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2nd season 第二章

119 白の騎士

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聖教国の職業軍人はおおよそ9千人。
200万という国民数に対してはあまりにも少ない。
勿論有事には地方の農民達が歩兵として駆り出されるが、神殿の記録を見る限り、農民を動員しなければならない程の戦はかつて一度も無かった。
当然といえば当然、聖教国に刃を向ければ、神敵と宣言され、これ幸いと周辺諸国に攻め込まれる事になる。

この小さすぎる軍隊と犬猿の仲にあるのが、構成員2千名弱の聖騎士の皆さん。
聖騎士だからといって回復魔法に補正がかかるとかそういうのは無い。
基本的には警察機構だが、お布施を渋る悪い子を綺羅きらびやかな甲冑で取り囲んで、神の名のもとに恫喝するのが主な業務内容だ。

そして、この2つの武力勢力から、共通して嫌われているのが我が愛すべき白の騎士六名。
軍部からは『騎士』という事で嫌われ、聖騎士からは『お飾りの癖に偉そうに』という事で嫌われている。

うん、まぁ、普通そうなるわな。



ザッ ザッ ザッ ザッ

「五列~縦~隊~~~~~移れっ!」

ザッ ザザッ ザッ ザッ

「長~槍~隊~~~~~構えっ!」

ズシャッ!



「如何ですかな猊下?まこと壮観でありましょう?我軍は?」
「あー、うん、素晴らしい・・・かな?」

今日は楽しい教皇参観日。
白の騎士を引き連れ、軍の演習を視察激励という、なんとも退屈なお役目だ。

いやな?確かに岸田前世だったけど、三国志とか戦国武将とか、そっちは行かなかったんだ。
とりあえず、ロボットが出てこないアニメは見ない系のでしたからね?
だからマスゲームとか見せられても「戦闘中に見えるとこ並んで歩くとか、バカなの?死ぬの?」としか思えない。
だってさ?
初速80m/秒のエアガンですら、目視出来た瞬間、どっちか死ぬんだぜ?
なんでお互いに整列して始めんの?
まず隠れようよ?

っていうかそもそも敵が集結してるとこに行かなきゃいいじゃん?
精鋭がノコノコ前線出てきてる間に、国のトップまとめて暗殺しちゃおうよ?

「そうでありましょう?いかな強軍とて、このように兵の練度を見せつけられれば、尻尾を巻いて逃げ出そうというもの」
「ああ、頼もしいな」

人は城、人は石垣、人は堀・・・と言うらしいけど、俺はPGプログラマーだったので『潜在的なバグの数は、関わった人数の二乗』という開発原則の方を信じてる。
一人で戦えば、想定外の事態は1つで済む。
二人なら4つ、十人なら100通り。
千人も関わったら100万通りのデスマ・シナリオが用意されちゃうんだぞ?
作戦も何もあったもんじゃない。
まぁだから『笛が鳴ったら全員突撃』みたいな、シンプルなメソッドじゃないと実行出来ないのか。

とはいえこの『並んで合図で殺し合う、死ななかったらワンス・モア』っていうやり方は、グリーンベレーが登場するまで続いてたらしいから凄いもんだ。
両軍向かい合って合図で銃を撃ち合うとか、ロシアンルーレット以外の何物でもない。
それが「自分たちで状況判断できるユニット」の出現で、大きく戦術が変化した。

戦略的意味合いの強い大軍と、実際に仕事をする少数チーム。
何が言いたいかと言うと、正直、軍とかどうでもいい。
金かけるならアサシンチームだと思うんだ。

普通の国ならいざしらず、数の暴力を叩き潰す事にかけては俺達はそれなりに長けてる・・・っていうかIBが超ズルい。
むしろ『突出した個』が戦場に出てくる前に『泥酔のすえ川で溺死』とか『食中毒で参戦を断念』とかいう感じにお願いしたい!

「ではここで、教皇猊下より訓示を賜るっ!猊下っ!お願いいたします!」

脳内で軍部をディスっていたら、横からボールが飛んできた。
ふむ、見せてやろう!大和魂本音と建前って奴をっ!

「諸君っ!私はこの国が好きだっ!」

しーん

「神々に祝福されし美しい自然っ!すべての民が信仰に篤く、世界の王達が我が国の教えに跪く」

ボソボソッ ボソボソッ

「だがそんな事は理由にならんっ!私がこの国を好きなのは、惚れた女達が居るからだっ!諸君らはどうだっ!惚れた女はいるかっ!」

おーっ!
いるぜーっ!

「諸君っ!国など護る必要は無いっ!諸君らが護るのは惚れた女だっ!惚れた男だっ!」

そうだっ!
いいぞ猊下ぁぁぁっ!

「そして諸君っ!私は諸君らを誇りに思っている。何故だかわかるかっ!」

うぉぉぉぉぉ!
なぜだぁぁぁあっぁ!

「我が国の軍は小さいっ!めっぽう小さいっ!周辺国の軍は諸君らの五倍はいるぞっ!なのにっ!なのにだっ!」

ゴクリッ

「諸君らは五倍の敵から悠々女達を守っているっ!これが誇らずに居られるかっ!」

俺たちはつぇぇぇぇぇ!
うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

「諸君っ!私は諸君らを誇りに思うっ!誇り高き戦士たちにホルジスの祝福あれっ!」

うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
げいっかぁぁぁぁぁぁ!
教皇様ばんざぁぁぁいっ!

うん、こういうノリも実は嫌いじゃない。
フツメンに大佐赤い人は無理だ、やっぱ少佐戦争が大好きだの人だろう?

オーケー、会場もあったまってきた。
今日の目的を実行するとしよう。

「諸君っ!お互いにわかり合えたところで一つ問いたい。が嫌いか?」

ヒソヒソ ヒソヒソ

「いや、責めるつもりは無い。私が諸君の立場でもイラつくだろう・・・『教皇に股を開いて騎士にしてもらった売女共が!』くらいの愚痴は言うはず」

しーん

「しかも、概ね正解だ。彼女らの半分はの女。だから騎士にした。当然だろう?近衛の立場ならいつでも俺を背中から斬れる。何よりも信頼できる者で固めるのは当たり前の事だ」

ケッ、やっぱりな(ヒソヒソ
つーかはっきり言いやがったぞ(ヒソヒソ

「だがな?諸君らは一つだけ勘違いしている。アベルっ!」
「はっ!」





呼ばれたアベルが一歩前に出る。

「どうだ、アベル?お前よりも強そうな者は居たか?」
「はっ!主殿っ!残念ながら主殿の護衛を任せられる者はおりませんっ!」

ざわっ ざわざわっ

今日の演習に参加しているのは500名ほど。
精鋭クラスレベル20程度の者はある程度居るが、英雄クラスレベル30以上のものは居ないと、ヤザンが言っていた。

「そうか・・・どうだ諸君っ!アベルはこう言っているが?諸君らの中に我がを倒せるものは居るかっ!罰しなどしないっ!我こそはという腕自慢は名乗りを挙げよっ!」

ひそひそ ひそひそ

「恐れながら猊下っ!聖女どのに勝っても自慢になりませんっ!女相手にムキになった恥知らずと罵られるのがオチでありますっ!」

ゲラゲラゲラゲラ

「ふむ、そうか?君の名はなんという?」
「はっ!千人隊長のゲイジでありますっ!」
「君はこの軍で一番強いのかな?」
「いえ猊下っ!自分は二番目でありますっ!」
「ほぅ、一番から五番まで教えてもらえるか?」
「はっ!グランツ、自分、トビー、ミカ、ジンの順でありますっ!」

ほーん、女でもちゃんと強い者は認めるのか。
悪くないな。

「よしっ、その五名にアベルの力量を測ってもらうとしよう。前に出てもらえるか?」
「「「「「はっ!」」」」」

いかにも軍人といった風体の五人が嫌そうに出てくる。
かわいそうだが、俺はアベルのほうがかわいいっ!

「諸君らにはこれからアベルと立ち合って貰う。諸君は五人がかり、アベルは一人だ」
「猊下・・・さすがにそれは自分たちも腹が立ちます」
「ふむ、そうだな、皆がやる気の出るよう賞金を付けよう。アベルに『参った』と言わせた者には白金貨一枚二億円のボーナスだ。心配するな、怪我させようと、決して罰したりしないとホルジス神に誓おう。それに、賞金は俺のポケットマネーだ。尊い浄財や国民の血税を使ったりはしないぞ?」
「・・・猊下、本気ですか?」
「ああ。良いな?アベル?」
「はっ!」

急に目の色が変わった五名が木剣を手にする。

「アベルも、準備せよっ!」
「はっ!恐れながら主殿っ!奥方様より『やりすぎるな』と、きつく言い含められておりますので、剣は持てませんっ!」

ざわっ ざわざわっ

「聖女様ぁ~、さすがにそれはどうかと思いやすぜ?」
「そうね、今のはかなりカチンと来たわよ?」

「あー、すまぬ。そなたらを愚弄するつもりは毛頭ない。ただ、奥方様の命は絶対なのだ。許せ」

いや、アベル・・・それ、たぶん逆だからな?恥をかかせすぎるなって意味だからな?

「・・・まぁ、良い。双方準備は良いか?」
「「「「「「はっ!」」」」」」
「では・・・始めっ!」

例えば相手が子供であったとしても、人間に腕は二本しか無い、得物を持った五人を相手取るのはまず無理だ。
囲まれて、同時に攻撃されれば防ぎ切れないからだ。

だったら?
囲ませなければいい。
アベルと彼らのレベル補正差は2.5倍、ちょうど俺とヴァルダークさんだ。

一気に囲もうとする彼らを置き去りにアベルが後方に飛び退く。
するとどうだろう?
五対一のはずが、間合いに入れたのは二人だけ、つまり、瞬間的に二対一の構図になってしまう。
2.5倍の身体能力を活かし、即座に二人を沈めれば残るは三人・・・・・あれ?やんないの?

せっかくのチャンスをスルーして再びアベルが後方に飛ぶ。
追いすがる五人、逃げるアベル、更に追いすがる・・・まさかっ!

「あー、アベル?まさかそのまま体力が尽きるまで走らせるつもりじゃないよな?」
「おー、さすがは主殿っ!まさにっ!・・・おっと・・・兵たるもの体力が基本っ!・・・ほっと・・・彼らにもその重要性を知ってもらいたいっ!」

うん・・・さすがアベル、空気が読めないっ!

「あー、アベルさん?ここはやっぱアレじゃないですかね?武人たるもの斯くの如しっ!的な一撃で実力を示すとか、そういう方がスムースかなぁ?」
「むむむ・・・よっと・・・では、そのように」

うん、素直さはアベルの良さの一つだ。
逃げるのをやめたアベルが振り返る。
木剣を振り下ろそうとする兵の拳に左手を添え、軌道をそらしつつ鳩尾に・・・

ボスッ! ・・・・ うぁ痛そ

ボスッ! ボスッ! ボスッ! ボスッ!

その場にうずくまる五人の兵・・・地味すぎる・・・どうしよ、コレ?

「あー、ちょっタンマタンマ。どうやら人選を間違ったようだ。アベル、交替っ!ライザ、木剣もってこっち来いっ!」

ショボンとしたアベルを隊に戻し、うきうき顔のライザに言い含める。

「いいかライザ?俺はお前たちが白の騎士にいかに相応しいかを軍の皆さんに知ってもらいたい。派手さが必要だ?わかるな?」
「はっ!」

よし、仕切り直そう。

「あー、精鋭の諸君。すまん、ちと手違いがあった。今度はちゃんとお相手する。大丈夫だ。白金貨の条件も変わらない。良いか?」
「「「「「・・・」」」」」

ヨロヨロと起き上がる兵の皆さん。
うん、返事が無いのは肯定ととっていいだろう。

「よしっ!はじめっ!」

「うほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

号令と同時に駆け出すライザ。
うん、木剣は既に宙を舞っている、そしてライザも舞っている・・・。

ドゴーンッ!

横隔膜痙攣から立ち直ったばかりの兵の皆さん、その顔面にドロップキックが・・・ライザ・・・。
紅一点、女性兵士の足首を片手で掴むとブンブン振り回して、二番目のおっさんに・・・ドゴーンっ!・・・うん、ライザじゃ駄目だ、動揺してまた人選を誤った。

「ストーップ!ストーップ!・・・ライザッ!騎士っぽくってゆったじゃんっ!それじゃゴリラだからっ!蛮族の王とか要らないからっ!」

ボロボロになって地に転がる兵の皆さん・・・すまぬ。

「あー、うん、またしても人選を誤ったようだ・・・エマっ、お前だけが頼りだ。華麗に、美しく、騎士らしいところを頼む。と、言うわけで、今度こそ、今度こそ、大丈夫だからっ!兵の皆さん、起きてっ!起きてっ!」
「「「「・・・」」」」
「猊下・・・自分たちが間違ってました。白の騎士の強さ、認めます。認めますから、マジ、勘弁してください」



その日以降、白の騎士が軍部に嫌われる事は無くなった。
そして『白いゴリラ』という言葉が、そこかしこで囁かられるようになったという・・・。













##### 作者コメント ######

すんませんっ!
思ったより面白くなかったっす_| ̄|○ il||li
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