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犬の言葉は、花にはきっと伝わらない
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しおりを挟むコウくんとの一件から数日後……
「おはようリョウくん」
「おはようコウくん。今日はコウくんの方が早かったね」
店の事務室に16時半入りしたらコウくんがアメリカンコッカースパニエルの姿で僕を待っていた。
「うん、ようやく勝てたよ。いつもギリギリに来て急いで着替えるのに今日はめちゃくちゃ優越感に浸れた♪」
コウくんは部屋の片付けも苦手なら時間にもルーズなセラピストだった。
遅刻スレスレで準備するそんなコウくんが、今日ばかりは勝ち誇った表情で僕を出迎えたから
「早く来れるなんてコウくん凄いなぁ明日は僕もっと早く家を出なきゃ」
僕はコウくんを純粋に褒めつつも、冗談混じりで対抗意識を出してみる事にした。
「笑いながら恐ろしい事言うのやめてよリョウくん!これ以上急がれるとボク勝てないからっ!」
するとコウくんは笑ってそう返事したのだから、僕の言葉のチョイスはそれなりに合っていたのだろう。
「コウくんは本当に負けず嫌いなんだね」
「当たり前だろ? ボクは一番ご主人様を愛してるんだから。ボクの頑張りをご主人様にいっぱい見てもらって、夜はいっぱい甘えるの♪ 片付けだって頑張るんだ!」
「樹くんも『この頃のコウくん頑張ってる』って言ってたから、ご主人様にも伝わってると思うよ」
「リョウくんと話してるとやっぱり前向きな気持ちになるよ! ありがとう」
コウくんとこの場で互いに素の姿を見せながら話をしたのは僕にとっても良い経験だったし、コウくんにとってもそうだったんだろうと思う。
僕は樹くん以外に会話をする人間が増えたおかげで先輩セラピストにも「いけ好かない奴」「楽な仕事してる奴」と思われなくなっただろうし、コウくんは苦手な片付けも遅刻も克服しつつある。
また「ご主人様が僕やケースケくんを目に掛けている」と彼なりに感じていた嫉妬のようなものは息を潜め、代わりに「誰よりもご主人様に甘えてやる」をモチベーションに行動しようと気持ちを転換したともコウくんは言っていた。
「今日一日頑張ろうね、リョウくん」
「うん、コウくんも頑張って」
「一応言っとくけど、夜は見学しに来ないでね。ご主人様に真剣に甘えたいから」
「タブレットはそーっと返しに行くから心配しないで」
「リョウくんだって早く帰らないとだもんね♪ 大好きな花ちゃんを夜の公園に待たせ過ぎてもいけないだろ?」
「まぁね、今の勤務になってただでさえ帰宅時間が遅くなりがちだから急いで帰るよ」
僕達はリアルな恋の話題を共有している。
それは僕にとってとても心地の良い事でもあった。
「じゃあね、リョウくん」
「うん、コウくんじゃあね」
僕は先に事務室を出るコウくんに手を振りながら笑顔でそう返答し見送り
「……よし、僕も行くか!」
僕もリョウになり仕事への士気を高めた。
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