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9章
第63.5話 だいまおうさまは しょうりした(後編)
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「私の後ろに、ダイチ様がいたからです」
あ――そういうことか。
ルナは守ってくれていたんだ。
自分の戦いであっても、常に俺を守るように戦っていたんだ。
「なるほど。では、我々は守護者失格だな」
「一時とは言え、我々はエヴノス様をお守りすることを忘れていた」
「それがエヴノス様の魔法によるものだとしても」
「魔王城の番人として忘れてはならぬことを、どうやら人族たちから学んだようだ」
アケイとエケイは自分を戒めるように目をつむる。
「弟者よ」
「うむ。兄者よ」
「「我々はもっと強くならねばならぬ」」
最後に声を揃えた。
ルナはニコリと笑う。
「今度は互いの主君を守る戦いをしたいものですね」
「うむ。それは楽しみだ」
「いつでも魔王城に来るがよい。相手になってやろう」
最後にまたがっしりと握手を交わし、勝者は敗者を、敗者は勝者を讃えた。
温かな拍手が送られ、ついに武闘祭は閉幕を告げる。
そして俺は改めてエヴノスに向き直った。
「エヴノス、十分理解できただろう。ここには俺を守ってくれる十分な戦力がある。何も心配することはないんだ。だから、俺を暗黒大陸の領主として認めてくれないか?」
「…………」
「エヴノス様。ダイチ様を暗黒大陸に残すこと、ご心配かと存じます。ですが、ダイチ様が仰るようにここには十分戦力がある。お認めになってもよろしいのではないでしょうか?」
沈黙するエヴノスに、ローデシアが助け船を出す。
それでもエヴノスは何も答えなかった。
迷っているのか、それとも躊躇しているのか。
あるいは、俺が暗黒大陸の領主となることに、何かまずいことでもあるのか。
いずれもわからなかったが、エヴノスは沈黙を続ける。
「魔王様、戦ってみてわかりました。彼らは一級の戦力」
ゴーレム騎士団団長ゴーズもまた貴賓席の方を向いて、膝を突く。
「守護者として十分な素質を備えております」
「必ずや大魔王様を守ってくれるでしょう」
アケイとエケイも願い出る。
人族や獣人だけじゃない。
ここにいる魔族全員が、ルナたちを認めてくれていた。
答えを出していないのは、エヴノスだけ。
そして、ようやく魔王の口が動いたのは、たっぷり10秒待ってからであった。
「良かろう」
その一言を聞いて、人族・獣人はおろか魔族たちも安堵の息を漏らした。
「ようございましたね、ダイチ様」
「うん。ありがとう、エヴノス」
「ただし――――だ……」
エヴノスは付け加えた。
「条件がある……」
ええ~~。また条件??
◆◇◆◇◆ エヴノス side ◆◇◆◇◆
「くはははははははははは!!」
魔王城に帰ってきたエヴノスは上機嫌だった。
執務室で高らかに笑い声を上げる。
側で見ていたアリュシュアが、心配そうに見つめていた。
主君が気が触れたように見えたからである。
だが、エヴノスが執務室で狂笑しているのは、何も自暴自棄になっているわけではない。
暗黒大陸で最後にあったことを思い出し、笑っているのだ。
「そ、それでエヴノス様。条件……というのは?」
「徴税だ?」
「徴税? ……あっ?」
アリュシュアは気付く。
その顔を見て、エヴノスは満足げに笑った。
「あいつは領主になりたいと言った。ならば、領主として我に税金を納めるのは当然の義務であろう」
「確かに……。それで、その徴税の内容は?」
「暗黒大陸は広いからなあ……。魔族の古き侯爵並……いや、それ以上だ。故に――」
「なるほど。徴税の内容は土地の広さで決まりますからね。それならば、あのローデシアもうるさいことを言わないでしょう」
「その通りだ。くくく……。ダイチめ。今頃、慌てふためいていることだぞ。あははははははははははは!!」
エヴノスは哄笑をまき散らす。
横でアリュシュアも、身体をくの字にして笑うのだった。
◆◇◆◇◆ ダイチ side ◆◇◆◇◆
「うーん……」
俺は1枚の紙の前で悩んでいた。
そこには徴税の内容が書かれている。
「何かの間違いじゃないかな、これ……」
結構、簡単にクリアできそうなんだけど、いいのかな……。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
第二部これにて終了です。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
引き続き更新していきますので、よろしくお願いします。
新作「魔王様、回復魔術を極めるため聖女に転生する~どうやら回復魔術を何か勘違いされているようですが、もう遅いです~」という作品を投稿しております。
気になる方はチェックいただけると、嬉しいです。
あ――そういうことか。
ルナは守ってくれていたんだ。
自分の戦いであっても、常に俺を守るように戦っていたんだ。
「なるほど。では、我々は守護者失格だな」
「一時とは言え、我々はエヴノス様をお守りすることを忘れていた」
「それがエヴノス様の魔法によるものだとしても」
「魔王城の番人として忘れてはならぬことを、どうやら人族たちから学んだようだ」
アケイとエケイは自分を戒めるように目をつむる。
「弟者よ」
「うむ。兄者よ」
「「我々はもっと強くならねばならぬ」」
最後に声を揃えた。
ルナはニコリと笑う。
「今度は互いの主君を守る戦いをしたいものですね」
「うむ。それは楽しみだ」
「いつでも魔王城に来るがよい。相手になってやろう」
最後にまたがっしりと握手を交わし、勝者は敗者を、敗者は勝者を讃えた。
温かな拍手が送られ、ついに武闘祭は閉幕を告げる。
そして俺は改めてエヴノスに向き直った。
「エヴノス、十分理解できただろう。ここには俺を守ってくれる十分な戦力がある。何も心配することはないんだ。だから、俺を暗黒大陸の領主として認めてくれないか?」
「…………」
「エヴノス様。ダイチ様を暗黒大陸に残すこと、ご心配かと存じます。ですが、ダイチ様が仰るようにここには十分戦力がある。お認めになってもよろしいのではないでしょうか?」
沈黙するエヴノスに、ローデシアが助け船を出す。
それでもエヴノスは何も答えなかった。
迷っているのか、それとも躊躇しているのか。
あるいは、俺が暗黒大陸の領主となることに、何かまずいことでもあるのか。
いずれもわからなかったが、エヴノスは沈黙を続ける。
「魔王様、戦ってみてわかりました。彼らは一級の戦力」
ゴーレム騎士団団長ゴーズもまた貴賓席の方を向いて、膝を突く。
「守護者として十分な素質を備えております」
「必ずや大魔王様を守ってくれるでしょう」
アケイとエケイも願い出る。
人族や獣人だけじゃない。
ここにいる魔族全員が、ルナたちを認めてくれていた。
答えを出していないのは、エヴノスだけ。
そして、ようやく魔王の口が動いたのは、たっぷり10秒待ってからであった。
「良かろう」
その一言を聞いて、人族・獣人はおろか魔族たちも安堵の息を漏らした。
「ようございましたね、ダイチ様」
「うん。ありがとう、エヴノス」
「ただし――――だ……」
エヴノスは付け加えた。
「条件がある……」
ええ~~。また条件??
◆◇◆◇◆ エヴノス side ◆◇◆◇◆
「くはははははははははは!!」
魔王城に帰ってきたエヴノスは上機嫌だった。
執務室で高らかに笑い声を上げる。
側で見ていたアリュシュアが、心配そうに見つめていた。
主君が気が触れたように見えたからである。
だが、エヴノスが執務室で狂笑しているのは、何も自暴自棄になっているわけではない。
暗黒大陸で最後にあったことを思い出し、笑っているのだ。
「そ、それでエヴノス様。条件……というのは?」
「徴税だ?」
「徴税? ……あっ?」
アリュシュアは気付く。
その顔を見て、エヴノスは満足げに笑った。
「あいつは領主になりたいと言った。ならば、領主として我に税金を納めるのは当然の義務であろう」
「確かに……。それで、その徴税の内容は?」
「暗黒大陸は広いからなあ……。魔族の古き侯爵並……いや、それ以上だ。故に――」
「なるほど。徴税の内容は土地の広さで決まりますからね。それならば、あのローデシアもうるさいことを言わないでしょう」
「その通りだ。くくく……。ダイチめ。今頃、慌てふためいていることだぞ。あははははははははははは!!」
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横でアリュシュアも、身体をくの字にして笑うのだった。
◆◇◆◇◆ ダイチ side ◆◇◆◇◆
「うーん……」
俺は1枚の紙の前で悩んでいた。
そこには徴税の内容が書かれている。
「何かの間違いじゃないかな、これ……」
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