「さあ、回復してやろう」と全回復させてきた魔王様、ついに聖女に転生する

延野 正行

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3章

第47話 すごいよ、ルーちゃん!

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 鍛錬する魔族を見て、ハートリーは質問した。

「なんで、こんなところで魔族の皆さんが、鍛錬をしてるの?」

「私を倒すためですよ?」

 当然とばかりに我は答える。
 なのにハートリーもネレムはギョッと瞼を開いた。

 ん? そんなに意外なことであっただろうか。

 確かに魔族の中には、人類に対して敵対心を持つ者は少ない。
 だが、すべてではない。
 今でもヴァラグのように人類勢力に対して、虐げられた恨みを忘れていないものもいる。

 しかし、往々にしてそういう国粋主義者というか、魔族主義者は、形式というものにこだわる。異様にだ。
 我からすれば、面倒くさいことこの上ないのだが、意外とこういうヤツらは御しやすい。

 我に人間を虐げられる意志がないと知ると、我の方に刃を向けた。
 正直に言うと、そっちの方が我は楽だ。
 だから、こう言ってやったのだ。


『ならば、我を倒してみよ。その者が魔王となって、「人間を殺せ」と命令すればよい』


「――とな……」

「…………」
「……とな、って……」

 ハートリーとネレムは口を開けたまま固まっていた。
 いや、我――そんなに難しいことを言っているだろうか。
 普通のことを言っているつもりなのだが……。

 もしかして、我のことを案じているのか?
 我が負けると?

 友達として心配してくれるのは嬉しいが、我も見くびられたものだ。

 いや、でも聖女としては、我はまだまだ未熟。
 皆、その姿しか見ていないから心配しているのだろうか。
 王宮での一戦の時も、1万分の1ぐらいしか力を発揮していなかったからな。

 まあ、さすがに我の全力を見せるのはNGだがな。

 今の世界では滅びかけん。

 我はハートリーたちと談笑していると、外で鍛錬していた魔族たちが戻ってきた。
 皆、よく陽に焼けて、さらに筋肉がムキムキだ。
 頼まれていないのに、謎のポージングをしている者もいる。

 そして歯が異常に白い……。

「な、何あれ? あれも魔族なの?」
「そ、そう見たいっすね」

 輝いた笑顔と謎のポージングを見せる魔族を見て、ハートリーとネレムは若干顔を青ざめさせていた。

「おお! ルヴルヴィム様」
「また鍛錬に戻ってきたのですか?」

「私のことはルヴルと呼びなさいと言ったでしょ。それよりも鍛錬の成果はでていますか」

「もちろんですよ! この前、ようやく世界1週する時間が、2時間を切りました」

「甘い。1時間ぐらい簡単に切れるようになってからが本番ですよ」

「やっと3000メル級の山を持ち上げることができました」

「なら今度は、8000メル級の山を持ち上げられるようになりなさい」

「手を振ったら、海が割れました」

「人類の迷惑になっていないならば、なかなかの成果です」

 うむ。
 皆、ちゃんと真面目に鍛錬をやっているようだな。
 感心、感心。

 我はくるりと振り返った。

「「――――ッ!!」」

 友達2人が、口を開けて、目を見開いていた。
 さっきからずっとそんな顔をしているのだが、最近流行なのか?
 3日、学院を開けているだけで、一体何が起こったのだろうか。

 ……待て。もしかしてあれもまた、顔面を鍛える鍛錬なのかもしれない。
 2人ともそんなところまで鍛えているとは。
 さすがは我が親友たちだ。

 我も見習わなければ……。

「では、失礼します!」
「ルヴルヴィム様、後で一戦よろしくお願いします」
「ごゆっくり~」

 人類の皮を被った魔族たちは、再び鍛錬へと戻っていく。

 それを見送った後、ネレムは我の耳元で囁いた。

「大丈夫なんすか、ルヴルの姐さん。無茶苦茶化け物に育ってるじゃないですか?」

「え? 全然ですよ。まだまだみんな鍛錬が足りていません」

「あ、あれでですか?」

 ネレムは息を飲む。

 いや、我から言わせれば、わざわざ息を飲む程ではないのだが……。

 一方、ハートリーの反応は違う。

「ルーちゃん、すごいよ!」

「「へっ?」」

 半ば興奮したようなハートリーの反応に、我はネレムと一緒に変な声を上げてしまった。

「今の魔族の皆さんの顔を見た? 皆さん、すっごくいい顔をしていたよ。あれなら、人類に対するわだかまりもなくなるんじゃないかな。ほら、よく言うじゃない。健全な魂は健全な肉体に宿るって……。ルーちゃんは、魔族の皆さんを更正しようとしているんだよ」

 ふんと鼻息を荒くして力説する。
 眼鏡を曇らせたハートリーに対して、我とネレムは「お、おう」と若干引き気味に応じた。

 それはちょっと思い込みが激しくないだろうか、ハートリーよ。

 健全な魂は健全な肉体に宿るという理論でいうなら、魔族の健全はどちらかというと、人間を滅するという方だと思うがな。

 だが、あながち間違ってはいない。
 この鍛錬を通して、人類に復讐することをやめた魔族はいるからな。

「え? 本当にいるんですか?」

「やっぱり! すごい、ルーちゃん!!」

 2人は称賛する。
 その時だった。


「ぎゃああああああああああああああああ!!」


 断末魔の悲鳴に似た叫びが聞こえた。
 1匹の魔族が目の前の鍛錬場となった山から下りてくる。
 目を血走らせて、山から離れて行く。
 全速力でだ。

「脱走者だ!」
「捕まえろ!」
「逃がすな!!」

 それを他の魔族が追いかける。

「いやだ! こんなところにいるぐらいだったら、もう復讐なんていい!」

「そうはいかん!」
「打倒魔王を志したではないか」
「お前も筋肉に溺れろ!」
「大丈夫。痛くしないから」

 結局、他の魔族に回り込まれる。
 取り囲まれると、あえなく御用となった。
 その間も、脱走者は暴れ、喚き続ける。

 それを見ながら、再びハートリーとネレムは顔面を鍛えていた。

 突然の捕り物劇を見ても、己を鍛えるとは。
 ストイックだな。
 さすがは我が友人だ。

「うむ。ハーちゃんの言う通り、更正できているようですね」

「う、うん……。そうだね」

「さ、さすがルヴルの姐さんっす(一体、どんな鍛錬をしてるんだよ……)」

 2人は口の端をピクピク動かした。

「興味があるなら、2人もどうだ?」

 ぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶるぶる……。

 ハートリーとネレムは、水を被った犬みたいに首を振る。

「い、いいよ。やっぱり見てるから」

「み、右に同じっす」

 そうか。
 残念だ。
 でも、いつか2人と鍛錬できる日が来るといいなあ。

 我は輝かしい朝日を望むのであった。

~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

この話を読んで、「お前が言うな」って思わなかった人はいるのだろうか。
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