24 / 173
1st season 第二章
024 荒野
しおりを挟む
男が荒野を歩いている。
周囲には敵と思しき存在が見受けられないが、男は奇っ怪な弓を構え続けている。
そして数歩あるく毎に、その弓をワタワタと取り落としそうになっている。
まごうことなき不審者である。
(うーん、差し替えるだけなら問題無いんだけど、照準姿勢をそのまま引き継ぐのはかなり練習が必要そうだな~)
カインの脳内にはI.B.内の一覧が浮かんでいる。
カインお得意の妄想では無く、I.B.によって提供されるユーザーインタフェースだ。
零式複合弩(装填済) × 86
零式複合弩 × 13
アンチマテリアルライフル × 1
鋼鉄製のボルト × 2,341
・・・etc
このUIはなかなか秀逸で、リネームや階層化だけでなく、スマートフォルダまで実装されていた。
リネーム前の本来の名称は、意識を向けるとポップアップする注釈ウィンドウで簡単な説明とともに表示されるという親切ぶり。
背景には半透明の3Dイメージまで写っている。
尚、物騒なチート武器か一つ混じって居るが、コレはカインが勝手にリネームしただけで、中身はバイポットを装備した、零式よりも少し大きく、より精密な作りの複合弩となっている。
正面に構えた零式を収納し、瞬時に新しい零式を取り出す。
取り出した瞬間、手と弩が重なって融合してしまう・・・などというホラーは無かったが、アイアンサイトに捉えたターゲットを、入れ替えた零式でも捉えたままという状態にするのは、一朝一夕で身に付けられる技術ではない。
(いやぁ~それにしてもカッコいいよな~。あのとき町田さんに見せてもらったコンパウンドクロスボウ、よもや死後の世界で手に入れるとは・・・人生わかりませんのぅ~)
それなりの数のプログラマーがそうであるように、岸田も月に一度のサバゲーを楽しみにする男だった。
規制やらイジメやらで都内ではまともなフィールドが無い為、千葉や栃木の山林を利用したフィールドに出かける。
ひたすらデスクに縛り付けられ、ビルの谷間から見上げる空ですら数日に一度しか拝めない岸田はいつも「空がひれぇ~」と思ったものだ。
テレビや映画では向かい合ってパンパン銃を打ち合い、転げ回って回避したりしているが、おもちゃのエアガンで戦うサバゲですらそんな事態はありえない。
匍匐で位置を変え、遮蔽物からワンチャン半身を出して引き金を引く。
撃ったら即座に身を隠す。
一秒もその場に突っ立っていたら、相対距離20mでも間違いなく蜂の巣である。
そんなサバゲ仲間の町田氏に、一度だけ触らせてもらったアメリカ製のコンパウンドクロスボウが零式の原点だ。
偏心滑車を使うことで運動力学的なエネルギーが1.5~2倍になる。
つまり、同じ力で引けば弓の1.5倍の距離から射れ、同じ距離に射程を想定したものなら、少なく見積もっても3割は楽に引ける。
一般に弓の到達距離は200m、的当て競技なら90mで50cm収束、狩猟なら4~50mが殺傷威力圏内と言われている。
この世界の魔法は精々が20メートルしか飛ばないため、弓のほうが射程が長い。
カインの作った零式は滑車式であるため、数十メートルなら間違いなく板金鎧を貫く。
その形状は水平二連ショットガンの前部分に、M字型の弓を置いたような事になっており、全幅は僅かに48cmしかない。
Mの字の縦二本の棒がリムとなっており、その端にはカムが取り付けられている。
この世界では複合樹脂など入手できない為、リムにはビッグボアの牙を木でサンドイッチにしたものが使われている。
テコの原理と滑車の効果でようやっと曲げられるものであって、人の力ではとても曲げられない。
厨二魂がピストルグリップ化を主張したが、そこはさすがに命を預ける装備として、ライフルストックを採用した。
カイン独自の機構として、ボルトを乗せる木製レールの上にも、金属のレールが設置されている。
その上下のレールの間をボルトと弦が走る構造だ。
ボルトは振り回したくらいでは落ちないが、森のなかで木の枝にぶつかれば落ちてしまう。
そういった事故率を下げるために、カインなりに思案した結果だった。
(うーん、何か射ちたい。テンプレだとこう、荷馬車が襲われてて、颯爽とヒロイン助けちゃったりするんだけどなー)
カインが乗合馬車に乗らず、徒歩移動を選択したのは単に貧乏性だっただけでは無い。
完成した零式を『訓練』という名目で出し入れしてニヤニヤしたかったのだ。
乗合馬車でやったら事案である。
一人でやってても不審者である事には違いないが。
そうこうしながらテクテクと歩いていると、テンプレの神様に願いが届いたのか、少し先の林道から戦闘音が聞こえてきた。
周囲には敵と思しき存在が見受けられないが、男は奇っ怪な弓を構え続けている。
そして数歩あるく毎に、その弓をワタワタと取り落としそうになっている。
まごうことなき不審者である。
(うーん、差し替えるだけなら問題無いんだけど、照準姿勢をそのまま引き継ぐのはかなり練習が必要そうだな~)
カインの脳内にはI.B.内の一覧が浮かんでいる。
カインお得意の妄想では無く、I.B.によって提供されるユーザーインタフェースだ。
零式複合弩(装填済) × 86
零式複合弩 × 13
アンチマテリアルライフル × 1
鋼鉄製のボルト × 2,341
・・・etc
このUIはなかなか秀逸で、リネームや階層化だけでなく、スマートフォルダまで実装されていた。
リネーム前の本来の名称は、意識を向けるとポップアップする注釈ウィンドウで簡単な説明とともに表示されるという親切ぶり。
背景には半透明の3Dイメージまで写っている。
尚、物騒なチート武器か一つ混じって居るが、コレはカインが勝手にリネームしただけで、中身はバイポットを装備した、零式よりも少し大きく、より精密な作りの複合弩となっている。
正面に構えた零式を収納し、瞬時に新しい零式を取り出す。
取り出した瞬間、手と弩が重なって融合してしまう・・・などというホラーは無かったが、アイアンサイトに捉えたターゲットを、入れ替えた零式でも捉えたままという状態にするのは、一朝一夕で身に付けられる技術ではない。
(いやぁ~それにしてもカッコいいよな~。あのとき町田さんに見せてもらったコンパウンドクロスボウ、よもや死後の世界で手に入れるとは・・・人生わかりませんのぅ~)
それなりの数のプログラマーがそうであるように、岸田も月に一度のサバゲーを楽しみにする男だった。
規制やらイジメやらで都内ではまともなフィールドが無い為、千葉や栃木の山林を利用したフィールドに出かける。
ひたすらデスクに縛り付けられ、ビルの谷間から見上げる空ですら数日に一度しか拝めない岸田はいつも「空がひれぇ~」と思ったものだ。
テレビや映画では向かい合ってパンパン銃を打ち合い、転げ回って回避したりしているが、おもちゃのエアガンで戦うサバゲですらそんな事態はありえない。
匍匐で位置を変え、遮蔽物からワンチャン半身を出して引き金を引く。
撃ったら即座に身を隠す。
一秒もその場に突っ立っていたら、相対距離20mでも間違いなく蜂の巣である。
そんなサバゲ仲間の町田氏に、一度だけ触らせてもらったアメリカ製のコンパウンドクロスボウが零式の原点だ。
偏心滑車を使うことで運動力学的なエネルギーが1.5~2倍になる。
つまり、同じ力で引けば弓の1.5倍の距離から射れ、同じ距離に射程を想定したものなら、少なく見積もっても3割は楽に引ける。
一般に弓の到達距離は200m、的当て競技なら90mで50cm収束、狩猟なら4~50mが殺傷威力圏内と言われている。
この世界の魔法は精々が20メートルしか飛ばないため、弓のほうが射程が長い。
カインの作った零式は滑車式であるため、数十メートルなら間違いなく板金鎧を貫く。
その形状は水平二連ショットガンの前部分に、M字型の弓を置いたような事になっており、全幅は僅かに48cmしかない。
Mの字の縦二本の棒がリムとなっており、その端にはカムが取り付けられている。
この世界では複合樹脂など入手できない為、リムにはビッグボアの牙を木でサンドイッチにしたものが使われている。
テコの原理と滑車の効果でようやっと曲げられるものであって、人の力ではとても曲げられない。
厨二魂がピストルグリップ化を主張したが、そこはさすがに命を預ける装備として、ライフルストックを採用した。
カイン独自の機構として、ボルトを乗せる木製レールの上にも、金属のレールが設置されている。
その上下のレールの間をボルトと弦が走る構造だ。
ボルトは振り回したくらいでは落ちないが、森のなかで木の枝にぶつかれば落ちてしまう。
そういった事故率を下げるために、カインなりに思案した結果だった。
(うーん、何か射ちたい。テンプレだとこう、荷馬車が襲われてて、颯爽とヒロイン助けちゃったりするんだけどなー)
カインが乗合馬車に乗らず、徒歩移動を選択したのは単に貧乏性だっただけでは無い。
完成した零式を『訓練』という名目で出し入れしてニヤニヤしたかったのだ。
乗合馬車でやったら事案である。
一人でやってても不審者である事には違いないが。
そうこうしながらテクテクと歩いていると、テンプレの神様に願いが届いたのか、少し先の林道から戦闘音が聞こえてきた。
0
お気に入りに追加
666
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる