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新年を共に慶び、真綿の中で愛を育む
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しおりを挟む「明日本棚買いに行こっか。料理本なら花ちゃんの部屋よりここにあった方がいいでしょ?」
「うんー、あと出来れば本立てるやつ? レシピ見ながら料理出来る様なものも欲しいなぁ」
「ブックスタンド? 違うかな……あっ、検索したらブックレストって書いてある。ネットで買えるみたいだよ?」
「えー、ホント?」
「ホントホント。花ちゃん好きな色ある?すぐに注文してあげるよ」
「スマホ貸してー」
「はい」
ユリさんのお宅には結局昼過ぎまで居座ってしまい、今ようやく夕方といえる時間帯に入ったところだ。
貰った紙袋はこのリビングの隅に置いておき、可愛らしい2段重箱に詰めて貰った御節料理はダイニングテーブルの上に置いたままにしている。
ユリさんのおもてなしは田舎ほどではないにしても僕達の胃の中は満タンになっていて、帰宅したら2人とも「眠いねー」と口にし、現在はラグの上でごろ寝中だ。
「ねぇ、ラグの上で寛ぐならソファ必要なんじゃない? 座って料理本をゆったり読んだりしてさぁ」
「え~ソファよりもこのラグでごろごろしてたいなぁ毛足長くて気持ち良くてあったかいんだもん。太ちゃんはソファあった方がいいの?」
「……別、に?」
「何その意味深な『別に』は」
「花ちゃんが必要ないなら、僕も別に必要ないかなぁなんて」
「じゃあ私が『必要』って言ったら太ちゃんなんでも買ってくれるんだ?」
「当たり前だよ。ルームシェア相手には快適に過ごしてほしいからね。欲しいものなら何だって買ってあげるし、行きたい場所や食べたいものがあったらどこへでも連れて行くよ?」
「それってもしかして海外も含むヤツ?」
「海外行く勇気もない癖によくそんな冗談言えるよね、花ちゃんは」
こうして冬用ラグの上に寝っ転がりながらスマホ観たり、クッション抱えてゴロンゴロン転がったりして楽しみながら花ちゃんと会話しているけど、17年一緒に住んでて実は初めての行為だった。
あの人達は僕達……特に花ちゃんに対して「共有スペースでダラダラ過ごすのは見苦しいからするな」と厳しくしつけ、リビングで寛ぐにしても椅子かソファに腰掛けるのみに留めるのが実家でのルールだった。
「ねぇ、こうやってダラダラする私のこと……嫌い? 鬱陶しいって思ったりする?」
「何でそんな事訊くの? 嫌ならあの人達みたいにすぐ『見苦しいからやらないで』って注意するよ」
「注意が無いって事は……していいんだよね?」
「勿論だよ、現に僕だって花ちゃんと同じようにゴロゴロダラダラしてるし、暇な時間はいつだってゴロゴロダラダラしちゃっていいと思ってるよ」
「本当に?」
「うん、花ちゃんには心地良い場所で好きなだけダラダラしててほしい。それが僕の願いだから」
凌太との付き合い中や結婚生活が実際どのようなもので、花ちゃんがどの程度窮屈に感じていたのか僕は知らない。
けれどソファを必要とせずに心地よいラグに寝転がる方を希望する花ちゃんのだらけた姿は、それまでのしがらみから解き放たれた自由を手にしている意味を持つのだろうかと今僕は思っている。
「でも、ゴロゴロやダラダラが気持ち良すぎて家事が疎かになっちゃいそう。6日からケーキ屋さんのバイト始まるし、仕事から帰ったら疲れて眠たくなってサボっちゃうかも」
「サボりたかったらサボればいいじゃん!家事は花ちゃんの義務じゃないんだから。だって僕達はきょうだいでルームシェアしてる関係だよ? 元々家事は協力するのが基本。
花ちゃんのバイトが午前中だけだからって、早朝と午後はきっちり家の事しなきゃいけない訳じゃないんだよ」
「太ちゃんだって6日から大学始まるのに? バイトだって明日からまたあるでしょ?」
「それでも、だよ。僕が外に居る時間が長いだけで、花ちゃんがその代わり毎日毎時間息の詰まるくらい動き回れとは思わないよ。
病気になったりするし気分が落ち込む時もあるし、そもそも気分が乗らない時もある……人間ってそんなもんじゃない?」
「気分が毎日乗らなかったらどうしよう」
ブックレストの色をようやく選んだらしい花ちゃんがシュンとした表情でスマホを僕に突き返してきたから、僕は笑って受け取り注文を確定させた後で花ちゃんの頭をワシワシと激しく撫で回す。
「それでもいいよ、そしたら僕が何だってやってあげるから。
花ちゃんみたいな美味しい料理は作れないけど、惣菜買ったりレトルトあっためたりして花ちゃんのお腹を満たしてあげる」
花ちゃんの頭をグシャグシャにしたらすぐに髪を手ぐしで丁寧に整えてあげながら僕はとびきりの笑顔を作ってみた。
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