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第三章

第26.5話(後編)

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「ヘブンズバードか……。さすがヴェルだね」

 優しげな声が聞こえる。
 私の横から現れたのは、ルースだった。

「ルースは使い魔を決め――――」

 たの? と聞こうとした時、私の目に角を生やした馬が映る。
 真っ白な見事な毛並みに、堂々とした貫禄ある鬣。
 綺麗なユニコーンだった。

「る、ルース、それ……」

「ああ。これ? ユニコーンだよ。かわいいでしょ」

 ルースはユニコーンの鼻を撫でてやる。
 すっかり懐いているらしく、大きな目を細めると、さらに尻尾を振った。
 すごい。もうすでに信頼関係ができてる。
 ユニコーンって、とても気位が高いって聞くのに。

 その分契約できた時のメリットも大きいけど、すでに深い部分で繋がってる感じだ。
 それはヴェルとヘブンズバードに言えるだろう。

(それにしても、ルースとユニコーンのツーショットは絵になるわねぇ)

 そのまま絵画展にでも出したら入賞しそう。
 王子様とユニコーン……なんてね。

「ミレニアは使い魔を決めたの?」

「それが、まだピンと来る子がいなくて……。あはははは」

「違うでしょ、ミレニア。あんたさっきあっちで、キラーボアに近づいたらめちゃめちゃ怖がられてたじゃない」

「ええええ!? あの厳つい顔をしたキラーボアに!!」

 私の方にやって来たヴェルがからかうと、ルースはちょっと大げさに驚いていた。

 うう……。ヴェルに見られていたのか。恥ずかしい。

 キラーボアって有名な英雄譚に出てくるぐらい名の通った猪の精霊なのだけど、ともかく怖くて厳つい顔をしている。子どもを近づけるだけで、ギャン泣きするほどの目力を持っていて、人気もない。
 私は好きなんだけどなあ。ちゃんと信頼関係を結ぶと、笑った顔とか結構かわいいし、お腹が柔らかくて枕代わりにはちょうどいいのよね。
 でも、ここにいるのはキラーボアの子どもだったらしく、私が近づくと一目散に逃げてしまった。

 それはキラーボアだけじゃなく、ここにいる厩舎のほとんどの使い魔がそんな感じだったのだ。精霊は非常に頭がいい。多分、本能的に私が上位の存在に気付いている可能性がある。

 神様とも繋がっていたりするし、私のことを恐れ多いとか思ってそう。。

「大方、あんたの出鱈目さに本能的に気付いているのかもね」

 ヴェルの指摘は、割と当たっているから反論ができない。

「落ち着いて、ミレニア。厩舎はまだあるんだ。ゆっくり落ち着いて、回ればいいと思うよ」

「ありがとう、ルース。私の味方はあなただけだわ」

 ふと顔を上げると、人が集まってきていた。
 多分ヘブンズバード、ユニコーンと契約したヴェルとルースが珍しいのだろう。
 称賛の声もあったけど、遠巻きに窺う瞳にはどこか羨むような感情を感じた。

 一旦私は離れた方が良さそうね。

「私、もう1回厩舎を回ってくるわ。また後でね」

「あ。ミレニア」

「放っておきなさいよ、ルース。どうせミレニアのことなんだから、あたしたちの斜め上を行くような使い魔を連れてくるわよ」

「ふふ……」

「何よ。気持ち悪いわね」

「ヴェルはミレニアを信頼してるんだね」

「べ、別に!! み、ミレニアはあたしより成績が良かったのよ。ヘブンズバードより凄い使い魔を連れてきて当然って言ってるの」

「ふふ……。そういうことにしておくよ」

 またルースは微笑むのだった。

 ◆◇◆◇◆

 2人がそんなやりとりをしているとは知らず、私は厩舎を見回る。
 どうやら半分ぐらいの団員が決め兼ねているようだ。
 まだ焦る必要はないみたいだけど、2人を見てると早くしなきゃって思ってしまう。

 ただ1つ気がかりがある。

 10年前、私はムルンと獣魔契約することを約束している。
 獣魔契約は使い魔契約の古い言い方で、根本は変わらない。
 別に使い魔は何匹いたところで変わらないけど、ムルンみたいな神鳥は最初の1匹にこだわったりするのかもしれない。

 臍を曲げることはないけど、最初に契約したのはムルンなのだから、できれば報いてやりたい気持ちは私の中にはある。
 でも、如何せん本人がどこにいるのかわからないのよね。
 1度神界に帰るって言ったきり、戻ってきた気配もないし。
 たまに声に出して呼んだりしたけど、結局現れなかった。

「全く……。どこで道草を食ってるのかしら。早くしないと浮気するわよ」

 不平不満を口にしながら厩舎を歩いていると、檻の前で蹲るようにして座っている女性団員を見かけた。
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