ボスは1人でいいと、魔王軍の裏ボスなのに暗黒大陸に追放されたので、適当に開拓してたら最強領地と嫁を手に入れた

延野 正行

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5章

第32話 そして しょうじょは わらった(前編)

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「ええい! 何をしている!? 貴様らぁ!!!!」

 ブラムゴンはお冠だ。
 黒くなった身体を、赤黒く変色させている。
 口の上についた鼻腔から勢いよく鼻息を漏らしていた。

 水かきがついた足で地団駄を踏む。
 その様は癇癪を起こした子どものようだ。
 しかし、あの巨体で地団駄を踏むと、地面そのもの揺れてしまう。
 森の木が地面から引き剥がされ、被害は甚大だった。

 そのブラムゴンの前に、俺とルナ、そしてチッタが現れる。
 目の前には、ブラムゴン。
 奇しくも、その立ち位置は最初に出会った時と同じになってしまった。

 それでも、それぞれの姿は全く違う。

 あの時、身体を差し出すしかなかったルナの表情に一片の恐れはなく、チッタもたくましく成長した。
 そしてブラムゴンもまた異形の姿に変わっている。

「ブラムゴン、見ての通りだ。勝負はあった」

 俺は降伏を勧める。
 すでにブラムゴンの周りに魔蛙族の姿はない。
 親衛隊らしき魔蛙族もひっそりと倒れていた。

 支援していたバラムゴンの姿もない。
 おそらく息子を置いて、いつの間にか退散したのだろう。
 残ったのは、ブラムゴンだけだ。
 1人残った敵将を見て、俺は「哀れだな」と呟いた。

「何故だ!? 何故、人族さる獣人けものどもに我ら魔族が後れを取るのだ!!」

 ブラムゴンは絶叫し、空気を震わせる。
 それだけで、ブラムゴンもまたあの時のブラムゴンではないのがわかった。
 それでも、俺は前に踏み出す。

「それがわからないなら、お前はやはりそこまでの魔族だということだ、ブラムゴン。姿形が変わってもな」
「何ぃ?」
「お前たちの敗因は2つある。1つは人族や獣人族を劣等種だと決めつけていたこと」

 もう1つは地形――つまり森の中を戦場にしたことだ。
 戦力や数においては、魔蛙族の方が上だ。
 それでも勝つ自信はあったけど、ひどい被害を出すことになっただろう。

 故に俺たちは森で戦うことにした。
 巨躯の魔蛙族は森の中では目立つ存在だ。
 一方で、人や獣人なら潜伏しながら戦うことができる。
 見通しのいい平原では無理だが、森の中なら魔蛙族を個別に包囲殲滅することが可能なのだ。

 先に言ったが、もはや森であってここは沼だ。
 大きな蛙を釣るのに、もってこいの地形だったというわけである。

「それでもお前たちに勝機がなかったわけじゃない」

 闇雲に魔蛙族が【大跳躍】のスタンプ攻撃をされれば、こちらとしては打つ手はない。
 その場合、こちらの被害が甚大なものになっていただろう。
 だが、そうしなかったのは――。

「やはり、お前達が人族や獣人を軽く見たからに他ならないんだ!」
「黙れぇぇぇぇええええ!!」

 ついにブラムゴンの手――いや、舌が出た。
 首を振り、なぎ払う。
 それは舌というよりは、巨大なレーザービームのようだ。
 速く、そして威力が高い。
 地面を抉りながら、俺たちの方に迫る。

 だが、その舌は寸前で止まった。
 残ったのは、地面を抉った跡だけだ。
 恐ろしい攻撃の跡を見て、嫌らしく笑ったのはブラムゴンだった。

「げへ…………げぇっ、げぇっ、げぇっ、げぇっ。どうだ、ダイチ。我が輩の力は!」

 正直に言うと、驚いたな。
 姿が変わったこともだけど、きちんと強くもなっている。
 やっぱり姿が変わったことと、何か関係があるのか?

「魔王エヴノス様からいただいた力で――――」
「エヴノス?」

 エヴノスから力をもらったのか。
 あいつ、あんなことができるようになっていたとはな。
 全然知らなかった。
 なんで教えてくれなかったんだろうか。

 いや、昔からあいつは人目を憚り、こそれんヽヽヽヽをするヤツだったからな。
 俺に内緒で身に着けたのだろう。
 それとも、俺が暗黒大陸に行った後で覚えたのだろうか。

 いずれにしろ、神界との戦争が終わっても、強くなることに余念がないことはいいことだ。
 元育成者として嬉しい。

 とはいえ、厄介な力を身につけさせてくれたものだ。
 おそらくブラムゴンが王国勤務になって、その褒賞として力を受けたのだろう。
 タイミングが悪すぎるぞ、エヴノス。

「げぇげぇげぇげぇ! どうした、大魔王!! 恐れを成したか? だが、今さら遅いぞ。我が輩をここまで虚仮にしてくれたこと、許さん!!」

 別に俺、まだ何も言ってないんだけどな。

「手をついて謝るなら今のうちだ。地面に這いつくばって、泥を舐めろ。我が輩に頭蓋を踏まれながら、許しを請え! そうすれば、お前の命ぐらいは助けてやっても……」

 ブラムゴンは吠える。
 すると、ルナが1歩前に出た。

「なんだ、ルナ? どうした? おお。そうか? もしかして、我が輩の下で働きたいのか? 構わんぞ。お前のような白い肌と、若い女は魔族きゃくたちに大変重宝されるのだ。さあ、我が輩の手を――――」


 ドゴォッッッッッ!!


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

後編に続きます!
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