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25. ゴミはゴミ箱に
しおりを挟む「だーかーらァ! 俺とマギーちゃんの間、取り持ってくれってー」
「…………」
俺の部屋にアスタロトの叫びが響いた。
テーブルを挟んだ向かい側に座るアスタロトに目を向ける事無く、ゆっくりとお茶を飲む。
「おい、聞いてんのかよ!」
「敬語」
「う゛っ……お願い、します……」
顔を歪めて敬語で言い直したアスタロトに、今度こそ視線を向けた。
苦湯を飲んだみたいな顔してるけど、これ君の為だからね?
本物のサタンに身体を返した後にこんな言葉使いしてたらキレられるからね?
貴方の為だから~。と、頭の中で繰り返していると、彼が浮かない表情でカップの紅茶に映る自分の顔を見始めた。
ちょっと厳しくしすぎたかなと不安になるが、ここで折れてはいけない。
飲み干した紅茶を自分で注ぎ足して、とりあえず様子を見る事にした。
「――――俺さ、ハジメテなんだよ。こんなの」
「…………」
「訳分っかんねーよ。……今まで女なんざ不自由した事ねェし。どうしろっつーんだよ……」
大分滅入った様子のアスタロト。
それもその筈。初対面を果たしたあの日以来、当のマーガレットから避けられているのだ。
あの日アスタロトは数秒、マーガレットと見つめ合った後、何を思ったのか彼女を拉致した。
馬鹿だ。
恋愛経験が乏しい俺でも悪手だと分かる。馬鹿だ。
驚いて暴れる彼女を俵担ぎで運んで、連れて来たのがアスタロトの部屋なんだが、これがもう……汚かった。
ドアを開けた瞬間に飛び出して来た大量の虫、そして何かの腐臭と煙草の混ざった臭い――――
可哀想にマーガレットは気絶してしまったらしい。
追い付いたベルゼが奪い返した後も、そのまま三時間は意識が戻らなかった。
意識が戻った後も、部屋にアスタロトが来ると居留守したり、話しかけられても逃げ出したりと、取り付く島もないようだ。
そんな状態が三日続き、彼女が俺とは話す事に着目したアスタロトが俺の部屋に襲撃して来たという訳だ。
今日はベルゼは外出してて居ないし、ベルちゃんもどうしても外せない用事があるとかで頼りには出来ない。
部屋の前でラーナが必死に止めてくれてたんだけど、段々機嫌も悪くなってきて――――って所で諦めて部屋に入れた。
それでラーナが殺されちゃったりしたら絶対イヤだからね。
ラーナには部屋の前で待機してもらってるから、お茶だったりとかは全部自分でしないといけない。
自分で淹れたあまり美味しくないお茶に口を付け、どうしたものかと考える。
カチッと金属製の音が聞こえ目を向けると、煙草に火を付けている最中だった。
「俺の部屋で吸うな」
「はぁぁあ? ったく我儘だなァ……」
「なっ!? 馬鹿!!」
あろう事か火の付いたそれを床に捨て、踏み付けたアスタロトに思わず大声を上げた。
驚いた顔でこっちを見ているが、言ってしまった事は仕方ない。
潰されたそれを拾い上げ、彼に握らせる。
「あのなぁ……床が傷むだろうが! 床は灰皿じゃねえ!! そんなんだからお前の部屋はあんなに汚いんだ。マーガレットと仲良くなりたいんだったら、最低でも彼女を部屋に呼べるレベルまで片付けて出直して来いッ!」
ぽかんと口を開けたままのアスタロトを部屋の外へ押しやると、逆にラーナを引っ張り込んだ。
彼女に淹れてもらった紅茶は相変わらず美味しくて、段々と冷静になってきた頭が警報を鳴らす。
成り行きで喧嘩売っちゃったけど――――これ、ヤバいんじゃね?
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