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1章

第12.5話 友情は拳で脅すもの(後編)

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 我は構えを取る。
 同時にネレムは足を止めた。
 猪突猛進に襲いかかってきていた娘が、息を呑む。
 相手の雰囲気が変わったことを敏感に察したのだろう。
 なるほど、野生的な本能には長けているようだ。

「な、なんだ」
「さーむーいー」
「ちょ、ちょっと……。わたし、お花摘みにいきたいかも」

 他の少女たちはガクガクと震える。

 一方、ネレムは口角を上げた。

「へぇ……。顔のいいお嬢さまだと思っていたら、そんな顔もできるんだな」

「あなたが本気だとわかった以上、こちらも本気を出さねばなりません」

 本気の友人を作る。
 そのためには、本気で相手をせねばなるまい。

「いいぜ。あたいも本気でやってやるよ」

「姐貴の本気……」
「やーべー」
「ま、まずくないですか?」

 急に周囲が黒くなる。
 暗雲が垂れ込め、さらに雨が降ってきた。
 だが、我もネレムも動かない。
 誰もいない裏庭で、立ち合う瞬間を待つ。

「あ……。忘れていたわ」

「あ? 何が?」

「ネレムさん、怪我してるわよね」

「え? お前、いつからわかって」

 ネレムは右肩を押さえる。

「お前が気にすることじゃない。この左腕1本でも」

「侮らないで下さい。本気でやり合うのだから、あなたも万全で戦ってもらわないと」

「お前……」

「さあ……」


 回復してやろう。


 稲光が走り、雷鳴が轟く。
 だが、その光よりも強く、裏庭は白く輝いていた。
 ネレムたち一同の叫声が響く。
 やがて回復魔術は、ネレムを完全に癒やした。

「な、何をした、お前!」

 ネレムは腕を振り上げ、抗議する。
 だが、その姿を見て、我とネレムの間に入ったのは、取り巻きの3人組だった。

「姐貴!!」
「うーでー、うーでー」
「姐貴、腕があがってます!!」

 ネレムの振り上げた右腕を指差す。
 怪我の前、肩より上に上がらなかった腕が耳の横まで上がっていた。

 気付いた瞬間、ネレムは絶句する。

「嘘だろ。どんな治癒士も匙を投げた腕が……。なんで治ってるんだ」

「姐貴、おめでとうございます」
「よかったー、よかったー」
「ぐす! これで、また聖騎士を目指せますね」

 取り巻きたちは泣いていた。
 ネレムはぐりぐりと腕を動かしている。

「痛みがねぇ……。あたいの腕じゃないみたいだ」

 ネレムは振り返る。

 何があったか我にはわからぬ。
 おそらくネレムにとって望外な奇跡が起きたのだろう。
 だが、我には関係のないことだ。

 決着を着ける。

 ネレムと友達になるために……。

「ありがとう! あんた、本当はイイ奴――――ぶべらっっっっっっ!!」

 我が思いっきり振り抜いた鉤突きは、ネレムの頬に突き刺さる。
 そのままどうと地面に倒れた。

 何を惚けていたのかは知らぬが、隙だらけだ。
 仕方ない。
 ネレムもまた聖女候補生。
 お互い切磋琢磨するしかあるまい。

「なっ……。感謝してる姐貴を殴るなんて」
「よーしゃねー」
「やはりジャアクは、ジャアクだったんだぁぁぁぁあああ!」

 ぎゃああああああ! と悲鳴を上げながら、取り巻きは逃げていく。

 弱ったな。
 あの3人とも友達になりたかったのだが……。
 どうやら怖がらせるようなことを、我はまたしてしまったらしい。

 だが、良い。
 千里の道も1歩からというしな。
 今は、目の前のネレムをハートリーに続く第二の友としよう。

 我はネレムを回復魔術で治す。
 気が付いたネレムに向かって、我は手を差し出した。

「今日から私たち、友達ですよ……」

 我は最高のスマイルを、ネレムに向けるのだった。




 後日、この時のネレムの心境を本人は語る。


 正直、こいつには勝てないと思った。

 あいつは人が感謝している横で、いきなり殴りかかってきたんです。
 それも容赦なく、全力で……。

 その上で、ルヴルはあたいに友達になれと迫ってきたんです。

 あたいは、結構これでも色んな悪いヤツを見てきました。
 でも、ルヴル・キル・アレンティリは別格です。
 あんな得体の知れない巨悪は初めてです。

 あの英雄ゴッズバルトが泣いて謝るんです。
 そんな相手に、一学生が適うはずがないって……。

 あたいは付いていくことにしました。
 つまり、ルヴルの姐貴ヽヽ風にいうなら、友達になることにしたんです。

 悪に屈するのか、ですって?

 そうです。屈したんです。
 でも、立ち合えばわかりますよ。
 あの人は、この世で最も邪悪な存在だってね。


~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~ ※ ~


こちらの作品は、小説家になろうでも連載中です。
なかなか上位の追放物が強くて、ランキングなかなか上がらない状況です。
是非とも、こういう勘違いコメディも、たくさんの方に読んでもらいたいと思っているので、賛同いただける方はそちらもご支援いただけると嬉しいです。
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