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階段を一つ昇り、僕は持ち物を棄てる

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(こういうのは遊びみたいなものだし、カスミさんだけ特別にやってるわけでもないし)

 エッチな行為でもないのに興奮して楽しくも感じ、それもあってか僕の股間が硬く大きくなってしまっても

(コウくんの言う通りにする程の事でもないんじゃないかなぁ……カスミさんは特に物分かりの良いお客様という意識しかないし)

 敢えて「説明」するまでもないんじゃないかと、友達の意見に反発した。

「じゃあ……今からじっくりねっとりカスミさんの首と耳を責めていくね」
「うん、遊びはもう終わりねリョウさん」

 硬くなった部位がカスミさんの身体に触れないように腰を離した状態で本来の仕事に移る。
 カスミさんもカスミさんで、背後の僕がそのようになってしまっている事を知っている。けれどもあくまで現時点でのリョウはお客様の粘膜に触れてはならないのは勿論、お客様も不用意にセラピストの股間に触れるのを良しとはしない。それをカスミさんはきちんと理解してくれているからこそ、先程のやり取りが成立するし互いに楽しく心地好く感じられるんだ。

 他の常連さんも皆そういう面に理解があるし、僕は所謂いわゆる逆セクハラと呼ばれるトラブルに今まで遭うことなくこの仕事が出来ていて有り難いと思っている。
 でも、何故かリョウの股間はあの春の日以降カスミさんにしか反応していない。
 
(僕が真に愛している花ちゃんに外見や声が似ている訳でもない既婚者のカスミさんに反応する意味が分からないのは確かだけど、コレはなんていうか……花ちゃんに欲情する時とは違う気もする)

 僕が敢えてコウくんの意見に反発したのは確固たる理由があった。
 そもそもカスミさんは僕にとって単なるお客様の1人でしかなく、カスミさんもそれを十二分に理解していると感じているからだ。

 正直な話カスミを性的に抱きたいかと問われたら「抱きたくはない」とハッキリ答えられるし拒否が出来る。

(きっとコレは心も体も未熟だからなんだろうな)

 たとえ股間が無駄に反応してしまっているとしても心まではそうならない。

 本当に僕はカスミさんに対して「何も」感じていないんだ。

(20歳の誕生日を迎えて、花ちゃん以外の女性の……ご主人様の美しい陰唇に己の舌を差し込むようになれば状況が変わるのかもしれない。
 その時まで、僕のコレはあやふやなままにしておこう……)

 そんな事を考えながらカスミさんが心地良い吐息や喘ぎ声を出す音をバックグラウンドにして、僕は目の前のうなじや首に10回のキスを施す。

「んはあああぁぁっ」

 その声で、カスミさんの欲情が頂点近くまで高まってきたのだと僕は察した。
 こうなると僕は水気のあるリップ音を立てて首を吸い、彼女の背後から両手を濃紺のブラに包まれた浅い膨らみへと伸ばして優しく覆う。

 首に紅い痕はつけず、かつ女性の欲を満たす絶妙な吸い付きをみせ
 人差し指と中指は、ブラの上から胸の突起を探り当て指先でクリクリグリグリとその部分を責め立てる。

(カスミさん……気持ち良さそう)

「ふあああぁぁぁん……」

(ただ感じているだけなんじゃなくて、この状況を楽しんでいるように思うなぁ)

 パートナーにバレないレベルで責めたて……お客様にとっても絶妙な快楽を与える。

(僕もちょっと楽しくなってきちゃった)

 これはまさに『うとうと屋さん』の存在理由の一面である「性を売る」仕事の真髄なんだろうなと……僕はそんな事を今思ったし

(やっぱり、花ちゃんを相手にしてる時とは全然違うなぁ)

 改めてそう思ったんだ。


「っ……はあっ……はあ……はあぁぁ」

 冬の初めに「胸の感度を上げたい」と言っていたカスミさんの身体は僕によって上手く調教されたのか、今では乳頭部に直接触れずともそれだけで絶頂の声を上げていた。

「気持ち良くイけたんだね、カスミさん」

 僕の売ったもので、カスミさんの「胸の感度を上げたい」望みを叶えてあげられている。僕の前で「寂しい」と言わなくなっている。

 白いチワワのコスプレをした奇妙な僕がカスミさんの悩みの種を解決してあげられているというのは、そこに双方間の愛情が無いと知っていても嬉しかった。

「今日もありがとう、リョウさん」

 カスミさんの頭をいい子いい子するように撫でていると、彼女は荒い呼吸を整えつつ大人の女性らしいしっかりとした声で御礼の言葉を僕にかけてきた。

「まだ時間があるから、優しく頭を撫でてあげるね」
「いつもありがとう。リョウさん優しいなぁ」
「ふふっ、いつも優しくしてるつもりだよ?」
「それでも『優しい』って言いたいの。いつも感じている事だし、リョウさんの指先からはちょうどいい温もりを感じるから」

(ちょうどいい温もり……かぁ)

 カスミさんのその言葉に僕の心は温まり、陰茎への血流量も増えていく感覚がした。
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