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2nd season 第二章

125 死活

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シュッ! ズガッ! ・・・ くぅぅぅぅぅ 痛ってぇぇぇ

ルーチンワークでひき肉を量産していると、いきなり左腕に矢が生えた。

撃ってくるとわかっていれば、千でも二千でも防ぎきれるが、こればかりはどうしようもない。
つうかちゃんと指揮官の命令聞いとけよ!
やじりをへし折って引き抜くと、回復ポーションをグビリと煽る。

魔鉄盾を出すか一瞬悩むがやめておく。
一万も居れば二千は精鋭、その中に一人や二人、ギフトに詳しいものが居てもおかしくない。
ネタが割れれば対策は難しくなくなる。

ドンッ! ぐぁっ・・・アチッ・・・ファイヤーボールが髪を焦がした。
いつの間にか一段目によじ登った奴が居る。

シュッ! カーン!

怖っ・・・えぇぇぇぇ!、とっさに魔鉄盾出しちゃったじゃんよ!
今の、当たってたら死んでるぞ?

カッ! ジュッ! サクッ! ガッ!

たまらずミニハウス岩屋に引き籠もる。
おかしい、統制が崩れた?
どうやら気づいた奴が居るらしい。
これじゃ甲羅に籠もった亀だ。

この戦術の弱点、無秩序に散漫な攻撃をされると対処が難しい。
数発同時程度ならさばけるが、何十発もパラパラ続けられれば籠もるしか無い。
そしてこちらが攻勢に出れないでいる間に・・・グラッ・・・やっぱそうくるわなぁ。
足場のブロックを土魔法で解体し始めやがった。
一挙に形勢逆転されたぜ。

地上との距離は40m。
ちょっとスプリングを強化すれば、エアガンでも500円玉にヒットする。
ギフト持ちの弓兵なら外しようが無い。
ミニハウス岩屋の出入り口を塞いだ盾に、矢がガンガン当たってくる。
つうか熱いしっ!
焚いてんじゃねぇぞっ!

・・・使うか?
いや、まだダメだ。
少なく見積もってまだ八千は居る。
を明かすには早すぎる。

ガッ ガガッ ドンッ! ガガガガッ ガッ

トタン屋根を叩くスコールのように、不揃いな衝突音が鳴り続ける。

仕方ない。
痛い思い、するしかないか。
もっと楽がしたかった・・・。

魔鉄製のタワー・シールド。
この二枚が俺の装甲。
ミニハウスを収納して、40mの空へ舞い上がる!

「っらぁぁあっぁあぁぁ!」


~~~~~


「おっ、ヤケんなったな!?ルカっ、仕留められるか?」
「すばしっこすぎて無理ね。なんなのアイツ?」

家より大きな、降り注ぎ、積み重なって柱となる。
その不安定な柱から柱、のたうち回りながら飛び移る、血だるまの人間が一人。
気の狂った獣のように、一瞬として立ち止まること無く、大声で何か喚き散らしながら、石の雨を降らせ続ける。

「んじゃ、すりゃいいじゃねぇか、ホレっ」

状態異常魔法の成功率にはレベル差が大きく影響する。
LV56のカインにはまず効かない・・・だが、薬は別だ。
レベルアップによって耐性は高まるが、無効にはならない。

「うぁっ、ひっきょー。あたしぃ~、そういうのきらいなんだけどぉ~」
「いちいちうっせぇな!カイナルドの借金消えるまでは四の五の言うなっ!」
「はーいっ」

男の持つ小瓶に数本束ねてやじりを浸す。

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン

まるで機械仕掛けのように、女の腕と指が尋常ならざる速度で、そして正確に反復動作を繰り返す。
放たれた矢は渡り鳥の群れが如く、美しい隊列をなして、空の上でのたうち回る男に吸い込まれてゆく。

「硬ってぇぇぇなぁをい!一本もまともに入んねぇじゃねぇか?まっ、すぐに鈍りはじめんだろ。スキ見せたら仕留めろよ」


~~~~~


こうして跳ね回っている限り、短射程の魔法を警戒する必要は無い。
だが足元の歩兵を潰しきったところで、弓兵の遠慮が無くなった。
アドレナリンに酔い過ぎて然程さほど痛みは感じないが、全身燃えるように熱い。

もう半分は殺ったろ?
だが、嫌な残り方だ。
シリアの援護が届くとこまで引かなきゃまずいな。

クラッ・・・

血ぃ流しすぎた・・・まぁどうしようも無いんだが

トスッ トストスッ

・・・うん、こりゃだめだ。自分じゃ抜けねぇ・・・ ふわっ・・・ んぐっ
やばいやばい。
今のちょっと寝そうだった。

こうなったらどうすんだっけ?
そうだ・・・黒いの黒いの・・・んで黄色い字・・・あそこか

トスッ トストスッ ・・・ ガランっ

うん、一本刺されば二本も三本も一緒だな、イケルイケル・・・盾を拾って~ ズルッ ドスッ
ってぇぇぇ、矢は平気なのにコケると痛いのな? をっ? なんだここにもあんじゃん~


~~~~~


「殺ったか?」
「イイのは何本か入ったけど、あの上がどうなってるかは見えないわね」
「おしっ、シュワルベ、とりあえずあの上どうなってるかサクッと行って確認してこい」
「え~、また俺っすかぁ?っていうか登れないっすよ?あんなん?」

ブゥンッ

「ん?なんだ今の光?」
「さぁ~?」
「ったく使えねぇな~、しゃぁねぇ、自分で行くか」


~~~~~


3,000メートル先の戦場。
その光景がハッキリと見えているのはシリアだけだ。
そのシリアの顔が見る見る青褪あおざめる。

「来るわよっ!中で待機っ!」

シリアだけはその場で状況を監視し続け、ロックハウスの女達が黒岩の階段を駆け下りる。
黒岩の四面には黄色い塗料で『零』と記されてた。

「来ましたっ!」
「奥方様っ!酷い怪我だっ!」
「矢が・・・こんなに・・・」
「カインっ!カインっ!」

階段の穴から叫びが聞こえる。
だが、シリアに課せられた役目は夫の治療では無い。
駆け下りたい衝動をぐっとこらえ、夫に報告すべき変化が無いか、戦場を見据え続ける。

「アベルっ!なんとかしなさいっ!できるわねっ?」
「はっ!」

この半年、カインが準備し続けた秘策中の秘策、それは『携帯転移門』。
転移門の稼働条件は『神殿に刻まれた魔法陣に、充分な神力が蓄積されている事』。
そして神殿の充分条件は『教皇による認可』だ。

当初カインは、一枚の石版を『神殿』と認定し、そこに魔法陣を刻み、感謝の祈りをコツコツと注ぎ続けた。
だが、ロックハウス家全員で祈っても、とても転移門の稼働レベルまでは達しなかった。

そしてカインは暴挙に出る。
郵便サービスが提供されていないが、転移門の稼働レベルに達している神殿の床を切り抜き、空の魔法陣と差し替えたのだ。
土魔法があれば造作も無い。
そしてそれを繰り返した。

まだまだ数は揃っていないが、が記された黒岩には、この可動可能な魔法陣が埋め込まれている。
そう、IBという特殊なギフトと、転移門の管理者という地上で唯一人の権限、この2つが揃って初めて意味を成す、神界の誰もが想定していなかった事態、どこへでも行けるワケでは無いが、翔べる『携帯転移門』が生み出されたのだ。


~~~~~


ハイヒール上級回復!!!」
「ぐっ・・・っふぅ・・・やべ、落ちてた?」
「カインっ!」
「奥様っ!主様が意識を取り戻しましたっ!」
「そうっ!だいじょぶねっ?」

階段を挟んで声が飛び交う。
無駄な努力かもしれないが『携帯転移門』は秘匿しておきたい。

「あー、たぶん毒だ。アベル」
デドック毒消し!!!」

カインの顔色がじんわりと赤みを増す。

「うっし、シリアっ!どれくらい経った?」
「2分ってとこね。まだバレて無いわ・・・あっ、なんかスンゴイのがよじ登ってる・・・アンタっ!もっとこっちで戦えないの?」
「あー、難しいな。思ったよりコントロールできない」
「なら、あたしらが行くわっ!いいわねっ?」

言いながらシリアが階段を駆け下りる。
そう、携帯転移門の携行はカインくらいしか出来ないが、利用はシリアたちも問題ない。

「・・・弐番までだ。それ以上は心配で気が散る」
「わかったわ。アンタは九番に戻るといいわっ!もう転ぶんじゃないわよっ?」
「ああっ、それじゃあ第2ラウンド、行きますか。終わらせるぞ!」
「「「「「はっ!」」」」」

ブブブゥンッ

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