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第1章

第5.7話 ハンバーガーとスライム④

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 ザッ……バァァァァアアアアアアンンンンン!!


 捕獲玉から一気に何かが溢れる。
 それは小波のようにギルドに広がった。
 現れたのは、スライムだ。

 ネレムさんは目を丸くする。

「こ、これは?」

「ざっと100匹はいると思う。すまん。狩りに夢中になってたら、取り過ぎた」

「ひゃ、100匹だとぉ!!」

 ヴィンターは叫んだ。

 正直、俺も驚いている。
 最初は、10匹倒したら、すぐ帰るつもりだった。
 けれど、狩れば狩るほど楽しくなってきて、気がつけば100匹も捕獲してしまった。
 どうやら、俺はそういう性分らしい。

 実は100匹以上倒したのだが、捕獲玉の限度を越えてしまったらしい。
 ついには捕獲玉の中に収容できなくなってしまった。

「で、でも、このスライム……。赤いヽヽぞ。もしかして、これファイヤースライムか?」

 冒険者の1人が指摘する。
 ギルド中に飛び散ったスライムの残骸を見つめながら、他の冒険者たちが騒ぎ始めた。

「ふぁ、ファイヤースライムって!」
「スライムの上位種じゃないか」
「レベル8でも難しいっていう魔物だぜ」
「それを100匹以上も狩ったのかよ」

 またしても驚いていた。
 唖然とした顔で俺を見つめる。

 その中で、大きな声を出して笑うものがいた。
 ヴィンターだ。
 俺を指差し、糾弾する。

「そうか、お前! 上位種がいる森に入ったんだな。そこでスライムを探したってわけだ。けどな。依頼はスライムだろ! ファイヤースライムじゃない! いくら上位種であろうと、倒す魔物を間違ってる。つまり、お前はクエスト未達成ってわけだ」

「違う……」

「何が違うんだよ」

「俺が探していたのはファイヤースライムなんだよ!」

 俺はネレムさんからもらった手配書を見せる。
 そこには「ファイヤースライム」という名前と特徴。
 そして赤いスライムが描かれていた。

 そうだ。
 俺は青いスライムを探していなかった。
 最初から赤いスライムを探していたから、見つけられなかったのだ。

「な、なんで? 最初からファイヤースライムって……。お前、初心者だろ」

「リックさんの実力なら、これぐらい当然です。まあ、100匹も捕まえてくるとは思わなかったですけど……」

 ネレムさんは俺を睨む。

 俺は苦笑して誤魔化すしかなかった。

「ヴィンターさん、あなたが新人の冒険者に対して、陰湿な行為を繰り返していたことは知っています。おかげで、有望株の冒険者が次々と潰れていったことも。これはギルドに対する業務妨害といってもいいでしょう!」

「な、なんだと……」

「よって、ギルドはあなたから冒険者権限を剥奪することにしました」

「な! 冒険者剥奪だと! オレはレベル10の冒険者だぞ!! 元ギルドマスターを手放すというのか? 後悔するぞ!」

「構いません。うちには、リックさんという頼もしい新人がいますので」

「下手に出てりゃいい気になりやがって! 今まで可愛い顔してたから、苛つく言動も許してやってたけどな。ネレム! オレは前からあんたがいけ好かない女だと思ってたんだ!」

「奇遇ですね、私もあなたのことが大っ嫌いでした、ヴィンターさん」

「このクソあまぁ! 痛い目みねぇと気がすまねぇようだな」

 とうとうヴィンターが剣を抜いた。

 おいおい。マジか……。

「い、いいんですか? 私を傷つけたら、いよいよ牢獄送りですよ」

「かまわねぇよ。その前に、お前をお嫁に行けない姿にしてやる!」

 ヴィンターは吠えた。

 やれやれ……。
 ここは俺が助けに入るか。
 
 俺はヴィンターとネレムさんの間に割って入る。

 しかし――。


 騒がしいね……。


 やたらドスの利いた声が、ギルドに響く。
 俺はその声の主を知っていた。
 スイングドアを開けて現れたのは、大きな狼族だった。

「ウォルナーさん!」

 俺は声をかける。
 彼女はこちらを向くと、目を釣り上げた。

「いつまでルーナを待たせてるんだい! 早く帰ってきな!!」

 一喝した。
 それはまさしく狼の遠吠えのように鳴り響く。

 やばい……。
 かなりお怒りらしい。

 目が据わったウォルナーさんの標的は、抜剣したヴィンターに向いた。
 さっきまで顔を赤くしていた男の顔から血の気が引いていく。
 しまいにはガタガタと震え始めた。

「何してるんだい、ヴィンター」

「いや、これは……。その……。そ、そう! 新人に剣を――」

「ギルドの中で武器は抜くなって教えただろうが!!」

 ウォルナーさんは吠えた。
 同時に拳を振るう。
 見事なフックがヴィンターの頬を捉えた。
 そのままスライムの海となった床に突っ込む。

 すげぇ、馬鹿力……。

 俺は思わず呆然と狼族の店主を見つめた。

「帰るよ」

 ウォルナーさんは、ふんと鼻を鳴らすのだった。
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