「さあ、回復してやろう」と全回復させてきた魔王様、ついに聖女に転生する

延野 正行

文字の大きさ
上 下
52 / 71
3章

第34話 友達の部屋(前編)

しおりを挟む
 我に回復魔術の深奥を紐解くことは、生涯においてもっとも優先すべき課題だ。
 そのために魔王であることを捨て、人間になり、今聖クランソニア学院の生徒として、日々精進している。
 本来であれば、勉学に没頭し、教官から語られる至高の教えに耳を傾けなければならない。

 だが、我はその日――初めて授業をサボった。
 何故か……。
 それは友のため。
 ハートリー・クロースのことについて、改めるヽヽヽためだ。

 我はハートリーについてよく知っている。
 Fクラスに通う、優しい学生。
 演劇が好きで、特に『鬼、滅ぼすべし刃』の鬼死というキャラクターが好きだ。
 他には宝石について、目利きができること。
 マリルのシチューが好きであること。

 様々なハートリーを、我は知っている。

 だが、我は彼女の家族のことをあまり知らない。
 下町で商家をやっているということ以外はだ。
 兄姉はいるのか、両親の仲は良好か、家ではどんな風に過ごしているのか。
 我は何1つ知らない。

 意図的に話さなかったのか。
 それとも話したくなかったのか。
 今となってはわからぬ。

「だから、知りにいくのです。ハーちゃんのことを」

 やってきたのは、ハートリーの商家だ。
 聞き込みと探索魔術を使えば、造作もない。
 最近、王家の王章が付いた馬車を見かけなかった、と聞いたら、すぐに回答が帰ってきた。

「それにしても、ネレム。あなたは付き合う必要はなかったのですよ」

 我は同じく今日の授業をサボったネレムを睨む。

「何を言ってるんですか、ルヴルの姐さん。あたいだって、ハートリーの姐貴の友人ですよ。ほっとけるわけがないじゃないですか(本当に放っておけないのは、ルヴルの姐さんの方だけど)」

「そうですか。ネレムもハートリーが心配なんですね」

「当然です!(本当に心配なのは、何をしでかすかわからないルヴルの姐さんだけど)」

「何か言いましたか?

「何でもないです! 行きましょう!!」

 ハートリーの生家は間違いなく商家だった。
 看板にクロース商会と書かれている。
 下町にあるだけあって、如何にも見窄らしい木造平屋の建物だ。
 だが、今玄関には鍵がかかっていた。

「留守ですかね?」

「いえ。人の気配がします」

 我は【戌瞳クドム】という探索魔術で中を探る。
 少なくとも1人いる。
 机の前で微動だにしていない。
 まさか怪我? あるいは病気か。

「中に人がいますね。全く動きませんが……」

「ええ! えっと……。どこか他の出入り口を探して」

「探している暇はありません。ネレム、私の肩に触りなさい」

「は、はい」

 【閾歩ディスン】を使い、我は空間を飛ぶ。
 見事、クロース商会の中に侵入した。
 突然のことに対応できなかったのか、ネレムは「痛ッ!」と尻餅を付く。
 続いて、顔をしかめる。

「酒臭い……」

 睨んだのは、机に突っ伏した男だった。
 少々下品な鼾が聞こえてくる。
 机と、その下にも転がった酒の空き瓶から察するに、酔いつぶれたのだろう。
 さらに机には、十数枚ほどの金貨が残っていた。

 状況から察するに、ハートリーの父親だろうか。
 娘が連れていかれたショックで、飲んだくれたのか。
 それとも、報酬をもらって喜んでいたのか。
 判断がつかぬな。

「この金貨……。まさかハートリーを売ったのか?」

 ネレムは怒髪天に衝くとばかりに、髪を逆立たせる。

「くっそ! 子どもを売るなんて! 親の風上におけねぇ! 1発殴ってやる!!」

「落ち着きなさい、ネレム」

「むしろなんでルヴルの姐さんが落ち着いていられるんですか?」

「子どもを売る親なんて案外いるものですよ」

 まして戦時であれば、特にな。
 我は昔のことを思い出して言った。

「ん? あれ? 君たちは……」

 ハートリーの父親が目を覚ます。
 赤くなった顔をこちらに向けた。

 我とネレムは挨拶する。
 ハートリーの友達だというと、父親は目を輝かせた。

「そうか。娘にもこんな友達がいたんだな。……いや、もう私の娘ではなくなったが」

「事情をお聞かせいただけないでしょうか?」

 すると、ハートリーの父親は訥々とこれまでの経緯を話し始めた。



※ 後編へ続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる! ×ランクだと思ってたギフトは、オレだけ使える無敵の能力でした

赤白玉ゆずる
ファンタジー
【コミックス第1巻発売中です!】 皆様どうぞよろしくお願いいたします。 【10/23コミカライズ開始!】 『勘当貴族なオレのクズギフトが強すぎる!』のコミカライズが連載開始されました! 颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。 【第2巻が発売されました!】 今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。 イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです! 素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。 【ストーリー紹介】 幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。 そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。 養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。 だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。 『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。 貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。 『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。 『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。 どん底だった主人公が一発逆転する物語です。 ※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

処理中です...