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花を愛で、同様に花からも愛でられる
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「ちょっ! ユリ……じゃなくて恵里子さんっ」
中に花ちゃんが居るのは確かだけど、もう1人分聞こえる男性の声の主が気になって、僕は恵里子さんのエプロンの裾を引っ張った。
恵里子さんは僕か指で摘んだエプロンの裾を一瞬不思議そうな表情で見たものの、すぐに笑顔に戻して僕の指をエプロンから外し、手首をガッと掴んでグイグイ引っ張り出す。
「わわっ」
「心配する事は何もないから。楽しいホームパーティーにしましょう♪」
用意されたスリッパに履き替える間もなく身体のバランスを崩しそうになる僕の事なんか気にしないでグイグイを止める事なく廊下をスタスタ歩いていく。
「えっ? ホームパーティーってどういう事?」
僕は頭の中をクエスチョンマークだらけにしながら靴下のまま、半ば強引な感じで廊下を歩く羽目となり、その先に開け放たれたリビングの中へと、恵里子さんと一緒に入室した。
「太ちゃんお疲れ様。手続き大変だった?」
「久しぶり! えーっと……『太地くん』……だっけ?」
「え……」
真っ先に目に入ったのは大好きな花ちゃんと、それから……
僕が数ヶ月前までコスプレしていたカツラの髪色にほど近い……ボリュームがあって美しい金色の髪をした、ボク呼びする彼の姿だった。
「コウ……くん?」
僕は信じられない気持ちでいた。
「コウじゃなくて『燿太』っていうんだ。
曜日の曜がこっちの火編になった字と、太は太地くんとおんなじ字ね」
金髪の彼は僕の手を取り掌を自分の方に向けさせると、指で彼の名前をスッスッと書いていく。
「燿太くん……」
「そう、それがボクの名前だよ」
コウくんもとい、燿太くんは僕に綺麗な微笑みを見せてきた。
「ほら、太地くんすぐ座ってよ!『君が居ないと始めらんない』って、ここの奥様にキツく言われててさぁ! 美味そうな食事を前にお預け食らってた訳よボク達っ」
それから僕を花ちゃんの隣の席に強制的に座らされる。
「えっ!? え??」
訳が分からず僕は燿太くん、恵里子さん、それから花ちゃん……と順番に、テーブルの席に座っている3人の顔を見た。
(えっ? どういう事?? 全く意味が分からないんだけど!!)
僕以外の3人は、このホームパーティーの場とやらに当然のごとくその温かな空気感に溶け込んでいて、僕1人だけが場違い人間といった感じになっている。
「心配しないでいいから。ちゃんと説明してあげるから、まずは乾杯して恵里子さんのお料理食べようよ」
その中でも特に花ちゃんは嬉しそうに微笑んでいて、僕に炭酸の気泡がパチパチと弾けているフルートグラス入りの飲料を渡してくる。
「えっ? もしかしてアルコール?」
花ちゃんから受け取りながら呟く僕に
「んなわけないでしょうが! ドライバーさんにはノンアルよっ!」
という恵里子さんのツッコミがすぐに飛んできた。
「あぁ……そっかそうだよね、僕はこの後運転するんだからノンアルだよね」
ごちゃごちゃした頭で常識的な事だけを納得した。
「それじゃあ始めるわね! お花ちゃん、坊や、おめでとー!!」
「ええ??」
「「おめでとー♪♪♪」」
それから恵里子さんからの突然な「おめでとう」に困惑し、また訳も分からず乾杯する。
「ええ!? 『おめでとう』って、一体何についてのお祝いなんですか?」
僕だけが戸惑って3人それぞれの顔を順に見ていたら、恵里子さんにムッとした顔をされる。
「もうっ! 別に細かい事はいいのよ。とにかく私がお花ちゃんと坊やに『おめでとう』したいからしてるだけなのっ!」
「そうだよ、気にしない気にしない。ボクもまた太地くんに会えたの嬉しいし、噂の花ちゃんとお話出来たのも嬉しいし楽しいし!」
「えっ? ……コウ……じゃなかった、燿太くんも……えぇ?」
まだ何も整理のついてない頭でアワアワしている僕の肩を、花ちゃんはポンと叩き、焦ってアワアワする僕にやわらかな表情を向けてきた。
「大丈夫。さっき、燿太さんが太ちゃんの元同僚っていう事を聞いたから」
そして彼女の口から出てきた言葉で、この3人の和やかな雰囲気の理由を察する事が出来た。
「花ちゃん……そうなんだ……聞いたんだ」
「うん、既に私は恵里子さんが『ユリ』って名前でお店に通っている常連さんって事を知っているから全く戸惑わなかったよ♪」
僕の声に間髪入れず素直に頷く花ちゃんのニコニコ顔を見て、改めて僕の大好きな人は見た目以上の包容力があるという事を知る。
(樹くんのマンションでお世話になってる間、花ちゃんはユリさんの件に関して僕に一切話をしなかったけど、普通なら絶対に驚いてその事実に拒否反応を起こすと思うしそんな人のお宅にしばらく匿ってもらおうなんて思えないよね……。
公私共にお世話になっていて頼りにしている先輩が、実は風俗店の常連で若い男性にお金をつぎ込み性欲を解消しているなんて知ったら……僕が花ちゃんの立場なら絶対に無理だ)
「っていうか、坊やはお花ちゃんと一緒に暮らしてる時点で私のエッチなプライベートやコウちゃんの諸々をバラしてるもんだと思ってたのよねぇ」
「バラす訳ないじゃないですか! ユリ……じゃなくて恵里子さんと『秘密にする』って約束しましたし」
なのに恵里子さんは僕が2人で交わした口約束をまるで忘れたかのような発言を繰り出してきた。
中に花ちゃんが居るのは確かだけど、もう1人分聞こえる男性の声の主が気になって、僕は恵里子さんのエプロンの裾を引っ張った。
恵里子さんは僕か指で摘んだエプロンの裾を一瞬不思議そうな表情で見たものの、すぐに笑顔に戻して僕の指をエプロンから外し、手首をガッと掴んでグイグイ引っ張り出す。
「わわっ」
「心配する事は何もないから。楽しいホームパーティーにしましょう♪」
用意されたスリッパに履き替える間もなく身体のバランスを崩しそうになる僕の事なんか気にしないでグイグイを止める事なく廊下をスタスタ歩いていく。
「えっ? ホームパーティーってどういう事?」
僕は頭の中をクエスチョンマークだらけにしながら靴下のまま、半ば強引な感じで廊下を歩く羽目となり、その先に開け放たれたリビングの中へと、恵里子さんと一緒に入室した。
「太ちゃんお疲れ様。手続き大変だった?」
「久しぶり! えーっと……『太地くん』……だっけ?」
「え……」
真っ先に目に入ったのは大好きな花ちゃんと、それから……
僕が数ヶ月前までコスプレしていたカツラの髪色にほど近い……ボリュームがあって美しい金色の髪をした、ボク呼びする彼の姿だった。
「コウ……くん?」
僕は信じられない気持ちでいた。
「コウじゃなくて『燿太』っていうんだ。
曜日の曜がこっちの火編になった字と、太は太地くんとおんなじ字ね」
金髪の彼は僕の手を取り掌を自分の方に向けさせると、指で彼の名前をスッスッと書いていく。
「燿太くん……」
「そう、それがボクの名前だよ」
コウくんもとい、燿太くんは僕に綺麗な微笑みを見せてきた。
「ほら、太地くんすぐ座ってよ!『君が居ないと始めらんない』って、ここの奥様にキツく言われててさぁ! 美味そうな食事を前にお預け食らってた訳よボク達っ」
それから僕を花ちゃんの隣の席に強制的に座らされる。
「えっ!? え??」
訳が分からず僕は燿太くん、恵里子さん、それから花ちゃん……と順番に、テーブルの席に座っている3人の顔を見た。
(えっ? どういう事?? 全く意味が分からないんだけど!!)
僕以外の3人は、このホームパーティーの場とやらに当然のごとくその温かな空気感に溶け込んでいて、僕1人だけが場違い人間といった感じになっている。
「心配しないでいいから。ちゃんと説明してあげるから、まずは乾杯して恵里子さんのお料理食べようよ」
その中でも特に花ちゃんは嬉しそうに微笑んでいて、僕に炭酸の気泡がパチパチと弾けているフルートグラス入りの飲料を渡してくる。
「えっ? もしかしてアルコール?」
花ちゃんから受け取りながら呟く僕に
「んなわけないでしょうが! ドライバーさんにはノンアルよっ!」
という恵里子さんのツッコミがすぐに飛んできた。
「あぁ……そっかそうだよね、僕はこの後運転するんだからノンアルだよね」
ごちゃごちゃした頭で常識的な事だけを納得した。
「それじゃあ始めるわね! お花ちゃん、坊や、おめでとー!!」
「ええ??」
「「おめでとー♪♪♪」」
それから恵里子さんからの突然な「おめでとう」に困惑し、また訳も分からず乾杯する。
「ええ!? 『おめでとう』って、一体何についてのお祝いなんですか?」
僕だけが戸惑って3人それぞれの顔を順に見ていたら、恵里子さんにムッとした顔をされる。
「もうっ! 別に細かい事はいいのよ。とにかく私がお花ちゃんと坊やに『おめでとう』したいからしてるだけなのっ!」
「そうだよ、気にしない気にしない。ボクもまた太地くんに会えたの嬉しいし、噂の花ちゃんとお話出来たのも嬉しいし楽しいし!」
「えっ? ……コウ……じゃなかった、燿太くんも……えぇ?」
まだ何も整理のついてない頭でアワアワしている僕の肩を、花ちゃんはポンと叩き、焦ってアワアワする僕にやわらかな表情を向けてきた。
「大丈夫。さっき、燿太さんが太ちゃんの元同僚っていう事を聞いたから」
そして彼女の口から出てきた言葉で、この3人の和やかな雰囲気の理由を察する事が出来た。
「花ちゃん……そうなんだ……聞いたんだ」
「うん、既に私は恵里子さんが『ユリ』って名前でお店に通っている常連さんって事を知っているから全く戸惑わなかったよ♪」
僕の声に間髪入れず素直に頷く花ちゃんのニコニコ顔を見て、改めて僕の大好きな人は見た目以上の包容力があるという事を知る。
(樹くんのマンションでお世話になってる間、花ちゃんはユリさんの件に関して僕に一切話をしなかったけど、普通なら絶対に驚いてその事実に拒否反応を起こすと思うしそんな人のお宅にしばらく匿ってもらおうなんて思えないよね……。
公私共にお世話になっていて頼りにしている先輩が、実は風俗店の常連で若い男性にお金をつぎ込み性欲を解消しているなんて知ったら……僕が花ちゃんの立場なら絶対に無理だ)
「っていうか、坊やはお花ちゃんと一緒に暮らしてる時点で私のエッチなプライベートやコウちゃんの諸々をバラしてるもんだと思ってたのよねぇ」
「バラす訳ないじゃないですか! ユリ……じゃなくて恵里子さんと『秘密にする』って約束しましたし」
なのに恵里子さんは僕が2人で交わした口約束をまるで忘れたかのような発言を繰り出してきた。
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