上 下
159 / 173
2nd season 第四章

155 旅立ち

しおりを挟む
「それではホルジス様、行って参ります」
「えぇ、きっと驚きの旅となることでしょう。安全第一で、お願いしますよ?」
「はい。政務もありますし、こまめに戻るつもりです」

の床面積は2m×2m。
みんなで空の旅と言っても、全員が一度に乗るわけじゃない。
三~四人を基本に、ローテーションしながら進むつもりだ。

「じゃ、最初はいつもの四人で行こうか」

シリア・ユリア・ミラン、俺。
大陸の東端から、夜の闇に紛れて空へと旅立つ。

「月があると、海もきれいね?」
「明日は初の昼の空だ。雲が凄いんだ。きっとみんな驚くぞ?」
「旦那様は昼の空も飛んだことが?」
「ああ、あっちの世界には空を飛ぶ乗り物が色々あるんだ」

この世界にはが無い。
大陸内の小競り合いが忙しくて、海を渡る必要を感じなかったからだろう。
一から星を観察して、方位を知るところまで記録取るなんて、10日と経たず挫折した。
だから頼りは磁石のみ。

「考えてみたら日が昇るまでやる事も無いな・・・なんなら三人とも部屋に戻っててもいいぞ?薪があれば飛んでられるしな?」

ミランが居なくても飛べるように設置した薪ストーブ、テイクオフ出来るほどの火力は無いが、航行維持なら問題ない。

「そんなの勿体無いわよ?空を飛べる人間って、あたしらだけなのよ?今この空はあたしたち四人のもの・・・しっかり味あわなきゃ!」
「こうしてると、星の中を飛んでるみたい・・・」
「確かに・・・贅沢な光景ですねー」

ホルジス様は『驚きの旅』と言っていた。
つまり、俺の予想の上を行く何かが、まだこの星にはあるって事だ。

「うん、まぁ、一番贅沢なのは俺だな、星空の旅を、こんな美女たちと過ごせるなんてさ」
「・・・アンタ・・・どうしちゃった?」

フツメンはイケメンなセリフも許されないらしい。

「もう、奥様?旦那様もロマンチックなセリフを言ってみたいんですよ?」

うん、ユリア、解説されると余計に辛い・・・。

「主様・・・無理は良くないです」

話題を変えよう。

「よし、夏でも空は冷えるな。暖かいスープ、飲むだろ?」

気球に乗ると無性にカップヌードルが食べたくなる、日進のプレーンな奴、なんでだ?

「ミランさん、器用ですね?」
「ん?」
「食べながら魔法とか、わたしには無理です」
「あー、ずっと練習してたからねー。もう癖になっちゃってる」
「やってることは同じなのに、風呂沸かしが空の旅になると、なんだかとっても偉大ね?」
「・・・長かった・・・お風呂当番下積みの日々・・・」

うん、なんかいいな、こういうの。

「みんなと出会って八年も経ったのか・・・」
「アンタ・・・出世したわよねー」
「旦那さまと暮らしてた宿、二人で銅貨三枚6千円でした・・・」

「アンタと組んですぐに最初のスタンピードあったのよねー、あそこでしょ?アンタの転機?」
「いや、おまえと出会ったオークの集落だろ?アレが無かったらまだE級やってたかもしんない」

「うう・・・その頃の自分を思い出すと自己嫌悪に・・・」
「でもユリア?ユリアが浮気してなかったら、あたしとっくに死んでたわよ?なにか一つ違ってたら、こうして出会うことも無かった・・・そう考えると、あたしの幸せって、ユリアの犠牲の上に成り立ってるわね?」
「結果オーライって事だな」

「あー、そういえばあたしも、コイツがラティアさんとアンアンやってるの、隣の部屋で毎晩聞かされたのよ?ひどくない?」
「いやっ、おまっ!それは仕方ないじゃん?無罪無罪」
「はぁ・・・私も主様にゾッコンだったら、みんなと一緒にキャッキャウフフ出来たのに・・・」

「ミランさんはその、やっぱダメなの?」
「何がわるいのかな?全然こう、ズキュンって来ないのよね?もう完全に惰性とカラダだけの関係?」

「うううう、ユリア、ミランがいじめる」
「旦那さま、わたしは大好きですよ?」

「でも、ユリアも変わったわよね?変な遠慮がなくなって、サバサバして来たっていうか?」
「ユリアは元々、もっとサバサバしてたんだけどな」
「それはその、やっぱり負い目的なモノがありまして・・・でも、ガザル村の一件で、ようやっと役目が果たせた気がして、少し自信が付きました」

「ユリアちゃん、今や接近戦なら人類最強なのよねぇ~」
「あー、だろうなー。っていうかなんだかんだ言って俺たちすごくね?シリアは長距離最強だし、ユリアは接近戦無敵だし、ミランは空飛んでるし」
「そんでアンタは虐殺させたら世界一よね」

「なんだろう・・・俺たちって極道一家かなんかか?」
「それが神殿の教皇一家なのが凄いですよね~」

今夜は月が明るいから、星はそんなに輝いてない。

「向こうの世界の人間は、あの月まで飛んでってるんだぞ」
「マジで?」
「月には何があるの?」
「なんだかお伽噺の世界みたい」

「あー、何にも無かった。生き物もいないし水も無い。岩だけの世界だ」
「・・・ちょっと残念ね?」
「まぁこの世界の月も同じかはわかんないけどな」

風に乗って飛ぶ気球は思いの外静かだ。
交通手段としても実は有用なんじゃ無かろうか?

「ライザさんが暴れてるといけないから、そろそろ替わってあげないとね?」
「そうですね。ミランさんはまだ?」
「あー、もう居なくても平気だな。航路を変えるときは呼びに行くよ」
「じゃ、気をつけてね?」
「おう」

別に俺も残る必要は無い気がしないでも無いが、やはり船長として責任的なアレがある。
空の上でライザを野放しにするような暴挙は、やってはいけないだろう。

ブブブゥンッ

「うぉぉぉぉぉっ!空だ!空の上だっ!アリスっ!見てみろ!すげーぞっ!」
「そういえばアリスは初めてか・・・怖くないか?」
「んー、暗くてよくわかんないよね?でも、何も無いって不思議・・・」
「か、カイン様・・・私は少し怖いですわ・・・」

まぁ案外子供は平気なもんだよな。

「あれ?ライザ?フレッドはどうした?」
「早く乗りたいから置いてきた!」
「おまっ・・・普通あるだろ?『ロマンチックな空の旅を愛する夫と』的なアレが?」
「ふははははははっ!問答無用っ!」

「『お先にどうぞ』って言ったんだけど『慌てる必要もなかろう』って・・・」
「ま、別にいいか・・・じゃあこの班では、珍しくビクビクしてるラティアを重点的にイジって行こう」
「カイン様!?」

代わる代わる入れ替わる仲間たちと、取り留めもない会話を続けながら、闇夜のフライトが続いていく。
そして・・・

「・・・言葉になんないわ・・・」
「あぁ・・・俺もここまでとは思わなかった」

紫色の空の向こう、地平線の彼方にゆらゆらと光が滲み、ゆっくりと太陽が昇ってくる。
眼下の雲海が朱に染まり、広大な世界を肌で感じる。

「わたし・・・こんなに美しい色、見たこと無かった・・・」

ポロポロと涙を流すユリアも、じっと朝陽を見つめている。

「アベルにも・・・見せたかったな」

言葉少なげに立ち竦みながら、俺達は冒険の始まりを実感していた・・・。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】通学路ですれ違うお姉さんに僕は食べられてしまった

ねんごろ
恋愛
小学4年生の頃。 僕は通学路で毎朝すれ違うお姉さんに… 食べられてしまったんだ……

俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。

のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。 俺は先輩に恋人を寝取られた。 ラブラブな二人。 小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。 そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。 前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。 前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。 その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。 春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。 俺は彼女のことが好きになる。 しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。 つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。 今世ではこのようなことは繰り返したくない。 今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。 既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。 しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。 俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。 一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。 その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。 俺の新しい人生が始まろうとしている。 この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。 「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。

冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい

一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。 しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。 家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。 そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。 そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。 ……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

彼女の浮気相手からNTRビデオレターが送られてきたから全力で反撃しますが、今さら許してくれと言われてももう遅い

うぱー
恋愛
彼女の浮気相手からハメ撮りを送られてきたことにより、浮気されていた事実を知る。 浮気相手はサークルの女性にモテまくりの先輩だった。 裏切られていた悲しみと憎しみを糧に社会的制裁を徹底的に加えて復讐することを誓う。 ■一行あらすじ 浮気相手と彼女を地獄に落とすために頑張る話です(●´艸`)ィヒヒ

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

[1分読書] 高校生 家を買う そして同棲する・・・

無責任
青春
≪カクヨム 部門別 日間7位 週間11位 月間12位 年間90位 累計144位≫  <毎日更新 1分読書> 親が死ぬ。運命の歯車が変わりはじめる ショートバージョンを中心に書いてあります。 カクヨムは、公開停止になったのでこちらを一気に公開します。 公開停止になるほどではないと思うのですが・・・。 今まで公開していた所が5章の最後まで・・・。 7/29中に全て公開します。 その後は通常連載通りに・・・。 両親が死んだ。 親戚もほとんどいない。 別にかっこいいわけでもない。 目立たない、ボッチの少年。 ただ、まじめなだけ・・・。 そんな少年が家を買う。 そして幼馴染との距離が近づいていく。 幼馴染の妊娠による裏切り、別れ。ひとりぼっちに。 新たな出会いが・・・。 最後はハッピーエンドを予定しています。 紹介文などはネタバレしないように少しづつ更新します。 1章:家を買うまでを描写します。  主人公は、最初、茫然としているので淡々と・・・。 2章:幼馴染に告白して・・・寝取られ・・・別れ。 3章:新たな出会い  転校生の星山星華との出会い  そして彼氏、彼女の関係に・・・。 4章:新しい高校生活(前編) 4.5章:とりあえずのエピローグ    当初のエンディングをそのまま掲載したいと思います。 4.6章 田中めぐみ  あたしがセックスしたときの裏話から・・・。  3話でひとつの作品だと思っています。  読者の皆様からは、あまり良いイメージを持たれていない章になります。 4章:新しい高校生活(後編) 5章:大学生活(楽しいの大学生活) 5章:大学生活(妊娠、そして・・・) 5章:大学生活(子供がいる大学生活) 5.5章 田中家の両親 6章:めぐみのいる新生活(めぐみとの再会) 6章 めぐみのいる新生活(めぐみの仕事) もっと書きたいと思ったのでできる限り書きます。 こういう展開が良いなどあれば、教えて頂けると助かります。 頑張りますのでよろしくお願いします。 まだまだ、投稿初心者なので投稿予定の話を少しずつ手直しを頑張っています。 カクヨムで公開停止になる前の情報 ブックマーク:1,064 PV数    :244,365PV ☆星    :532 レビュー  :212 ♡ハート  :5,394 コメント数 :134 皆さま、ありがとうございました。 再度アップしましたが、カクヨムを撤退しました。 ブックマーク:332 PV数    :109,109PV ☆星    :183 レビュー  :68 ♡ハート  :2,879 コメント数 :25 カクヨムではありがとうございました。

俺以外美少女の戦隊ヒーローに入隊したけどヒロインもれなくヤンデレンジャー

寄紡チタン
恋愛
ヤンデレだらけのハーレムヒーロー!?【カクヨムにて1200フォロー突破!!】 戦隊ヒーローが活躍する現代社会である日突然ブルーとしてスカウトされた浅葱空。 美少女だらけのメンバーは全員愛の重たいヤンデレンジャーだった!!

処理中です...