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階段を一つ昇り、僕は持ち物を棄てる

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「ごめんねコウくん。未成年の僕が土着的な親から離れるにはそれしか方法がなくてさ」
「大学進学が親離れの唯一の方法だったのかぁ」
「うん」
「ボクにはもうそういう親すら居ないけどさ、居るのも居るで苦労するんだね」
「苦労とは言えないかもしれないけど。でも僕がこっちで一人暮らしをしていたからこそ、離婚で傷付いた花ちゃんを救えたんだよ。
 離婚届を提出したらすぐに実家近くでお見合いする事がほぼ決まりかけていて……花ちゃんはそれが嫌で遠くに逃げ出したいと思ってたみたい」
「それならボクはリョウくんを否定出来ないよ。結果的に花ちゃんの逃げを手伝えたって意味なんだろうから」
「思入れもない大学の学生っていう僕の身分が、逆に花ちゃんを救ったんだろうね」
「そういう事なんだろうね……それじゃあ尚更、リョウくんは大学を辞められないし店の長時間勤務も難しいかぁ」
「後期に入れば授業数減る筈だから秋になれば今以上に枠は取れると思う」
「分かった時点でご主人様に報告すると良いよ」
「うん」

 コウくんとはそこで一旦会話を区切り、出かける支度を始める彼を玄関で待つ事にした。


「リョウくんおまたせ」
「そんなに待ってないよ」

 玄関で待つ僕の前に現れたコウくんはお洒落な私服を纏い上品そうな香りも漂わせていて、やはり金色の少年のイメージそのものであるように感じさせた。

「じゃあ、行こうかリョウくん」
「うん、お邪魔しました」


 マンションの階段を降りてコウくんと横並びになりながら雑踏の夕方の空気を吸い、全身を巡る血液がドクドクと大きく脈打たせる。

 友達と一緒に歩く心地好さと金色の少年に似た存在の隣を歩く緊張感とが入り混じる、独特な雰囲気を味わった。




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