32 / 74
第三章
第26.5話(後編)
しおりを挟む
「ヘブンズバードか……。さすがヴェルだね」
優しげな声が聞こえる。
私の横から現れたのは、ルースだった。
「ルースは使い魔を決め――――」
たの? と聞こうとした時、私の目に角を生やした馬が映る。
真っ白な見事な毛並みに、堂々とした貫禄ある鬣。
綺麗なユニコーンだった。
「る、ルース、それ……」
「ああ。これ? ユニコーンだよ。かわいいでしょ」
ルースはユニコーンの鼻を撫でてやる。
すっかり懐いているらしく、大きな目を細めると、さらに尻尾を振った。
すごい。もうすでに信頼関係ができてる。
ユニコーンって、とても気位が高いって聞くのに。
その分契約できた時のメリットも大きいけど、すでに深い部分で繋がってる感じだ。
それはヴェルとヘブンズバードに言えるだろう。
(それにしても、ルースとユニコーンのツーショットは絵になるわねぇ)
そのまま絵画展にでも出したら入賞しそう。
王子様とユニコーン……なんてね。
「ミレニアは使い魔を決めたの?」
「それが、まだピンと来る子がいなくて……。あはははは」
「違うでしょ、ミレニア。あんたさっきあっちで、キラーボアに近づいたらめちゃめちゃ怖がられてたじゃない」
「ええええ!? あの厳つい顔をしたキラーボアに!!」
私の方にやって来たヴェルがからかうと、ルースはちょっと大げさに驚いていた。
うう……。ヴェルに見られていたのか。恥ずかしい。
キラーボアって有名な英雄譚に出てくるぐらい名の通った猪の精霊なのだけど、ともかく怖くて厳つい顔をしている。子どもを近づけるだけで、ギャン泣きするほどの目力を持っていて、人気もない。
私は好きなんだけどなあ。ちゃんと信頼関係を結ぶと、笑った顔とか結構かわいいし、お腹が柔らかくて枕代わりにはちょうどいいのよね。
でも、ここにいるのはキラーボアの子どもだったらしく、私が近づくと一目散に逃げてしまった。
それはキラーボアだけじゃなく、ここにいる厩舎のほとんどの使い魔がそんな感じだったのだ。精霊は非常に頭がいい。多分、本能的に私が上位の存在に気付いている可能性がある。
神様とも繋がっていたりするし、私のことを恐れ多いとか思ってそう。。
「大方、あんたの出鱈目さに本能的に気付いているのかもね」
ヴェルの指摘は、割と当たっているから反論ができない。
「落ち着いて、ミレニア。厩舎はまだあるんだ。ゆっくり落ち着いて、回ればいいと思うよ」
「ありがとう、ルース。私の味方はあなただけだわ」
ふと顔を上げると、人が集まってきていた。
多分ヘブンズバード、ユニコーンと契約したヴェルとルースが珍しいのだろう。
称賛の声もあったけど、遠巻きに窺う瞳にはどこか羨むような感情を感じた。
一旦私は離れた方が良さそうね。
「私、もう1回厩舎を回ってくるわ。また後でね」
「あ。ミレニア」
「放っておきなさいよ、ルース。どうせミレニアのことなんだから、あたしたちの斜め上を行くような使い魔を連れてくるわよ」
「ふふ……」
「何よ。気持ち悪いわね」
「ヴェルはミレニアを信頼してるんだね」
「べ、別に!! み、ミレニアはあたしより成績が良かったのよ。ヘブンズバードより凄い使い魔を連れてきて当然って言ってるの」
「ふふ……。そういうことにしておくよ」
またルースは微笑むのだった。
◆◇◆◇◆
2人がそんなやりとりをしているとは知らず、私は厩舎を見回る。
どうやら半分ぐらいの団員が決め兼ねているようだ。
まだ焦る必要はないみたいだけど、2人を見てると早くしなきゃって思ってしまう。
ただ1つ気がかりがある。
10年前、私はムルンと獣魔契約することを約束している。
獣魔契約は使い魔契約の古い言い方で、根本は変わらない。
別に使い魔は何匹いたところで変わらないけど、ムルンみたいな神鳥は最初の1匹にこだわったりするのかもしれない。
臍を曲げることはないけど、最初に契約したのはムルンなのだから、できれば報いてやりたい気持ちは私の中にはある。
でも、如何せん本人がどこにいるのかわからないのよね。
1度神界に帰るって言ったきり、戻ってきた気配もないし。
たまに声に出して呼んだりしたけど、結局現れなかった。
「全く……。どこで道草を食ってるのかしら。早くしないと浮気するわよ」
不平不満を口にしながら厩舎を歩いていると、檻の前で蹲るようにして座っている女性団員を見かけた。
優しげな声が聞こえる。
私の横から現れたのは、ルースだった。
「ルースは使い魔を決め――――」
たの? と聞こうとした時、私の目に角を生やした馬が映る。
真っ白な見事な毛並みに、堂々とした貫禄ある鬣。
綺麗なユニコーンだった。
「る、ルース、それ……」
「ああ。これ? ユニコーンだよ。かわいいでしょ」
ルースはユニコーンの鼻を撫でてやる。
すっかり懐いているらしく、大きな目を細めると、さらに尻尾を振った。
すごい。もうすでに信頼関係ができてる。
ユニコーンって、とても気位が高いって聞くのに。
その分契約できた時のメリットも大きいけど、すでに深い部分で繋がってる感じだ。
それはヴェルとヘブンズバードに言えるだろう。
(それにしても、ルースとユニコーンのツーショットは絵になるわねぇ)
そのまま絵画展にでも出したら入賞しそう。
王子様とユニコーン……なんてね。
「ミレニアは使い魔を決めたの?」
「それが、まだピンと来る子がいなくて……。あはははは」
「違うでしょ、ミレニア。あんたさっきあっちで、キラーボアに近づいたらめちゃめちゃ怖がられてたじゃない」
「ええええ!? あの厳つい顔をしたキラーボアに!!」
私の方にやって来たヴェルがからかうと、ルースはちょっと大げさに驚いていた。
うう……。ヴェルに見られていたのか。恥ずかしい。
キラーボアって有名な英雄譚に出てくるぐらい名の通った猪の精霊なのだけど、ともかく怖くて厳つい顔をしている。子どもを近づけるだけで、ギャン泣きするほどの目力を持っていて、人気もない。
私は好きなんだけどなあ。ちゃんと信頼関係を結ぶと、笑った顔とか結構かわいいし、お腹が柔らかくて枕代わりにはちょうどいいのよね。
でも、ここにいるのはキラーボアの子どもだったらしく、私が近づくと一目散に逃げてしまった。
それはキラーボアだけじゃなく、ここにいる厩舎のほとんどの使い魔がそんな感じだったのだ。精霊は非常に頭がいい。多分、本能的に私が上位の存在に気付いている可能性がある。
神様とも繋がっていたりするし、私のことを恐れ多いとか思ってそう。。
「大方、あんたの出鱈目さに本能的に気付いているのかもね」
ヴェルの指摘は、割と当たっているから反論ができない。
「落ち着いて、ミレニア。厩舎はまだあるんだ。ゆっくり落ち着いて、回ればいいと思うよ」
「ありがとう、ルース。私の味方はあなただけだわ」
ふと顔を上げると、人が集まってきていた。
多分ヘブンズバード、ユニコーンと契約したヴェルとルースが珍しいのだろう。
称賛の声もあったけど、遠巻きに窺う瞳にはどこか羨むような感情を感じた。
一旦私は離れた方が良さそうね。
「私、もう1回厩舎を回ってくるわ。また後でね」
「あ。ミレニア」
「放っておきなさいよ、ルース。どうせミレニアのことなんだから、あたしたちの斜め上を行くような使い魔を連れてくるわよ」
「ふふ……」
「何よ。気持ち悪いわね」
「ヴェルはミレニアを信頼してるんだね」
「べ、別に!! み、ミレニアはあたしより成績が良かったのよ。ヘブンズバードより凄い使い魔を連れてきて当然って言ってるの」
「ふふ……。そういうことにしておくよ」
またルースは微笑むのだった。
◆◇◆◇◆
2人がそんなやりとりをしているとは知らず、私は厩舎を見回る。
どうやら半分ぐらいの団員が決め兼ねているようだ。
まだ焦る必要はないみたいだけど、2人を見てると早くしなきゃって思ってしまう。
ただ1つ気がかりがある。
10年前、私はムルンと獣魔契約することを約束している。
獣魔契約は使い魔契約の古い言い方で、根本は変わらない。
別に使い魔は何匹いたところで変わらないけど、ムルンみたいな神鳥は最初の1匹にこだわったりするのかもしれない。
臍を曲げることはないけど、最初に契約したのはムルンなのだから、できれば報いてやりたい気持ちは私の中にはある。
でも、如何せん本人がどこにいるのかわからないのよね。
1度神界に帰るって言ったきり、戻ってきた気配もないし。
たまに声に出して呼んだりしたけど、結局現れなかった。
「全く……。どこで道草を食ってるのかしら。早くしないと浮気するわよ」
不平不満を口にしながら厩舎を歩いていると、檻の前で蹲るようにして座っている女性団員を見かけた。
0
お気に入りに追加
3,170
あなたにおすすめの小説
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
根暗令嬢の華麗なる転身
しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」
ミューズは茶会が嫌いだった。
茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。
公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。
何不自由なく、暮らしていた。
家族からも愛されて育った。
それを壊したのは悪意ある言葉。
「あんな不細工な令嬢見たことない」
それなのに今回の茶会だけは断れなかった。
父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。
婚約者選びのものとして。
国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず…
応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*)
ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。
同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。
立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。
一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。
描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。
ゆるりとお楽しみください。
こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
[完結] 私を嫌いな婚約者は交代します
シマ
恋愛
私、ハリエットには婚約者がいる。初めての顔合わせの時に暴言を吐いた婚約者のクロード様。
両親から叱られていたが、彼は反省なんてしていなかった。
その後の交流には不参加もしくは当日のキャンセル。繰り返される不誠実な態度に、もう我慢の限界です。婚約者を交代させて頂きます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる