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1章
第20話 八剣vs聖女
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「オレを舐めているのですか?」
ミカギリは目を細める。
手に何も持たず現れた我を、憎々しげに見つめた。
我はつい口端を緩め、言葉を返す。
「必要ないだけです。剣は1本で十分ですから」
「は? 何を言ってるのですか?」
「すぐにわかりますよ」
問答は終わり、そこにスルスルと審判が現れる。
両者を見合った後、やや声を上擦らせたまま開始を告げた。
「はじめ……!」
最初に動いたのは、ミカギリだった。
たん、と地を蹴り我との距離を詰める。
重そうな武器をものともしない。
ぐりぐりと捻転しながら、まるで烈風の如く我に迫る。
当然、そこには容赦ない殺意がある。
我でなければ、死んでいただろう。
我でなければな……。
バチッ!
剣戟の火花が散るかと思えば、違った。
先ほど烈風の如く迫ったミカギリの動きが止まる。
それもそのはずであろう。
ミカギリの大太刀を、我が両手で挟んで止めたからだ。
「――――ッ!」
ミカギリが事態に気づいた時には遅い。
我は大太刀を自身の身体に引き込む。
体勢が崩れ、ミカギリの握力が一瞬緩んだ。
我はそれを見逃さず、大太刀を取り上げた。
そのまま我は大太刀の柄を握る。
そのままミカギリの肩へと落とした。
「ギャッ!!」
大猿のような悲鳴を上げる。
肩を押さえて、ミカギリは蹲った。
安心するがいい。
峰打ちだ。
我は聖女。
人を癒やしても、傷つけることなどしない。
まあ、魔王であったなら、消し炭にしていただろうがな。
「言ったでしょ? 剣は1本で十分と」
「き、貴様ぁぁぁあ! 返せ! オレの剣を!!」
先ほどまで涼やかだったミカギリの顔が、怒りに歪んでいる。
まるで猿が喚いているかのようだった。
我は――――。
「はい」
あっさりと大太刀を返してやった。
「貴様、愚弄しているのですか、オレを」
「返せと言われたから返したのですが……。まだ続けますか?」
「当たり前だ」
ミカギリは気勢を吐いて、大太刀を構える。
だが、肩の傷が響いて、思うように動けない。
さあ、回復してやろう。
我は回復魔術を放つ。
無論、ミカギリに向かってだ。
「何をしているのですか? 敵に回復魔術など」
「ご心配なく、単なる私のポリシーです」
「ぽ、ポリシー?」
「先ほど申し上げましたよ。傷付いた者を回復させるのが、聖女の務めだと」
「わかった。もういい。……後悔しないで下さいね」
「残念ながら、生まれてこの方後悔などしたことなどありません」
再び問答が終わると、ミカギリの殺意が高まる。
また地を蹴った。
先ほどよりも速い。
なるほど。本気ではなかったのか。
何故、最初の一刀から本気を出さなかったのかわからないが、おそらくコンディションが悪かったのだろう。
我の回復魔術を受けて、本気を出せるようになったに違いない。
うむ。どうやら、少しは我の回復魔術もマシになってきたようだ。
だが、この者の弱さまでは回復できなかったらしいがな。
ガキィン!
ミカギリは弾かれる。
「え? 今、何が起こった」
「ミカギリ先輩が、ルヴルさんに迫っていったら」
「ミカギリ先輩が吹っ飛ばされたぞ」
「何が、どうなってるんだよ、この戦い……」
「あたいは、夢でも見てるのか?」
周囲は困惑していた。
だが、一番動揺していたのはミカギリだろう。
何故、自分がここにいるのかすらわからないといった様子だ。
「ジャアク、お前何を――――」
「動かない方がいいですよ、先輩」
その瞬間だった。
ミカギリの肩口から血が溢れたのだ。
「げははははははははあああああああ!!」
ミカギリの悲鳴が上がる。
がっくりと膝を落とし、手で押さえても溢れてくる鮮血を見ておののく。
すると、我は手をかざした。
回復魔術を使う。
すぐにミカギリの傷は癒えた。
「じゃ、ジャアク……。お前、一体何をしたのだ?」
「別に驚くようなことはしてません。ミカギリ先輩の剣の軌道を変えて、あなた自身の方へ向かうようにしただけです」
「ば、馬鹿な……。そ、そんなことができるわけが」
「出来ますよ。ミカギリ先輩と私の実力の差なら容易なことです」
「世迷い言を!!」
ミカギリは声を荒らげる。
やれやれ……。弱ったな。
これほど実力の差を見せつけているというのに、まだわからんのか。
どうやら、この男の頭の悪さすら、我は回復できていないらしい。
「わかりました……。では、次が最後にしましょう」
「な、何をする気だ」
「また先輩の大太刀を弾きます。ただし今度は、首を落とします」
「く……」
「「「「く……」」」」
「「「「「首ぃいぃぃいぃいぃいぃぃぃいいい!!」」」」」
その悲鳴はミカギリだけではなく、周囲からも聞こえた。
「大丈夫です。回復魔術で回復してさしあげますから」
「お、愚か者! 首を落とされて、回復など」
「できますよ。信じて下さい」
昔、誤ってロロの首を落としてしまったのだが、その時回復魔術で治してみたら、案外簡単に治ってしまった。
「死んでからすぐにかければ、問題ありません」
「しょ、正気か、貴様!!」
「私は大まじめに言っているのですか? それは私を愚弄しているのですか? それによく言うではありませんか……」
馬鹿な死ななきゃ治らないって……。
「翻せば、死ねば治るという意味です。少しは先輩の愚かさが治るかもしれませんよ」
ぞっ……。
何かそんな音が聞こえた。
周囲を見渡すと、皆が顔を青ざめさせている。
審判やBクラスの生徒、さらに強い絆のあるFクラスも同様であった。
ん? 我、なんか変なこと言った?
「や、ヤバい……」
「やっぱジャアクだ」
「首はさすがに引くだろう」
「本当に殺す気なんだ」
声が漏れてくる。
んん? 皆、何か勘違いしておらんか?
我は単純にミカギリの頭の悪さを治したいだけなのだが……。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
もう回復魔術の領域を越えている(知ってた)。
ミカギリは目を細める。
手に何も持たず現れた我を、憎々しげに見つめた。
我はつい口端を緩め、言葉を返す。
「必要ないだけです。剣は1本で十分ですから」
「は? 何を言ってるのですか?」
「すぐにわかりますよ」
問答は終わり、そこにスルスルと審判が現れる。
両者を見合った後、やや声を上擦らせたまま開始を告げた。
「はじめ……!」
最初に動いたのは、ミカギリだった。
たん、と地を蹴り我との距離を詰める。
重そうな武器をものともしない。
ぐりぐりと捻転しながら、まるで烈風の如く我に迫る。
当然、そこには容赦ない殺意がある。
我でなければ、死んでいただろう。
我でなければな……。
バチッ!
剣戟の火花が散るかと思えば、違った。
先ほど烈風の如く迫ったミカギリの動きが止まる。
それもそのはずであろう。
ミカギリの大太刀を、我が両手で挟んで止めたからだ。
「――――ッ!」
ミカギリが事態に気づいた時には遅い。
我は大太刀を自身の身体に引き込む。
体勢が崩れ、ミカギリの握力が一瞬緩んだ。
我はそれを見逃さず、大太刀を取り上げた。
そのまま我は大太刀の柄を握る。
そのままミカギリの肩へと落とした。
「ギャッ!!」
大猿のような悲鳴を上げる。
肩を押さえて、ミカギリは蹲った。
安心するがいい。
峰打ちだ。
我は聖女。
人を癒やしても、傷つけることなどしない。
まあ、魔王であったなら、消し炭にしていただろうがな。
「言ったでしょ? 剣は1本で十分と」
「き、貴様ぁぁぁあ! 返せ! オレの剣を!!」
先ほどまで涼やかだったミカギリの顔が、怒りに歪んでいる。
まるで猿が喚いているかのようだった。
我は――――。
「はい」
あっさりと大太刀を返してやった。
「貴様、愚弄しているのですか、オレを」
「返せと言われたから返したのですが……。まだ続けますか?」
「当たり前だ」
ミカギリは気勢を吐いて、大太刀を構える。
だが、肩の傷が響いて、思うように動けない。
さあ、回復してやろう。
我は回復魔術を放つ。
無論、ミカギリに向かってだ。
「何をしているのですか? 敵に回復魔術など」
「ご心配なく、単なる私のポリシーです」
「ぽ、ポリシー?」
「先ほど申し上げましたよ。傷付いた者を回復させるのが、聖女の務めだと」
「わかった。もういい。……後悔しないで下さいね」
「残念ながら、生まれてこの方後悔などしたことなどありません」
再び問答が終わると、ミカギリの殺意が高まる。
また地を蹴った。
先ほどよりも速い。
なるほど。本気ではなかったのか。
何故、最初の一刀から本気を出さなかったのかわからないが、おそらくコンディションが悪かったのだろう。
我の回復魔術を受けて、本気を出せるようになったに違いない。
うむ。どうやら、少しは我の回復魔術もマシになってきたようだ。
だが、この者の弱さまでは回復できなかったらしいがな。
ガキィン!
ミカギリは弾かれる。
「え? 今、何が起こった」
「ミカギリ先輩が、ルヴルさんに迫っていったら」
「ミカギリ先輩が吹っ飛ばされたぞ」
「何が、どうなってるんだよ、この戦い……」
「あたいは、夢でも見てるのか?」
周囲は困惑していた。
だが、一番動揺していたのはミカギリだろう。
何故、自分がここにいるのかすらわからないといった様子だ。
「ジャアク、お前何を――――」
「動かない方がいいですよ、先輩」
その瞬間だった。
ミカギリの肩口から血が溢れたのだ。
「げははははははははあああああああ!!」
ミカギリの悲鳴が上がる。
がっくりと膝を落とし、手で押さえても溢れてくる鮮血を見ておののく。
すると、我は手をかざした。
回復魔術を使う。
すぐにミカギリの傷は癒えた。
「じゃ、ジャアク……。お前、一体何をしたのだ?」
「別に驚くようなことはしてません。ミカギリ先輩の剣の軌道を変えて、あなた自身の方へ向かうようにしただけです」
「ば、馬鹿な……。そ、そんなことができるわけが」
「出来ますよ。ミカギリ先輩と私の実力の差なら容易なことです」
「世迷い言を!!」
ミカギリは声を荒らげる。
やれやれ……。弱ったな。
これほど実力の差を見せつけているというのに、まだわからんのか。
どうやら、この男の頭の悪さすら、我は回復できていないらしい。
「わかりました……。では、次が最後にしましょう」
「な、何をする気だ」
「また先輩の大太刀を弾きます。ただし今度は、首を落とします」
「く……」
「「「「く……」」」」
「「「「「首ぃいぃぃいぃいぃいぃぃぃいいい!!」」」」」
その悲鳴はミカギリだけではなく、周囲からも聞こえた。
「大丈夫です。回復魔術で回復してさしあげますから」
「お、愚か者! 首を落とされて、回復など」
「できますよ。信じて下さい」
昔、誤ってロロの首を落としてしまったのだが、その時回復魔術で治してみたら、案外簡単に治ってしまった。
「死んでからすぐにかければ、問題ありません」
「しょ、正気か、貴様!!」
「私は大まじめに言っているのですか? それは私を愚弄しているのですか? それによく言うではありませんか……」
馬鹿な死ななきゃ治らないって……。
「翻せば、死ねば治るという意味です。少しは先輩の愚かさが治るかもしれませんよ」
ぞっ……。
何かそんな音が聞こえた。
周囲を見渡すと、皆が顔を青ざめさせている。
審判やBクラスの生徒、さらに強い絆のあるFクラスも同様であった。
ん? 我、なんか変なこと言った?
「や、ヤバい……」
「やっぱジャアクだ」
「首はさすがに引くだろう」
「本当に殺す気なんだ」
声が漏れてくる。
んん? 皆、何か勘違いしておらんか?
我は単純にミカギリの頭の悪さを治したいだけなのだが……。
~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~
もう回復魔術の領域を越えている(知ってた)。
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