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2nd season 第三章

140 シリア暗殺計画(3)

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ヤザンとフレッドを伴い、円卓の会議室を退出する。
俺の途中退出に、騎士団長と名もなき聖騎士くんが動揺しているようだ。
うん、別に喧嘩して出てきたわけじゃないからな?

ここミズーラの鉱山神殿が、首脳会議の会場であり続けているのは、発足の経緯や各国の中立的立地だからという理由だけじゃない、警備がしやすいからだ。
ここへのアクセスは谷間を這う細長い街道を通るしか無い。
普通であれば退路を絶たれて袋のネズミにされかねないが、幸いな事に俺が居る。
崖の上に見張りを立てて、近づく兵団があれば全員転移だ。

「猊下・・・今回の提案、いくらなんでも無茶ではありませんか?」

前髪の更なる後退危機を予感したヤザンが問いかけてくる。

「まぁ無茶だな?どう転ぶか俺にもわからん」
「そうか?俺は良いと思ったぞ?何しろ国境の警備は退屈なのだ。あんなものは無くなったほうが良いだろう?」

うん、フレッド・・・そういう話じゃ無い。

「はははははっ、猊下?またに受けたな?おかしかろう?冗談だ」

うん、フレッド・・・最近ジョークが高度になりすぎて笑えない。

「まぁ真面目な話な?戦争が起こるのは『欲しいものがある』か『ムカついた』かのどっちかだと思うんだよ。んで俺はどっちも解消できると思うんだわ」

「ほぅ?友よ、教えてくれないか?」

「あー、まず今回の提案は前者向けだな?今のやり方だと国家面積あたりの生産効率が悪すぎるんだ。例えば、今の面積のまま、作物の収穫量が五倍になったら、領土が五倍になったと同じことだろ?で、同時に産業も発展させて、商業の流通消費速度を五倍にしたら、行政も五倍忙しくなる。忙しくて金があって食いもん溢れてたら、他所の国から取ってくる理由も暇も無くなるだろ?奪うより作ったほうが楽な環境を作るんだ」

「猊下・・・まぁ、猊下なら本当に出来るのでしょうな・・・」
「おう!ヤザン、そこは問題ない。俺には優秀な部下が居るからなっ?」
「・・・ヤザン殿・・・骨は拾わせて頂こう」

「はぁ・・・して猊下、後者に関しては?国同士の恨みつらみは根深いものがあるかと思われますが?」

「そっちも問題ない・・・と、思う」

「ほぅ?友よ、どんな手を使うのだ?」

「ズバリ、オリンピックだ!」

「「オリンピック?」」

「あー、とな?国対抗の競技大会だ。めちゃくちゃ色んな種目で競い合わせる。んで勝ったものは盛大に称える」

「それで戦争が無くなるのか?」

「ポイントはどれだけ各国を夢中にさせられるかだな。戦争の勝ち負けよりも『価値のある競技』に仕立て上げられれば『恨みはオリンピックで晴らすっ!』みたいな流れになんないかな?」

「・・・今ひとつ想像がつきませんな」

「あー、例えばな?ヤザンがフレッドにムカついたとする。戦争だな?そしてその時、世間ではいつの間にか、剣よりも弓の方がより崇高な武器だって常識になってたとしよう、そうしたらどうだ?剣で戦うか?弓で戦うか?」

「ふむ・・・幾分かは理解できました。つまり、戦の強さよりも名誉な、負ければより不名誉な競技大会を開催するのですな?」

「そう。それも多種目。そうすれば『弓の遠当てでは負けても騎馬戦では我が国が勝った!』とか、ガス抜きになるじゃん?んで、負けた方は腹が立っても戦争しかけにくくなる。『オリンピックで勝てないから戦争をしかけた』ってバカにされる世の中にできれば最高だ」

「なるほど。名誉か・・・確かにそれが名誉なことであれば、戦場はそのオリンピックに移すことが出来るかもしれないな」

「まぁ、オリンピックはまだ細かいとこまで考えてないけどな?今回の提案はそういう事なんだ」

オリンピックの開催には一つ大きな問題がある。
観客の移動だ。
大勢が見るのでなければムーブメントになり得ない。
だが、この世界には馬車以上の移動手段が無く、休日も無い。
テレビ放送さながら、遠くの映像を映して見せる便利魔道具も無い。
国主達くらいなら俺が運んでもいいが、観客全部転移させたらあっという間に神力が空になる。

理想はヨーロッパみたいに、夏のバケーションが二ヶ月も取れる生産余力に溢れた世界にして、汽車なり自動車なりで移動なんだけど・・・。

「おっ、そろそろ二時間だな。さて、どんな流れになってる事やら。行ってみますか」

#####

競技による紛争の解決は、多くの理知的な社会学者が研究対象としてきた。
だが、今の所、理想の答えには行き着いていない。
人は実際に殺し合わない限り、納得できない生き物なのだ。
だがカインはそれを知らなかった。
前世ではそんな方面に興味を持つ機会がなかった為だ。

#####

~~~~~



一般的に、傭兵のレベルは冒険者のソレよりも数段低い。
魔物を狩ればレベルが上がるが、人間を狩っても経験値にならないからだ。

ならば冒険者としてレベルを上げ、その後傭兵になれば良い。
だがそれも一般的では無い。

冒険者と魔物の戦いは、安全マージンをとって相手を選べるため、大抵が冒険者側の勝利となるが、対人戦はそうはいかない。
格下かも知れないし、強敵かも知れない、おまけに人には知恵があり、技量がある。
格下の者が相手であっても裏をかかれれば死ぬし、集団戦ともなれば、高レベルの者が流れ矢で呆気なく死ぬこともある。

一般兵を圧倒出来るほどのレベルに達したなら、余程の理由でも、無い限り冒険者を続けていたほうが、安全で実入りが良いのだ。
とどのつまり、傭兵とは、盗賊に装備を持たせて訓練した類のものだ。

神殿が請け負う、対スタンピード支援の経験値により、ロックハウス家はアリスに至るまで全員がLV40を突破していた。
故に、平均的な傭兵であれば、一人が十人を相手取るくらいなら比較的安泰。
だが、それ以上となると、知覚の外側から攻撃してくるものが出始めるし、部隊として運用されればかなりやり難い。
更にそこに一人でも強者が含まれるともはや厳しい。
強者と相対して気を取られれば、背後から放たれる雑兵の矢までは躱せない。

ロックハウス家は基本的に、距離をとっての強襲部隊なのだ。

「それにしてもぉ~、ずいぶん田舎じゃな~い?ホントに来るのかな?ターゲット」
「どうなんすかね?来なかったら残りのギャラ、どうなるっすか?」
「もらえないんだって~。でも、まってるだけで半金貰えるんだから、それはそれでお得よ?傭兵のぶんはふつうに貰えるしぃ~、やすいけどぉ~」
「おれっ、そっちのがいいっす!安全第一っす!」
「だよねぇ~?死んじゃったらゴハン食べられないしぃ~」

ルカ達を含む傭兵の一団は、山々に囲まれた盆地を目指している。
住民数49名。
ホンジュラス王国でただ一つしか無い聖教国の荘園、ガザル村。
予定ではその小さな農村に、4000km彼方からターゲットがおびき出される事になっていた。

ガザル村の神殿に駐在する職員は一名しかいない。
その辺鄙な神殿に、神殿配達人が今日の荷を回収に訪れた。

(・・・珍しいな。目安箱に投書がある)

全ての神殿のには目安箱が設置されている。
地域の不正を取り締まるため、その鍵を開けられるのは配達人のみ。
と、いっても、カインも『蜂の寓話』くらいは知っている、取り締まるのは権力者による横暴のみだ。
賄賂などといったは基本的に放置している。

配達人は目安箱の投書をバッグの底に隠し持つと、何事も無かったかのように神殿内に戻る。

「アイザック、今日も郵便は無しか?」
「はい。何しろこんな田舎ですからねぇ~」

(この気の良さそうな職員が、村人に告発されるような悪事を働いているとは思えぬが・・・)

「そうか、ではまた明日来よう」
「はい。お疲れ様でした」

目安箱に投書があった場合、即座に聖都に飛び、ロックハウスの家人に直接手渡さなければならない、封を切ることは厳禁だ。

(良くないことが起きなければよいが・・・)

ガザル村の中には既に、旅の冒険者を装った四名が潜伏していた。
明日、予定通りターゲットが神殿を出たら、即座に魔法陣を破壊する役割の土魔法使いが二名と、露払いの手練てだれが二名だ。
転移門さへ封じてしまえば、最寄りの神殿まで320km。
ターゲットが逃げおおせる可能性は限りなく低い。

果たしてシリアは、この怨恨の罠に倒れてしまうのか?
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