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『黄』
第1章プロローグ 「独白『幼稚な願い』」
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『救い』――そんな言葉に「 」は縋っていた。
聞けば誰もが嘲笑ってしまうような、子どもじみた馬鹿みたいな夢。
いつかどこからか颯爽と現れた『英雄』なんかが、「 」を攫ってくれないかって。
いや、別に英雄だけじゃなくてもいい。
いつかなにかの物語で見て、幼心をわくわくさせてくれたような、そんな存在。
だから別に、王子様でも、お姫様でも、なんだったら敵でも悪役でも、「 」をこんな『呪縛』から解き放ってくれるなら――「 」を救ってくれるなら、なんでもよかった。
だから「 」は、誰かが助け出してくれるのを待ってみた。
でもそんな存在はいつまで経っても来なかった。
だから「 」は、自分から探しに行ってみた。
でもそんな存在はいつまで経っても見つけることはできなかった。
だから「 」は、気づいてしまった。
――そんな「幼稚な願い」が叶うはずがない、ということに。
それに気づいてしまったのがいつだったかなんて、もう覚えていない。
ただ、私はそんな悲鳴に気づいてしまっても、自覚しようとはしなかった。その気持ちを心の奥底で押しとどめておくことにした。
だって、知ってしまうことは「億劫」なことだって、「 」は知っていたから。
――なんて、そんな言葉で格好よくしようとしても、本当は違うことくらい、わかっていた。それが自分でも憐れんでしまうくらいの自己欺瞞だってことには、とっくに気づいていた。
結局、「気づきたくない」――そんな、やっぱり幼稚で、馬鹿みたいな本音だったってことに。
だから今日も「 」は、その心の悲鳴をを聞かなかったことにする。自覚しなかったことにする。思わなかったことにする。自分自身の全存在をかけて、そんな気持ちを否定する。
どうしてかって?
それは「 」が未熟な人間だから。まだ人並みの感情があるから。
やっぱり、藻掻いて、走り続けた先にあったのは、『絶望』だなんて、知りたくなかったから。
もう一度「あの時」の感情を感じてしまえば、自分が自分でいられなくなるような気がしたから――。
結局、「 」はただ、そんな絶望を認めたくなかっただけだった。
体だけ成長しても、心の内は何一つ変わってはいないのだ。
『英雄』を待ち望み、探し求めていた幼い自分と。
なんなら、自覚しかけて、絶望しかけた時の自分のほうが、よっぽど大人なんじゃないかと感じてしまうほどに。
そんな誰でもわかるような、簡単な物の『善し悪し』がわからくなるくらいには、「 」の心は壊れていた。
だから「 」は、今でもきっとどこかであがき続けている――。
それなのに。
それなのに「 」は――
――Next: 第1話 「なんてことのない日常だったはずなんだ」
聞けば誰もが嘲笑ってしまうような、子どもじみた馬鹿みたいな夢。
いつかどこからか颯爽と現れた『英雄』なんかが、「 」を攫ってくれないかって。
いや、別に英雄だけじゃなくてもいい。
いつかなにかの物語で見て、幼心をわくわくさせてくれたような、そんな存在。
だから別に、王子様でも、お姫様でも、なんだったら敵でも悪役でも、「 」をこんな『呪縛』から解き放ってくれるなら――「 」を救ってくれるなら、なんでもよかった。
だから「 」は、誰かが助け出してくれるのを待ってみた。
でもそんな存在はいつまで経っても来なかった。
だから「 」は、自分から探しに行ってみた。
でもそんな存在はいつまで経っても見つけることはできなかった。
だから「 」は、気づいてしまった。
――そんな「幼稚な願い」が叶うはずがない、ということに。
それに気づいてしまったのがいつだったかなんて、もう覚えていない。
ただ、私はそんな悲鳴に気づいてしまっても、自覚しようとはしなかった。その気持ちを心の奥底で押しとどめておくことにした。
だって、知ってしまうことは「億劫」なことだって、「 」は知っていたから。
――なんて、そんな言葉で格好よくしようとしても、本当は違うことくらい、わかっていた。それが自分でも憐れんでしまうくらいの自己欺瞞だってことには、とっくに気づいていた。
結局、「気づきたくない」――そんな、やっぱり幼稚で、馬鹿みたいな本音だったってことに。
だから今日も「 」は、その心の悲鳴をを聞かなかったことにする。自覚しなかったことにする。思わなかったことにする。自分自身の全存在をかけて、そんな気持ちを否定する。
どうしてかって?
それは「 」が未熟な人間だから。まだ人並みの感情があるから。
やっぱり、藻掻いて、走り続けた先にあったのは、『絶望』だなんて、知りたくなかったから。
もう一度「あの時」の感情を感じてしまえば、自分が自分でいられなくなるような気がしたから――。
結局、「 」はただ、そんな絶望を認めたくなかっただけだった。
体だけ成長しても、心の内は何一つ変わってはいないのだ。
『英雄』を待ち望み、探し求めていた幼い自分と。
なんなら、自覚しかけて、絶望しかけた時の自分のほうが、よっぽど大人なんじゃないかと感じてしまうほどに。
そんな誰でもわかるような、簡単な物の『善し悪し』がわからくなるくらいには、「 」の心は壊れていた。
だから「 」は、今でもきっとどこかであがき続けている――。
それなのに。
それなのに「 」は――
――Next: 第1話 「なんてことのない日常だったはずなんだ」
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