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階段を一つ昇り、僕は持ち物を棄てる
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夏前の時季になっても僕の表面体温は低めだ。
僕を指名する常連さんの中には「暑い時にひんやりした肌は気持ちいい」と評価してくれる人もいる。それは勿論ポジティブな意味で僕に言ってくれたのだと思うし、普段仕事をしていて「ひんやりした肌」の評価に不満を持った事はない。
けれども花ちゃんは僕への配慮なのか、暖かな季節がやってきてからは一層「ひんやりした肌」という言い方をせず「ちょうどいい温もり」という言葉をしょっちゅうかけてくれる。
(花ちゃんと同じワードだ)
僕のプライベートを知らないカスミさんが花ちゃんと同じ「ちょうどいい温もり」を使ったのは偶然なのだろうけど、花ちゃん以外の女性にもその言葉を使ってくれたというのは想像以上に嬉しい。
「僕の肌、ちょうどいい?」
「うん、ちょうど良くて心地いい」
「ありがとう」
僕の口からは自然と感謝の言葉が出て、その気持ちを含ませた頭のなでなでを時間の許す限り続ける。
リョウの未熟な陰茎が何故カスミさんにだけ反応するのかについては、花ちゃんと共通するような言葉のチョイスにも理由があるのではないかとふと思った。
陰部が硬くなる主な原因は性的欲求や性的興奮だろう。
事実「お客様の下着姿や裸を見たら生理的に勃つのが普通でケースケくんのように我慢が出来ない」とコウくんは言っていて接客中は必ずゴムを装着するそうだ。
とはいえ男のそういうものは実際デリケートなものであって単純に体が働かない事だってある。コウくんだって仕事の域を越えたお客様との触れ合いは望んでいないし僕も同感でいる。
結局コウくんの欲情の対象はご主人様であって、その論述に当て嵌めるのであればやはり僕の1番は花ちゃんであって未来永劫的に不動の地位に君臨するのだろう。
逆に言えば他の女性で欲情する意味がなくなるんだ。
「ありがとうって言うリョウさんが、私は好きだな」
「ありがとうくらい誰だって言うんじゃない? カスミさんの実家のチワワくんだって、言葉に出せないだけで感謝の気持ちは持っていたと思うよ」
「そうね……だから尚更嬉しいのかなぁ。リョウさんは、実家の犬の代弁をしてくれているような気持ちになって、そういうのが私は好きだなぁって感じるの」
時折僕は変な妄想を繰り出す。
もし、花ちゃんが僕のお客様だったら……僕の施術中どんな言葉を紡ぐのだろうかと。
きっと僕は恋し愛する花ちゃんであっても、他の常連さんと同等の癒しを彼女に与えるだろう。
そしてきっと……今カスミさんと会話してるようなやり取りを、花ちゃんとするんだろうなという結論にいつも陥る。
(きっとカスミさんの紡ぐ言葉のチョイスは僕の理想にピッタリと当て嵌まっていて、それがそのままそっくり僕の目の前で繰り出されるのだから僕の身体はきっと反応するんだ)
カスミさんの悦ぶ言葉は、僕の妄想路線から外れるようなものではないのだから。
僕のキスによるカスミさんの喘ぎ。
カスミさんの耳に時折囁く「カスミさんのエッチ」という僕の言い方。
かつてカスミさんが僕に漏らしていた「寂しい」も含め、それらは花ちゃんとタイチが接する際の言動と重なっている。
恋愛感情としてでは無いけれど、僕にとってカスミさんは「花ちゃんが言いそうな言葉を使う良い人」という意識を持つのだろう。
……それは樹くんの言う「お姉さんと中身が似ている」に通ずるのかもしれないけど。
僕は潤みを持たせた声でカスミさんの好きな耳をたっぷりと悦ばせた後で
「ねぇ、カスミさん」
まだ予約開始にもなっていない僕の予定を彼女にだけ先に告げようと決意した。
「どうしたの?リョウさん」
「あのね、来月から僕……受け持つコースが増える事になったんだ」
「えっ?」
僕の予想通りカスミさんはこちらを振り向き、目を丸くしながら驚きの声をあげる。
「受け持つコースが増えるって……もしかして」
僕の方を向いたまま上半身を起こしたカスミさんに合わせて、僕も上半身を起こしながら
「ご主人様の研修はこれからだから、具体的にどのコースまで出来る様になるかは今のところ未定なんだけど、少なくともカスミさん達の粘膜には触れるようになる筈だよ」
そう説明をした。
「粘膜……今まで、ダメだったのに?」
背を向けてブラシを手に取ろうとするこの瞬間も、彼女の声はまだ驚きの色を保っている。
「うん、ご主人様に……『そろそろ成長しなさい』って言われたんだ」
本当は、20歳になってもリョウを続ける意思があるなら僕以外のセラピストと同じ「舐め犬」になるというご主人様との「約束」であり、それは僕がリョウとして働く前から決まっていた事だ。
でもこの店で働く者は誕生日や年齢をお客様に口外しない決まりになっているからこのように誤魔化すしかなかった。
僕を指名する常連さんの中には「暑い時にひんやりした肌は気持ちいい」と評価してくれる人もいる。それは勿論ポジティブな意味で僕に言ってくれたのだと思うし、普段仕事をしていて「ひんやりした肌」の評価に不満を持った事はない。
けれども花ちゃんは僕への配慮なのか、暖かな季節がやってきてからは一層「ひんやりした肌」という言い方をせず「ちょうどいい温もり」という言葉をしょっちゅうかけてくれる。
(花ちゃんと同じワードだ)
僕のプライベートを知らないカスミさんが花ちゃんと同じ「ちょうどいい温もり」を使ったのは偶然なのだろうけど、花ちゃん以外の女性にもその言葉を使ってくれたというのは想像以上に嬉しい。
「僕の肌、ちょうどいい?」
「うん、ちょうど良くて心地いい」
「ありがとう」
僕の口からは自然と感謝の言葉が出て、その気持ちを含ませた頭のなでなでを時間の許す限り続ける。
リョウの未熟な陰茎が何故カスミさんにだけ反応するのかについては、花ちゃんと共通するような言葉のチョイスにも理由があるのではないかとふと思った。
陰部が硬くなる主な原因は性的欲求や性的興奮だろう。
事実「お客様の下着姿や裸を見たら生理的に勃つのが普通でケースケくんのように我慢が出来ない」とコウくんは言っていて接客中は必ずゴムを装着するそうだ。
とはいえ男のそういうものは実際デリケートなものであって単純に体が働かない事だってある。コウくんだって仕事の域を越えたお客様との触れ合いは望んでいないし僕も同感でいる。
結局コウくんの欲情の対象はご主人様であって、その論述に当て嵌めるのであればやはり僕の1番は花ちゃんであって未来永劫的に不動の地位に君臨するのだろう。
逆に言えば他の女性で欲情する意味がなくなるんだ。
「ありがとうって言うリョウさんが、私は好きだな」
「ありがとうくらい誰だって言うんじゃない? カスミさんの実家のチワワくんだって、言葉に出せないだけで感謝の気持ちは持っていたと思うよ」
「そうね……だから尚更嬉しいのかなぁ。リョウさんは、実家の犬の代弁をしてくれているような気持ちになって、そういうのが私は好きだなぁって感じるの」
時折僕は変な妄想を繰り出す。
もし、花ちゃんが僕のお客様だったら……僕の施術中どんな言葉を紡ぐのだろうかと。
きっと僕は恋し愛する花ちゃんであっても、他の常連さんと同等の癒しを彼女に与えるだろう。
そしてきっと……今カスミさんと会話してるようなやり取りを、花ちゃんとするんだろうなという結論にいつも陥る。
(きっとカスミさんの紡ぐ言葉のチョイスは僕の理想にピッタリと当て嵌まっていて、それがそのままそっくり僕の目の前で繰り出されるのだから僕の身体はきっと反応するんだ)
カスミさんの悦ぶ言葉は、僕の妄想路線から外れるようなものではないのだから。
僕のキスによるカスミさんの喘ぎ。
カスミさんの耳に時折囁く「カスミさんのエッチ」という僕の言い方。
かつてカスミさんが僕に漏らしていた「寂しい」も含め、それらは花ちゃんとタイチが接する際の言動と重なっている。
恋愛感情としてでは無いけれど、僕にとってカスミさんは「花ちゃんが言いそうな言葉を使う良い人」という意識を持つのだろう。
……それは樹くんの言う「お姉さんと中身が似ている」に通ずるのかもしれないけど。
僕は潤みを持たせた声でカスミさんの好きな耳をたっぷりと悦ばせた後で
「ねぇ、カスミさん」
まだ予約開始にもなっていない僕の予定を彼女にだけ先に告げようと決意した。
「どうしたの?リョウさん」
「あのね、来月から僕……受け持つコースが増える事になったんだ」
「えっ?」
僕の予想通りカスミさんはこちらを振り向き、目を丸くしながら驚きの声をあげる。
「受け持つコースが増えるって……もしかして」
僕の方を向いたまま上半身を起こしたカスミさんに合わせて、僕も上半身を起こしながら
「ご主人様の研修はこれからだから、具体的にどのコースまで出来る様になるかは今のところ未定なんだけど、少なくともカスミさん達の粘膜には触れるようになる筈だよ」
そう説明をした。
「粘膜……今まで、ダメだったのに?」
背を向けてブラシを手に取ろうとするこの瞬間も、彼女の声はまだ驚きの色を保っている。
「うん、ご主人様に……『そろそろ成長しなさい』って言われたんだ」
本当は、20歳になってもリョウを続ける意思があるなら僕以外のセラピストと同じ「舐め犬」になるというご主人様との「約束」であり、それは僕がリョウとして働く前から決まっていた事だ。
でもこの店で働く者は誕生日や年齢をお客様に口外しない決まりになっているからこのように誤魔化すしかなかった。
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