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63. 告白
しおりを挟むラーナと二人、無事に部屋に戻って来た俺は、ほっと息を吐いた。
俺の身体に入っているとはいえ、相手はあのサタン。
何度か話す内に随分慣れたと思っていたが、やはり緊張していたみたいだ。
ちらりと時計を見ると、針は既にてっぺんを過ぎていた。
明日は忙しくなるな、なんて考えていたら左手をぎゅっと握られて、まだラーナの手を握ったままだったことを思い出す。
「あ、あの……サタン様……」
「え? あ、ごめん。握ったまま――」
「申し訳ございませんっ!!」
「へ?」
手を離そうとした瞬間勢いよく下げられた頭に、気が付けば間の抜けた声が出ていた。
頭は下げられたまま、彼女の肩は微かに震えていた。
え、泣いてる?
「ど、どうしたっ!? そんなに俺と手を繋ぐのが嫌だったか!?」
「ぢがいますぅ……! わた、私が勘違いして……っ、サタン様にご迷惑をおがげしてっ!」
一緒に転移する条件が分からなかったから、行ったとき同様手を繋いで接触を持ってみたのが嫌だったのかと思ったが、そうじゃないみたいだ。
勘違い? と考えたところで、転移中に乱入してしまった件だと気付く。
いきなり転移した先で本物に会って、さぞ驚いたことだろう。
それがこっちに戻って来たことで、張り詰めていた糸が切れたんだな。
「大丈夫。本物のサタン様だって許してくれただろ? そんなに気にすることないよ。少しびっくりしたけど、俺のこと心配してのことだから、その……俺は嬉しかったよ?」
「――っ!? で、ですが私は貴方様を危険にさらして――」
「サタン様の睨み、怖かったもんな。よしよし」
怒ってないってことを示すように、出来るだけ優しい声で慰める。
納得がいかない風に頭を上げて反論するラーナの目が赤くなっていて痛々しい。
これ以上自分を責めないように、彼女をそっと腕の中に包んで背中を擦る。
自分の身体ながら、あの威圧感は凄かった。
多分俺がやっても同じようには出来ないと思う。
同じ身体なのに、中身が違えばこうも差が出るものなんだなと思い巡らせていると、腕の中から控えめな、困惑した声が呼びかけてきた。
ん? 腕の中……?
「あ、あのサタン様。恥ずかしいです……」
「え? えぇっ!? ご、ごめ――っ」
無意識に抱き締めていたことに気付き、慌てて離した。
自分でも驚く行動に顔に血が集まるのが分かる。
それが幸をなしたのか、ラーナの涙は引っ込んでいた。
「――あの、」
「そういえば――って、ごめん。先にいいよ」
「は、はい。確認なのですが、あのぅ……ご結婚などはされてません、よね?」
「へ? あ、うん。そうだけど」
気まずい空気を打ち消すように何か言おうと口を開いたが、ちょうど彼女が何か言いかけていて被ってしまった。
ラーナに先を促すと、何故か恐る恐るといった調子で俺が未婚かどうかを聞いてきた。
意図が分からず戸惑う俺を余所に、ラーナは大きく息を吸うと力強い瞳で真っ直ぐ俺を見た。
「――私も、一緒に……サタン様と一緒に生きていきたいです!」
「えぇっ!? ちょっと待って! それって俺!? それとも向こう!?」
「そんなのっ、貴方様に決まってるじゃないですか!!」
真っ赤な顔で詰め寄って来たラーナ。
こ、これって告白されてるんだよな!?
「で、でもこの身体は本物のもので、本当の俺はあんな感じで普通の――冴えない奴なんだけど」
「見た目なんて関係ありませんっ! それに本来の姿の方も優しげで、とても…………素敵でした。私じゃ駄目ですか……?」
最初の勢いは何処へやら。
段々小さくなっていく声に耳をすましていた俺は、最後の最後で心臓を撃ち抜かれた。
脈が急に速くなり、全身の血液が顔に集中しているような錯覚を覚える。
「え……ちょ、マジで?」
「っ、はい……」
顔を赤くして俯くラーナをぎゅっと抱き締める。
ちゃんと自分の意思で抱き締めた彼女はとても小さくて、石鹸の優しい香りがした。
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