魔王様のお掃除奮闘記

鈴花

文字の大きさ
上 下
38 / 66

38. 予想外のところから

しおりを挟む

 無事にくっ付いた二人に気を利かせて、早々に場所を移した俺とサラ。
 べ、別に目の毒とか、居た堪れなかったとか、そんなんじゃないからな!
 何ていうか……外人(悪魔だけど)の愛情表現って激しいよな。

 とにかく、無計画で飛び出した俺達が行く場所なんて特になく、つい近くにあった俺の部屋に入ったことに他意はない。
 隣だしな、うん。もう一度言うが、決して他意はないからな!

「ごめん、ラーナ」
「いえ、それ程大変ではないので」

 何度もお茶の用意をさせることになってしまいラーナに謝る。
 紅い薔薇が描かれた白いカップに紅茶が注がれて、部屋の中にいい匂いが満ちる。
 ここ最近では匂いで大体何の紅茶なのか分かるようになってきたが、これは初めて嗅ぐ香りだ。

「あれ……?」
「ん? どうした?」

 目を瞑って香りを堪能していると、ラーナの困っている声が聞こえて目を開く。
 何度か俺とサラの間で視線を彷徨わせると、何か決意を固めた顔で俺の目を真っ直ぐに見つめた。

「……サタン様、キッチンに茶菓子を取りに行ってまいります。すぐ、すぐに戻ります」
「ん。分かった。急がなくていいからな」
「いえ! す ぐ に 戻ってきます!」
「お、おう……」

 正直、さっきまでの茶会で腹は減ってないから、そんなに急ぐ必要はないんだけれど、すぐに戻ると言う彼女の勢いに押されて頷いた。

 優雅に部屋を出て行ったラーナだが、見えなくなったら一生懸命走ってくれているのかと思うと微笑ましい気持ちになる。
 緩んだ口元を隠すように一口紅茶を含むと、真剣な顔で何か考えている様子のサラが目に入った。

「何か心配事か? ここには俺しかいない。よかったら話してくれないか?」
「あ、あのサタン様……その……」
「ん?」
「……もし違っていたらすみません……その……貴方は……貴方は誰ですか?」
「は……?」

 完全に不意をつかれた俺の口からは、その一音を出すのが精一杯で。
 聞かれた意味を理解して問い直そうと口を開いたのと、ラーナが戻って来てドアをノックしたのは同時だった。

「失礼します。……サタン様? 何かございましたか?」
「いっ、いや何でもない……」
「……そうですか」

 すぐに取り繕うが、ラーナは納得のいかない表情だ。
 チラリとサラを見ると、彼女は何事もなかったかのような顔で紅茶を飲んでいた。
 ……俺もポーカーフェイスが出来るようになりたい。

 その後も、会話には参加しないが常にラーナが控えていて、さっきの話を聞くことが出来ないまま、夕食の時間となり茶会は終わった。

 紅茶でタプタプになった腹を擦りながら食堂へと向かう。
 暫く液体は見たくない気分だ。
 頭の中はサラの話のことでいっぱいで、軽くでいいと料理長に伝えるのを忘れた俺は、机の上に並べられたフルコースを見て大きく溜息を吐くのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

暗夜の灯火

波と海を見たな
ホラー
 大学を卒業後、所謂「一流企業」へ入社した俺。  毎日毎日残業続きで、いつしかそれが当たり前に変わった頃のこと。  あまりの忙しさから死んだように家と職場を往復していた俺は、過労から居眠り運転をしてしまう。  どうにか一命を取り留めたが、長い入院生活の中で自分と仕事に疑問を持った俺は、会社を辞めて地方の村へと移住を決める。  村の名前は「夜染」。

その影にご注意!

秋元智也
ホラー
浅田恵、一見女のように見える外見とその名前からよく間違えられる事が いいのだが、れっきとした男である。 いつだったか覚えていないが陰住むモノが見えるようになったのは運が悪い としか言いようがない。 見たくて見ている訳ではない。 だが、向こうは見えている者には悪戯をしてくる事が多く、極力気にしない ようにしているのだが、気づくと目が合ってしまう。 そういう時は関わらないように逃げるのが一番だった。 その日も見てはいけないモノを見てしまった。 それは陰に生きるモノではなく…。

THE TOUCH/ザ・タッチ -呪触-

ジャストコーズ/小林正典
ホラー
※アルファポリス「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」サバイバルホラー賞受賞。群馬県の山中で起こった惨殺事件。それから六十年の時が経ち、夏休みを楽しもうと、山にあるログハウスへと泊まりに来た六人の大学生たち。一方、爽やかな自然に場違いなヤクザの三人組も、死体を埋める仕事のため、同所へ訪れていた。大学生が謎の老人と遭遇したことで事態は一変し、不可解な死の連鎖が起こっていく。生死を賭けた呪いの鬼ごっこが、今始まった……。

銀の少女

栗須帳(くりす・とばり)
ホラー
昭和58年。 藤崎柚希(ふじさき・ゆずき)は、いじめに悩まされる日々の中、高校二年の春に田舎の高校に転校、新生活を始めた。 父の大学時代の親友、小倉の隣の家で一人暮らしを始めた柚希に、娘の早苗(さなえ)は少しずつ惹かれていく。 ある日柚希は、銀髪で色白の美少女、桐島紅音(きりしま・あかね)と出会う。 紅音には左手で触れた物の生命力を吸い取り、右手で触れた物の傷を癒す能力があった。その能力で柚希の傷を治した彼女に、柚希は不思議な魅力を感じていく。 全45話。

処理中です...