50 / 66
50. 協力者
しおりを挟むアスタロトが売った物でかなりの利益が出たらしく、ここ最近のベルゼは機嫌がいい。
味を占めたベルゼは、アスタロトを商売係に任命したらしく、アスタロトは今日もまた、人間界にせっせと出稼ぎに行っている。
悪魔側としては利益が出ることは喜ばしいことだが、人間の俺からして見るとなんとも複雑な気分だ。
特に平和主義者の日本人にとっては。
急用とやらでうきうきと外出して行ったベルゼの代わりに、謁見中はベルちゃんが着いててくれたんだが、どこから話を聞いたのか相談者の数がいつもの倍に……
いや、気持ちは分かるけどね。
ベルちゃん美人だし。
美人、だけど……あの姿を目撃した身からしたら、なぁ。複雑だ。
顔が引き攣るのを抑えてベルちゃんに結婚しないのかと聞いたら、「サタン様なら喜んで」って言われてしまったし。
そんなこと勝手に決めたら今度こそサタンに殺されるから、それはもう必死に首を横に降っておいた。
「……ふぅ」
いつもより謁見者が多かったことで遅れた昼食を食べ、部屋に戻った俺は一息ついた。
ベルちゃんも午後からは用事があるとかで、守ってくれる人がいない俺は、くれぐれも城から出ないようにとベルゼに厳しく言われていた。
出来るだけ部屋にいて、出来るだけ部屋には人を入れない様に、とも。
ベルゼの過保護ぶりには若干引くが、実際何かあったときに困るのは目に見えているし、言われた通り大人しくしておくに限る。
「なんだかなぁ……」
本来なら一番力があるはずの魔王が守られている現況に、なんとも言えない虚しさを感じ――かけて、勢いよく首を振った。
いや俺人間だし。
力の使い方とか分かんないし。
「どうなされました?」
「ん……いや、紅茶のおかわり貰ってもいいか? あと何か甘い物も」
「はい! すぐに」
ラーナが用意してくれたシフォンケーキを一口。美味い。
それにしても、毎日こんなにお菓子食べても太らないとか、この身体羨ましいんだが。
人間と代謝が違うのか?
なんて暇をどうでもいいことを考えて潰していると控え目なノックの音が聞こえた。
一度こちらに視線を向けて、ラーナが対応に向かう。
「あっ、あの……サタン様にご報告したいことがございまして――」
「サタン様は今、お休みになられています」
「わ、あああっ――ちょっと待って!」
ベルゼの言い付け通り、断りを口にするラーナを慌てて止める。
ドアの隙間から見えたサラの手には本が握られていて――これはもしかするともしかするぞ!?
「入って話を聞かせてくれ!!」
「サタン様っ!!? ベルゼブブ様の言い付けはどうなさるのです!?」
「彼女には少し頼み事をしていて――ラーナ、頼むっ!!」
「私は……っ、――せめてっ、せめてお話を聞かせてはいただけませんか……?」
「……ええっと…………」
今にも泣き出しそうなラーナに心が痛む。
ううぅっ、泣かれるとどうしたらいいか分からなくなる。
やっぱり言わないってのが一番なんだろうけど、でも……
「あの……サタン様? 私も賛成です」
「サラ!?」
「やはり私達だけでは無理なことも多いので、信用のある協力者は必要です」
確かに、ラーナは今までも俺が記憶喪失だという秘密を守ってくれているし、信用はある。けど……
「…………分かった。ラーナを信じる」
疑心暗鬼になるより、目の前のラーナを信じよう。
声が漏れないように秘密の部屋に移動した俺達は、これまでのことをラーナに説明することにした。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
パラサイト/ブランク
羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。
紺青の鬼
砂詠 飛来
ホラー
専門学校の卒業制作として執筆したものです。
千葉県のとある地域に言い伝えられている民話・伝承を砂詠イズムで書きました。
全3編、連作になっています。
江戸時代から現代までを大まかに書いていて、ちょっとややこしいのですがみなさん頑張ってついて来てください。
幾年も前の作品をほぼそのまま載せるので「なにこれ稚拙な文め」となると思いますが、砂詠もそう思ったのでその感覚は正しいです。
この作品を執筆していたとある秋の夜、原因不明の高熱にうなされ胃液を吐きまくるという現象に苛まれました。しぬかと思いましたが、いまではもう笑い話です。よかったいのちがあって。
其のいち・青鬼の井戸、生き肝の眼薬
──慕い合う気持ちは、歪み、いつしか井戸のなかへ消える。
その村には一軒の豪農と古い井戸があった。目の見えない老婆を救うためには、子どもの生き肝を喰わねばならぬという。怪しげな僧と女の童の思惑とは‥‥。
其のに・青鬼の面、鬼堂の大杉
──許されぬ欲望に身を任せた者は、孤独に苛まれ後悔さえ無駄になる。
その年頃の娘と青年は、決して結ばれてはならない。しかし、互いの懸想に気がついたときには、すでにすべてが遅かった。娘に宿った新たな命によって狂わされた運命に‥‥。
其のさん・青鬼の眼、耳切りの坂
──抗うことのできぬ輪廻は、ただ空回りしただけにすぎなかった。
その眼科医のもとをふいに訪れた患者が、思わぬ過去を携えてきた。自身の出生の秘密が解き明かされる。残酷さを刻み続けてきただけの時が、いまここでつながろうとは‥‥。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる