「さあ、回復してやろう」と全回復させてきた魔王様、ついに聖女に転生する

延野 正行

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2章

第27話 楽しそうで何より

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 転生する以前――。
 我は様々な場所に集めた金銀財宝を隠しておいた。
 別に魔王城に蓄財していても問題なかったのだが、魔族の中に我の目を盗んでくすねる者が続出してな。

 以来、他の場所に厳重に隠しておいたのだ。

 1000年経っていて、辺りの地形も変わったため、最初はわからなかったが、奥に来てようやく気付くことができた。

 しかし、よもや1000年経って、ダンジョンとして人間に目を付けられているとはな。
 本人たちはまさか魔王の宝物とは思っていないだろうが、ここを見つけただけでも、重畳というものだ。

 心配なのは、ネレムやハートリーの姿がないことだろう。
 さらに奥に進んだか。それともその辺を彷徨っているか。
 探索系の魔術を用いたいところだが、阻害する結界が張られている。
 我が作ったもの故、解除にはしばらく時間がかかるだろう。

 何にしても、入口は閉まり、今は進むしかない。
 ネレムたちの知り合いが優秀で、先のエリアに進んでいることを祈るしかないであろう。

 我は前に進もうとする。
 だが、他の2人は1歩も動かなかった。
 我の方を見て、震えている。
 反応には慣れているが、魔王の心臓が鉄で出来ていると思われるのは、心外だ。

「どうした、2人とも?」

「い、いえ……。そ、その……」

「お、俺たちはここで救助を……」

 救助?
 何を言っているのだ?

 ここは我の宝物庫だぞ。
 自分の庭で救助を求めるなど、阿呆することだ。
 それとも、こやつらはこのダンジョンに詳しくないだろうか。
 まさか初のダンジョンだったとか?

 やれやれ……。

 冒険者でもない聖女候補生を連れて、初ダンジョンを踏破しようとしていたのか、ネレムの知り合いは。
 我はかまわぬが、少々ネレムやハートリーには危険すぎやしないか。
 まあ、我らを守るだけの実力を兼ね備えていると、思っていたのかもしれぬが。

 あ、いや……。
 そのための聖女候補生3人態勢か。
 なるほど。
 我らは第一候補生だからな。
 3人まとめて、1人前と括られたのだろう。

 我が未熟な聖女であることは、最初から折り込み済みだったということか。
 なかなか慧眼のあるリーダーがいるようだ。

「ともかく今は前に進むしかない。行こう」

 我は歩き出す。

「ちょ……待て」
「待ってくれ」

 慌ててジーダとゴンスルが付いて来る。
 我を先導役として、狭い通路を歩き出す。

「お、お嬢ちゃん……。こ、このダンジョンに詳しいの?」

「当たり前だ。これは我のものだからな」

「え? ええ? お嬢ちゃんのものなの」
「ど、どんだけ金持ちなんだ?」

「金持ち? そんなわけあるまい。アレンティリ家は貧乏田舎貴族だぞ」

「貧乏田舎貴族が、ダンジョンを持っているのかよ」
「すげぇ……」

 揃って、口を開け呆然としていた。

「で――オレ達は助かるのか?」
「教えてくれ」

「助かるに決まってるだろう。自分の庭で遭難するアホがおるか」

 我の言葉に、ジーダは胸を撫で下ろし、ゴンスルは祈るように天を仰いだ。

「ただ問題がないわけではない」

「え?」
「な、なんだ?」

「この先に2つほどトラップが存在する。それを解除しなければ、目的は果たせぬ」

「と、トラップ?」
「一体、どんな……」

「案ずるな……。すでに起動した」

 我は立ち止まる。
 その瞬間、床に大きな召喚陣が広がった。
 いつの間にか我々は、次のフロアに進んでいたのだ。

 召喚陣の中からせり上がってきたのは、巨大なゴーレムだ。
 それも1体だけではない。
 ざっと20体ほどいるだろう。

 そうだそうだ。
 こういうトラップだったな。
 宝物庫を作ったのは、転生前から数えても300年前のことだ。
 おかげですっかり忘れていたわ。

「数が多い。少しお前らに譲ってよいか?」

 別に我一人で相手をしてもいいのだが、こやつらは初心者だ。
 少しぐらい見せ場を与えてやらねば、他の者に示しが付かぬであろう。

「え? オレ達があんな化け物と戦うのか?」
「か、勝てるわけがねぇ!」

 悲鳴じみた声を上げて、我にすがりつく。
 すでに涙を流し、我に哀願した。
 顔面は汗にまみれ、貼り付いた毛が若干気持ち悪かった。

「何故だ、お前たちも冒険者だろう?」

「そ、それは……」
「そのぉ……」

 急にジーダとゴンスルは口ごもる。
 我から目を背けて、モジモジし始めた。

「なんだ? 何か戦えないわけが――――はっ!」

 そうか。
 こやつら、おそらく怪我をしているのだな。
 協力者である我が心配しないように隠しているのかもしれぬ。
 如何にも悪人面という感じだが、根は優しいのだろう。
 しかし、我に対しては無用な気遣いだ。

「隠さなくてもよい」

「え?」
「はっ?」


 さあ、回復してやろう……。


 我は回復魔術を使って、ジーダとゴンスルを回復させた。
 真っ白な光に包まれる。

「ひゃっはぁぁぁあああ! なんかよくわからんが、力が漲ってくるぜ」
「お、俺も! うががががががががががが――――!!」

 突如、肥大した筋肉を得たジーダとゴンスルは、ゴーレムに突撃していく。

『バオッ!!』

 ゴーレムがなぎ払う。

「ぶべらっ!」
「はべらっ!

 2人はあっさりと吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。

「あ? あれ?」

 よ、弱い……。
 弱すぎる。
 確かに我の回復魔術は未熟だが、それにしても2人弱すぎないか。

 どうやら、ネレムの知り合いは相当な半人前を寄越したらしい。
 未熟な我には、それぐらいでちょうどいいと判断したのだろうが……。

「痛ててててて……」
「お、俺たち何をやってんだろう……」

 どうやら意識はあるらしい。
 ゴーレムほどとは言わないが、身体の弱さだけは治ったようだ。
 仕方がない。
 我がやるか。
 一応、我聖女候補なのだがな。

「ジーダ! ゴンスル!! 伏せていろ!!」

 我は忠告する。
 手に魔力を込めると、それは1本の氷の刃となった。

「切り裂け……」


 【凍刃アズール】!!


 氷の刃を地面と水平方向に薙ぐ。
 一瞬にして、全ゴーレムたちが真っ二つになっていた。
 バラバラになり、ただの土塊と化す。

 ふむ。悪くない調子だ。
 そういえば、転生してからというもの、回復魔術ばかりで、あまり他の魔術や術理を使ってこなかったからな。

 魔力も満ちてきている。
 おそらくこれは、宝物庫に滞留していた魔力の影響だろう。
 すこぶる気持ちがいい。

 これなら久方ぶりに暴れることができそうだ。

 くくく……。

「あ、あれだけのゴーレムを……」
「一撃で……。す、すげぇ……」

 ジーダとゴンスルは目を剥き、我の方へ視線を向けていた。

 すると、瞬間その顔は凍り付く。
 唇を震わせながら、我の方を指差した。

「な、なんだ?」
「あの笑顔? まるで……悪魔?」
「いや、まるで魔王みたいだな」
「おそろしい……。あの娘、きっと悪魔に魅入られたんだ」

 ジーダとゴンスルは悲鳴を上げるのだった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

世紀末ばりにパワーUPしても無理だったようです。
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