「さあ、回復してやろう」と全回復させてきた魔王様、ついに聖女に転生する

延野 正行

文字の大きさ
上 下
61 / 71
3章

第40話 わたしの友達です

しおりを挟む
 ユーリは近衛たちに連行されていった。
 一応我が見立てた人間の近衛だ。
 さらにユーリから魔族としての力を奪い、普通の人間ぐらいにしておいた。

 しばらく悪さはできぬであろう。

 とはいえ、ヤツが改心し、強くなれば、いずれまた悪さをするかもしれぬ。
 だが、それを止めるのは、我の仕事ではなくこの国を守る者の役目であろう。
 我は聖女。
 今のように悪を叩き潰したり、誰かを守るために戦う者ではない。
 本来の役目は、人を癒やすことだ。

 その本懐を忘れてはならぬ。

 ま……。
 もしあの者が再び我の前に立ちはだかるというなら、全力を以て相手するつもりだ。
 その時には、我が極めた回復魔術によって、ヤツを癒やし尽くしてやろう。

 襤褸雑巾のようになったユーリを見送りながら、我は少し気になっていたことを尋ねた。

「ハーちゃん、いつからあやつの企てに気付いていたのだ?」

 ハートリーが王国の王女だというのは、ユーリが我をこの王宮に呼び寄せるためのものだった。
 そのためにあやつは、ハートリーとその家族、さらに国王たちにも偽の記憶を植え付け、偽の王女に仕立てあげた。

 大方、我がハートリーを気に入っているのを見て、そのままハートリーを王妃にでも据えるつもりだったのであろう。
 いや、待て……。
 我は一応、今は人間の女だ。
 ならば、王妃は…………うん? ややこしくなってきた。

 ま、まあ良いか。

 今更、あの愚か者の思考を読んでも遅い。

 だが気になるのは、いつハートリーがユーリの企てに気付いたかだ。
 仮にハートリーが偽の記憶をそのままにして、我の元を去るのであれば、きっとあのアクセサリーを置いていっただろう。

 ハートリーは優しい娘だ。

 自分の事は忘れてくれ。
 そういうメッセージを残すために、アクセサリーを置いたはずである。
 だが、ハートリーはアクセサリーを持っていった。

 友を忘れたくない思いもあったかもしれない。
 でも、我には別のメッセージがあるようで仕方なかった。

 そして、ハートリーのヽヽヽヽヽヽ父を調べヽヽヽヽ偽の記憶であヽヽヽヽヽヽることを知っヽヽヽヽヽヽたのだヽヽヽ

 偽の記憶を知った我は、王宮に侵入し、友に会いに来た。
 そして案の定、巨悪と出会ったのである。

 仮にハートリーがアクセサリーを置いておれば、我は王宮にまでいかなかったかもしれないし、偽の記憶にも気付かなかったであろう。
 その場合、ユーリの計画も破綻していたはずだ。
 結果的に、ヤツはハートリーに助けられたわけである。

 そのハートリーはパチパチと瞬いた後、苦笑した。

「ルーちゃんのおかげだよ」

「ん?」

「王宮に連れていかれる朝。わたし、ルーちゃんの回復魔術で癒やしてもらったでしょ?」

「そ、そうでしたね」

「その時に、多分ユーリさんがかけていた記憶改竄の魔術の効果が消されて、元の記憶を取り戻すことができたんだよ」

 な、なんと!

 我の回復魔術はハートリーの記憶まで回復させていたのか?!
 ぬぬぬ……。嬉しいやら。悲しいやら。
 我にはそんな意識はこれっぽっちもなかったのだが……。

「それなら早く深刻してもらえれば……」

「ごめん。初めは何か変だなって程度だったし、その後ユーリさんが来て、動揺してて。でも、家に帰ってみるとお父さんが自分の娘じゃないとか言い出すし。これは変だって思って。そこで魔術の中に記憶改竄するものがあったことを思い出したんだよ」

 なるほど。そういうことだったのか。
 確かに自分が王女だという記憶があったとしても、妄想ぐらいにしか思わぬだろうからな。

「じゃあ、ハートリーの姐貴が宝石の類いに詳しかったのは?」

 話をずっと聞いていたネレムが、割り込んだ。
 興奮するハートリーの横で、我は冷静に答えた。

「おそらくその頃には、あの者によって記憶を改竄させられていたのかもしれません」

 今回の功労者は、もしかしてハートリーかも知れぬな。
 あのユーリが長年かけた計画の裏を掻いたのだ。
 我をこの城へと導いたのだ。

 つまり、大魔王ルヴルヴィムを出し抜いたということになる。

 まさに稀代の策士であろう。
 なんとも頼もしい友人だ。

「ルヴルの姐さんも凄いけど、ハートリーの姐貴も凄い」

 わあ、と歓声を上げつつ、ネレムは我の元へと近寄る。
 だがそれを阻んだのは、近衛たちだった。

「下がりなさい、君!」

「な、なんだよ、あんたたち!」

「君も聞いていただろう、ネレム君」

 やや殺気立った近衛の横で、口を開いたのはゴッズバルドだった。

「まさかお伽噺に出てくる大魔王が、今目の前にいるとは」

「ちょっ! ゴッズバルドさん! あのユーリの話を信じるんですか?」

 ネレムは声を張りあげた。
 ゴッズバルドは彼女の憧れだと聞いている。
 たとえそうだとしても、友人である我が大魔王とは思えぬのだろう。

「私とて信じられぬ。だが、聖剣を圧倒する強さを見せられてはな」

「違います!」

 その声は凜と王宮の中庭に響いた。
 我の前に出て、大きく手を広げたのはハートリーだ。
 槍を向けている近衛の前に、勇敢に踊り出る。
 ジリジリと近づきつつあった近衛たちは、少女の涙を見て、怯んだ。

「ルーちゃんは魔王なんかじゃありません。彼女の名前はルヴルヴィムじゃない! ルヴル・キル・アレンティリ!! わたしの大切なお友達です!!!!」

 ハートリーは見事を言い切った。
 その力強い言葉に、皆が固まる。
 我も同様だった。

 最初の人生において、我は1000年以上生きてきた。
 数々の強敵や勇者と言われる者を前にしてきた。

 だが、今日ほど己を昂ぶらせたことはない。
 どんな賛辞よりも、ハートリーの言葉は嬉しかった。

 これほど明確に我を友といってくれた者は、あのロロ以外いなかったのだから。

「あ……姐さん…………」

 ネレムが呆然としながら、言葉を絞り出す。
 気付いた時には我は泣いていた。
 頬を伝い、わずかに孤を描くようにして流れていく。
 ぽつりと地面に落ちた時、まるで星屑のように煌めいていた。

 我の涙を見て、息を呑む。

 先に動いたのはネレムだった。

 我を背にし、ハートリーと同様に手を広げた。

「姐さんは、ルヴルの姐さんです。あたいの恩人で、友達です。魔王なんかじゃない」

「ネレムくん……」

「たとえ、ゴッズバルドさんの言うことでも聞けません。今回は勘弁して下さい」

 ネレムは頭を下げた。

「お願いします。わたしから友達を取り上げないで下さい」

 ハートリーも頭を下げる。
 2人の聖女が、伝説と呼ばれる英雄の前に立ちはだかるのだった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

まだもうちょっと続きます。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...