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22. ピクニック
しおりを挟むミーンソー卿のひと騒動から数日後、急に仕事がキャンセルになったわたしは、久しぶりの休みにいつも窮屈な生活をさせてしまっているシリルくんを連れて街に出て来ていた。
カイルさんの件の埋め合わせもあるけど、悪魔だってバレないようにするわたしに配慮して一人での外出を極力せず、ずっと家でお留守番してくれているシリルくんに申し訳なくて。
勝手に押し掛けて来たんだから本来ならそんな気を使わなくていいんだとは思うけど、なまじ格好が幼いからなんだかこっちが悪いことをしている気になってくる。
「ねえ見て、美味しそう! あれも買って行こう、ねっ?」
久しぶりに外に出られて嬉しいのか、いつもより弾んだ声のシリルくん。
彼が指差したサンドイッチを購入して、随分と重さの増した籠に入れた。
籠の中には既に購入した飲み物や果物、クッキーなんかも入っていて、二人で食べるには充分過ぎる量だ。
シリルくんに何がしたいかと聞いた結果、ピクニックに行くことになった訳だけど、わたしもシリルくんもピクニックなんてしたことがなくて準備に戸惑ってしまう。
最初に果物を買ったお店で聞いた話だと、ピクニックは自然豊かな場所で美味しいものを食べることらしいからいろいろと買ってみたけど、シリルくんの珍しくはしゃいだ姿が見れて心がじんわり暖かくなった。
最近ストレスの連続だったしね。
ただでさえ得体の知れない悪魔を祓うのは精神的に疲れるのに、エミリーちゃんの件やミーンソー卿の件…………ついでにカイルさんのことなんかもあって、わたしの疲弊度はマックスだ。
カイルさんは何事もなかったかのように、あの日以降もちょこちょこ家に来てはシリルくんにちょっかいをかけて帰っていくけれど、シリルくんはその度に不機嫌になるし、わたしはわたしでなんだか落ち着かない気持ちになる。
これもカイルさんがシリルくんにあの朝のことを打ち明けるからだ、とジト目で抗議してみるけど当の本人は知らん顔を決め込んでいた。
そもそもこんな状況になっているのはエクソシストになったからだし、本当、エクソシストになってから散々なことばかり。
シリルくんのことを知れば知るだけ悪魔を祓うことが心苦しく思えてきたし、正直わたしもエミリーちゃんのことを言えない。
ちょっとばかり、――いやかなり給金は貰えているけれど、その給金に釣られて教会で働き出さなければ、こんなにも悩みの多い生活にはならなかったはず。
…………でもエクソシストになってなかったら、こんなに暖かな気持ちになることもなかった、のかな?
多分、弟がいたらこんな感じなんだろうな、って最近思う。
わたしが育った孤児院にも年下の子はいっぱいいたけど、みんな何気に逞しくて、わたしが構うまでもないというか……
本当はわたしよりうんと年上のシリルくんに弟みたいだなんて言ったら失礼なんだろうけど。というか言ったら言ったで拗ねられそうだ。
「カティ! 早く行かないと日が暮れちゃうよ!」
「……うん、そうだね!」
「早く早く」と急かすシリルくんに引っ張られて向かうのは、前にシリルくんが乗り移っていたクラムくんの家の近くの草原。
家族と外出したときに見つけたらしく、今回のピクニックにはぴったりなんじゃないかってシリルくんが説明しながら目を輝かせていた場所だ。
そんなに離れた場所じゃないから徒歩で向かったんだけど、移動中もシリルくんはずっと上機嫌で、年相応――じゃなかった、見た目相応に見えた。
ピクニックの正しい楽しみ方は結局分からなかったけど、わたしたちなりに楽しめたと思う。
自然を眺めながら美味しいご飯を食べて、のんびりとした時間を送る。
シリルくんと二人で草原に横になって、彼が悪魔として生活していた頃の話なんかを聞いたりもした。
意外な話、シリルくんは元々いた魔界(?)では結構なお坊ちゃんで通ってるらしい。少し照れ臭そうにして話してくれたんだけど、シリルくんがお坊ちゃんだなんて想像したら可愛くて笑ってしまった。
空が茜色に染まるまで楽しんだわたしたちは名残惜しい気持ちを抱きながら帰路を歩いていた。
当初の思惑通り気分転換になったのか、心なしかシリルくんの表情も晴れやかだ。
お腹いっぱい過ぎて少し服が苦しいけど、同じくらい胸がいっぱいだから悔いはない。……いや、やっぱり明日からしばらく軽めのご飯にしよう。
密かな決意を胸に足を進めていると、隣を歩いていたシリルくんが突然足を止めた。
「シリルくん? どうした――」
「カティ」
不思議に思って問いかけたわたしの声を遮ったのは――――
「…………クリストファー、さん?」
エクソシストの制服を身に纏い、難しい表情でこちらを見つめるクリストファーさんだった。
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