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第1章

第14.5話 オークと仲間(後編)

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 皆が一斉に振り返ると、赤毛の狼族が立っている。
 『静かな狼』の主人ウォルナーさんである。
 冒険者たちを威嚇しながら、大股で歩いてくる。
 俺の前に立った。

「あたしも行くよ」

「ウォルナーさんが……。でも――」

「不服かい?」

 ニヤリとウォルナーさんは笑う。
 途端、彼女の背中から冷たい殺意が滲み出てくる。
 ビリビリと俺の肌を突いた。
 現役を引退した元冒険者と思えない。
 周りに覇気を放っていた。

「よろしくお願いします。――っで、もう1人は?」

「よう。兄ちゃん」

 ウォルナーさんの巨躯の後ろから現れたのは、武器屋のデレクーリさんだった。

「な、なんで……。デレクーリさん、武器屋じゃ」

「こいつもあたしと同じ口さ」

「じゃあ、元冒険者なんですか?」

 俺が尋ねると、ウォルナーさんは自分の禿頭を叩いた。
 若干顔を赤くし、照れる。

「そうさ。昔、『戦鬼』なんていわれて、調子に乗ってたもんさ」

「うぉ、ウォルナー! 余計なこというなよ。だいたいオレは、兄ちゃんにやっぱ代金を返さなきゃって思ってだな」

「デレクーリ、万歳しな」

「は? 何を言って」

「いいから」

「なんだよ、一体……」

 デレクーリさんは言われた通り、両手を挙げる。
 すると、いきなり上着の裾を掴むと、一気に服を脱がした。
 現れたのは、綺麗に割れた腹筋だ。
 肩や腕の筋肉も隆起している。
 俺なんかより遙かに冒険者らしい体格をしていた。

「はん! まだ衰えちゃいないようだね」

「いきなり人前で脱がせるなよ」

 ウォルナーさんから上着を奪う。
 若干頬を赤くしながら、いそいそと服を着直した。

「というわけだ、ネレム。あたしとこいつは一時的に現役に戻る。手続きをしてくれ」

「おい! 勝手に決めるなよ、ウォルナー」

「国の一大事なんだ。呑気に武器を売ってる場合じゃないだろ」

「ま、まあ……。そりゃそうなんだけどよ」

「お2人とも、本当によろしいんですか?」

 ネレムさんは少々心配げに尋ねる。
 だが、ウォルナーさんは鼻で笑い、一蹴した。

「構わない。やっとくれ」

「しゃーねぇなあ……。ネレムちゃん、いっちょ頼むぜ」

「わかりました。でも、くれぐれも無理をなさらずに」

「そいつは難しいねぇ。久しぶりの現場復帰だ。暴れさせてもらうよ」

「相変わらず血の気の多いことで……」

 デレクーリさんは禿頭を撫でる。
 渋々といった様子で承諾した。

 するとウォルナーさんは集まった冒険者たちの方に振り返る。

「情けねぇツラばかりしやがって。あんたらの股下には、付いてるもんが付いてるのかい? 逃げ出す? それもいいさ。どこへなりともな行きな。けどね、冒険者がリスクを忘れたら、そりゃ冒険者とはいえねぇ。花壇で花でも植えてな!」

 しぃん…………。

 水を打ったように静まりかえった。
 冒険者の矜持を抉る強烈な一言である。
 それを元冒険者に言われたら、ぐうの音も出ないのだろう。

「ちっっっくしょぉぉぉぉおおぉぉぉおおぉ!!」

 声が上がった。
 1人の冒険者が進み出てくる。

「ロートルが出っ張って、オレたち現役が出ない行かないわけにはいかないだろ」
「そうだ。ここまで言われて、引き下がれるか!」
「やってやるぜ!」
「オークがなんだってんだ!」
「あたいもやるよ!」

 次々と参戦する冒険者が現れる。
 結局、村には20名の冒険者が向かうことになった。

「ありがとうございます、ウォルナーさん、デレクーリさん」

 俺は礼を言う。
 すると、ウォルナーさんは顔をほころばせた。

「お礼を言うのは、あたしたちの方さ。よく手を挙げてくれたね。召喚されたあんたにとっては、縁もゆかりもない街なのに」

「ありますよ。この街には、俺の家族と恩人がいますから」

 ウォルナーさんは、恩人と言われて、自分のことだと気付く。
 赤い毛が、さらに赤くなったような気がした。
 そしていつも通り、俺の背中を叩く。
 相変わらず、ウォルナーさんの張り手は背筋が伸びるわ。

「言うようになったじゃないか、坊や。さて行くよ、野郎共。野郎で豚野郎をぶっ殺してやるのさ!!」


 うぉおぉぉおぉぉぉおおぉぉぉおおぉおぉおぉぉおぉお!!


 先ほどまでお葬式の参列者みたいだった冒険者たちが、声を張り上げる。
 テンションは上がり、その顔には笑みすらあった。

 騒がしいギルドの中で、俺はネレムさんに話しかける。

「ネレムさん、お願いがあるんですが……」

「なんでしょうか。私ができることなら、なんでもしますよ」

 ぐっと拳を掲げ、ポーズを取る。
 大きな胸がぷりんと動いた。
 思わず釘付けになりそうになったが、俺は煩悩を払う。

「家に伝言をお願いできますか。今日は遅くなるけど、必ず帰るって」

「…………わかりました。責任を持って、伝言させていただきます」

 こうして俺たちは、オーク討伐に出かけることになったのだ。
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