23 / 66
23. 奪還
しおりを挟む玄関まで歩いて行くと、扉が勢い良く開かれた。
入口側には、汗を流し肩で息をしながら頭を下げる使用人の姿があった。
黒地に金で模様が描かれた俺用の魔馬車を見て、慌ててやって来たみたいだ。
「いっいらっしゃいませ! すぐに当主を呼んで参りますので、どうぞこちらの部屋へ」
「いや、公爵の元へ案内していただこう」
「っ!? ですが今は――――」
「フルカス公爵家はサタン様に刃向かうつもりか?」
ベルゼの言葉に合わせて、俺も険しい顔をして参戦。
すぐに真っ青な顔色になったフルカスの使用人が、ぶるぶると震えながら頭を下げた。
「滅相もございませんっ!! すぐに案内致します」
使用人の案内で、隠し扉を潜る。
蝋燭の灯を頼りに地下へと続く階段を下りて行くと、血や、何かが焼けた様な臭いが鼻をついた。
全て下りきった先、そこは牢獄になっていた。
「うっ……」
一糸纏わぬ三人の若い女性がボロ布の様に横たわる様に、喉を詰まらせた。
すぐにジーモが駆け寄って目を凝らすが、娘の姿は無いらしく安堵の息を吐いた。
「……この奥でございます」
薄暗くて分かりにくいが、奥に続く扉があった。
緊張した面持ちで、フルカス家の使用人が扉をノックする。
「フルカス様、サタン様及びベルゼブブ様がお見えになられています」
「――――なに!? 何故いきなり……さては地代をちょろまかした事に気付きおったか……よし分かった。すぐに行くと伝えておけ。コレが終わったらすぐ行く」
「その必要はありませんよ。今すぐここを開けていただこう」
扉越しにフルカスが息を呑む音が聞こえた。
俺達が待合室にいると思って、こいつさっき地代をちょろまかしたとか言ってたよな。ベルゼの微笑みが怖い。
暫く間を取った後、ゆっくりと扉が開いた。
出て来たのは白髪に長い顎髭を蓄えた老人。お腹がでっぷりとしていて、いかにも私腹を肥やしてますって印象だ。
「突然の訪問失礼する。フルカス公爵、中に入っても?」
「い、いえいえ中には何もございませんぞ! それより美味い茶葉がございます。ゆっくりと上で――――」
「おおお! マギー!! 無事かっ!?」
扉の隙間から鎖に繋がれ台の上に寝かされた女性が見えると、血相を変えたジーモがフルカスを押し退け駆け寄った。
女性は意識が無いのか、ジーモの呼び掛けにも応じずぐったりしている。
マギーって事はマーガレットだな。
エリザベスはエリー、キャサリンはキャシー、ロナルドはロン!
映画や本で覚えた数少ない愛称が出てきてちょっと嬉しい。
というか、ジーモが結構年だから、その娘と聞いてオバチャンを想像してたんだが、結構若く見える。
どう見てもまだ十代くらいにしか見えない。
「……養子?」
「フルカス卿、そこの娘は奴隷では無い筈だが?」
思わず呟やいてしまった俺の言葉を言及されない様に、ベルゼがフルカスに問いかける。
「奴隷じゃない娘だから違反だ。返せ」って事で話を進めていくらしい。
奴隷制度がある事は別に驚かない。だって悪魔だからね。
むしろ奴隷以外は駄目だっていう方に驚きだ。
まぁ、サタンもベルゼも使用人殺しまくってたみたいだから、そこらへん適当なのかもしれないけど。
「いや、だがっ……!」
「何か?」
追及しようとしたフルカスだったが、ベルゼの顔を見て口篭る。
納得いかない様子で、もごもごと口を動かしているが、俺の顔を伺う様に見て反論するのを諦めたようだ。
「では、今回の処遇は追って連絡致します。彼女達は連れて帰らせてもらいますね」
「…………」
もしジーモの娘の他にも囚われた人が居た時は助けようと、予めベルゼに伝えていた。
ベルゼがそれを忘れずに「彼女達」と言ってくれた事に、安心し、同時に胸が温かくなった。
手足の鎖を外させ、意識が無いマーガレットをジーモが抱える。
布一枚纏っただけのマーガレットの頬は痩けていて、食事も与えられていなかったのだと思われる。
「ああ、そうそう。地代についても何やら間違いがあったとの事なので、その件につきましても追って連絡致しますね」
俺達を案内したまま壁の隅で気配を消していた使用人に手伝ってもらい、残りの三人を馬車に運んだ。
部屋を出る瞬間のベルゼの言葉にフルカスが顔を青くしてる間、俺は少し悩んでいた。
使用人の腕や首元に、青アザや切り傷が見て取れたからだ。
「……家族はいるのか?」
「えっ!? い、いえ」
「ならお前も来い」
俺達が帰った後、俺達を案内したこの使用人がフルカスからどんな目に合わされるのか想像に難くない。
家族がいないと言う使用人を馬車に押し込み、出発する。
流石に、弱っている裸の女性達と一緒に乗る訳にはいかず、女性陣はラーナと一緒に。ジーモとマーガレットは使用人と三人でベルゼの馬車に。俺とベルゼが俺のに乗る事になった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
パラサイト/ブランク
羊原ユウ
ホラー
舞台は200X年の日本。寄生生物(パラサイト)という未知の存在が日常に潜む宵ヶ沼市。地元の中学校に通う少年、坂咲青はある日同じクラスメイトの黒河朱莉に夜の旧校舎に呼び出されるのだが、そこで彼を待っていたのはパラサイトに変貌した朱莉の姿だった…。
紺青の鬼
砂詠 飛来
ホラー
専門学校の卒業制作として執筆したものです。
千葉県のとある地域に言い伝えられている民話・伝承を砂詠イズムで書きました。
全3編、連作になっています。
江戸時代から現代までを大まかに書いていて、ちょっとややこしいのですがみなさん頑張ってついて来てください。
幾年も前の作品をほぼそのまま載せるので「なにこれ稚拙な文め」となると思いますが、砂詠もそう思ったのでその感覚は正しいです。
この作品を執筆していたとある秋の夜、原因不明の高熱にうなされ胃液を吐きまくるという現象に苛まれました。しぬかと思いましたが、いまではもう笑い話です。よかったいのちがあって。
其のいち・青鬼の井戸、生き肝の眼薬
──慕い合う気持ちは、歪み、いつしか井戸のなかへ消える。
その村には一軒の豪農と古い井戸があった。目の見えない老婆を救うためには、子どもの生き肝を喰わねばならぬという。怪しげな僧と女の童の思惑とは‥‥。
其のに・青鬼の面、鬼堂の大杉
──許されぬ欲望に身を任せた者は、孤独に苛まれ後悔さえ無駄になる。
その年頃の娘と青年は、決して結ばれてはならない。しかし、互いの懸想に気がついたときには、すでにすべてが遅かった。娘に宿った新たな命によって狂わされた運命に‥‥。
其のさん・青鬼の眼、耳切りの坂
──抗うことのできぬ輪廻は、ただ空回りしただけにすぎなかった。
その眼科医のもとをふいに訪れた患者が、思わぬ過去を携えてきた。自身の出生の秘密が解き明かされる。残酷さを刻み続けてきただけの時が、いまここでつながろうとは‥‥。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる