えない
「この子時臣くんの面影あってちょー好み♪この子なら抱かれてもいいと思っちゃったもの。我慢しよ」
独り言多いのはラリってるからなのか。
『GT-Rに追いつくかな…だいぶ暴走してそうだしな…』
スピードだけは出る車で暴走されたら、どこまで行けるか未知である。
しかしこの道はいずれ線路にぶち当たり、丁字路になっているはずだ。そこで少しはスピードもおちるだろう。そこが狙い目だが…まず追いつかないことには。
時臣はギアをあげ、グリップを捻った。
警察に出てこられてもまたややこしい。このまま飛田に引き渡したいが、飛田は間に合うか。
「見えた」
かなりなスピードは出ているが暴走まではいかないGT-Rが、200mほど先に見えた。
時臣はギアを下げ、グリップを引いてスピードを上げる。
もう少しで傍に並べそうだという時に、そろそろ丁字路が見えてきて、スピードが落ちてからでいいか…と少し後に移動した時だった。
春樹はその丁字路に、大してスピードを落とさないまま右折しようとしていたようだが、その前に黒のレクサスが春樹の前に通せんぼのように止まる。
「うわああああああああっ」
時臣にまで聞こえるような悲鳴が響き、GT-Rは右に曲がり掛けてレクサスの左後方部へ衝突し、半回転をして線路沿線に綺麗に整備してあるレンガの花壇に当たり、あわや横にめくれそうに片輪2輪が上がったがどうにか持ち堪えて道路へ降りた。
ぶつかられたレクサスには誰も乗っておらず、その状況を傍に避けて見ていたのは飛田とその部下2名である。
部下の2名は、GT-Rに駆け寄り運転席から春樹を引っ張り出すと、部下Aはエアバックをかき分けて運転席へ入り、もう1人は春樹を引きずってもう一台待機していた車に連れて行く。
地味なファミリーカーで、その後部座席に春樹を押し込めると、部下Bは壊れたレクサスの前へ、いかにも持ち主のように運転席にはいりこんだ。
バイクを傍にとめた時臣は、走ってGT-Rへ向かい
「飛田!何してる!俺の甥っ子乗ってんだぞ!」
と、大声でいいながら助手席のドアを開け、もどかしそうにシートを倒して前へと移動させた。
悠馬はシートの下に落ちていて、今の衝撃で目を覚ましていたらしく頭を抱え受け身のようなものを取って蹲っていた。
「おじさん…」
18歳でもここまで怖い目に遭ったら、涙のひとつも溢れる。
「無事だったかあ…」
時臣はシートに手をついて、心から安堵の声をもらした。
「春樹のやつは…どうせならこの事故で逝ってくれれば手間が省けると思ったんだがなあ。どうやら息はあるらしいわ」
飛田がそう言いながら時臣の後ろに立って、救急車を要請していた。
もちろん春樹のためではなく、悠馬のためだ。
「あ~、手間がかかるな。めんどくせえ…」
タバコを咥え火をつけないのは、事故現場でガソリンが漏れてるせいだろう。
「時臣よ、シナリオ教えとくぜ」
悠馬をシートに寝かせて、声をかけてみたがしっかり答えるのでそれにも安堵して、ようやく飛田の方を見た。
「シナリオ?」
「甥っ子くんもよく聞いといてな」
「はい…」
「この事故は出会い頭の事故で、GT-Rの運転手は今そこに乗ってる『斎藤くん』だ。斎藤くんと甥っ子くんはお友達で、一緒に乗っていたが、不運なことに事故にあった。で、このおじさんは甥っ子が知らない子と車に乗って出かけたと思い込んで、過保護にも追いかけてきた。そう言うことだ。事故を受けたレクサスは、あそこに立ってるおじさんの車で、まあ、俺も悪かったと斉藤と示談に持ち込むつもりだ。車の持ち主なんざは関係ねえ。どうにでもなるからな。で、おれはあのファミリーカーで今すぐ『東雲』に向かうわ」
「なんだその陳腐なシナリオは」
胸糞悪そうに時臣は吐き捨てるが、それでもそれが最善のシナリオだった。春樹は飛田が連れて行かなければだし、春樹と一緒にいた悠馬も薬の関係上痛くもない腹をさぐられかねないから…。
「『斎藤くん』は最近うちに入った若い子で、歳も同じくらいだろ、いくらでも誤魔化しは聞く。甥っ子くんの名前はサトシくんだからよろしくな」
「ありがとうな…飛田…お前に借りは作りたくはなかったんだが…」
「借りはこっちだぁな。よく知らせてくれた。春樹の末路知ってて俺に連絡するのは度胸いるだろうからな」
時臣は黙って、悠馬を車から下ろすのに手を貸していた。
それから飛田は救急車が来る前に、と現場を去ってゆき、それから数分して救急から連絡が入ったのか、救急車と警察の事故車両が一緒にやってきて、処理にあたり始める。
悠馬は救急車に乗せられ、ようやく追いついた唯希がバイクを警察の許可のもと線路脇に置かせてもらって悠馬に同乗し、時臣はバイクで救急車の後を追うことになった。
時臣は、救急車を追いながら考えを巡らせる。
悠馬は多分大丈夫だろう。しかしこれから飛田は東雲に向かい、春樹の処分を春樹の兄貴に伝えるはずだ。その時に、自分が東雲に的にされる確率も出てくるのだ。
飛田がいいように言ってくれたらいいが、それを聞くまでは動けない。
しかもこんな目に合わせた悠馬を実家に帰してもやりたいが、もしも東雲が悠馬にも手をかけてくるとしたら、実家の面々にも危害が及ぶ。
今は飛田の出かたに任せるしかないが、悠馬含め実家の方まで心配になってきているのが事実だった。
世田谷中央病院に運ばれた悠馬は頭部と腹部のMRIを撮り、時臣と唯希が医師に呼ばれた。
「外傷もありませんし、頭部にも腹部にも異常は見受けられませんね…。まあ、事故なので一応一晩だけ入院して様子をみて、何事もなければ明日にでも帰って大丈夫でしょう」
MRIの画像を見せられてもさっぱりだが、まあ医者が平気と言うなら大丈夫だろう。典孝でもいたら良かったのだろうが、きっと平気だ。
大部屋に運ばれた悠馬だったが、1時間ほどしたら看護士さんが悠馬をベッドごと個室へ運んで行くことになった。
「え…個室?」
「はい、飛田さんと言う方から個室を使わせてあげて欲しいと連絡がありましたので、移動になります」
「飛田さん男前ねえ~~」
唯希が悠馬に付き添って、部屋を出て行く。
「あいつ、今そんな場合じゃねえだろうに…細えとこに気のつく男だな」
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