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38. 予想外のところから
しおりを挟む無事にくっ付いた二人に気を利かせて、早々に場所を移した俺とサラ。
べ、別に目の毒とか、居た堪れなかったとか、そんなんじゃないからな!
何ていうか……外人(悪魔だけど)の愛情表現って激しいよな。
とにかく、無計画で飛び出した俺達が行く場所なんて特になく、つい近くにあった俺の部屋に入ったことに他意はない。
隣だしな、うん。もう一度言うが、決して他意はないからな!
「ごめん、ラーナ」
「いえ、それ程大変ではないので」
何度もお茶の用意をさせることになってしまいラーナに謝る。
紅い薔薇が描かれた白いカップに紅茶が注がれて、部屋の中にいい匂いが満ちる。
ここ最近では匂いで大体何の紅茶なのか分かるようになってきたが、これは初めて嗅ぐ香りだ。
「あれ……?」
「ん? どうした?」
目を瞑って香りを堪能していると、ラーナの困っている声が聞こえて目を開く。
何度か俺とサラの間で視線を彷徨わせると、何か決意を固めた顔で俺の目を真っ直ぐに見つめた。
「……サタン様、キッチンに茶菓子を取りに行ってまいります。すぐ、すぐに戻ります」
「ん。分かった。急がなくていいからな」
「いえ! す ぐ に 戻ってきます!」
「お、おう……」
正直、さっきまでの茶会で腹は減ってないから、そんなに急ぐ必要はないんだけれど、すぐに戻ると言う彼女の勢いに押されて頷いた。
優雅に部屋を出て行ったラーナだが、見えなくなったら一生懸命走ってくれているのかと思うと微笑ましい気持ちになる。
緩んだ口元を隠すように一口紅茶を含むと、真剣な顔で何か考えている様子のサラが目に入った。
「何か心配事か? ここには俺しかいない。よかったら話してくれないか?」
「あ、あのサタン様……その……」
「ん?」
「……もし違っていたらすみません……その……貴方は……貴方は誰ですか?」
「は……?」
完全に不意をつかれた俺の口からは、その一音を出すのが精一杯で。
聞かれた意味を理解して問い直そうと口を開いたのと、ラーナが戻って来てドアをノックしたのは同時だった。
「失礼します。……サタン様? 何かございましたか?」
「いっ、いや何でもない……」
「……そうですか」
すぐに取り繕うが、ラーナは納得のいかない表情だ。
チラリとサラを見ると、彼女は何事もなかったかのような顔で紅茶を飲んでいた。
……俺もポーカーフェイスが出来るようになりたい。
その後も、会話には参加しないが常にラーナが控えていて、さっきの話を聞くことが出来ないまま、夕食の時間となり茶会は終わった。
紅茶でタプタプになった腹を擦りながら食堂へと向かう。
暫く液体は見たくない気分だ。
頭の中はサラの話のことでいっぱいで、軽くでいいと料理長に伝えるのを忘れた俺は、机の上に並べられたフルコースを見て大きく溜息を吐くのだった。
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