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2章
第23話 安息日
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読んでいただいた方、ありがとうございます。
引き続き頑張ります!!
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
聖クランソニア学院は、その母体がルヴィアム教であるため、その入学の条件として、ルヴィアム教の信者でなければならない。
幸いアレンティリ家は熱心なルヴィアム教徒だ。
そのため週末は安息日と決められていて、学院は休みとなる。
その代わり、近くの教会に行って、祈りを捧げるのが習わしとなっていた。
故に安息日には、必ず家族とともに教会で祈りを捧げてきたのだ。
正直に言うと、複雑な気分だ。
元々我とルヴィアムは、勇者を挟んで敵同士だった。
あのいけ好かない……失礼――我としのぎを削ったルヴィアムに対し、祈りを捧げなければならないというのは、何とも屈辱的だ。
しかし、これも試練の1つであろう。
ルヴィアムは人間にとって幸福を運ぶ神とも呼ばれている。
ならば、人間として生きる我にも、幸福を与えてくれるであろう。
すると、意外にもその幸福は安息日前日に起こった。
「ルーちゃん、明日の安息日の後、時間あるかな?」
放課後。
我にとって短い通学路を歩く最中、ハートリーが突然話しかけてきた。
後ろには警護兵のように背の高いネレムが、油断のない視線を周囲に向けている。
「安息日の後ですか。すみません、ハーちゃん。安息日の後は、いつも訓練と決めているのです」
学校が休みだからといって、手を緩めるわけには行かぬ。
早朝から世界1周の走り込みと、教会から帰ってきた後は【影躯】の魔術を使い、自分と乱取りし、夜からは教本の内容を1万回繰り返し暗唱する予定だ。
「そ、そうなんだ……。ざ、残念だね」
ハートリーは言葉通り残念そうに下を向く。
「何かあるのですか?」
「ルーちゃん、最近王都にやってきたでしょ? だから、いい機会だから王都を案内しようかなっと思ったんだけど……。忙しいなら仕方ないね」
「お、王都を案内……。ハーちゃんと一緒に?」
「うん。でも、予定があるなら」
「行く!!」
「え? でも、訓練をするんでしょ?」
「訓練は教会に行く前の早朝に終わらせます。ご心配なく、さほど難しいことではありません。世界一周しながら、自分の分身体と暗唱しながら乱取りすれば、何も問題ありません」
「な、なんか……。大変そうだけど、大丈夫?」
「問題ありません。ハーちゃんのお誘いを無下にする方が問題があります」
「それじゃあ、一緒に行こうか」
「うん!」
我は頷いた。
実を言うと、ちょっと憧れていた。
周りの学生たちは、安息日を使って一緒に王都を回って遊んでいることは、以前から知っていたのだ。
安息日は、ルヴィアムに祈りを捧げる日である。
遊興に耽るなど言語道断と考え、我は自分の身体をいじめ続けていた。
それに我らは学生。
当然、勉学を優先すべきである。
だが、店に出入り、一緒に同じ物を食べる姿を見て、羨ましくないといえば嘘になる。
きっとあのようなリラックスした環境の中で、回復魔術の深奥へと至る議論をしているのだろうと、むしろ羨望の眼差しで見ていたものだ。
しかし、まさかその機会が早くもやってくるとは……。
我は少し泣きそうになりながら、ハートリーの手を握った。
「折角だからネレムさんも一緒にどうかな?」
「はい。同行させてもらいます。(被害が出ないように気を付けねば……)」
「ネレムさん、何か言いました?」
「いえ……。ただ――――――」
血の安息日にならなければ、いいなあと思っただけです。
◆◇◆◇◆
次の日。
安息日がやってきた。
本来アレンティリ領にある教会でいつも祈りを捧げているのだが、今回はハートリーとネレムと一緒に、王都にある教会に祈りを捧げた。
さすが王都の教会だ。
アレンティリ領の田舎にある教会とは違い、建物が大きい。
荘厳で、下世話な表現だがお金がかかっているように見えた。
何よりも人の数が多い。
王都には4つ教会があるというが、外にまで人の列が続いていた。
お祈りが終わる。
アレンティリ領では、パンと果実酒が振る舞われるのだが、王都ではないらしい。
確かにこの人数の食糧を揃えるのは、なかなか骨が折れる作業である。
我らは人の波に乗って、教会の外に出た。
しかし、凄い人だかりだ。
「ハーちゃん、どこですか?」
「ルーちゃん、ここです」
ハートリーが手を上げて、アピールしていた。
我はその手を取る。
「きゃっ!」
ハートリーは躓きそうになる。
後ろから人に押されたのだ。
我は慌ててハートリーを引き寄せる。
思わず抱きしめてしまった。
なかなか軽く、そして細い身体だ。
それでも女性らしい柔らかさがある。
なんだか変に意識すると、何故か猛烈に身体が火照ってきた。
「大丈夫ですか、ハーちゃん」
「うん。大丈夫。ルーちゃん、ごめん」
「ふふ……。初めて会った時も転んでいたような気がしますね」
「あ、あの時はその…………。そ、それよりそろそろ離してくれないかな、ハーちゃん」
「ええ……。ごめんなさい」
我はハートリーを立たせる。
当たった男の方を睨むと、男もまた我らの方を睨んでいた。
「気を付けろ」
言葉を吐き、ハンチング帽を目深に被って立ち去ろうとする。
だが、そこに立ちはだかったのは、ネレムだった。
男でも見上げるほどの長身のエルフは、男の胸ぐらを掴む。
内ポケットに手を入れると、財布を抜き取った。
「あ? それ、わたしの財布?」
「こういう人だかりでは、取り放題だからな。気を付けた方がいいですよ、ハートリーの姐貴」
「さすがはネレムですね」
我の方は、財布を3つ見せる。
どれも男の見窄らしいなりに見合わぬ、高級そうなものばかりだ。
「あっ! それ、オレが盗んだ――――あっ!!」
スリは慌てて口を噤むが、もう遅い。
その男は周りの視線の集中砲火を受けていた。
もはや言い訳できる状況になく、スリはそのまま教会の聖騎士に捕まり、御用となった。
「2人ともすごい!」
ハートリーは我とネレムに拍手を送る。
「あたいは、あたいの仕事をしたまでですよ、ハートリーの姐貴。1番凄いのは、ルヴルの姐さんです。まさかあいつが他の人間の財布まで盗んでいるとは……。いつ気付いたんですか?」
「彼がスリだと知ったのは、ネレムがハーちゃんの財布を見せてくれた時です。その時に、【次元腕】を使い、異空間から手を伸ばし、他の財布を取り戻しただけですよ」
「異空間?」
「えっと……。よくわかんないけど、2人ともすごい連携プレーだったわけだね。すごいすごいよ」
ハートリーはパチパチと拍手を送る。
まあ、我とネレムとは友であるからな。
これぐらいの連携は当然であろう。
一悶着あったが、ここからが我らの本番だ。
我はついに王都デビューと相成った。
しかも、友達を連れてだ。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
ちょっとほのぼのとするように書いてみた。
読んでいただいた方、ありがとうございます。
引き続き頑張ります!!
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
聖クランソニア学院は、その母体がルヴィアム教であるため、その入学の条件として、ルヴィアム教の信者でなければならない。
幸いアレンティリ家は熱心なルヴィアム教徒だ。
そのため週末は安息日と決められていて、学院は休みとなる。
その代わり、近くの教会に行って、祈りを捧げるのが習わしとなっていた。
故に安息日には、必ず家族とともに教会で祈りを捧げてきたのだ。
正直に言うと、複雑な気分だ。
元々我とルヴィアムは、勇者を挟んで敵同士だった。
あのいけ好かない……失礼――我としのぎを削ったルヴィアムに対し、祈りを捧げなければならないというのは、何とも屈辱的だ。
しかし、これも試練の1つであろう。
ルヴィアムは人間にとって幸福を運ぶ神とも呼ばれている。
ならば、人間として生きる我にも、幸福を与えてくれるであろう。
すると、意外にもその幸福は安息日前日に起こった。
「ルーちゃん、明日の安息日の後、時間あるかな?」
放課後。
我にとって短い通学路を歩く最中、ハートリーが突然話しかけてきた。
後ろには警護兵のように背の高いネレムが、油断のない視線を周囲に向けている。
「安息日の後ですか。すみません、ハーちゃん。安息日の後は、いつも訓練と決めているのです」
学校が休みだからといって、手を緩めるわけには行かぬ。
早朝から世界1周の走り込みと、教会から帰ってきた後は【影躯】の魔術を使い、自分と乱取りし、夜からは教本の内容を1万回繰り返し暗唱する予定だ。
「そ、そうなんだ……。ざ、残念だね」
ハートリーは言葉通り残念そうに下を向く。
「何かあるのですか?」
「ルーちゃん、最近王都にやってきたでしょ? だから、いい機会だから王都を案内しようかなっと思ったんだけど……。忙しいなら仕方ないね」
「お、王都を案内……。ハーちゃんと一緒に?」
「うん。でも、予定があるなら」
「行く!!」
「え? でも、訓練をするんでしょ?」
「訓練は教会に行く前の早朝に終わらせます。ご心配なく、さほど難しいことではありません。世界一周しながら、自分の分身体と暗唱しながら乱取りすれば、何も問題ありません」
「な、なんか……。大変そうだけど、大丈夫?」
「問題ありません。ハーちゃんのお誘いを無下にする方が問題があります」
「それじゃあ、一緒に行こうか」
「うん!」
我は頷いた。
実を言うと、ちょっと憧れていた。
周りの学生たちは、安息日を使って一緒に王都を回って遊んでいることは、以前から知っていたのだ。
安息日は、ルヴィアムに祈りを捧げる日である。
遊興に耽るなど言語道断と考え、我は自分の身体をいじめ続けていた。
それに我らは学生。
当然、勉学を優先すべきである。
だが、店に出入り、一緒に同じ物を食べる姿を見て、羨ましくないといえば嘘になる。
きっとあのようなリラックスした環境の中で、回復魔術の深奥へと至る議論をしているのだろうと、むしろ羨望の眼差しで見ていたものだ。
しかし、まさかその機会が早くもやってくるとは……。
我は少し泣きそうになりながら、ハートリーの手を握った。
「折角だからネレムさんも一緒にどうかな?」
「はい。同行させてもらいます。(被害が出ないように気を付けねば……)」
「ネレムさん、何か言いました?」
「いえ……。ただ――――――」
血の安息日にならなければ、いいなあと思っただけです。
◆◇◆◇◆
次の日。
安息日がやってきた。
本来アレンティリ領にある教会でいつも祈りを捧げているのだが、今回はハートリーとネレムと一緒に、王都にある教会に祈りを捧げた。
さすが王都の教会だ。
アレンティリ領の田舎にある教会とは違い、建物が大きい。
荘厳で、下世話な表現だがお金がかかっているように見えた。
何よりも人の数が多い。
王都には4つ教会があるというが、外にまで人の列が続いていた。
お祈りが終わる。
アレンティリ領では、パンと果実酒が振る舞われるのだが、王都ではないらしい。
確かにこの人数の食糧を揃えるのは、なかなか骨が折れる作業である。
我らは人の波に乗って、教会の外に出た。
しかし、凄い人だかりだ。
「ハーちゃん、どこですか?」
「ルーちゃん、ここです」
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だが、そこに立ちはだかったのは、ネレムだった。
男でも見上げるほどの長身のエルフは、男の胸ぐらを掴む。
内ポケットに手を入れると、財布を抜き取った。
「あ? それ、わたしの財布?」
「こういう人だかりでは、取り放題だからな。気を付けた方がいいですよ、ハートリーの姐貴」
「さすがはネレムですね」
我の方は、財布を3つ見せる。
どれも男の見窄らしいなりに見合わぬ、高級そうなものばかりだ。
「あっ! それ、オレが盗んだ――――あっ!!」
スリは慌てて口を噤むが、もう遅い。
その男は周りの視線の集中砲火を受けていた。
もはや言い訳できる状況になく、スリはそのまま教会の聖騎士に捕まり、御用となった。
「2人ともすごい!」
ハートリーは我とネレムに拍手を送る。
「あたいは、あたいの仕事をしたまでですよ、ハートリーの姐貴。1番凄いのは、ルヴルの姐さんです。まさかあいつが他の人間の財布まで盗んでいるとは……。いつ気付いたんですか?」
「彼がスリだと知ったのは、ネレムがハーちゃんの財布を見せてくれた時です。その時に、【次元腕】を使い、異空間から手を伸ばし、他の財布を取り戻しただけですよ」
「異空間?」
「えっと……。よくわかんないけど、2人ともすごい連携プレーだったわけだね。すごいすごいよ」
ハートリーはパチパチと拍手を送る。
まあ、我とネレムとは友であるからな。
これぐらいの連携は当然であろう。
一悶着あったが、ここからが我らの本番だ。
我はついに王都デビューと相成った。
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