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3章
第46話 復活のM(魔族)
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「ちょ、ちょっと待って下さい!」
ネレムは声を荒らげる。
横のハートリーも困惑していた。
困惑していたのは我も同じだ。
はい? と首を傾げてしまった。
動揺していないのはヴァラグだけだ。
だが、こいつは魔族の中でも堅物だ。
我が仕置きした時以外、頬の筋肉1つ動かしたことがない。
石の仮面でも被っているのではないかと思ったほどだ。
「なんですか、ネレム?」
「ルヴルの姐さん、言ったじゃないですか? 魔族は倒した、と」
「うんうん」
ハートリーも激しく首を振って同調した。
「倒したとは言いましたが、殺したとは言ってませんよ」
「「え?」」
ハートリーとネレムは声を合わせる。
2人ともいつの間にそんなに仲が良くなったのだ?
我がいない3日間の間に一体何があったのだろうか。
さて、魔族は生きている。
むろん死を望む者にはくれてやったが、全体の1割にも満たぬ。
そもそも魔族となった者の中には、普通に人間社会に溶け込み生きている者もいた。
人間と子を成している例も、珍しくはない。
我が転生してから、1000年近く経っているのだ。
その間、自然と人間社会になれていったのだろう。
そもそもユーリのように野心を燃やした過激な魔族は少なかった。
王都で暴れていた不埒者ぐらいだ。
あの騒ぎだって、魔族に紛れて、王政への不満がある人間が暴れている姿が散見された。
こうなって見ると、人間も魔族も変わらぬような気がする。
「そ、そうだったんだ」
「なんか、ちょっと複雑な気分ですね」
我から事情を聞いたハートリーとネレムは、複雑な表情を浮かべた。
結局、業の深さでは人間も魔族に負けていなかったと知ったのだ。
ハートリーたちとしては、胸中穏やかではないものであろう。
「でも、ルーちゃん偉いよ。魔族の人たちを更正する道を選ぶなんて。わたしがルーちゃんの立場ならきっと……」
「ハーちゃんでも、同じ選択したと思いますよ」
「え?」
「だって、私たちは聖女候補生ですよ。人を癒やすのが私たちの使命ではありませんか? それがたとえ、魔族であったとしても……」
「あ……」
我は聖クランソニア学院で学んだ理念を実践したに過ぎない。
報いなく、人の身体と心を癒やすのが、我ら聖女の役目であるからな。
「さすがルヴルの姐さんっす! あたい、感動したっす」
「うん。本当に凄いよ、ルーちゃんは。もう立派な聖女様だよ」
褒め言葉としては嬉しいが、まだまだ我は未熟だ。
今だに回復魔術の深奥を掴めていない。
いくつかの魔族と戦ったが、こいつらの圧倒的弱さを治すことはできなかった。
一体、いつになったら我は回復魔術を極めることができるのだろうか……。
「あの……。ルヴル様」
ヴァラグが声をかける。
そう言えばいるのを忘れていた。
なんかこやつ、魔族の中でも一際影が薄いのだ。
もっと派手な恰好をさせて、アピールしてはどうだろうか。
「ごめんなさい。別にヴァラグを忘れていたわけではないですよ」
「?」
「こっちの話です。まだ時間があるので、もう少し鍛錬をしようかと戻ってきました」
「左様でしたか。こちらのご学友も鍛錬に参加を?」
「とととと、とんでもない」
「ち、違います!」
ハートリーとネレムは全力で首を振った。
そこまで激しく拒否することはなかろうに。
「2人は見学です。構いませんね、ヴァラグ」
「ええ……。では、こちらに……」
ヴァラグは、前に進むように案内する。
一見、だだっ広い土地が広がるだけだ。
何か施設があるわけでもなく、誰かがいるわけでもない。
だが、ある場所から半歩踏み込んだ瞬間、景色ががらりと変わった。
「応!」
裂帛の気合いが耳朶を打つ。
その声にも驚かされ、ハートリーとネレムは仰け反る。
そして目の前に広がる光景を見て、瞠目した。
一見平原と思われたそこに現れたのは、峻険な山であった。
その狭い足場の中で、男女問わず鍛錬に明け暮れている。
ある者は大きな甕に並々と注がれた水を担いで山を登り、ある者は肩、肘、手、膝に水が入った皿を落とさずに中腰の姿勢をキープ、ある者は谷に宙づりにされたまま逆さ腹筋、指先に魔力を集中させて針の上で逆立ちしている者もいた。
それぞれの額や身体に汗が滲んでいる。
それどころか歯茎から血を滲ませていた者もいた。
漂ってくる汗の臭いは、きつい鍛錬の証だ。
「る、ルーちゃん……」
「なんですか、ハーちゃん?」
「もしかして、この人たちみんな…………」
「ええ。魔族ですよ」
我は笑顔で答えた。
ん? なんでハートリーもネレムも、顔を青ざめさせているのだ。
「ざっと3000、いや5000人以上いるように見えますけど」
今度はネレムが口を開く。
「そうですね」
「(国の一個師団に相当するじゃないか!? ルヴルの姐さん、何を考えているんだ? まさかこの魔族を持って、国に対して反旗を? 魔族の独立とか? 口では癒やすとか言ってて、裏では魔族を束ねて着々と反抗勢力をまとめるなんて。さ、さすがはルヴルの姐さんだ……)」
「ネレム? 何か言いましたか?」
「いえ! なんでもありません! ルヴルの姐さん、一生付いていきます!!」
なんかネレムが思い違いをしてそうな気がするが、まあ良いか。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
ネレムのルヴル像がまた大きくなっていく……。
本日は、拙作『叛逆のヴァロウ』のコミカライズの更新日となっています。
ニコニコ漫画、pixivコミック、コミックポルカなどで読むことができます。
12月15日に発売されるコミックともども、こちらもよろしくお願いします。
ネレムは声を荒らげる。
横のハートリーも困惑していた。
困惑していたのは我も同じだ。
はい? と首を傾げてしまった。
動揺していないのはヴァラグだけだ。
だが、こいつは魔族の中でも堅物だ。
我が仕置きした時以外、頬の筋肉1つ動かしたことがない。
石の仮面でも被っているのではないかと思ったほどだ。
「なんですか、ネレム?」
「ルヴルの姐さん、言ったじゃないですか? 魔族は倒した、と」
「うんうん」
ハートリーも激しく首を振って同調した。
「倒したとは言いましたが、殺したとは言ってませんよ」
「「え?」」
ハートリーとネレムは声を合わせる。
2人ともいつの間にそんなに仲が良くなったのだ?
我がいない3日間の間に一体何があったのだろうか。
さて、魔族は生きている。
むろん死を望む者にはくれてやったが、全体の1割にも満たぬ。
そもそも魔族となった者の中には、普通に人間社会に溶け込み生きている者もいた。
人間と子を成している例も、珍しくはない。
我が転生してから、1000年近く経っているのだ。
その間、自然と人間社会になれていったのだろう。
そもそもユーリのように野心を燃やした過激な魔族は少なかった。
王都で暴れていた不埒者ぐらいだ。
あの騒ぎだって、魔族に紛れて、王政への不満がある人間が暴れている姿が散見された。
こうなって見ると、人間も魔族も変わらぬような気がする。
「そ、そうだったんだ」
「なんか、ちょっと複雑な気分ですね」
我から事情を聞いたハートリーとネレムは、複雑な表情を浮かべた。
結局、業の深さでは人間も魔族に負けていなかったと知ったのだ。
ハートリーたちとしては、胸中穏やかではないものであろう。
「でも、ルーちゃん偉いよ。魔族の人たちを更正する道を選ぶなんて。わたしがルーちゃんの立場ならきっと……」
「ハーちゃんでも、同じ選択したと思いますよ」
「え?」
「だって、私たちは聖女候補生ですよ。人を癒やすのが私たちの使命ではありませんか? それがたとえ、魔族であったとしても……」
「あ……」
我は聖クランソニア学院で学んだ理念を実践したに過ぎない。
報いなく、人の身体と心を癒やすのが、我ら聖女の役目であるからな。
「さすがルヴルの姐さんっす! あたい、感動したっす」
「うん。本当に凄いよ、ルーちゃんは。もう立派な聖女様だよ」
褒め言葉としては嬉しいが、まだまだ我は未熟だ。
今だに回復魔術の深奥を掴めていない。
いくつかの魔族と戦ったが、こいつらの圧倒的弱さを治すことはできなかった。
一体、いつになったら我は回復魔術を極めることができるのだろうか……。
「あの……。ルヴル様」
ヴァラグが声をかける。
そう言えばいるのを忘れていた。
なんかこやつ、魔族の中でも一際影が薄いのだ。
もっと派手な恰好をさせて、アピールしてはどうだろうか。
「ごめんなさい。別にヴァラグを忘れていたわけではないですよ」
「?」
「こっちの話です。まだ時間があるので、もう少し鍛錬をしようかと戻ってきました」
「左様でしたか。こちらのご学友も鍛錬に参加を?」
「とととと、とんでもない」
「ち、違います!」
ハートリーとネレムは全力で首を振った。
そこまで激しく拒否することはなかろうに。
「2人は見学です。構いませんね、ヴァラグ」
「ええ……。では、こちらに……」
ヴァラグは、前に進むように案内する。
一見、だだっ広い土地が広がるだけだ。
何か施設があるわけでもなく、誰かがいるわけでもない。
だが、ある場所から半歩踏み込んだ瞬間、景色ががらりと変わった。
「応!」
裂帛の気合いが耳朶を打つ。
その声にも驚かされ、ハートリーとネレムは仰け反る。
そして目の前に広がる光景を見て、瞠目した。
一見平原と思われたそこに現れたのは、峻険な山であった。
その狭い足場の中で、男女問わず鍛錬に明け暮れている。
ある者は大きな甕に並々と注がれた水を担いで山を登り、ある者は肩、肘、手、膝に水が入った皿を落とさずに中腰の姿勢をキープ、ある者は谷に宙づりにされたまま逆さ腹筋、指先に魔力を集中させて針の上で逆立ちしている者もいた。
それぞれの額や身体に汗が滲んでいる。
それどころか歯茎から血を滲ませていた者もいた。
漂ってくる汗の臭いは、きつい鍛錬の証だ。
「る、ルーちゃん……」
「なんですか、ハーちゃん?」
「もしかして、この人たちみんな…………」
「ええ。魔族ですよ」
我は笑顔で答えた。
ん? なんでハートリーもネレムも、顔を青ざめさせているのだ。
「ざっと3000、いや5000人以上いるように見えますけど」
今度はネレムが口を開く。
「そうですね」
「(国の一個師団に相当するじゃないか!? ルヴルの姐さん、何を考えているんだ? まさかこの魔族を持って、国に対して反旗を? 魔族の独立とか? 口では癒やすとか言ってて、裏では魔族を束ねて着々と反抗勢力をまとめるなんて。さ、さすがはルヴルの姐さんだ……)」
「ネレム? 何か言いましたか?」
「いえ! なんでもありません! ルヴルの姐さん、一生付いていきます!!」
なんかネレムが思い違いをしてそうな気がするが、まあ良いか。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
ネレムのルヴル像がまた大きくなっていく……。
本日は、拙作『叛逆のヴァロウ』のコミカライズの更新日となっています。
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12月15日に発売されるコミックともども、こちらもよろしくお願いします。
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