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8章

第49話 かいしんの いちげき

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「でぇぇえぇえええぇえぇえい!!」

 ミャアの裂帛の気合いが地下空洞に響き渡る。
 強烈な【三段突き】を食らったキメラは吹き飛んだ。
 すかさずステノが走る。
 間髪入れずに、キメラの喉元にナイフを差し込む。

「ぐおおおおおおお!!」

 キメラは吠える。
 悶えながら血しぶきをまき散らし、その場に倒れ込んだ。

「これで――」
「あと、3体」

 ミャアとステノは背中合わせになる。
 そこに集まってきたのは、いまだ元気なキメラ3体だった。

 対するミャアとステノは、すでに満身創痍だ。
 致命傷こそないが、その柔肌は擦り傷だらけ。
 痛々しい打撲の痕も見受けられる。

 体力自慢のミャアも顎が開いてきた。
 あと、何回拳を振るえるかわからない。

 ダイチが封印の洞窟に入って、随分経った。
 本来の力を使えば、もっと戦果を上げることができたかもしれない。
 だが、今日は思ったより身体が重い。
 側にダイチがいないという精神的支柱の欠如も理由の1つだが、どうやら精霊の恩恵の範囲外になってしまったらしい。
 思ったように身体が動かないのだ。

「ダイチはまだかみゃ」
「ミャア、弱音を吐かない」
「弱音なんて吐いてないみゃあ!」
「ダイチ様は大丈夫。私たちの大魔王様なんだから」
「ふふ……」
「何かおかしいこと言った?」
「いや……。ステノの言うとおりだと思ったみゃ」

 ミャアはガチンと両拳に巻かれたナックルガードを叩く。
 ステノも、ナイフからキメラの血と脂を払い、構えた。

 その時だ。

『がううううううううううう!!』

 チッタだ。
 2人は反射的に振り返る。
 扉が閉じないように支えていたチッタが、今にも押しつぶされそうになっていた。

 見ると、アタックドアの意識が完全に回復している。
 アタックドアの口とも言うべき扉を、無理やり閉じようとしていた。

「チッタ!!」

 ステノが走り出す。
 背を向けたステノを見て、キメラが動いた。
 それを見て、ミャアも走る。

「ステノ! 危ないみゃ!!」

 キメラの凶爪がステノに迫る。
 ミャアは手を伸ばしたが、1歩遅い。
 このままでは、ステノがやられる。
 もしかして、チッタも――――。

 その時、さらにミャアの顔を絶望に歪める事態が襲いかかっていた。

 回復したアタックドアの邪眼が、こちらを向いていたのだ。
 さっきはルナの【結界】で回避できたから、難を逃れることができた。
 だが、今ルナの姿はない。

 完全に絶望的な状況。
 戦況として“詰み”と言わざる得ない。


 ごめん……。ダイチ…………。


 ミャアの目に珍しく涙が浮かんだ。

 その直後であった。



 シャアアアアアアアアアアアアアアアンンンンンンン!!!!



 見えたのは、細く長い閃光。
 聞こえたのは、耳をつんざくような斬撃の音だった。

 アタックドアが横薙ぎに切り裂かれる。
 そのまま細切りのように破砕され、霧散した。

 光に触れたキメラたちも、真っ二つに切り裂かれ、さらに肉片ごと吹き飛んでいった。

 残ったのは、わずかな異臭。
 魔物の血と、戦場の跡だけであった。

「何が――――」
「――――起こったんでしょうか?」

 ミャアとステノは、それぞれ固まったまま頭の上に「?」を並べた。

『ガウッ!』

 先ほどまでアタックドアの扉を支えていたチッタは、むくりと起き上がる。
 ふるふると首を振った後、洞窟の奥へと振り返った。
 機嫌良さそうに尻尾を振る。

 チッタが視線を向ける先にある闇から現れたのは、ダイチ、ルナ、そしてメーリンだった。

 ルナの手には斧が握られ、メーリンはダイチにおぶられている。
 そのメーリンの身体はボロボロで、トレードマークの片眼鏡のレンズには一部ヒビが入っていた。

「ダイチ!」
「ダイチ様!!」

 ミャアとステノが早速とばかりにダイチに飛びつく。
 その横で、チッタとルナも感動的な再会を果たしていた。

「ちょ! 2人とも押さないで。バランスが……」
「信じていたみゃ、ダイチ」
「よくご無事で、ダイチ様」

 2人とも目を腫らしながら、ダイチの無事を喜ぶ。

 ダイチは苦笑しながら、それぞれの2人の頭を撫でた。

「待たせてごめん。2人ともよく頑張ったね」
「ま、まあ……。ミャアにかかればこんなものみゃ」
「はい。ダイチ様のために頑張りました!」
「うん……。チッタも、ありがとう」
『キィッ!』

 精根尽き果てたのか。
 チッタは幼獣モードになっていた。
 それでも、勇ましく鳴き、ルナの頬を舐めて無事を祝う。

「メーリンもね」

 最後にダイチが労ったのは、背中に背負ったメーリンだった。

「死ぬかと思ったアルね。戦闘は2度とごめんヨ」

 うんざりした表情を、皆にさらす。

「それで、ダイチ……。火の精霊様は見つけたみゃ?」

 ミャアの質問にダイチは首を振った。

「いや、封印の洞窟の奥に火の精霊様はいなかった。あったのは、その斧だけだ」

 皆の視線が、ダイチからルナが持ったルーンアクスに注がれる。

「名前の通り、魔法武器あるネ。詳しくは城に帰らないとわからないけど、とても年代ものアルよ。売ったら高値で取引できるネ」
「売らないって! ――とはいえ、こんな威力のある武器はいらないんだけどなあ」
「ダイチ、もしかしてこの斧みゃ」
「さっきの光?」

 ミャアとステノがキョトンとする。

「うん。実はね」
「すごいみゃ! それでアタックドア、1発で壊れたみゃ」
「キメラも一瞬で消滅しました」

 興奮する。
 そんな2人を見て、ダイチは苦笑した。

「そう見たいだね。でも、さすがにこの武器は威力が強すぎるよ。……正直、ゴーレム騎士が消し飛びかねないし。あくまで試合なんだから、消滅させるのはちょっと……(これ以上、ルナを撲殺聖女にするわけにもいかないしね)」
「ダイチ様、何か仰られましたか?」
「い、いいいいいいいや! 何も言ってないよ、ルナ。気のせいじゃないかな」

 ダイチの反応に、ルナはキョトンとする。

「それよりも、火の精霊様がここにはいなかったってことが問題アル」
「だね。捜索はやり直しか。時間がないのに」

 ダイチは困った表情を浮かべる。
 すると、ダイチの中から声が聞こえた。

 精霊ドリーとウィンドだ。

『ダイチ様、1つ心当たりがあるのですが……』
「心当たり?」
『洞窟に入る時に行ったろ? 火の精霊の気配が遠ざかってるって』
「ああ……。それで?」
『私とウィンドは、ある結論に至りました。おそらくそこに火の精霊がいるかもしれません』
「よし。わかった。そこへ行ってみよう」

 ダイチたちは、精霊たちに誘われるまま、再び地下空洞を歩き始めたのだった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

高速ナブラというよりは、次元断だと思ってる。
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