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16歳のリョウとチワワの僕と、白い花

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「お客様が僕に過剰に触れてこなければコントロール可能だと、思います」

 100%可能とまでは言えないかもしれないけれど、取り敢えずこの質問に関しては可能だと正直に告げると、ご主人様は微笑み……また深く頷いた。

「これからリョウがやっていく内容の事を考えたらその状態をキープさせるのが一番だと私は思うの。だから今後何があろうとも、コース時間の60分は踏ん張りなさい」

(ご主人様の魅惑的な肌を目にしたり香りを嗅いだ上での、この……)

(そうか……ご主人様は僕をと認めてくれたんだ)

 僕はご主人様の意図を瞬時に把握出来たから

「承知しました」

 素直に頷く事が出来た。

「勿論、30分のインターバルや帰宅後はどうしたって構わないのよ?」
「インターバルは流石に無理です。片付けや掃除に専念しないといけませんから」
「じゃあ、発散するのは帰宅後ね。その時はガールフレンドちゃんにしてもらうんでしょう?」
「それは……そうなんですけど」

 ご主人様から「ガールフレンドちゃん」の話題を出されると凄く照れ臭い。

(そもそもなんでご主人様は僕がそのガールフレンドちゃんと一緒に住んでいるのを知ってるような口ぶりをするんだろう?)

 ご主人様には僕のプライベートな話を一切していない。
 なのに見透かされているというか「何でもお見通し」みたいな様子で僕に話しかけてくるから不思議でたまらなかった。

(樹くんがご主人様にバラしたのかな? ……いやいや、ご主人様は飼い犬のプライベートには深く突っ込む事はしない人だし)

 「樹くんが僕の事をご主人様に報告している」と考えるのが普通だ。けれどもご主人様は飼い犬のプライベートに干渉しない。

(僕含めコウくん達にも周知の事実だもんなぁ……ご主人様が飼い犬の本名を覚えてないって事……)

 ある意味ご主人様は「れっきとした飼い主」なんだ。一般的に人が犬を家族に迎えるのと同じく、飼い犬に家族としての名前を付け、それまで呼ばれていた名前や本名を知ろうとしない。

 ご主人様を真に愛していない僕に対して「外で別の女性と楽しくしてもいい」という内容を告げるのも、飼い主としての役回りを全うしていると言えるのかもしれない。


 しばし考え俯いた僕の耳にご主人様のフッと笑う吐息がかかった。

「リョウは変わってるというか……精神的にしっかりしてるのかしらね」
「えっ?」

 更にご主人様の言葉の唐突さに驚いて顔を上げると、ご主人様は美しい微笑を僕に向けていた。

「だってリョウったら、私が『21日か22日に気持ちの良い時間を過ごしなさい』と指示した事が叶わなかった直後にあんなメッセージを送ってきたんだもの」
「あぁ……それは、ちゃんと報告しないといけないと思いましたので」

 ご主人様の言う「精神的にしっかりしている」の理由が22日の2時半に僕が送ったメッセージ内容であると知り、僕は安堵した。

「でもあんな書き方したらガールフレンドちゃんと出来なかった理由がストレート過ぎて彼女が可哀想」
「直接的な表現は避けたつもりなんですけど……理由が生理だってバレますよね」

 とはいえあの夜ご主人様にメールを送った内容を思い出しながら反省した。確かにあの書き方は花ちゃんの身体の事を他人のご主人様に勝手に知らせた形になってしまったかもしれない。
「でも、あの夜も……それから今も、リョウはちっとも残念そうにしてない。少なくとも私にはそう見えるのよ」

 僕からのメッセージで、ご主人様は受け取ったようだ。

「それは……」
「どう? 予想は合っているかしら?」

 ご主人様の問いに僕は頷く。

「普通はやっぱり……出来なくて悔しい気持ちが持続するものでしょうか?」
「そうなんじゃない? だって一番の約束を反故にされたのと同じでしょう? 人によっては相手の女の子を嫌いになったり溜まった欲を他の女の子で解消したりするんじゃないかしら」

(やっぱりご主人様もそう予想するのか……だとすると花ちゃんも想像して不安に感じているのかもしれない)

「それは無いです! 彼女だって反故にしたくてそうなった訳ではありませんし、寧ろ色々心配しちゃいましたから」

 だからこそ、僕はご主人様の目を見つめながら自分の考えをしっかりと述べた。

「心配?」
「はい、半年以上一緒にいるのにいつも生理痛で苦しんでいる彼女をケアしてあげられなかったなとか……あとはあの夜、抱き合う直前に飲酒したせいで彼女にとって必要なものを買いに行けなくて悔しかったなとか……」
「自分の性欲処理はしなかったの?」
「しようと思いましたけど、自分が馬鹿みたいに感じて出来ませんでした」

僕の言葉にご主人様は

「そう……」

 とだけ返事し、今度は真顔でジッと僕を見つめ返す。
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