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巨蟹宮のマークと、双子のような僕達

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「ファミレスで夜ご飯だなんて初めてだよねぇ、私達」
「うん、しかも深夜にね」
「今まではがこの時間になるまで帰ってこなかったから」
が毎回僕に美味しい夜食を用意してくれてたからね」


 熱烈に抱き合いながら、快感に溺れ、絶頂して……その後もまだ繋がっていたくて、やっぱり熱烈に抱き合いながら長い時間キスをして……
 そのままほぼ2人同時に、深く深く眠ってしまった。

「美味しかったね」
「花ちゃんの作る夜食の方が何倍も美味しいけどね」
「作れなかったよ今日は。クタクタになるくらいイチャイチャしちゃったし」
「ふふ♪ そうだね。クタクタになるくらい花ちゃんイっちゃったもんね♡」
「んもぅ……太ちゃんもおんなじでしょ?」
「あはは……うん」

 23時半過ぎ。
 いつもなら僕が花ちゃんの待つアパートへ帰り、帰宅後のルーティンを済ませて、温かい夜食を食べるこの時間……
 今日は少し離れた24時間営業のファミレスで一緒に食事をした。
 勿論、汗やエッチな汁でビショビショグショグショになったベッドシーツと汗取り用敷きパッドを向かいのコインランドリーへ持って行くのも忘れずに。

「コインランドリーってほぼ使った事ないから、洗濯中その場から離れるの心配だったよぅ」

 僕達はファミレスで満たしたお腹をさすりながらコインランドリーの店内に入り、洗濯が完了したシーツ類を今度はドラム乾燥へと移動させる作業を共に行う。

 呼び名は、自然と、「太ちゃん」と「花ちゃん」に戻っていた。
 男女の関係を経たけれど、僕達は外へ出れば「きょうだい」を意識してしまうから。
 どちらから具体的な話をした訳ではないけれど僕はそれでいいと思ったし、きっと彼女も同じ事を思った筈だ。


「だからコインランドリーがよく見える席で食事したんじゃん。
 大丈夫だよ、そういう人結構いるだろうし僕達以外誰も使ってないし、ファミレスの窓からこっち眺めて食べてる間も誰一人この通り歩いてなかったんだもん」

 乾燥機の蓋を閉め、僕が100円硬貨を投入すると花ちゃんがボタン操作をする。

「私、気にしすぎ?」

 グルグルと回転を始めた大型のドラム乾燥機の前で、花ちゃんが姉らしくない上目遣いをしてきたけれど

「気にしすぎな感じもあるけど、防犯意識が高い点では偉いと思うよ。お姉ちゃんって感じがする」

 ほんわかと温かな気持ちが湧き上がってくるのを我慢しながらも、あくまできょうだいを褒める意味で姉の頭を軽くポンポンと叩いてあげた。
 
「それって褒めてる?」
「当たり前でしょ?」
「弟に馬鹿にされた気分がするなぁ~」

 他意はないのに何故か花ちゃんは唇を尖らせて機嫌を損ねている。

「してないよ。そう感じるのは経験が少ない所為じゃない?」
「えっ?」
「花ちゃんは一人暮らしした事がないからコインランドリーに縁が無くて僕よりも経験が少ないだけ。だから劣等感に苛まれるんだよ」

 機嫌を損ねたのは僕が彼女を25歳の女性らしく扱わなかったからだ。と、少し反省した僕は彼女の手を繋いでベンチに座らせる。

「じゃあ、経験していけばいいって事? これから」
「そうだよ、花ちゃんの経験と僕の経験を擦り合わせながらお互いに成長していけばいいんだよ……これから一緒に」

 横並びに腰掛けた僕は彼女の手を強く握った。
 きょうだい関係の意識は忘れずに持ち続けるつもりでいるけれど、手離す気は一切ない。
 きょうだいでも一緒に居られると信じているし、様々な関係も続けられると思っている。

「そうだね、太ちゃんと一緒に……」

 花ちゃんも僕の手を握り返してくれた。

「うん」
「私はもう、帰る気持ちはないし」
「うん」
「半年以上、お母さんから連絡ないし」
「……うん」

 花ちゃんの「連絡ないし」は、僕も初めて耳にした。

(僕には定期的に「大学頑張ってる?」の電話はあるんだけどな……そっか……)

 けれど冬が過ぎる頃からうざったらしい娘へのヘイトは一切止んでいたので、何となくその意味を理解している。

 恐らくあの人達はんだ。
 そしてである僕へ気色悪いをかけているんだろう……けれど土地が離れているから直接的な干渉は出来ず「大学頑張ってる?」しか言えないんだ。

(相変わらず醜くて弱いんだな、あの人達は)

 
 乾いた洗濯物を車の後部座席に積み込み、車のフロントガラスの内側から花ちゃんと一緒に夜空を見上げた。

「星、結構見えるね」
「蟹座あるかな?夏の星座じゃないんだっけ?」
「そうそう、星占いは夏生まれなのにややこしいんだよ」
「しかもあまり見えにくいんだっけ?獅子座と双子座の間にあるってくらいの知識しかないや、僕も」
「それだけの知識があれば充分だよ、私だって詳しくは知らないし」

 日中に行為をした僕達にとって、その「蟹座」のワードは少々くすぐったい。

「周りの星座より見えにくいのにちゃんと存在してるなんて、誰かさん達みたいだよね」
「何よぅ、それぇ……まるで私達、みたいな」

 2人で一緒に空を見上げ、同じタイミングで首の位置を戻したら、やっぱり彼女も少し照れ臭そうにしていて「そんな恥ずかしがるなら蟹座の話題振らないでよ」と口に出してしまいたくなる。
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