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少女時代

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 岩を切り出したような険しい山々が四方を囲む孤島に、魔族の長が住まう城は建っていた。城の周辺には哨戒する飛竜が飛び交い、並の人間であれば足を踏み入れることすらできないだろう。

 人間達とは長い戦争状態にあり、短い停戦を幾度も繰り返しながらも全面的な和解に至ったことは有史以来一度もない。

 人間は何度も魔王の地を攻略しようと試みたが、その地理的条件故に大勢の兵を率いて陥落させることは不可能だった。むしろのこのことやってきたが最後、ドラゴンたちによって全滅させられてしまうだろう。

 人の首を取った数、それどころかどんな残忍な手で同族を陥れたかをも競うのが魔族の常だった。魔族が略奪を誉とするのは、彼らの始祖が地底から人間の領域を奪うことを是とする侵略者であるからだ。強いものが善であり、弱いものは悪である。それが普遍的な共通認識であった。

 そんな価値観を持つ魔族の長たる魔王の娘としてストラスは生まれた。生来の魔力が少し人より優れているくらいのさして取り柄のない娘である。滅ぼすべき仇敵の、人間の書物に夢中になる変わり者であった。

 しかし魔王の血族とはいえ末娘、王位にもっとも遠い彼女に関心が向くことはない。それは母親も同様であった。側室であるストラスの母は、娘より自身の夫の寵愛を得ることで忙しかったのだ。娘が多少人間の物語にうつつをぬかすなど気にも留めなかったのだ。
魔王の愛を枯らさず、正妃の悋気も避ける。人知れず母が立ち回ることでストラスは、変わり者の娘として一生を過ごすはずだった。

 けれども一人の少年が魔王の城へと連れ去られたとき、ストラスの運命は大きく動いていくことになる。
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