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1st season 第一章
022 I.B.
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白兎亭の居候になって二ヶ月が経とうとしている。
ユリアとの結婚に代わる、異世界生活の目標はまだ見つかっていない。
まぁ当然かな。
そもそも岸田の人生にも目標なんて無かったし。
ラティアさんとの関係は互いに依存しながらそのままズルズル。
ヒモっぽいので、最近は獲物の肉を持ち帰るようにしてる。
勿論ソロだ。
そう、アイテムボックスを隠匿するのは諦めた。
せっかく手に入れた第二の人生まで、右見て左見て足並み揃えるのはバカバカしいという結論。
どれだけ出る杭にならないよう気を付けてみたところで、この世界では街道を歩いてたら突然アタマからマルカジリにされる事も珍しくないわけで・・・そもそも十六歳で婚約者が乱交アヘ堕ちNTRとか全然足並み揃ってないからっ!
っていうか向こうの世界ですら、普通に目立たず結構がんばって、誰にも迷惑かけ無いように生きてたのに32歳でおっちんだ。
バカバカしい。
便利なものは使うし、軍に目を付けられたら地の果てまでも逃げるっ!
とか息巻いてみたものの、所詮は『アイテムボックス』。
小説なら転生者全員に『異世界言語』とセットで配られる程度の粗品スキル。
俺TUEEEEEEEには程遠い。
勿論アレが出来ないか試してはみた。
試練の洞窟を越え、深く山に分け入り、上流の小川であらん限りの大岩をI.B.に収納。
誰にも目撃されない場所であるのをいい事に、高く右手を突き上げたポーズでアノ詠唱を高らかに叫ぶ。
「来たれっ!メテオストライクっ!!!」
自らの技で圧死する所だった。
そう、このI.B.、内容物を取り出せるのはあくまでも『身体のいずれかが接している空間』に限定される。
想像してみて欲しい。
遠く空の上に出現するはずだった軽トラサイズの大岩が、高く掲げた右手の上に出現するのだ。
もしも人目を気にして厨2ポーズを取ってなかったら、避け切れず第二の人生は終了していただろう。
もっとも、この命がけ(?)の特訓のおかげで、エルベの森のソロ活動が可能になったのだからよしとしよう。
俺の編み出したビッグボアの狩り方はこうだ。
まず、慎重に探索し、ビッグボアを見つける。
IBから取り出した石ころをぶつけて怒らせる、このときある程度以上の距離があったほうが好ましい。
怒ったビッグボアが突進して来るのをぼーっと突っ立って待つ。
インパクト2~3m手前あたりで横っ飛び回避しながら大岩を身代わりに出す。
ビッグボア自爆昏倒。
てくてく戻って斧でトドメ。
このコンボは厨2風に『空蝉』と名付けた。
オークやシルバーエイプの場合、空蝉は決定打にならない。
集団を相手にする際の障害物程度だ。
ではどうするかというと、既にボコボコに歪んできているタワーシールドと戦斧の基本スタイルだ。
シールドで受け、頭上から斧で叩く・・・と見せかけて振り上げた手から大岩を出す。
そう、あのメテオストライクの悲劇を敵におみまいするのだ。
地味にグロい。
相手が複数で、シールド一枚では凌ぎきれない場合には、そこら中大岩で障害物だらけにして、逃げ回りながら『そっと置いてくるシュート』方式の『メテオストライクの悲劇』を連続で放つ。
もっと巨大な鋼鉄製のブロックとか欲しいんだけど、この世界で手に入るのかわからない。
とりあえず岩を断ち切る刀とかは見たこと無いし、岩を粉砕するモンスターに会ったことも無いので、今の行動範囲なら大岩最強列伝で暮らしていけると思う。
でも、もう少し人に見せられるような戦い方も編み出したい。
~~~~~
「おうカイン、今日もビッグボアかよ」
ギルドに納品に行くと、例の『素行が悪いが人は良い、名も知らぬ男』が声をかけてきた。
「ああ」「あ、換金お願いします」
「つーかいい加減、どうやって試練の洞窟クリアしたのか教えてくれよ」
「だから何度も言ってるだろ?ユリアに捨てられてヤケになって引き受けたけど、アタマの中でユリアとエロい事する妄想してたら池まで着いたって」
「ぜってー嘘だろ?どんだけ妄想力豊かなんだよ!?」
嘘は言っていない。
~~~~~
「ただいま~、ラティアさん、今日もビッグボア少し持ってきたよー」
「カイン様、ありがとうございます」
「いやぁ~女将は最近艶があるね~、どうだい?俺と再婚してみないかい?」
「あはは、ダメですよゲイツさん。私の躰はカイン様に使用権があるんですからねー♡」
半分冗談なのだろうが、依頼の担保にカインのモノになったと、ラティアは憚らず口にする。
ラティアにとっては良い虫よけになるが、カインの評判は『若造のくせに鬼畜』とダダ下がりだ。
ユリアと二人で過ごした一年、カインの居場所は銀の剣亭の一部屋だけだったが、この二ヶ月でようやっとエルダーサの街が居場所になり始めたようだ。
カインにとっての第二の人生が、ようやく始まったのかも知れない。
(第一章 完)
ユリアとの結婚に代わる、異世界生活の目標はまだ見つかっていない。
まぁ当然かな。
そもそも岸田の人生にも目標なんて無かったし。
ラティアさんとの関係は互いに依存しながらそのままズルズル。
ヒモっぽいので、最近は獲物の肉を持ち帰るようにしてる。
勿論ソロだ。
そう、アイテムボックスを隠匿するのは諦めた。
せっかく手に入れた第二の人生まで、右見て左見て足並み揃えるのはバカバカしいという結論。
どれだけ出る杭にならないよう気を付けてみたところで、この世界では街道を歩いてたら突然アタマからマルカジリにされる事も珍しくないわけで・・・そもそも十六歳で婚約者が乱交アヘ堕ちNTRとか全然足並み揃ってないからっ!
っていうか向こうの世界ですら、普通に目立たず結構がんばって、誰にも迷惑かけ無いように生きてたのに32歳でおっちんだ。
バカバカしい。
便利なものは使うし、軍に目を付けられたら地の果てまでも逃げるっ!
とか息巻いてみたものの、所詮は『アイテムボックス』。
小説なら転生者全員に『異世界言語』とセットで配られる程度の粗品スキル。
俺TUEEEEEEEには程遠い。
勿論アレが出来ないか試してはみた。
試練の洞窟を越え、深く山に分け入り、上流の小川であらん限りの大岩をI.B.に収納。
誰にも目撃されない場所であるのをいい事に、高く右手を突き上げたポーズでアノ詠唱を高らかに叫ぶ。
「来たれっ!メテオストライクっ!!!」
自らの技で圧死する所だった。
そう、このI.B.、内容物を取り出せるのはあくまでも『身体のいずれかが接している空間』に限定される。
想像してみて欲しい。
遠く空の上に出現するはずだった軽トラサイズの大岩が、高く掲げた右手の上に出現するのだ。
もしも人目を気にして厨2ポーズを取ってなかったら、避け切れず第二の人生は終了していただろう。
もっとも、この命がけ(?)の特訓のおかげで、エルベの森のソロ活動が可能になったのだからよしとしよう。
俺の編み出したビッグボアの狩り方はこうだ。
まず、慎重に探索し、ビッグボアを見つける。
IBから取り出した石ころをぶつけて怒らせる、このときある程度以上の距離があったほうが好ましい。
怒ったビッグボアが突進して来るのをぼーっと突っ立って待つ。
インパクト2~3m手前あたりで横っ飛び回避しながら大岩を身代わりに出す。
ビッグボア自爆昏倒。
てくてく戻って斧でトドメ。
このコンボは厨2風に『空蝉』と名付けた。
オークやシルバーエイプの場合、空蝉は決定打にならない。
集団を相手にする際の障害物程度だ。
ではどうするかというと、既にボコボコに歪んできているタワーシールドと戦斧の基本スタイルだ。
シールドで受け、頭上から斧で叩く・・・と見せかけて振り上げた手から大岩を出す。
そう、あのメテオストライクの悲劇を敵におみまいするのだ。
地味にグロい。
相手が複数で、シールド一枚では凌ぎきれない場合には、そこら中大岩で障害物だらけにして、逃げ回りながら『そっと置いてくるシュート』方式の『メテオストライクの悲劇』を連続で放つ。
もっと巨大な鋼鉄製のブロックとか欲しいんだけど、この世界で手に入るのかわからない。
とりあえず岩を断ち切る刀とかは見たこと無いし、岩を粉砕するモンスターに会ったことも無いので、今の行動範囲なら大岩最強列伝で暮らしていけると思う。
でも、もう少し人に見せられるような戦い方も編み出したい。
~~~~~
「おうカイン、今日もビッグボアかよ」
ギルドに納品に行くと、例の『素行が悪いが人は良い、名も知らぬ男』が声をかけてきた。
「ああ」「あ、換金お願いします」
「つーかいい加減、どうやって試練の洞窟クリアしたのか教えてくれよ」
「だから何度も言ってるだろ?ユリアに捨てられてヤケになって引き受けたけど、アタマの中でユリアとエロい事する妄想してたら池まで着いたって」
「ぜってー嘘だろ?どんだけ妄想力豊かなんだよ!?」
嘘は言っていない。
~~~~~
「ただいま~、ラティアさん、今日もビッグボア少し持ってきたよー」
「カイン様、ありがとうございます」
「いやぁ~女将は最近艶があるね~、どうだい?俺と再婚してみないかい?」
「あはは、ダメですよゲイツさん。私の躰はカイン様に使用権があるんですからねー♡」
半分冗談なのだろうが、依頼の担保にカインのモノになったと、ラティアは憚らず口にする。
ラティアにとっては良い虫よけになるが、カインの評判は『若造のくせに鬼畜』とダダ下がりだ。
ユリアと二人で過ごした一年、カインの居場所は銀の剣亭の一部屋だけだったが、この二ヶ月でようやっとエルダーサの街が居場所になり始めたようだ。
カインにとっての第二の人生が、ようやく始まったのかも知れない。
(第一章 完)
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