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1st season 第一章

010 煉獄のダンジョン(2)

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8階層のボスはフレイムガーゴイルだった。
剣撃無効、刺突無効、当然ながら火魔法も効かない。
とどめに飛行能力があって中空から炎を撒き散らす。
つまり、ユリア以外の攻撃はまったく届かず、こちらはポジションを無視して炎にまかれる。

「密集防御!少しでも盾で炎を遮って。ユリアはジャベリン!ありったけ打ち込んで。マナ魔力が切れる前にポーションがぶ飲み!」

空飛ぶ魔物相手に飛び道具ももたぬタンクがタゲヘイトを取る術などない。
絶え間なく、喉が枯れる程に「ヒール!!!」が唱えられるが、降り注ぐ炎で敵が見えない。
それでも撃たなければ全員が死ぬ。
ダミ声になりながら四方八方手当たり次第に氷の槍を投げ続ける。
時折「グギャーーー」という叫びが聞こえるので当たってもいるはずだ。
左手でポーションの小瓶をあおり、右手でジャベリンを投げる。
全員ががむしゃらに出来ることをする。

三本目のポーションを飲んだところで火炎攻撃の間隔が開き始めた。
敵が見える!
そこからは早かった。
立て続けに氷槍が突き立ち、断末魔と共にガーゴイルが砕け散る。

「「「「「終わったー」」」」」

全員がその場にへたり込む。

「つーかなんだよこの初見殺し。こんなん出るなんて聞いてねーぞ」
「石系ならせいぜいがフレイムゴーレムのハズなのにー、ギルドの情報もあてんなんねー」
「まーここは人気無いからねー。そもそも情報の絶対数が少なかったんだと思うよ」
「「ユリアちゃんと来て正解だったー」」
「俺らだけだったらマジ死んでたね」
「ユリアちゃん・・・」

メルがユリアに歩み寄ると、ギュッと両腕で抱きしめた。

「よく、頑張ったね。偉かったよ」
「・・・・・・・うぇ~~~ん・・・・・・・・ひっくひっくひっくひっくごべんなさ~~~~い・・・・・・・・ひっくひっくひっくひっくわだじのせいで、わだじのせいで~・・・・・・・・ひっくひっくひっくひっく

ユリアとて馬鹿では無い。
自分のミスで度々火炎に飲まれるレジー達、誰一人として責めるものは居ないが、自分の身が焼かれる以上に苦しかったのだ。

「よしよし」
「よーし、よし」

メイに抱きしめられたユリアの頭を、全員が代わる代わる撫で回す。
いっとき前までの地獄絵図などまったく感じさせない。
ほっこりとした空気に包まれ、ユリアもようやく落ち着き始める。

・・・ひっく泣いたら・・・ひっくおしっこ・・・ひっくしたくなりました・・・ひっく

涙腺崩壊で大泣きした影響か、言動がやや幼児退行してしまった。

「テッド、よろしく」

無口なテッドがボス部屋の隅へ歩むと人差し指を突き出す。

ピットフォール落とし穴!!!」

唱えると小さな竪穴が掘られた。

ストーンウォール石壁!!!」

続けて石の衝立が生まれる。

「えっと・・・部屋の中でするんですか?」
「そうよ、ダンジョンで安全なのは討伐後のボス部屋だけ。土魔法使いが居ないパーティーだと壁すら無いわよ?」
「・・・・ですよねぇ・・・・ボス倒すよりハードル高いかも」
「いいわ、ついてったげる」

トボトボと衝立の影に向かうユリア。

『チョロチョロチョロチョロチョロ~』
(やばいっ。音。これ、本気で恥ずかしい~~~~っ。)

「あっ、水の音聞いたら僕もしたくなってきた」
「てんめ、ザック、何いきなりチンコだしてんだよ!?あっ、こっち来んな、かかるっ!しょんべんかかるっ!」
「私もします」
(メルさん!?????)

「ふふふ、慣れちゃえば平気よ?あたしも一緒にしちゃおう」

要塞フォートレスの面々には壁すら不要なようだ。

『じょ~っ』
『チョロチョロチョロ~』

みんなですれば怖くない。

「ちょっと恥ずかしいの紛れました」
「あっ、大きい方の時も我慢しちゃだめよ?体調崩したら全員の命に関わるからね?終わったら呼んでくれれば灰も残さず燃やしてあげるから」
「ハードル更に上げてきた!?」

部屋中で用を足すという暴挙に及んだ一行、レイカによる焼却滅菌で事なきを得た。

「あ、そう言えば、ドロップ!」
「忘れてた!」

階層主を倒すとドロップが発生する。
稀にダンジョン内の通常モンスターでドロップする場合もある。
いずれも内容はランダムだが、ボスのドロップは期待値が高い。

「コレだね」
「コレだな」

今まで無視されていた部屋中央の宝箱には細やかな細工が施され、これだけでも充分にお宝として価値がありそうだ・・・が、この宝箱、中身を取り出すと消えてしまう魔法アイテムなのだ。

「ボス部屋でミミック擬態モンスターは無いから、ユリアちゃん、初ダンジョンの記念にあけてみて」
「いいんですか?」

全員が頷く。

「あけますっ!ふぁっ!」

スタングレネード閃光弾のような強烈な光が一瞬だけ発せられユリアが怯む、何が起きるか知っていた他の五人はニヤニヤしている。

「魔石と・・・ワンド?・・・綺麗・・・」

宝箱に納められた魔石、表面はガラス質で透明度があり、内部では赤々と燃える炎がその形を変え続けながら駆け巡っている。
全長30cm程のワンドは六角形の指揮棒のような形状をしており、半透明のクリスタル。内部ではキラキラと光る雪の結晶がゆっくりと舞っており、その様はまるでスノードームだ。

「これは・・・炎の魔石か?」
「こっちのワンドも美しいわね・・・冷たっ!」

ワンドに手を伸ばしたレイカがビグりとして引っ込める。

「魔石だけで10,000レア200万円は堅いだろうね、ってホントに冷たい!?」
「・・・ユリアちゃん、持って見てくれる?」
「はい・・・・わっ!?」

ユリアがワンドに手を触れると、雪結晶はその輝きを増し、キラキラとかがやいたままワンドからこぼれ出る。

「ユリアちゃん、冷たくないの?」
「はい、全然冷たくないですよ?」
「これは・・・」

要塞フォートレスの面々が顔を見合わせる。

「うん、みんな、いいよね?」

反対者はいないようだ。

「初ダンジョンの記念に、そのワンドはユリアちゃんが使うといい」
「え、ダメです。追加報酬は無しの約束ですよ?」
「どのみち僕たちには使えないし、それは報酬じゃなくみんなからのプレゼント」
「そうそう、貰っておくといいわ。ワンドがあれば魔法制御と魔力に補正がかかるから、明日からの探索も少し楽になるはずよ」
「先輩からのプレゼントは断っちゃ不味いな」
「・・・正直言うと、とっても欲しいです。綺麗・・・ありがとうございますっ!」

貯金の為に節約第一のユリアとカイン。
安全の為に欠かせないカインの盾や斧を優先して、ユリアは駆け出し用のワンドすら持っていなかった。
更にキラキラとかがやく装飾品など夢のまた夢だ。

「それじゃユリアちゃん、早速ワンドを使って氷壁アイスウォールを出してもらえるかな?」
「はいっ・・・氷壁アイスウォール!!!・・・でかっ!?」

実はユリアが手に入れた『氷結晶のワンド』、売れば金貨100枚2,000万円は下らないレアアイテムである。
その効果は一般的な『魔法制御向上』に加え『氷属性の魔法使用時にマナ消費を50%軽減』という恐ろしい性能。
棒切れ一本持つだけで、魔法の威力が2倍に跳ね上がるのだから、術者のレベルがあがるほどにとんでもない事になる。

「冷た~い」
「しあわせ~」

ダンジョン初日の緊張感にの精神負担、子供の死にボスとの激闘があり、最後には大逆転のプレゼント。
上がり下がりの激しさに肉体も精神も限界だったのか、夕食をとると誰からとも無く眠りに落ちたのだった。
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