I.B.(そこそこリアルな冒険者の性春事情!)

リカトラン

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2nd season 第二章

112 プライド

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「第一回『郵便事業開始目前っ!ここが正念場だよ、しっかりつめよう会議っ!』、はい、拍手~」

ぱちぱちぱちぱち

「さて、聖都王都間の公開レビュー評価試験も無事終わり、いよいよ半月後、4月の13日からサービスインです。まずは決まっていることから再確認してきますよー?」

「「「「「はーい」」」」」

1. 王都・聖都・エルダーサの三箇所でサービス開始。
2. 手紙は銅貨五枚1万円、荷物は銀貨五枚10万円からで、荷物に関しては重さで追加料金。
3. 手紙は本人まで届けるが、荷物は神殿預かりで電報を本人に渡す。
4. 利用者には魔力識別の『郵便カード』を発行し、登記簿に記録する。聖教国の地方では全員に義務付け、聖都では各ギルド員に義務付ける。
5. 『郵便カード』は、神殿スパの利用時にも提示が必要となる。(持っていないものはその場で登記)
6. 神殿から手紙を持ち出せるのは、選ばれた『神殿配達人』のみ。
7. 『神殿配達人』はLV35以上で、教皇の面談により任命、その権限は衛兵はもとより、上級神官より上位であり、任務遂行および自衛に必要であれば、国の内外を問わず、殺人も許可する。
8. 郵便及び荷物の仕分け、郵便カードの登記業務は『神殿郵便事務官』の業務であり、神官及び救護院から人材を募るが、採用には教務長ヤザンの面談が必要。
9. ロックハウス家の命なくして、手紙及び荷物を持ち出したものは、配達目的の神殿配達人を除き、理由の如何にかかわらず極刑とする。
10. 神殿配達人および神殿を襲う、ないし襲おうと計画したものは、理由の如何にかかわらず極刑とする。
11. 配達日数はおおよそ3日とし、特別料金での速達サービスは現段階では見送る。

「みんな、ここまでで質問は?」

「郵便、出すときに神殿で登記簿の宛先確認するのよね?三箇所なら三冊で済むけど、郵便神殿が増えたらどうするの?」

「はい、良い質問です。登記簿は各神殿には置きません。エルダーサを登記簿センターにして、登記簿の確認係を『通信者』とし、郵便事務官の中でも上位職ですね。その人だけは持ち場の神殿とエルダーサに限り、転移門の利用を許可します。なので、登記簿はエルダーサに一冊、聖都に保管用が一冊、俺のIBに原本が一冊の三冊のみ存在することになります」

そう、電子化されてい無いこの世界で、俺はサーバー・クライアント・システムを構築する。
エルダーサがサーバーで、各神殿がクライアントだ。
『通信者』は言わば、すべての問い合わせはエルダーサで参照され、各神殿に戻される。
やがて開始されるであろう銀行業務においても、このシステムは必須だ。

「この仕組を支えるのは、神殿郵便に関わる者たちのプライド。だから面談と教育が鍵になる。職員が国民に、全世界に尊敬されるよう、俺達は立場を保証する必要があるし、不正は絶対に許さない。どんな事情があっても極刑にする」

「教育、できるの?」

「秘策がある・・・年に一度、ホルジス様と会わせる。それは名誉な事だし、特権であると同時に、腹に逸物かかえた者は、心を読まれ断罪される」

「・・・まっ、仕方ないわね?配達人になれれば、その辺のお貴族様より偉いんでしょ?」

「配達人を害するものは、たとえ相手が一国の王でも、この国が全力を挙げて潰す」

「ふむ、権力に義務が伴うのは当然の事。言わば配達人は騎士・・・それ以上という事か」

「そう。郵便はやがて世界を支えるインフラとなる。その誇りを持たぬものは、郵便事業には関わらせない」

IT革命とやらが起きる前。
そう、通信速度が精々128kbpsだったあの頃、俺達は貴族であり、革命家だった。
毎日のようにの革新があり、俺達自身、を産み出すチャンスがあった。
あの世界で、デスクの下で丸くなって眠る毎日の中で、にはなれなかったけど、俺にも幾つかのを産み出すという栄誉があった。

あえて言おう!日本で初めて、ライブストリーミングの有料エロ動画チャット・システムを構築したのはこの俺だっ!
エロだからって馬鹿にすんなよ!?
ADSLが出始めたあの時代に、民間中小企業でライブストリーミングを配信するのがどれほどの技術を要したか!
ビデオデッキを普及させたのがAVコンテンツだったように、日本を光ファイバー大国に育てたのはエロ動画だ!
そのインフラあればこそ、スマホでなんでも出来る世の中になったんだ!
そこに至るには多くの同胞たちの、文字通り屍があった。

携帯アプリ全盛の折、田町・新橋・浜松町、あの界隈でどれほどの同業者が首をくくったか。
180cm×45cmの会議テーブルに三人ずつ座らされ、食事の外出にも監視がつく。
当然家には帰れない。
幸運にも、俺はそんな鉱山奴隷のような任地に配属されることが無かったが、その僅かな食事のすきに、ファミレスのトイレの窓から逃げ出して、電車に飛び込んだ奴の話なんて、業界内では珍しくなかった。

そんな俺達の心の拠り所は秋葉原。
コスプレ天国とかそういうんじゃない。
このCPUを積んだら、このグラフィックボードを積んだら、俺はもっと、もっと速く!もっと遠くへ行けるかもしれないっ!
そんな期待と興奮が、あの街にはあった・・・。

「主様?」

「?・・・ん?すまん。少し昔を思い出してた・・・うん、皆にもいつか伝えたいんだけど、ちょっと複雑過ぎて、たぶん伝えきれないだろうな・・・話を戻そう。問題の『神殿配達人』だけど、白の騎士六名をそのまま配達人に任命する。つまり、それほどの栄誉職だって事だ。いいな?アベル?」

「はっ!お任せ下さい!」

「配達人だけでも、聖都に五人、王都に五人、エルダーサに二人は、最低欲しい・・・」

「六人・・・足りないわね?」

「ああ、それが悩みどころなんだよ。無理に採用条件甘くして、質を落とすのは絶対にダメだ」

「旦那様?エルダーサは当面私が担当しましょうか?」

「それはダメだ。ユリアだけじゃない、俺達はエルダーサは担当できない。見知った俺達が配達人だったら、どうしても親しみ過ぎちまうだろ?憧れの騎士を見るような目で見てもらえる、その為には身内じゃダメなんだ」

「なるほど・・・」

「ヤザン、暗部から二人、表に出せないか?」

「暗部から・・・ですか?それは・・・可能ではありますが、白の騎士と同格の役職というのは、宜しいのですか?」

「うん、本来なら、白の騎士は業務から外したい。俺の近衛として置くべきなんだ。でも、配達人の地位と誇りが確立されるまで、任せられるものが他に居ない。お前が選ぶなら、俺も安心だが、念の為面談はするぞ。それは俺の義務だ」

「はっ、早速に」

「それから、エルダーサの登記簿センターにも一人欲しい。本当は各神殿の事務官にも紛れ込ませたいが、一度にあまり引き抜いても、どこかにしわ寄せが出るだろう。まずはその三名を頼む」

「御意に」

「というわけで、そうだな。聖都はアベル・リシェル・スージー、王都はエマ・ライザ・ミラン、エルダーサは暗部からの二人だ。王都と聖都には俺達もフォローに入るが、なるべく早期に人材補充しよう。スージーは調と兼任で大変だけど、頼むな?」

「「「「「はっ!」」」」」





郵便事業の開始は目前。
人材不足に悩むカイン達。
好都合なのか不都合なのか、一人の男とその従者が、聖都神殿の門を叩くのだった。
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