22 / 25
22. 祖国の近況
しおりを挟む夏もそろそろ終盤を迎え、夜になると窓から時折涼しい風が入ってくるようになった。
当初の予定より随分と長引いてしまっているが、ゆかりの「せっかくだから日本での生活を楽しんでもらいたい」という気持ちは健在のようで、たまに連れ出してはランバートに新しい驚きを与えている。
山や川、街など、元の世界にもある場所も巡ったが、山の中を突っ切るように穴を開けたトンネルや、星空を観測するための巨大な望遠鏡、沢山の車が凄い速さで走り抜ける高速道路なんかは山の上から見ただけでも圧巻だった。
つい先日バーベキューをした際には、もれなく修司も着いてきたのだが、二人きりになる時間がなかったため物言いげな視線こそ送られたが前みたいに小言を言われることもなかった。
――そして、明日に控えるのは花火大会。
空だけでなく海面にも映るそれがとても綺麗だとゆかりから聞いていたランバートは、その光景を見るのをとても楽しみにしていた。
浮つく気分を抑え、明日に備えて眠りについていたランバートは、違和感に意識を浮上させた。
(なん、だ? 今のは……?)
誰かが遠くから話しかけてきているような感覚――
すぐに眠気を振り払い意識を集中させると、次第にその声が近付いてきたのか鮮明に聞こえるようになってきた。
「――ぉ……い、聞こえるか?」
「……フォルテか!?」
待ち望んでいた友人の声に、ランバートはガバッと身を起こした。
通信だからその様子は見えないはずだが、声からその勢いが分かったのか、フォルテの苦笑する声が響いた。
「その様子だと無事みたいだな」
「ああ。運良く親切な者と知り合うことが出来てな。その者に世話になっている。そっちはどうだ?」
「こっちはかなり面白いことになってるぜ? お前の部下が第一皇子に食ってかかってな」
「なにっ!? そんなことして無事なわけないだろう!?」
相手は仮にも第二皇子。
ランバートを異世界へ放り出したことを見ても、報復に何をしでかすか分からない。下手したらありもしない罪をでっち上げて死罪だと言われる可能性だってある。
自分のためにそんな危険を冒すことになった部下の処遇を危惧するランバートに、落ち着いた声がかけられた。
「まあ、最後まで聞け。証拠こそまだないが、見つかるのも時間の問題だろう。第三皇子が消え、その容疑が第二皇子にかかっている。流石に事なかれ主義の陛下も動くだろうな」
「だ、だが父上がその部下を切り捨てる可能性だってあるだろう!?」
「なぁに、お前の部下たちはかなり大々的に騒いでな。この件は民衆にも知れ渡っている。そんなことした日にゃあこの国は終わりだな」
「……そんなことが、本当に……」
国が滅ぶ。
何百年も続いてきたサンヴァウム国転覆の危機に自分たちが関わっていると知り、ランバートの顔から血の気が引いていく。
(あ、兄上は――いや父上はちゃんと事の重大性を分かっているのだろうか)
”事なかれ主義”、そうフォルテから評されたランバートの父は政治に疎いところがあった。
その都度周りがフォローに回り、事なきを得ているのだが、今回は派閥の問題が絡んでくる。
口だけは達者の側妃に丸め込まれて有耶無耶に済ませることだって何度もあった。
「ま、それはいいんだよ。そんなことより、お前をこっちに戻す手段なんだが、第二皇子派の俺の部下が二人姿くらましてっからそっち当たってみるわ」
「おい、あまり危険なことはするな」
「国が滅ぶ程の馬鹿はしねぇよ。そんで……あ、やべ。邪魔が入るわ。とりあえず半月後! また連絡するからあと半月待っとけ!」
それだけ言って突然切断された交信に、ランバートは唇を噛み締めた。
部下が、友人が、ランバートを助けるために今まさに危ない橋を渡っている。
(俺は……待っていることしか出来ないのか――!?)
知らぬ間に握り締めていた拳に爪が刺さり血が落ちるのにも気付かず、ランバートはしばらくの間、悔しさに肩を震わせていた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】淑女の顔も二度目まで
凛蓮月
恋愛
カリバー公爵夫人リリミアが、執務室のバルコニーから身投げした。
彼女の夫マクルドは公爵邸の離れに愛人メイを囲い、彼には婚前からの子どもであるエクスもいた。
リリミアの友人は彼女を責め、夫の親は婚前子を庇った。
娘のマキナも異母兄を慕い、リリミアは孤立し、ーーとある事件から耐え切れなくなったリリミアは身投げした。
マクルドはリリミアを愛していた。
だから、友人の手を借りて時を戻す事にした。
再びリリミアと幸せになるために。
【ホットランキング上位ありがとうございます(゚Д゚;≡;゚Д゚)
恐縮しておりますm(_ _)m】
※最終的なタグを追加しました。
※作品傾向はダーク、シリアスです。
※読者様それぞれの受け取り方により変わるので「ざまぁ」タグは付けていません。
※作者比で一回目の人生は胸糞展開、矛盾行動してます。自分で書きながら鼻息荒くしてます。すみません。皆様は落ち着いてお読み下さい。
※甘い恋愛成分は薄めです。
※時戻りをしても、そんなにほいほいと上手く行くかな? というお話です。
※作者の脳内異世界のお話です。
※他サイト様でも公開しています。
6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった
白雲八鈴
恋愛
私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。
もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。
ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。
番外編
謎の少女強襲編
彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。
私が成した事への清算に行きましょう。
炎国への旅路編
望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。
え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー!
*本編は完結済みです。
*誤字脱字は程々にあります。
*なろう様にも投稿させていただいております。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
「あなたのことはもう忘れることにします。 探さないでください」〜 お飾りの妻だなんてまっぴらごめんです!
友坂 悠
恋愛
あなたのことはもう忘れることにします。
探さないでください。
そう置き手紙を残して妻セリーヌは姿を消した。
政略結婚で結ばれた公爵令嬢セリーヌと、公爵であるパトリック。
しかし婚姻の初夜で語られたのは「私は君を愛することができない」という夫パトリックの言葉。
それでも、いつかは穏やかな夫婦になれるとそう信じてきたのに。
よりにもよって妹マリアンネとの浮気現場を目撃してしまったセリーヌは。
泣き崩れ寝て転生前の記憶を夢に見た拍子に自分が生前日本人であったという意識が蘇り。
もう何もかも捨てて家出をする決意をするのです。
全てを捨てて家を出て、まったり自由に生きようと頑張るセリーヌ。
そんな彼女が新しい恋を見つけて幸せになるまでの物語。
妹の妊娠と未来への絆
アソビのココロ
恋愛
「私のお腹の中にはフレディ様の赤ちゃんがいるんです!」
オードリー・グリーンスパン侯爵令嬢は、美貌の貴公子として知られる侯爵令息フレディ・ヴァンデグリフトと婚約寸前だった。しかしオードリーの妹ビヴァリーがフレディと一夜をともにし、妊娠してしまう。よくできた令嬢と評価されているオードリーの下した裁定とは?
夫が浮気をしたので、子供を連れて離婚し、農園を始める事にしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
10月29日「小説家になろう」日間異世界恋愛ランキング6位
11月2日「小説家になろう」週間異世界恋愛ランキング17位
11月4日「小説家になろう」月間異世界恋愛ランキング78位
11月4日「カクヨム」日間異世界恋愛ランキング71位
完結詐欺と言われても、このチャンスは生かしたいので、第2章を書きます
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる