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9章

第62話 せいじょは いっぽも うごかない(前編)

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注意:近日中に序盤の展開を改訂します。
   先に書きましたが、序盤の展開が好きだったと言う方は、
   バックアップの方をよろしくお願いします。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

 ルナが釘バットを両手で握る。
 黒鉄に、ミスリル製の釘が付いたバットは、ルナの背丈とほぼ変わらない。
 自身の体重を超えた超重量武器であることは間違いないのだが、それでもルナが態勢を乱すことはなかった。
 構えたまま、対面に立つアケイ&エケイのコンビを睨む。
 側のチッタも牙を剥きだし、唸っていた。

 先ほどまで激闘を演じていた闘技場が、一転静まり返る。

 最初に肩を竦めたのは、アケイだった。

「なんだ。反撃してくるのかと思ったが、微動だにせぬぞ、弟者」
「我々に恐れを為しているのだ、兄者」

 にやけてる。
 だが、ルナは表情を全く変えず否定した。

「違います。……ここから1歩も動くつもりがないだけです」

 それを聞いて、アケイとエケイは表情を曇らせた。

「なんだと……」
「まさか1歩も動くことなく、我ら兄弟を倒すというのか?」

 最後のエケイの問いに、ルナは「……」と沈黙を以て答える。

「珍しいな……」

 ルナの小さな背中を見ながら、俺は呟く。
 今のルナの言動は、挑発と取られてもおかしくない。
 ルナは優しい娘だ。
 強くなっているが、戦いそのものが好きというわけじゃない。
 本来、相手を挑発するような戦いも好まないはず。
 むしろ積極的に責めて、戦いを早く終わらせたいと思っているはずだ。

「珍しくない……。私でもそうします」

 突然、俺の側にステノが現れた。
 ビックリして、俺は椅子から飛び上がったが、その言葉については気になった。

「みゃははは……。ダイチ、鈍いみゃ」

 今度はミャアだ。
 ひょこりと椅子の後ろから現れる。
 戦いの後だから、お腹が空いたのだろうか。
 鳥の骨のようなものを口にくわえていた。

「ミャアにもわかるのか?」
「当然みゃ! わからないのは、ダイチだけみゃ」

 また「みゃはははは」と笑う。

 え? 全然わからないんだけど……。

 俺が首を傾げる中、戦いは続いていた。
 アケイも、エケイも俺と同じくルナの言動は挑発だと受け取ったのだろう。
 顔が赤黒く変色していく。
 まさに俺がイメージしてネーミングした仁王像のようだ。

「そこまで言うのであれば……。のぅ、弟者よ」
「まずはお前らをそこから動かしてやろう! なぁ、兄者よ!」

 アケイとエケイが動く。
 互いに地面を揺らしながら、闘技場の端に立つルナとチッタに襲いかかる。

 間合いに飛び込んできた2体のゴーレム騎士を見て、ついにルナたちは動いた。
 まずは【守護方陣】を解く。
 守備力が大幅に下がるが、それはルナたちが攻撃する合図だった。

「チッタ! 【凍てつく波動】!!」
『ガウッ!!』

 ルナの指示にチッタは即座に答える。
 チッタは大きく口を開けると、強烈な光を伴った波動を放つ。
 目映い光に、アケイとエケイの動きが止まる。

「こ、これは……。弟者」
「兄者……。エヴノス様が使う」

 目が眩み、悲鳴を上げる。

「あれは我のスキルか」

 エヴノスもまた目を細めた。

 RPGではお馴染みの【凍てつく波動】。
 あらゆるスキルをキャンセルすることができるスキルだ。
 魔王エヴノスも得意とするスキルを、すでにチッタは会得していた。

 【凍てつく波動】を浴びた瞬間、何か硝子が壊れるような音が響く。
 アケイとエケイにかかっていた【鉄壁】が剥がれたのだ。

「兄者!」
「狼狽えるな、弟者! この程度で我々の防御を貫通することは出来ぬ」

 構わずアケイとエケイは突っ込む。
 再びルナとチッタに襲いかかる。
 だが、そこにいたのは、ルナ1人だけだ。

「娘1人! 獣はどうした?」
「かわまぬ、兄者! 女の方を潰せ」

 アケイは大きく振りかぶる。
 チッタがいないということは、先ほどの守護方陣の守りがないということだ。
 ここで攻撃を選択したアケイとエケイは、賢い。

「喰らえ!!」


 【岩石斬り】!!


 アケイの第4派生のスキルが発動する。
 それは岩どころか、大地すら真っ二つに切り裂くことが可能なスキルだ。
 しかも、ルナは宣言した。
 1歩も動かないと。
 何故、彼女がそう言ったか俺にもわからない。

 だが、今動かなければ、いくらレベルが上がった彼女でもゴーレム騎士の渾身の一撃を受け止めることなどできないだろう。

「よけろ、ルナ!!」

 俺は思わず叫んだ。



※ 後編へ続く
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