魔王様のお掃除奮闘記

鈴花

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23. 奪還

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 玄関まで歩いて行くと、扉が勢い良く開かれた。
 入口側には、汗を流し肩で息をしながら頭を下げる使用人の姿があった。
 黒地に金で模様が描かれた俺用の魔馬車を見て、慌ててやって来たみたいだ。

「いっいらっしゃいませ! すぐに当主を呼んで参りますので、どうぞこちらの部屋へ」
「いや、公爵の元へ案内していただこう」
「っ!? ですが今は――――」
「フルカス公爵家はサタン様に刃向かうつもりか?」

 ベルゼの言葉に合わせて、俺も険しい顔をして参戦。
 すぐに真っ青な顔色になったフルカスの使用人が、ぶるぶると震えながら頭を下げた。

「滅相もございませんっ!! すぐに案内致します」

 使用人の案内で、隠し扉を潜る。
 蝋燭の灯を頼りに地下へと続く階段を下りて行くと、血や、何かが焼けた様な臭いが鼻をついた。
 全て下りきった先、そこは牢獄になっていた。

「うっ……」

 一糸纏わぬ三人の若い女性がボロ布の様に横たわる様に、喉を詰まらせた。
 すぐにジーモが駆け寄って目を凝らすが、娘の姿は無いらしく安堵の息を吐いた。

「……この奥でございます」

 薄暗くて分かりにくいが、奥に続く扉があった。
 緊張した面持ちで、フルカス家の使用人が扉をノックする。

「フルカス様、サタン様及びベルゼブブ様がお見えになられています」
「――――なに!? 何故いきなり……さては地代をちょろまかした事に気付きおったか……よし分かった。すぐに行くと伝えておけ。コレが終わったらすぐ行く」
「その必要はありませんよ。今すぐここを開けていただこう」

 扉越しにフルカスが息を呑む音が聞こえた。
 俺達が待合室にいると思って、こいつさっき地代をちょろまかしたとか言ってたよな。ベルゼの微笑みが怖い。
 暫く間を取った後、ゆっくりと扉が開いた。
 出て来たのは白髪に長い顎髭を蓄えた老人。お腹がでっぷりとしていて、いかにも私腹を肥やしてますって印象だ。

「突然の訪問失礼する。フルカス公爵、中に入っても?」
「い、いえいえ中には何もございませんぞ! それより美味い茶葉がございます。ゆっくりと上で――――」
「おおお! マギー!! 無事かっ!?」

 扉の隙間から鎖に繋がれ台の上に寝かされた女性が見えると、血相を変えたジーモがフルカスを押し退け駆け寄った。
 女性は意識が無いのか、ジーモの呼び掛けにも応じずぐったりしている。
 マギーって事はマーガレットだな。
 エリザベスはエリー、キャサリンはキャシー、ロナルドはロン!
 映画や本で覚えた数少ない愛称が出てきてちょっと嬉しい。

 というか、ジーモが結構年だから、その娘と聞いてオバチャンを想像してたんだが、結構若く見える。
 どう見てもまだ十代くらいにしか見えない。

「……養子?」
「フルカス卿、そこの娘は奴隷では無い筈だが?」

 思わず呟やいてしまった俺の言葉を言及されない様に、ベルゼがフルカスに問いかける。
 「奴隷じゃない娘だから違反だ。返せ」って事で話を進めていくらしい。
 奴隷制度がある事は別に驚かない。だって悪魔だからね。
 むしろ奴隷以外は駄目だっていう方に驚きだ。
 まぁ、サタンもベルゼも使用人殺しまくってたみたいだから、そこらへん適当なのかもしれないけど。

「いや、だがっ……!」
「何か?」

 追及しようとしたフルカスだったが、ベルゼの顔を見て口篭る。
 納得いかない様子で、もごもごと口を動かしているが、俺の顔を伺う様に見て反論するのを諦めたようだ。

「では、今回の処遇は追って連絡致します。彼女達は連れて帰らせてもらいますね」
「…………」

 もしジーモの娘の他にも囚われた人が居た時は助けようと、予めベルゼに伝えていた。
 ベルゼがそれを忘れずに「彼女達」と言ってくれた事に、安心し、同時に胸が温かくなった。

 手足の鎖を外させ、意識が無いマーガレットをジーモが抱える。
 布一枚纏っただけのマーガレットの頬は痩けていて、食事も与えられていなかったのだと思われる。

「ああ、そうそう。地代についても何やら間違いがあったとの事なので、その件につきましても追って連絡致しますね」

 俺達を案内したまま壁の隅で気配を消していた使用人に手伝ってもらい、残りの三人を馬車に運んだ。
 部屋を出る瞬間のベルゼの言葉にフルカスが顔を青くしてる間、俺は少し悩んでいた。
 使用人の腕や首元に、青アザや切り傷が見て取れたからだ。

「……家族はいるのか?」
「えっ!? い、いえ」
「ならお前も来い」

 俺達が帰った後、俺達を案内したこの使用人がフルカスからどんな目に合わされるのか想像に難くない。
 家族がいないと言う使用人を馬車に押し込み、出発する。
 流石に、弱っている裸の女性達と一緒に乗る訳にはいかず、女性陣はラーナと一緒に。ジーモとマーガレットは使用人と三人でベルゼの馬車に。俺とベルゼが俺のに乗る事になった。

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