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1章

第18話 みんなみんな友達

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「「「「やったぁぁぁああぁああああああ!!」」」」

 両腕を高々と天にかざし、Fクラスの生徒たちは喜んだ。

「やった! やったよ」
「Fクラスが、Bクラスを倒したんだ」
「俺たち、実は強いんじゃね」
「それが違うだろ……」

 皆の視線が、我の方を向く。
 聖騎士候補生、神官候補生、そして聖女候補生たち。
 それぞれが我の周りに集まった。
 まず前に進み出たのは、ハートリーだ。

「やったね、ハーちゃん」

 眼鏡を取り、すでに浮かんでいた涙を拭う。
 よっぽど嬉しかったのだろう。
 我のその頭をポンポンと撫でる。

 歓喜していたのは、ハートリーだけではない。
 他のFクラスの生徒たちも動揺だ。
 皆、顔を赤くして、興奮している。

「ジャアク……じゃなかった、ルヴルさん、ありがとう」
「こんなに気持ちのいいのは初めてだぜ」
「なんせ貴族をぶっ飛ばしたんだもんな」
「スッとしたぜ」

 皆が感謝の意を表す。
 そこに恐れはない。
 それどころか、我をジャアクと知りながら、笑顔を向けていた。

「いえ。皆さんが頑張ったからです」

 我はにこやかに答える。

「そんな謙遜することないのに」
「ぐはははは……。我に率いられる邪悪の使徒よ」
「よくぞ我のために働いた、とか言ってくれたらいいのに」
「こーら。ルヴルさんに失礼でしょ」

 我の前で戯けた男子を、女子生徒が小突く。
 すると、ドッと笑いが起こった。

 ああ。なんとこそばゆい。
 魂が猫じゃらしで撫でられているようだ。
 無闇に顔が熱くなる。
 悲しくもないのに、涙が出そうになる。

 この黄金に満ちた光景に、我は目を細めた。
 そして気になっていることを尋ねる。

「あの……。本当に私のこと怖くないんですか?」

「怖いわよ」

 女子生徒があっけらかんと答えた。

「でも、一蓮托生ってヤツ?」
「俺たちもジャアクに染まったからな」
「だから、オレたちも同じ穴のむじなって訳だ」

「同じ……。じゃ、じゃあ…………私とみんなは、その友達ってことでいいのですか?」

「何を言ってるの」
「とっくに仲間でしょ」
「同級生なんだし」
「ルヴルさん、怖いって言われてたけど、そうでもないってわかったしな」
「オレは前から可愛いとは思ってたけどな」
「あんたたち、手の平返し早すぎでしょ」

 仲間? 同級生? つまり、これは……。

 誰かが我の手を握った。
 ハーちゃんだ。
 まるでマリルのように笑って、こう我に諭した。

「みんな、ルーちゃんの友達になりたいんだよ」

 ……お。

 おおおおおおおおおおおお!

 我は思わず叫んでいた。
 やった! 友達ができた。
 それもいっぱい!

「おおおおおおおおおおおおお!!」

 我は喜びを露わにする。
 他の生徒たちはビクリと肩を震わせて、驚いていた。

「あ、あれは何? ハートリーさん」

「すっごく喜んでいるんだと思う」

「あれで喜んでるの?」
「なんか竜の咆哮みたいね」

 苦笑を浮かべる。

 だが、Fクラスとの団らんは、長く続かない。

「貴様らぁあぁあああぁぁぁあぁあ!!」

 我より強く叫んだのは、ルマンドだった。
 その後ろには、Bクラスの聖騎士たちが並んでいる。
 模擬戦でコテンパンにされたというのに、怒りに満ち満ちていた。

「貴族に楯突いたらどうなるか。わかっているだろうな! 平民の豚小屋なんて、軽く消し飛ぶんだぞ」

「ルマンドくん、やめたまえ。勝負はついた」

 審判が仲裁に入る。
 だが、ルマンドは矛を収めない。
 逆にその矛を投げつけるように、審判を睨む。

「学院の職員風情が……。お前らも、我ら貴族に楯突くというのか?」

「そ、それは……」

「だったら黙っていろ。乞食ども」

 学院も、母体であるルヴィアム教も、その運営資金は貴族の寄付で賄われている。
 だが、それにしても『乞食』というのは、些か言い過ぎだ。
 審判も、教員も、職員も、この素晴らしき学院も、2度と経験できぬ尊い学舎であるというのに。

 よほど両親の教育が悪いと見える。

「まずはお前らの家族を集めよ。お前らの眼前で、貴族の前で取るふさわしき行動というものを親からレクチャーしてやる」

「そんな!」
「親父たちは関係ない!」
「オレの母親は病弱なんだ」
「卑怯だぞ! それが貴族のやることか?」

 Fクラスのみんなは、口々に叫ぶ。
 側にいたハーちゃんも手が震えていた。
 その手を、我は握る。

 大丈夫、と目で合図をした。

「黙れ。愚民が! そもそも我らに手を上げたお前らが悪いのだろうが!! 自分から叛逆者の道を歩んだのだから、文句は言えまい」


「一理はあると思うけどさぁ。その叛逆者に、衆人環視の場で負けた君たちの方が、文句を言えないと思うけどなあ」


 ドンッ……。

 それは突然、空から振ってきた。
 男だ。
 聖騎士候補生の制服を乱暴に羽織り、足には藁で編んだ粗野な草履を履いている。
 黒に金色が混じった髪は獅子の鬣のように荒れていて、その下から現れた瞳は山盛りの財宝を見た後のように輝いている。

 多くの貴族の子息を抱える聖クランソニア学院では、あまり感じられない異質な雰囲気。

 何より目を引くのは、その肩に担がれた大太刀だった。

「Aクラス第三候補生…………ミカギリ・ザザ――――」

 闖入者の姿を見て、ルマンドは息を飲む。

 ほう。
 Aクラス、しかも第三候補生。
 つまりは我らの先輩殿か。
 なるほど。他の者とは異質な理由はそれか。

「オレの名前を知ってるんだな」

「当たり前です。この学院の『八剣エイバー』――次期聖剣候補者にもっとも近い人間を知らないはずがありません」

「次期聖剣候補者か。なかなか持ち上げてくれるね、ビー君」

「は? ビー君? 失礼ながら、私にはルマンド・ザム・ギールという名前が……」

「別に……。興味ないよ、君の名前なんて」

「え?」

「それにさ。Fクラスなんかに負けておいて、権力振りかざすとかゴミ以下でしょ」

 その瞬間であった。

 血煙が舞う。
 同時に2本の腕が、血を吐きながら、くるりと回転していた。
 何か冗談のような軽い音を立て、地面に落ちる。
 血溜まりが広がっていった。

 その悲鳴が響き渡ったのは、直後だ。

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 皆の視線が向いた時には、ルマンドの二の腕より先がなくなっていた。
 ドボドボと血を流し続けている。
 痛みに堪えかねルマンドは、蹲る。

「全く無反応だったね。第一候補生とはいえ、その程度か。なるほど。そりゃFクラスにも後れを取るよな。ふふふ……」

 ミカギリは笑う。

 すると、今度は冷たい視線をルマンドに向けた。

「君、才能ないよ。聖騎士になるの。諦めた方がいい」

 氷のような冷たい言葉が、模擬戦場に響くのだった。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~

『八剣』登場です。
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