私の履歴書

澤村 通雄

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私の履歴書

第23章 旅に出る前に。

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旅に出る前に、、、。

ボクがタイに出る3日ほど前の日、旅に出るまでの最後の仕事をホテルでしていたんですが、掃除をしている一室の、ベッドの枕元に小さなビニールパックの様な物があったんです。
ボクは直感で、(マ○ファナだ)と思いました。
テレビのニュースで見た、押収さるたソレと同じ物だったからだ。
ボクはとっさに一緒に仕事をしていた、掃除のおばちゃんの目を盗んで、そのビニールパックを、さっとつかみズボンのポケットの中に押し込んだ。
多分、客が忘れていった物なんだろうが、ボクは膨らんだポケットを押さえて思った。(家に帰ったら、試してみよう、、、と。)
早速自分のアパートに帰ったボクは、当時Eさんの影響で気に入って聴いていた、ジミヘンドリックスという人の、ヴゥードゥーチャイルドという曲をステレオでかけ、マ○ファナをタバコに詰めた。
以前買った、マ○ファナ・ナウという本に書いてあった。
ジョイント(タバコ状にしたマ○ファナ)を口に加え、火をつけ大きく吸ってみた。
マ○ファナ・ナウという本には、初め大きく煙を吸い込み、2、3秒間息を止め、鼻の穴からゆっくりと煙を出す、というやり方が、一番効率が良いと書いてあったので、同じようにやってみた。
吸った瞬間、青臭い草の臭いが鼻をかすめ、喉の辺りが熱くなった。
2、3秒間息を止め、ゆっくりと鼻から煙を出した。
うーん、ちょっと頭がボーっとしてきた。
ボーっとしながらも、頭がステレオの音に合わせて、かってにリズムをとりだした。
もう一服、吸った。
なんか、無性にに体が重く感じて、ジョイントの火を灰皿に押し当てて消し、ベッドの上に横になった。
ジミヘンのギターの音が、ビンビンとスピーカーから聴こえてきた。
体が重く頭が痛い、、、。
ボクはまぶたを閉じた。
何か高い所から下へ落ちていくような感覚だ。
この状態をストーンするというらしい。
なるほどストーンとは英語で石の事だから、石になった様に動けなくなった状態の事か、、、。
ボクは初めてその言葉の意味を知った。
ジミヘンの曲の一つにストーンフリーという曲がある。
そうか、ストーンフリーとは、ストーンした状態で、精神や思考が自由になる事か。または、ストーンするのはお金がタダですという事だろうか。
クスッ、ボクは小さく笑った。
Eさんがサイケデリックという事を言っていたが、そうだ、ジミヘンもサイケだ、そうに違いない。と、音楽好きな人が一般常識で言っている事が、そうか、そういう意味だったのかと改めて分かった。
やったー!という感じが、とっさに浮かんだ。
気が付くと、音楽は終わっていた。
そこで、もう一度アルバムの最初から聴き直そうと思い、重い体を起こし、ヨタヨタとプレイヤーの針を最初に置き直した。
一曲目の、ハブユーエバービーンという曲を聴き、ジミヘンのギターも凄いが、声も非常に良いではないかという事に気づいた。
凄く優しく語りかけるような、歌い方だ。
心が安らぐ。
何となく近くにあった鏡を取って、自分の顔を見てみた。
ニコニコ笑っている。
自分が、こんなに嬉しそうに笑っている顔を見たのは、初めてのような気がする。
まるで、他人の様な気がする。
あー、今ボクは幸せなんだなぁと感じた。
もう一度、ベッドに横たわり曲を聴きだしたが、いつまで経っても曲が終わらない。
そう、いつもの感覚では無いのだ。
曲のフレーズの一つ一つに、意識が集中し、音の一つ一つをじっくりと聴く事が出来た。
まるで、初めてこのアルバムを聴いたかのように、、、。
時間はゆっくりと流れている。

すると、となりの部屋から電話がリンリンと鳴った。
重い体をもう一度起こし、電話に出ると、Eさんからであった。
タイからの国際電話だった。
「オー!調子はどうだ。今、バンコクにいるけど、こっちは凄く暑いぞ!もう旅の準備は出来たか?」
「うん、凄いよ。今、ジミヘン聴いてるんだけど凄いよ。ものすごく凄い!!
今、クサ吸ってんだけど、初めてなんだけど、とにかく凄いよ!!」
もう、言っている事は無茶苦茶である。
ボクは何年ぶりかに再会した友人と話すかの様に興奮していた。
「おい、国際電話なんだから、言葉に気をつけろよ。余計な事は言わん方がいいぞ。じゃあ、バンコクのプライバシーホテルで待ってるからな。気をつけて来いよ、じゃあな。」
そう
言い残して電話を切ったEさんに、今体験している事を、この筋の先輩に、もっと言いたい、もっと聞きたいという欲求を抑えながら、受話器を置いた。
頭の中が、スカッと冴えてきたので、さっき途中で消したジョイントに、もう一度火をつけ、今度はEさんおすすめの、グレイトフルデッドのテープをかけた。
フェアウェルトゥーウィンターランドという、デッドの1978年のライブなのだが、一曲目のシュガーマグノリアという曲が、これまた良い。
明るいアップテンポなノリに、ジェリーガルシアのギターソロ。
やっぱりEさんが口をすっぱくして言っていたように、ガルシアのギターは良い。音が良い。天を突き抜く様な澄んだ、はじけた音だ。
そうかジミヘンの様な、激しく歪んだ音も良いが、ガルシアの軽いタッチの柔らかい音も、素直に喜べるなと、ボクは思った。
ちょっとギターでも弾いてみるかなと、部屋の隅に飾ってあった、エレキを手に持った。
ジャーン。うーん、チューニングが狂っている。入念にチューニングを合わせ、Fのコードを弾いてみた。
ジョワーン。うーん、腹に響くいい音だ。
適当に弾きながらも、いいメロディが生まれてくる。これもクサの効果なのか。
ついでに腹が減ってきた。
キッチンへ行き、目玉焼きを作る事にした。
となりの部屋からは、デッドの心地よい音が鳴っている。
その軽快なリズムにのって、軽く鼻歌を口ずさみながら、冷蔵庫を開け、何日か賞味期限の切れた生卵を2個取り出し、油を引いた、温めたフライパンの上にカチ割った。
ジューッ。うーん、いい音だ。
塩、胡椒をパッパッ。
ちょっと硬めに火を通して、出来あがった目玉焼きを皿に移しかえ、口の中に放りこんだ。
美味い。卵黄の濃厚な味がボクの舌を、まったりと包み込んだ。
クサをキメると、味覚も敏感になるんだ。ボクは感動した。
目玉焼きを乗せていた、皿を流しに無造作に置き、ボクは眠る事にした。
お腹が満足したのか、すぐに、眠りについた。本当によく寝た。ガルシアの音色と共に、、、。
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