ボスは1人でいいと、魔王軍の裏ボスなのに暗黒大陸に追放されたので、適当に開拓してたら最強領地と嫁を手に入れた

延野 正行

文字の大きさ
上 下
91 / 107
9章

第59話 まおうは いかっている。しかし、なにも おこらなかった

しおりを挟む
 ◆◇◆◇◆  エヴノス side  ◆◇◆◇◆


 どういうことだ、これは。
 ゴーレム騎士が、1発。
 一撃(正確には3打だが)とはどういうことだ!?

 魔族が戦ったのならわかる。
 魔竜種などの上位種が戦ったのなら、このような結果もあるだろう。
 だが、相手は獣人だぞ。
 魔族よりもさらに劣る劣等種に何を後れを取っているのだ。

 我は椅子を蹴った。

「ゴーズ! 貴様、何をやってる。たるんでいるのではないか!!」

 我は再生しつつあるゴーズを叱責した。
 核を傷つけられていなかったため、その再生は早い。
 すでに顔が元通りになっていたゴーズは、すまなさそうに頭を垂れた。

 熱狂的な歓声が上がっていた場が、しんと静まり返る。
 妙な空気が流れた。
 その静寂は、まるで我に対する無言の抗議のようであった。

「エヴノス、落ち着けよ」

 声をかけたのは、ダイチだ。
 椅子に座り、腕を組んだまま即席の闘技場の方を見つめている。
 その余裕っぷりが、さらに我を激昂させた。

「落ち着けだと!? これが落ち着いてられるか? ゴーレム騎士は我の近衛だ。その団長がやられたんだぞ!! あのこむ――――えっと…………」
「彼女の名前はミャアだ。あと、今日のお前なんか変だぞ? いつもクールな魔王様はどこへ行ったんだよ」
「わ、我だって怒る時はある」
「なら、冷静になれ。ミャアもゴーズも全力で戦った。今、目の前にある結果だ。それにゴーズは弱いわけじゃない。お前の近衛として十分能力があると俺は思う。ただ今回の戦いに関しては、選択を誤っただけだ」
「選択だと……」

 我は眉を顰めた。
 ダイチは淡々と今回の勝負について語り始める。

「実は勝負は1手目からついていた」
「1手目からだと……」
「ゴーズは最初使用するスキルに【瞑想】を選択した。これが間違いなんだよ」
「どういうことですか、ダイチ様」

 ダイチの横に座るローデシアも気になったらしい。
 ひょっこりと顔を出して、ダイチに質問した。

「俺はゴーズが1手目で【鉄壁】を使うと思っていた。【鉄壁】は防御力を4倍にするスキルだ。これを使われれば、いくらミャアの攻撃でもゴーズを貫通するのは難しい」
「確かに……」

 ローデシアはうんうんと頷く。

「だが、ゴーズが使ったのは【瞑想】だ。これは防御力を上げることができるが、2倍しか上げることはできない。加えて、その場合において【鉄壁】を使うには【瞑想】を一旦キャンセルしなければならない」
「では、ゴーズが【鉄壁】を使い、【瞑想】を使っていたら……」

 我が尋ねると、ダイチは肩を竦めた。

「結果はわからないな。ミャアにも【亀甲羅割り】があるからな。上がった防御力を下げることができれば、それでもミャアには勝機はあった。ただ一撃で済むことはなかっただろう」
「すごい! さすがの慧眼です、ダイチ様」

 ローデシアは目を輝かせる。
 称賛されるダイチを見て、我は奥歯を噛んだ。

「結局、ゴーズが油断していたというだけではないか!」
「違うぞ、エヴノス」
「何?」
「ゴーズは慣れていないだけだ」
「慣れていない?」

 我はまた眉を顰めた。

「ゴーズはお前の近衛で団長だ。いつもお前に従い、お前を守ってきた。だが、今回の戦いは違う。お前を背にして戦うわけじゃない。だから戸惑った。本来ならゴーズは真っ先に【鉄壁】を使うだろう。エヴノス、お前を守るたヽヽヽヽヽヽめにだヽヽヽ。でも、今回は違った。そこでゴーズは迷ってしまったんだ」
「な、何が言いたい!?」
「ゴーズは生粋のお前の守護者ってことさ。お前を背にして戦えば、負けていたのはミャアの方だろうな」


「ふざけるな!!」


 我は激昂した。
 再び会場はしんと静まり返る。

「何をカリカリしてるんだよ、エヴノス。そもそもお前が、俺を暗黒大陸に残しておくのを心配して、力比べを提案したんだろ。ゴーレム騎士を倒せる人材が、俺の側にいるってわかって、安心できたんじゃないか?」
「うるさい、ダイチ。そのよく回る口を縫い付けてやろ――――」


 そんなことはさせない……。


 しーんとした会場が、緊張感に包まれる。
 その明確な殺気を浴びて、我は固まった。
 側にいるダイチとローデシアも驚き、目を見開き固まっている。
 息をするのが困難な張り詰めた空気の中で、我はかろうじて眼球だけを動かした。

 少女だ。
 我の背後に、真っ黒な黒髪の人族が立っていた。
 手にナイフを持ち、我の首筋に宛がっている。

 ひやりと冷たい刃筋が、我の首を舐めた。

 その瞬間、我は悟る。



 こ、殺される……。



 我は異界の勇者を討ち払い、神界からこの世界を守った。
 何百という種の魔族を率い、その頂点に立つ王だ。
 説明するまでもない。

 だが、そんな我ですらたじろぐほど、濃厚な殺意に息をすることすら忘れた。

 そもそもこの少女、一体どこから沸いて出た?
 スキル【気配遮断】だと思うが、我ぐらい“耐久力”が上がれば、スキルによる気配消去など看破することができる。

 つまり、この少女には【気配遮断】のスキル以上に、気配を消す能力が備わっているということだ。

 類い稀な能力を使って、我に近づき、生殺与奪の権利を獲得した。
 恐ろしいことに、この少女は本当に魔王を殺せると思っているらしい。
 それがまた魔王にとって、恐ろしくさせた。

「ステノ……。さすがに、それはやり過ぎだ」
「でも、ダイチ様」
「エヴノスは俺の友人だ。親しいからこそ、口汚くなることもある。――だろ、エヴノス」
「え? あ……。そ、そそそうだな」
「さすがにエヴノスに手をかければ、ローデシアがすっごく怒る。俺の知人同士が戦うところは見たくないんだ。悪いけど、抑えてくれないか」

 ダイチが諫めると、ステノと呼ばれた少女から殺気が消えた。

 改めて見ると、普通の人族の女だ。
 夜の闇のような髪と目以外、どこにでもいるような矮小でひ弱な人族にしか見えぬ。
 だが、それが逆に我には異質に見えた。

「すまないな、エヴノス。村人の非礼を詫びる。ローデシアもすまない。騒がせてしまったな」
「いえ。今のはエヴノス様が悪いです」

 ローデシアはきっぱり言い放つ。

「ろ、ローデシア! お前、どっちの味方だ」
「私は法の番人です。エヴノス様に刃を向けたこともまた罪ですが、大魔王様に暴言を吐いたエヴノス様も悪い。喧嘩両成敗というところですね」

 どう考えても、我に刃を向ける方が悪いだろ!

 突っ込みたかったが、どう考えてもローデシアはダイチよりヽヽだ。
 下手に反論すれば、10倍になって帰ってくる。

 くそ! なんだ、こいつら……。

 我は魔王なんだぞ!!


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

ステノ、惜しかったね(もう少しで英雄になれたかも)。

本日『叛逆のヴァロウ』のコミカライズ最新話になります。
ニコニコ漫画、pixivコミック、コミックポルカ他で更新しております。
無料で読めますので、是非そちらの方もチェックして下さい。

一昨日前に更新された『ゼロスキルの料理番』のコミカライズも一緒にどうぞ。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...