I.B.(そこそこリアルな冒険者の性春事情!)

リカトラン

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1st season 第一章

003 合同訓練 - 一日目

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宵闇が朝日に押しやられるその頃、東門には数十人の冒険者が集合していた。

「このエルベの森はお前たちがチョロチョロ出入りしてる南の森とはわけが違う。オークやビッグボア、シルバーエイプがウヨウヨしてる。Fランクのお前らがサシでやりあったら命は無いと思えっ!」

集められた俺達は皆Fランク。
格上モンスターとの戦闘を経験させて貰うための合同訓練だ。

「お前らが落っ死な無いよう、今回随行するのはDランクパーティーの要塞フォートレスと鉄剣団だ。随行チームは基本的に戦闘に参加しないが、お前らが生き残る為の知識を教えてくれる。」

冒険者のランクとパーティーランクは必ずしも一致しない。
メンバーの組み合わせによって個々の能力よりも、より効率的に機能するパーティーと判断されればメンバーのランク平均よりも高いパーティーランクが認められる場合もあるし、その逆もまたしかりだ。
いずれにせよ、Fランクのカイン達とDランクの中堅パーティーでは大人と子供程の実力差がある事は間違いない。

要塞フォートレスのリーダー、ザックだ。今日から四日間の合同訓練で引率責任者に任命された。鉄剣団と一緒に、一人の落伍者も出さないよう務める。まぁ、堅苦しいのは苦手なんで、宜しく頼むよ」

強面のギルマスが控えて居るので黄色い歓声こそあがらないが、爽やかイケメンのザックに女性冒険者の熱い眼差しが集まる。
ザックだけでは無い。
要塞フォートレスに所属する五人のメンバーは男女ともに顔面偏差値が高すぎる。
もっとも、そのレベルの高い女性メンバーもユリアと比べたらやや見劣りする。
男性冒険者の視線がさほど要塞フォートレスに集中していないのが何よりの証拠だ。

「よしっ、それじゃ早速移動しようか。今日の目的地は15km奥の野営地になる。移動中はパーティーメンバーと離れ、タンク、ヒーラー、アタッカーの順で隊列を組むように。最後尾には荷車と鉄剣団が付く」

移動そのものも訓練の一貫だ。
いつものメンバーと離れ、職責が同じ面々と行動をともにする事で、日頃気付かない自分の役割を再確認する事も少なくない。
が、一番の目的はFランクパーティー同士のカップリングだ。
Dランクの要塞フォートレスが五人、鉄剣団が六人という人数であるのに対し、Fランクは2~3人のパーティーが殆どで、中にはソロという者も居る。
一度組んだパーティーを分割するのはトラブルの元、末永く命を預け合うパーティーメンバーの選定に、年単位の時間がかかるの当然の事だ。

「なぁなぁ?あんた、あのスゲェ美人と付き合ってるって本当か?」

深い森の中を進軍するのであれば隊を囲むよう、外側にタンクを配置するのが基本だが、野営地まではそれなりの道が続いている。
危険度は小さいと判断したザックは、同職同士の情報交換が活発になるこの配置を選択した。
そしてカインの居る最前部、タンクの集団は基本的に男所帯となる。

「うん。同じ村から出てきて、冒険者にも一緒になった」
「かぁーっ、羨ましい限りだぜ。他人の女でもアレだけの美人だ、同じパーティーで居られるだけでも目の保養になる」

ユリアと二人参加になっているカインは、朝から何度も同じ質問を繰り返されて閉口していた。

「ははは。いつもはウチのレイカとメルが人気を二分するんだけど、今回はカイン君の彼女が独走かな?」

イケメン指揮官のザックが合いの手を入れる。
要塞フォートレスはザックを含めた男三人が盾役タンクで火魔法使いのレイカがアタッカー、メルが回復役ヒーラーというガチガチの編成だ。
モンスターの群れに囲まれても三方向からアタッカー&ヒーラーを守り切れる反面、火力に欠くという弱点もあり、それが彼等をDランクに留めている一番の理由だろう。

「見た目を抜きにしても希少な氷魔法、正直、ウチで欲しいくらいの逸材かな?」

ザックの言葉にギクリとしたカイン、不安になって振り返ると、アタッカーチームはユリアを中心にガヤガヤと勧誘合戦が繰り広げられているようだ。

「ザックさん、こんなに騒いでて大丈夫なんですか?」
「このあたりはまだそんなに強いモンスターが出ない。賢いモンスターならこれだけ多くの人間の声は避けるし、それがわからないほど知能の低いモンスターなら、それこそアタッカーの出番も無く袋叩きじゃないかな?むしろ他所のパーティーと交流することで、狭くなりがちな視野を広めるのも大事な事だよ?」

結局、一度の戦闘も無いままに野営地についた。

「30分で野営の準備をして集合。その後は日が暮れるまで楽しい講義のお時間だ!遅れるなよ?」

ザックの号令でパーティーごとの設営が始まる。
カイン達のテントは二等辺三角錐を横にしたような袋に柱は一本だけ。
その上に雨避け布フライシートをかけたら完成だ。
本来は一人用だが、抱き合って眠る二人なら広い必要は無いし、まかり間違って第三者を押し付けられる心配も無いので即決で買ったものだ。

「狭すぎね?・・・なんつーか、正に『二人だけの世界』だな・・・」

設営状態の点検にきた要塞フォートレスのレジーさんに突っ込まれた。

「いえ、二人しか居ないですから、荷物も沢山は持てないですし」
「まぁ正解っちゃ正解なんだが、美少女が男とそこに入るのは、世間的に許せんもんがあるな」
「カインは旦那様になるんだからいいんですー」

ユリアかわいい。まじ、かわいい。

「かーっ、やってらんね。準備出来たら集合な?」

カインがユリアの指で果てたあの日から、二人には少なからず変化が生じていた。
ユリアは人前で『結婚』を口にする回数が増えたくらいだが、カインは人格崩壊と言っても良いほどの変わりようだ。
コンプレックスの塊のようなが鳴りを潜め、他人との会話にも余裕が伺えるようになった。
以前のカインなら、今日のように初めて会った他人と会話を続けるような事は出来なかっただろう。
ユリアへの接し方にも壁が一枚無くなったようで、彼女はそれがとても嬉しかった。
それでもカインはユリアのを毎夜求めるような事はしなかった。
狂おしい程に恋していればこそ、若い性に振り回される姿を見せたくなかった。
端的に言えば、盛り過ぎは気恥ずかしかったのだ。

~~~~~

「さて、それじゃあ講義を始めようか。言うまでも無いがパーティーの基本構成は盾役タンク攻撃役アタッカー回復役ヒーラーの三種だね。が、実際にはそれだけじゃない。状況に応じて斥候役スカウト罠解除役シーフなどの専門職が必要となる場合もあれば、ここにいる鉄剣団のように、全員がアタッカーというような変則編成もあり得る」

一同の視線が鉄剣団に集まるが、彼らに発言の意思は無さそうだ。

「で、今日の講義のメインはその三役の役どころについてより認識を深めて貰うのが狙いだね。」

ふむ。タンクが敵を引きつける事で攻撃ギフト持ちが効率的に敵を殲滅可能になり、被弾による消耗をヒーラーが回復して継戦能力を高める。それ以外にあるのかな?
ザックは続ける。

「まずはタンクから。僕自身が、っていうかウチは男三人がタンクなわけだけど、なんで三人もタンクが居るかわかるかな?」
「全方位からの攻撃を防ぐ為ですか?」
「うん。50点。残りの50点分を今から確認していこう・・・・そうだな、それじゃぁ今回一番目立ってる『シシラル・ヴィレッジ』の二人に教材になってもらおう」
「「・・・はい」」

カインとユリアが歩み出る。

「カイン君が前衛、ユリアちゃんがアタッカーで、敵役は・・・・じゃ、鉄剣団の面々にゴブリン風味でお願いしようかな?」
「「「「「「ゴブリンかよっ!」」」」」」

文句を言いながらも鉄剣団が配置に着く。
アタッカーのユリアの前にタンカーのカインが立ち塞がり、横一列の鉄剣団と相対する配置だ。

「はいっ。新進気鋭のFランクパーティー『シシラル・ヴィレッジ』の二人に立ち塞がるは悪名高き森のゴブリン6人衆!もはや衝突は必至!逃げることなどできません!」

ザックさんがノリノリで実況を始める。
正直、ここまでテンション高い人だとは思ってなかった。

「ゴブリンチーム初手、ゴブリンAとBの棍棒がカイン君に打ち下ろされます」

鉄剣団の二人が言われるがままに棍棒をイメージして振り下ろす、困惑気味のカインも左手のタワーシールドでこれを受け止める。

「このままではカイン君が袋叩きにあってしまいます。アタッカーとしては援護の一手を打たなければなりません。ユリアちゃん、氷礫アイスバレットは撃てるかな?あっ、ほんとに撃っちゃだめよ?」
「はい、撃てます。」
「なんでジャベリンじゃなくバレットなのかはわかる?」
「ここで一匹を仕留めるより、火力は小さくとも全体攻撃のバレットで相手を怯ませ、先制を取られた不利をリセットする為です」
「大正解だねー。ほんと優秀だな。それではユリアちゃんのアイスバレットが炸裂~」

フレンドリーファイアを避けるために真横に四歩ほど移動する事で射線を確保したユリアが右手を突き出す。

「ほれ、バレット喰らったんだからゴブリンはリアクションして」

怯むゴブリン達。

「こうなるとカイン君は攻撃に移るよね?適当なの一匹撲殺しちゃって~」

憐れ、目の前に居たゴブリンAが非業の死を遂げる。

「はいっ、ここで問題!次の一手、ゴブリンチームはどう動くでしょう?」

開始から配置はほぼ変わって居ない。
ユリアの左斜め前3メートルほどにカイン、カインより半歩向こうに横並びのゴブリンが五匹。
自信なさげにカインが答える。

「もう一度ゴブリンが俺に殺到して防御、ユリアのバレットでワンチャン稼いで一匹ずつ削るのループ?」
「んー予想外にハズレ~。今までよく死ななかったね?それではゴブリンの皆さんっ、正解をどうぞ!」

ザックの再開の合図。
ゴブリンBとCがカインに攻撃するも残りの3匹がユリアに襲いかかる。

「なんという事でしょう。希少な美少女が撲殺されてしまいました。これはもう世界の損失と言っても過言では無いでしょう。ついでにその後五匹にボコられたカイン君も死亡です。」
「いやっ、こうはならないでしょ?」

不満げにカインが反論する。

「因みにゴブリンがどう動くか鉄剣の面々とは打ち合わせしてません。どういうことかわかる人はいるかな?」
「・・・」
「・・・」
「あのっ・・・『ヘイト』っすか?」

別パーティーのタンクが答える。

「はーい、大正解~。モンスター、とりわけ知能の低いモンスターほど、その行動は『ヘイト』に基づいています。味方を殺した者、高威力な攻撃を放った者、それら敵性の驚異に対して本能的に攻撃を行います」
「いやっ、俺、ゴブリン殺してますけど?」
「そう。普通なら仲間を殺したカイン君にヘイトが集中しても良さそうなもの。にも関わらず歴戦のゴブリン三匹はユリアちゃんに襲いかかった、つまりヘイトが分散してしまっている。その原因は氷礫アイスバレットですっ!」
「えっ、だってさっきバレットで大正解って・・・」
「原因はバレットだったけど、失態はカインくんの一撃だよ」
「なんなんですか、いったい!」

全員の前で理不尽に攻撃されるカインは頭に血が登って怒声をあげる。

「怒らない怒らない・・・今からちゃんと説明するから。レジー、いいかな?」

呼ばれたレジーがニヤニヤと歩み寄る。
カインを挟んでザックとレジーの二人が左右に並ぶ格好だ。

「それじゃ答え合わせ。せーのっ!」
『バチンっ!』『ガスっ!』
「カインっ!?」

突然二人に殴られるカイン。
ザックがレバーブロウでレジーが顔面ビンタだ。
肝臓への一撃で一瞬くの字に身を折り曲げたカインは、起き上がりざまにレジーに殴りかかる。

「っなにすんだよっ!」

しかしそこはF級とD級、あっさりと躱されて羽交い締めにされてしまった。

「っざけんなよ!離せコラ!」
「はい、ここで再びカイン君に質問。なんでレジーに殴りかかったの?」
「知るかボケっ!そっちがいきなり殴ってきたんだろ!チクチクチクチク嫌がらせしやがってー。」
「うん。チクチク嫌がらせしたのも、より脅威度の高い肝臓への一撃も僕だよね?なのに何故、たいして破壊力も無いビンタを放ったレジーにを向けたのかな?」
「えっ・・・・」

興奮して頭に血が登ってるところに、更に意味不明な自分の行動を突きつけられてワケがわからなくなった。

「それは顔への攻撃だったからだよ。動物にせよモンスターにせよ、冷静さを欠いた人間も同じ。器官が集中する顔への攻撃には、本能的に最優先で反応してしまうんだ。だから僕はザックくんから意図的に冷静さを奪い、ヘイトのベクトルをレジーに向けさせる事が出来たんだ」
「ヘイトを・・・操作した?」
「そう。さっきのゴブリン戦、範囲攻撃の氷礫アイスバレットがゴブリンの顔面にもヒットする事は想像できるだろ?その前提でこのヘイト管理を意識したらカインくんの取るべき行動はどうだった?」
「・・・・・横薙ぎかっ!?横薙ぎでゴブリン全員の顔を狙えばいい。致命傷にならなくても構わない。ただ顔を狙ってイラつかせるだけでいいのか!」
「こんどこそ大正解。言葉で説明されるより自分で体験するとしっくりくるでしょう?」
「理解はできたけど・・・いまいち納得はいかない・・・イラッとしたし」
「ごめんごめんっ。世界の財産たる美少女を守るカイン君には、誰よりも深く理解してもらうべき事だったからね?それで、ユリアちゃん、カイン君が横薙ぎを放ったらその後の行動は?」
「はい。急所である頭部への一撃を狙うのでは無く、失敗してもヘイトを稼ぎにくい腹部をジャベリンで狙います」
「はい、そういう事。みんなももうわかったね?確かにタンクの仕事は仲間を守る事だけど、ただただ愚直に前に立つだけじゃダメなんだ。攻撃が仲間に向かう時点でアウト。その前段階で、敵の意識を自分にかき集めるを学んで欲しい」
「あれっ、でもそうしたら最初のタンク三枚の話、ほんとは三人も要らないじゃないっすか?」
「そんな事は無いよ。最初の50点分がその理由。全方位から囲まれるような事態になったら、タンクの手の届かない、ヘイトの取りようが無い位置が生まれてしまう。一枚なら前方以外の三方位、二枚なら左右の二方位、三枚になってようやっと全方位に手が届くんだ。もちろん、超技量の攻撃魔法持ちタンクなんていう奴が居れば、一枚で全方位のヘイトをコントロールできるかもしれないけどね。」
「なるほど・・・アタッカーの火力、緊急時の回避能力を考慮しながら、必要な壁の枚数を見い出して、パーティー構成を考えていくわけですね。」
「そう。その上で初めて、極端な一例だけど、鉄剣団のような全員がタンクもアタッカーもこなす、流動的な超絶バランスのパーティーなんて言うのも考えられるようになるわけです」
「なんだ、おだてても何もでねーぞ?」
「はははは・・・」
「よしっ、次はアタッカーについてなんだけど・・・」

~~~~~

「目から鱗の考え方がたくさんあったね」
「ああ・・・すごく為になったけど、なんか俺の扱いがモヤモヤする」
「・・・今夜はじゃなくてなんだね?」
「・・・絶対ユリアが綺麗すぎるのが原因だよ」
「嫌なの?」
「いえ・・・幸せです・・・なぁ、やっぱりタンク増やすべきかな?」
「んー、確かにパーティー増やした方が安全で効率的な事はわかったけど・・・二人の暮らしに他の人が入ってくるのはまだ嫌かな・・・」
「俺も、ユリアの安全を考えると我慢すべきなんだろうけど、ちょっとまだこの幸せは譲れないかも」
「カイン・・・」
「ユリア・・・」
「・・・んちゅっ」
「・・・くちゅっ・・・んっ」

狭いテントに二人、非常事態に備えて革の防具を身に着けたままでも、いつもと変わらないダダ甘の世界がそこにあった。
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